L.S.ラウリー L.S. Loury という英国の画家をご存知でしょうか。
6月に私が滞在したスコットランドとの国境の小さな町、ベリック・アポンツイード Bewrick upon Tweed、再び登場です。
英国外ではあまり知られていないラウリー(ラオリーのほうが発音が近いですね)、不遇の時代が長かったようですが、戦後は英国を代表する売れっ子現代画家として有名になりました。ここ、地元であるグレーター・マンチェスターやランカシャーでは「郷土の誉」といった存在です。
8番;the Town Hall
主にイングランド北西部の工業地帯のごちゃごちゃたて込んだ街並みと前景にウジャウジャ群れる人々を描いた作風で知られています。
ナイーブでへたっぴな作風です。特にまるで子供が描いたみたいな machstick man(マッチ棒人間)と言われる影がないヒョロヒョロした人物群はラウリーの作風の特徴として有名です。
意外にも古典的な美術教育を受けた画家なのです。マンチェスター・アート・スクール(のちのマンチェスター・ポリテクニックの美術学科...ついでに言えば、私の先輩です)の卒業生なのです。
そのラウリーが、1930年代前半から1939年か40年まで毎年,夏の休暇を過ごしたのがベリックです。
ベリックの街の中や河の対岸の町、スピットルの海岸などラウリーが描いた場所18か所を効率よくめぐる「ラウリー足跡めぐり Lowry Trail」のルートがありました。同じ構図の景色が眺められる位置に案内看板が設置されてれています。
私たちは観光案内所で地図をもらってラウリーめぐりをして歩いたわけではありません。それでも行く先々で案内標識を目にしました。
ベリックのランドマーク的建築物、時計塔のあるタウン・ホールBewrick Town Hall は油絵の小品として2点描かれています。
18世紀の建造で、当時の内装が再現された内部が公開されています。当時の簡易裁判所もあり、留置所と手枷などの刑具の展示もあり興味をひかれましたが、入ってみる機会はありませんでした。
タウン・ホールのある、町の風景です。
最初に気が付いたラウリー・トレイルの標識が、これ。10番;Bridge End。
現地で私が撮った標識の写真は不鮮明なので、ベリックの観光協会のウェッブサイトからイメージを勝手に借りて掲載しました。
ブリッジ・テラス Bridge Terrace というトゥイ―ド河沿いの道をはさんだ、オールド・ブリッジ Old bridge から眺めた構図です。
前面が丸い建物(スコットランド民謡の生演奏があるパブ)がむやみに赤いですね。ラウリーは現地ではスケッチしかしなかったそうですから、自宅でキャンバスに描いた時は本当の色を忘れちゃったのかもしれません。
絵の構図の奥にある右側の建物がはベリック名物のハッカ味の飴、ベリック・コックル Bewrick cockle の製造販売本舗(創業1801年)でした。左側は同社の「卸売り本店」でした。
絵にもちゃんと、William Cowe &Sons と社名が書かれています(トレイルの標識看板にも記述あり)が、残念!2010年に廃業しました。現在、建物ははおしゃれなビストロ・パブとして使われています。標識看板が作られた時は廃業前だったようです。
その前の道が、ブリッジ・ストリートBridge Street 。
スコットランド風の、高さもデザインも違う古い可愛らしい建物がぎっしりとたて込んでいます。オシャレな個人商店や飲食店が多い、楽しい通りです。河と平行に走っています。
2軒の画廊の間の細い石だたみのわき道に、またトレイルの標識を発見。
1番;Dewar's Lane 。
1936年の鉛筆のスケッチです。油絵に描き起こさなかったみたいですね。
トレイルの標識がなかったら見落としていたはずの、とても興味深い風景です。
ふんにゃっと波打った右奥の建物の外壁は画家の想像の産物だと思う人もいるかもしれないでしょう。ところが実際スケッチの通りなのでびっくり。
一歩入ったところから撮った写真だと、左奥のアーチがもっとわかりやすいかな。
ラウリーは建物にうがたれた「アーチ入り口」が大好きだったそうです。ベリックのラウリー・トレイルで知りました。スケッチに黒々と描かれているアーチは実際にはちょっとしか見えてませんよね。
こんなどっしりした石アーチです。
くぐれば、駐車場のある、小さな広場に出ます。
ここ。☟
どんどん話がそれますが!
この小さな広場の角にある、ラバ(ミュール)が目印の the Mule on Rouge (ムーランルージュのシャレ!)というカフェはすごくおススメです。
お手頃値段で、リッチな食材。販売もしている紅茶が絶品でした。
話を戻します。断面上部を薄い青に塗った建物に、緑の三角が小さく見えるでしょう?☝ユース・ホステルの標識です。
ふんにゃっと波打った外壁のある18世紀の穀物倉庫は、ユース・ホステルとして使われています。
角の「ムーランルージュ」カフェと、断面上部を薄い青に塗った建物の間の小さな広場を通って、石のアーチをくぐるとユース・ホステルの入り口があります。もちろん、ラウリーのスケッチに描かれた(上の写真の)石だたみの細いわき道を入ってもユース・ホステルの入り口に行けます。
また話がそれます!夜8時ごろまであいている、ユース・ホステル一階のビストロもおススメです。
素泊まりのユースホステルの宿泊客が食事をする、格安の食堂です。誰でも利用できます。
上階には宿泊施設と、画廊があります。画廊では見ごたえのある戦前、戦後のスコットランド派の絵画の展示をやっていました。
画廊には、反対側の河口の波止場に向いた石壁の上からも入れます。
長くなるので続きは次号に。
ラウリーは莫大な数の油絵やスケッチを残したそうです。はっきり言ってベリックで描かれた一連の作品は(マンチェスターの美大生であった私でさえ!)見たことのなかったものがほとんどでした!!
ハリーポッター映画にもレギュラー出演した性格俳優、ティモシー・スパールが主演の2019年のこの映画、日本では公開されていないようですね。
...ラウリーが日本で知られていないからでしょう。
不遇時代のラウリーと息子の画才を全く認めない母の緊迫した関係を描いた秀作です。ストックポートの裏通りも撮影に使われました。