興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

クライシス (危機、Crisis)

2012-01-14 | プチ臨床心理学

 心理療法、心理カウンセリングは、対象となる問題の性質や、クライアントの特徴、治療者の流派やスタイルなどにより、治療の期間も介入も様々ですが、短期集中型の心理療法の代表的なものに、危機介入(Crisis intervention, クライシス・インターベンション)というものがあります。これはあらゆる心理療法家、心理カウンセラーの基本技術とされているものですが、同時に非常に大切な技術でもあります。なぜなら、我々人間はその生涯において様々な危機に直面するからです。特にここ近年の先の読めない不景気、大きな自然災害、深刻化する社会問題などで、クライシスというものが私達にとってずっと身近なものになってきているような印象があります。「クライシス」というと、なんだか非常に大きな問題のように響きますが、それもクライシスの性質や状況などによって様々です。深刻なクライシスもあれば、対応が比較的容易なクライシスもあります。

 さて、先ほどからクライシス、クライシスと繰り返しておりますが、クライシスとは何でしょうか。それは、クライシス理論のエキスパート、Roberts(2000)によると、「一定期間の心理的不均衡(Psychological Disequilibrium)」で、この不均衡は、自然災害、人災(性暴力、傷害、強盗、空き巣、詐欺の被害など)、事故、病気、家族や恋人、非常に親しい人間の死、個人の人生における大きな過渡期、分岐点など、様々な危険要素-出来事や状況-(Hazardous event or situation)よってもたらされます。こうして起きた心理的不均衡がクライシスとなる特徴は、それが、私達が今までに身につけていて普段使っている適応法、対処法が機能しなくなっていたり、効果的でなくなっている、というところにあります。たとえば、普段何か困ったことがあったときに、家族や親しい友人と話したり相談したりして解決するという適応法を持っている人が、ある時大きな失恋、離婚を経験し、精神に支障を来たし、親身な家族や友人と話したところでうまくいかない、ということはよくあります。また、こういう状況で、「相談する」というオプションそのものが困難になってしまったりします。

 クライシスの特徴は、その心理的不均衡が比較的短期間に限られたもので、それは通常、6週間から8週間といわれています。しかし、適切な解決策、対応法が見つからなかったりしてそれにきちんと適応できないと、問題は複雑化したり、長期的な精神的、行動的不適応へと繋がったりします。たとえば、思わぬ大きな失恋をした人が、それにきちんと向き合えずに、酒や薬物、食べ物などで気を紛らわして、それが慢性化してしまったり、あるいは別の相手と衝動的に恋愛関係を展開させて、不健全な関係がそのまま続いていく、などということがあります。

 大切なのは、クライシスとは何か、そのきちんとした知識を持って、それを実際に経験したときに、きちんと認識して、対応する、ということです。また、きちんとした知識と自覚があれば、それがクライシスに発展する前段階、「危険な状況・できごと」の時点で危機管理をし、クライシスを未然に防ぐ、ということも、可能な場合が少なからずあります。次回はもう少し具体的に、クライシスについて考察してみようと思います。


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