興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

最後まで対話を続けられない人

2021-03-27 | プチ臨床心理学
人々の喧嘩や言い争いについてお話を聞く機会は多いのですが、しばしば感じるのは、今回のタイトルである、「最後まで対話をする事ができない人たち」がとても多いという事です。

というのも、対人関係で何か問題があった時、それについて言語化して相手に伝えるところまでは良いのですが、本来はそこから相互理解の対話が始まるはずの「問題提起」がなぜか「最後通告」になってしまう人たちが相当数おられるのです。

「これが問題だ」「これが嫌だ」「これが嫌いだ」「これが耐えられない」「これに傷ついた」、とだけ相手に伝えてシャッターを下ろしてしまうのです。

もちろんその相手が暴力的であったり強く自己愛的で話が通じない、これまでもさんざん話し合いを続けて相互理解を試みたけれどダメだった、という背景があっての最後通告ならば良いのですが、そうではなくて、話し合いができる相手に対してこうする場合は問題です。

このように一方的にシャッターを下ろす傾向の強い人たちの特徴はいくつかありますが、よく見られるものとして、以前このブログでも紹介した、「読心」(mind reading)という認知の歪みです。

思い込みの強い人たちで、相手の表情や仕草、言動そのものに強く反応して、その意味や動機について独自に推測や解釈をして、それが正しいかどうかを相手に確認するための対話をしない人たちです。

その人の表情や言動から分かる事もあれば、それだけでは分からない事は実はたくさんあります。例えばあなたの結婚が決まって大切な人に報告した時に、その人の表情が曇った時、その人の心の中に喜び以外の何かが混じっているところまでは分かりますが、その理由についてはきちんと話をしてみないと分かりません。

こうした人たちはしばしば人間関係にトラウマのある人たちで、「読心」する事でなんとかやってきた、いわば「読心」が処世術となって強化されてきた背景があったりします。

例えば生まれ育った家庭環境で主要な養育者が悪意や意地悪心を持っていて、基本的に否定的なことばかり言われてきた、自分の気持ちや願望はあまり聞いてくれなかった、といった背景があれば、相手の言動や表情を否定的の捉える癖がつきます。

養育者の言動に首尾一貫性がなく、言動が予測不能で、突然不機嫌になって暴言や暴力振るうような環境では、相手の表情や言動に素早く反応する方が適応的ですし、こうした場合、会話が長くなる程に傷つけられる事になりやすいです。つまり、対話を続ける事のメリットをあまり経験していない人たちです。

皮肉なのは、「読心」をする人は、そうし続ける事で、いつまで経っても誰かと深く分かり合えるための「難しい会話」、「居心地の悪い会話」、「タフな会話」をする対話力が身につかず、誰かと本当の信頼関係を築いたり、本当に親密になる事ができないという事です。

もしあなたの大切な人にこうした特徴があるのでしたら、まずはこうした可能性を踏まえて、とりあえずはそっとしておいて、あまり長い時間が経過しないうちに再び歩み寄ってみると良いかもしれません。冷静になると対話に応じられる人も少なくないですし、それで誤解を解くことが出来るかもしれません。

もしあなたにこうした特徴がおありで悩まれているのでしたら、まずは、「読心」の内容について疑問を持ってみることです。

先程の例で、結婚する事を報告したら相手の表情が曇った時、その時は反射的に「この人は私の結婚を喜んでくれない、否定的だ、嫌なんだ」、と解釈して距離を置いたとしても、「本当にそれだけかな」、「本当に否定的なのかな」、「あの表情の否定以外の意味はなんだろう」、などと考えてみて、もし今までのその人との関わりがあなたにとって良いものであったなら、勇気を出してその人と対話の時間を持ってみると良いかもしれません。

その「新しい会話」があなたにとっての「新しい人間関係」となり、新しい気持ちが出てきて、トラウマの克服にもつながります。


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