興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

自尊心と自分の時間

2015-05-14 | プチ臨床心理学

 かつて、アメリカの著名な精神科医、スコット・ペック(Morgan Scott Peck (May 22, 1936 ~ September 25, 2005) は言いました。

"Until you value yourself, you won't value your time. Until you value your time, you will not do anything with it."

 
 これはつまり、「あなたが自分自身に価値を認めるまで、あなたには自分の為の時間はない。あなたが自分の時間に価値を見い出すまで、あなたはそれをどうすることもできない」、と言った意味の言葉です。

 これは非常に示唆に富んだ言葉で、実際人は、健全な自尊心を持っているとき、自分のための時間をその生活のなかで確保していますし、その時間を有意義に使っています。本当の意味で、自分を大切にできています。逆に、低い自尊心に苛まれる人は、自分のことはないがしろにして、常に他人のことを優先して生きているため、いつまでたってもその生活は変わりません。変わらないどころか、そのようなライフスタイルは、徐々にその人を蝕み、損なわせていきます。

 ここで私が言いたいのは、「自分勝手に生きよう」などということでは決してありません。私が今回強調したいのは、バランス感覚の大切さです。他人に何も与えず、何の貢献もせずに、自分だけの時間を生きようとしたところで、その人は他者と繋がることもできませんし、真の成長はあり得ませんし、そういう人生が豊かな人生であるとは言い難いです。
 
 それとは反対に、自分のために時間を使うことに強い罪悪感を感じるために、自分の本当の気持ちやニーズを無視したり押し殺しながら、他人の気持ちや要求に応えることで、罪悪感はなんとか回避できているものの、「もっと相手の要求に応えなければ」という考えが常に脳裏にあり、慢性的なイライラや鬱感情に苛まれて生きている人の人生にも、真の成長や充足感はありませんし、そのような人生が豊かであるとは言えないでしょう。こうした生活を続けていては、いつまでたっても自分のための時間を持つことはできません。

 上手な生き方は、どうやらこれらの両極端の弁証法的なスタンスにありそうです。つまり、自分の社会的な責任を自覚して、他者と向き合いながら、自分にできることをきちんとしながら、それと同時に、自分の本当の気持ちやニーズにもきちんと自覚して、自分としっかり向き合って、そうしたものを大切にして生きていくあり方です。これを実現するためにどうしても必要なのは、やはり、必要な時に断る勇気、Noという勇気です。なんでもかんでも断ったり、拒絶するのは、自己中心的ですが、自分自身の人生をきちんと生きるために、つまり、自分の時間を確保するために、できないことはできないと断ることは、自己中心的ではありませんし、これは、相手のニーズを呑み込むよりも、ずっと勇気とエネルギーの要ることです。

 自分は自分の気持ちやニーズを大切にして良いのだ、自分はそういう価値のある人間なのだと自覚することが、対人関係の緊張感に負けずに自分のための時間を作ることに繋がります。そして、そのようにしてようやくできた自分の時間を大切にできないと、なんとなくそうした時間をだらだらと過ごしてしまったり、無駄にしてしまったりして、その時間を有意義に使うことができません。他人を自分の人生の中心において生きている人は、たとえ自分の時間ができても、そうした時間を、他人に尽くすことで生じた疲れを取るために費やしてしまうので、なかなかその時間を本当に自分のためになるように使うことができません。逆に、自分の時間を本当に自分のためになるように使えたら、その人は、気持ちが良いですし、その経験は、自尊心を高めることにも繋がってゆきます。そのポジティブな体験は、本物であり、充足感があるので、自分の時間を確保し、うまく使うという行為は強化され、健全な自尊心に基づいた、バランス感覚の良い、豊かな人生へと繋がってゆきます。

 

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