興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

うつ病のパラドックス

2020-11-19 | プチ臨床心理学
大切な人がうつ病を患った時、周りの人たちはしばしば善意から、何か気晴らしになる楽しい事をするように勧めます。

ご本人も早く良くなりたいですし、これは感覚的にももっともらしいので、いろいろなアクテビティを試みます。

これでうまく好転するのはマイルドなケースであり、実際多くの方が、そうしたアクテビティを思うようにできなかったり、できても楽しめなかったりして、無力感などから更に落ち込むという悪循環があります。

これは専門家からすると、実は当然の事です。

というのも、うつ病(大うつ病性障害、Major Depressive Disorder)の診断において、その中核的な症状に、「1日を通して、ほとんどの活動における興味または喜びの著しい減退」、という症状があります(この症状がうつ病の診断に必須というわけではありません)。

病前は楽しめていたこと、興味を持っていた事に対して、興味を失い、楽しめなくなっている状態です。

つまり、興味が湧かない、楽しめないからうつ病だと言うことができます。

その症状ゆえになかなかできない事を、意志の力でどうにかしようとしてもなかなか難しいです。

それではうつ病の人にこうした助言は不適切なのかといえば、必ずしもそうとは限りません。

というのも、人の情緒と行動は密接に関係しています。気が進まないながらに参加したイベントが思いがけず良いもので気分が上がった、というような経験をした方は多いと思います。この場合、行動が先で、行動の結果として気分が好転しています。

実際、私自身、うつ病でカウンセリングにお越しになったクライアントさんには、治療関係ができてきたら、行動療法的に、こうした何か無理なくできそうなアクテビティを試したり生活に取り入れるように助言する事があります。

ただ、先述したように、うつ病の症状について説明をして、なかなかうまくできなくて当たり前で、できたらしめたもの、ぐらいの気持ちで、焦らずに気長に取り組んでいくように助言していきます。

実際、うまくできるか、楽しめるかどうかはそれほど重要ではありません。

大事なのは、その試行錯誤そのものであり、その過程を通して回復の足掛かりが出てくる事も多いです。

例えば、ちょっとしたウォーキングですが、歩く事で、抑うつ状態の人の脳内に不足している、セロトニンという情緒の安定に重要な脳内物質の分泌量が増えることはよく知られています。心理的にも、家の中にいては得られない適度な新しい刺激を得る事は、こころの喚起にもなります。

最初は義務感から仕方なく歩いていた人が、ウォーキングを日課として続ける中で、徐々に歩くことが苦でなくなり、移動距離が増えて行き、電車やバスに乗って出かけられるようになるケースもたくさんあります。

つまり、うつ病を患った人がいろいろとアクテビティを試す事は、症状について少し勉強して、できなくても自分を責めない前提のもとで取り組む場合、有益である事が多いです。

本は読めなくなっちゃったけれどYouTubeはそれなりに楽しい、というならば、しばらくは何も考えずにYouTubeを見て時間を過ごし、YouTubeを見ながらゆっくりと今後の事を考えていけば良いわけです。


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