水産庁は6月1日政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」で創造プランの改訂版に位置づけられた「水産政策の改革」について各地で説明会を開き、漁業関係者ら現場の理解を促している。
各地の説明会で出ている疑問や意見に対し、ホームページに「水産改革に関するQ&A」を7月20日アップし、会場に来なかった関係者に対しても内容の周知を働きかけている。
具体的な内容を紹介すると、例えば「漁業権の優先順位の廃止」について「適切かつ有効な活用をしている既存の者の継続利用を優先するといった場合、継続して免許されるのは、権利をもつ漁協か、行使する漁業者のどちらになるのか。漁協がきちんと管理している場合は引き続き漁協に免許されるということを明確にして欲しい」という要望に対しては、「既存の漁業権者が水域を適切かつ有効に活用している場合は、その継続利用を優先することを法定することとしております。従って、既存の漁業権者である漁協が管理を行うことにより、漁場が適切・有効に活用されている場合には、その漁協に免許されることとなると考えております」と答えている。
また「「適切かつ有効な活用」の判断基準について、国はガイドラインのようなものを定めるのか。漁場は一定ではなく、現場の実態を踏まえた判断をすべき」との指摘に対し、「免許自体は都道府県の自治事務ですが、「適切かつ有効」の具体的な判断の基準等は国が示すことを想定しています。各地域の様々な条件の下で多様な活用の実態があると思われるので、実態に即した判断ができるよう検討してまいります」。さらに「国が基準を示しても、県知事の恣意的な判断で、地域の漁業者等の意見を考慮せずに企業参入を進められるのではないか」との疑問には「新たな区画の設定等にあたり、都道府県は漁業関係者の意見を聴いて、海区漁業調整委員会にも諮った上で漁場計画を作成することは従来と同様と考えています。その上で、意見聴取のプロセスは法定することとしており、漁業関係者の皆さんからどういう意見が出され、それにどう対応したかはオープンにするなど、恣意的な判断がなされないような仕組みとしていく考えです」としている。
「水産政策の改革」は、下からのオープンな議論がほとんどなく、上意下達の形で出され、政府が認める方針として短期間で定式化されたため、具体的な内容に不明な点が多かった。つまし、専門家や利害関係者の議論の蓄積なしに突然、出てきた記述が多く、その背景にどんな具体的なイメージがあるのか、にわかに掴みにくかった。密室での「政治決着」にように、その内容にもはや検討が入ることは困難で、あとは法制化に至る過程での議論をしっかりやっていくしかない。
今回、各地での説明会の成果をまとめた「水産改革に関するQ&A」を出すことで、水産庁の公式見解の一端がわかり、説明を聞いている方も落ち着いて具体的な内容に踏み込むことが可能になった。
水産庁のある課長クラスの方が「今回の改革は天から降ってきたものではなく、水産業をめぐる国内的、国際的な状況から必然的に取り組むべき内容が書かれている」。だから早く内容を飲み込み、消化して「政策支援が受けられる体制」を整えよとの親切心からの言葉だと理解した。
しかし、一方で受験生時代に習った数学への反感と同じものを感じた。この改革には理念やビジョンが一つも感じられない。受験の数学にも理念やビジョンがなく、時間を使った割には何も身につかなかった。いまではブラックボックスのパソコンでエクセルがやってくれることばかりで、文明の利器の恩恵には被っている。その分、関数や曲線によるモデルの意味を考えられるようになった。
法制化する過程で、この改革に理念やビジョンが生まれるのだろうか。成長産業化、資源管理、所得の向上、就業構造の改善と四つのキイワードで構築される水産業の将来がバラバラなものにならず、国民的なコンセンサスの得られるようにする。そのためには時間をかけた下からの議論の積み重ねが絶対に必要だ。制度改革の影響が本当に出るのは、次の漁業権切替だと言われている。環境変化への対応と環境保全を重視した真の先進国型漁業を構築してもらいたい。