小さなレストランのオーナーが、日々の出来事を語ります。
僕らは元気に橋を渡り、突き当りを当然左に曲がり山すそに沿って進んだ。
僕は、川をはさんで左ななめ前方を指差し、「あの辺が駅だね。」なんて余裕で言った。
左手の山はかなり急斜面だ。そこの張り付くようにハイキング用の小道が整備されている。
まだ新しいようで、きれいに整備されていた。
そして山からはたくさんの小さな川が、本当に細い川が、大井川に流れ込んでいる。
当然そこは、谷のようになっているので橋がかかっている。何個あったかな?7個か8個か?それくらいかな?
みんな新しくてきれいな橋だった。最初のうちは、僕が先頭になってつり橋を揺らしたりはしゃいでたが、
どうやら、こっち側に来たのは間違いだったようだ。
想像してみてください。
川幅の広い大井川、そこのかかる2本の橋。もし目的地が同じ側の岸にあるとしたら?
そう、普通に考えて橋は渡らない。もし渡ったら、もうひとつの橋も渡らなければいけないわけだ。
まとめてみよう。要するに僕たちは四角形の1辺じゃあなく、3辺を歩かなければならなくなったわけだ。
写真右中央に見えるのが最初に渡った橋
しかし気づいた時は既に、もうだいぶ来ていた。もう、とにかく進むしかない。
道は整備されていて歩きやすいのだが、けっこうアップダウンがあり、橋も多い。
それになぜか風がまったく無いといっていい。汗は拭いても拭いても噴き出てくる。
それでも妻も息子も、文句ひとつ言わず?頑張って付いて来てくれて本当に嬉しかった。(冷汗)
最後の橋を渡りきり、大井川を渡る大きな橋のたもとに、
ちょっとした広場があって、椅子と机があったのでそこで少し休憩した。
ペットボトルに用意してきた飲料も、もう底をついた。
さあ、出発だ。あの橋を渡れば駅も、もうすぐな・・・はずだ。
橋を渡りながら、川をのぞきこむ。この時期、水は少ない。
橋を渡ると県道は、緩やかに左にカーブする。そのずーっと先には、僕らが渡ったつり橋型の橋が見える。
とにかく辿り着いたようだ。県道の右側には民宿があり、おじさんが庭仕事をしていた。
玄関の前には、この世のことを知りつくした様な犬が寝そべっていて、僕らが通るとチラッと見た。
僕らは、民宿の玄関脇の自動販売機で飲み物を2本買い、駅に向かおうとすると
民宿のおじさんが、「駅に行くのかい?それなら庭通っていきな。」と言ってくれた。
なるほど、民宿の裏の小高い所が駅になっているんだ。
僕らは、「ありがとう」と言うと、駅に向かった。
ところが、改札は線路の向こう側だった。線路沿いに少し歩き、踏み切りを渡ってまた線路沿いに駅に戻る。
やっと駅だ。何とか予定していた列車に間に合った。
ふと見ると、さっきのカップルが汗だくでベンチに座っていた。
お互いに、どちらともなく手を振った。
「イヤ~あの橋渡ったんですか?」と彼。
「だって君達が、渡ってたから渡っちゃたよー!!」そう言うと、女の子が、
「きみも全部歩いたの?すごいね~」と息子を褒めていた。
その後、電車が来るまでの数分、「あの橋を渡らないでまっすぐ歩いて来れば・・・」と言う話に花が咲いた。
考えてみれば、この炎天下の中アップダウンもあるこの道のりを、2時間も2人とも良く頑張ってくれました。
妻も息子も一度たりとも「もう歩けない、だっこして~」と言わなかったのは本当にすごい。
ありがとうございました。
「5歳の子には過酷だ。」と妻がつぶやいていましたが、まったくその通りです。