思考の部屋

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「ハーバード白熱教室@東京大学 日本で正義の話をしよう」・Lecture1-1

2010年09月28日 | ハーバード白熱教室

 サンデル教授は、今回の東大安田講堂における「白熱教室」を始めるに当たり、この講義にやる気があって参加できる人を確認(挙手)し、その自信のほどを質問した。

 指名された若者は、流暢な英語で、
【ユウタロウ】
ぼくたちは日本お新しい世代だからディベートをすることができるんです。

とはっきりと答えるのです。

今朝は、

Lecture1[イチローの年俸は高すぎないか?]の

三つの異なる考え方についての部分を起しました。最後の例として最高学府の進学を例にとった”正義 ”についてですが、出勤時間になってしまったので帰宅後アップしたいと思います。

【サンデル教授】
 この授業では、正義とは何かという問いに哲学者たちが出した三つの異なる考え方を君たちと探っていきたい。

1)最大多数の最大幸福~「功利主義」(ジェレミー・ベンサム)
【サンデル教授】
 最初の答えは、正義とは幸福の最大化を意味し、最大多数のための最大幸福を追求するというものだ。

2)人間の尊厳に価値を置くこと(カント)
【サンデル教授】
 二つ目の答えは、正義は人間の尊厳に価値を置くことだ。
そして人間の基本的で、絶対的な権利と義務を尊重するというものだ。

3)美徳と共通善を育む(アリストテレス)
【サンデル教授】
 三つ目の伝統的な答えは、正義についての哲学的な議論によると、正義とは美徳と共通善をたたえ育むことを意味する。

これらの伝統的な思想を君たちとの議論で探って行きたい。

※ここから議論のための質問が始まります。

問題提起「正義についての問題」
【サンデル教授】
 どの位の所得や富の不平等が、社会を不公正なものするのだろうか?

 巨額の給料を稼いだり、巨額の富を持つ人もいるのに、ほんのわずかしか持っていない人がいるのは不公平だ。

 ある人は、自由市場経済の作用で生ずる分配であれ、何であれ、それは所得と富の公正な分配だと言う。

 物とサービスの交換が強制されることなしに、自由に合意されている経済のことを「自由市場経済」と解釈するとしよう。

 その結果を、所得と富の公平な分配とみなすのは、一つの考え方だ。それに反対するものもいる。君たちがどう思うか見てみよう。

※ そこで次に討議の材料として、個人の所得の格差が提示します。

○ 日本の教師の平均年収 4500ドル(約400万円)
○ プロ野球選手のイチロウの所得 1,800万ドル(約15億円)
○ アメリカ・オバマ大統領 40万ドル(約3500万円)

 ここでLecture1の主題の「イチローの年俸は高すぎるか否か」の参加者の意見が示されます。

● イチローの年俸が他の二者よりも道徳的に正しいと思うと考える意見
【ユズハ・女性】流暢な英語
 イチローはそこまでの高額な給料に値しないと思います。単位チームの一員としてプレイするだけだからです。一方オバマ大統領はアメリカ国民への全ての責任を負っています。核兵器についての決定権も持っていて世界の人々にも影響力があるんです。だからオバマ大統領はもっと高額な給料に値すると思うからです。

【サンデル教授】
 イチローがチームのほかのメンバーに頼っているというのは本当だ。しかし彼らもイチローよりは少ないが高い給料を貰っている。

 そしてオバマが重要な仕事をしているのは事実だが、彼もチームに頼っているのではないか。彼には閣僚メンバーがいて議員にも頼らなければならない。君がオバマのチームはマリナーズよりいいか悪いかどう考えるかわからないが。

【ユズハ・女性】
 イチローがチームに頼っていると言うつもりはありません。でも彼の影響が及ぶノハチームメイトだけです。一方 オバマ大統領が核兵器のボタンを押すと・・・国が吹き飛んでしまうかも知れないんです。

【サンデル教授】
君は、どうやらイチローがオバマの42倍の稼ぎに値しない理由は、突き詰めていうとイチローのしていることはオバマ大統領がしていることよりも、重要ではないと考えているようだね。

【ユズハ・女性】
 そうです。

ここで二人目の意見者が登場します。

【A・女性】
 娯楽は生活のために必要だから、お金を支払ってイチローの試合を見るんです。オバマ大統領がやっていることはとても重要ですが・・・扱っているのは「問題」で、わざわざ見たいものではありません。オバマ大統領は税金を使って問題に取り組ものに対しイチローは人々を楽しませて給料を稼ぎます。だから所得が違うんです。

【サンデル教授】
 彼らの間の所得の格差は公正だと思うかい。

【A・女性】
そう思います。

【サンデル教授】
 公正だという理由は、みんなが野球が好きでイチローを見たいからだね。

【A・女性】
 私は熱心な野球ファンではありませんが野球は多くの人にとって・・・生きる支えや楽しみとなり重要な意味を持っています。そういう人たちが払ったお金でイチローがお金持ちになることは悪いことだとは思いません。

【サンデル教授】
 イチローがあれだけの給料に値するとなると日本の貧しい人を助けるとはいえ、その収入の半分を税金として取るのは間違っていると思うかね。

【A・女性】
 私は課税にはちょっと反対です。イチローが金持ちになってその気があるなら貧しい人に寄付するでしょう、それが正しい行いだと思えば・・・

【サンデル教授】
 望むなら寄付できると考えるんだね。

【A・女性】
 その通りです。ビル・ゲイツのように私はその方がよいと思います。

【サンデル教授】
 しかし彼らが、教育や道徳心から慈善を行う気にならなくとも法律的には何ら問題はない。社会はビル・ゲイツやイチローに巨額な収入の40%や50%を貧しい人の医療費のために渡すように求めるのに法的拘束力を使うことはできない。国家はそのために彼らに強制する権利はないということだね。

【A・女性】
ある程度は課税すべきでしょうが、行き過ぎた課税はやる気を失わせます。

【サンデル教授】
 他に税金は不公正だと考える人は?

【タカシ】
 市場の原理の中で、お金を得たわけですから・・・イチローならばプレー、本人の努力、才能で金銭を得たわけで、それは市場が決めて市場にいる人間が彼に対してお金を払ったのだからそれは適正であり、国家はそれに対してさらに再分配を強制することはできないと思います。

【サンデル教授】
 なぜ国家が富を再分配することを強制するのが間違っているのか、彼の基本的な権利を侵害しているのだろうか。

【タカシ】
それは元々、市場の中にいる人間同士が取引をして社会ができてきていると思います。国家というものは、社会の上に成り立っていて、その市場の中で例えば犯罪などが起きた場合にそれを取り締まるという機能を持っていますが、その富が偏在したような場合においても、個人の権利を侵害て金銭を取り上げことは国家の役割をすでに侵害していると思うので間違っていると思います。

【サンデル教授】
 君は自称リバタリアンかね?
※リバタリアン:個人尾権利を侵害すると考え方 自由至上主義者とも市場原理主義者とも呼ばれる。

【タカシ】
 はい、自分はリバタリアンだと思っています。                  

【サンデル教授】
 いいだろう、今ここで基本的人権が問題となっている。しかし君が問題としている基本的権利は、財産であって生命に関することではない。国家は慈善を行うかおこなわないかについて、人々の意思や選択の自由を尊重しなければならないと言うんだね。

 それなら君は自分のこと自分で決めるという自立の考えに賛成しているようだ。
 ※自律:自分のことを自分で決める
 ビル・ゲイツやイチローが貧しい人を支援するために、自分の意思に反して課税されたらその基本的権利は侵害されると思うかい?

【B・男子】速い流暢な英語
 彼が正しいとは思いません。政府は課税してよいと思います。政府は貧しい人に最低生活基準を保証する役割を担い・・・それを実現するために、社会の誰もが協力しなければなりません。

 そもそも 金持ちになれない理由は、社会が機会を与えてくれたからです。だから貧しい人を気に掛ける義務があると思います。

 政府は金持ちに課税して、貧しい人々を助ける責任があると思います。

【サンデル教授】
 しかし自分のことは自分で決めるという自律の権利はどうだろう。リバタリアンはその権利をビル・ゲイツやイチローまで広げるべきだという。慈善を行って貧しい人たちを助けたければ自由にできるべきだが強制されるべきではないというのだ、このけんりはどうだろう。

【B・男子】
 確かに、自律の権利はありますが他人への危害など、制限されることもあります。貧しい人々を救うことの方が、豊かな人の権利よりも大切です。政府の課税は正当化されると思います。

【サンデル教授】
 こんな風にリベートが展開していくとは面白い。

【アキラ】
 はい、私はOKです。私はそもそも10億ドル稼ぐ人に5億ドルの税金をかけたとしても、その人は痛くもかゆくもないと思います。何ら不公平を感じないと思います。しかしそれを再分配することによって貧しい人たちは多大な効用を得ると思うので・・・最大多数の最大幸福が実現できるので私は賛成です。
<会場から拍手>

【サンデル教授】
 OKアキラ。自分は功利主義者だと思うかい。
※功利主義:正しい行いとは効用を最大限とするという考え方。

【アキラ】
 はい、そうです。
<会場から笑い>

【サンデル教授】
なるほど君は功利主義の理論を所得の再分配に当てはめている、貧しい人の幸福が増すことは、少なくとも等分は、ビル・ゲイツやイチローの幸福が減少する割合よりも大きいからだ。彼らから100万ドル取り去って、多分気づきもしないかも知れない。

 幸福の最大化という功利主義の考えは、所得と富を裕福な人から貧しい人に再分配する唯一な正当な根拠なのだろうか。

 誰かこれについて功利主義ではない別な正当化の理由がある人は?

【マミコ】
 私が思うのは、そもそ人類はも自分自身の生命、他人の生命は傷つけられないという権利を持っているという考えに照っているので、お金がないことによって医療を受けられないで死んで行く命を自分のコミュニティーから排出すること事体を避けるべきであると考えるからです。

【サンデル教授】
 君は自分のコミュニティーから貧しくて医療を受けられない人を出したくないんだね。それはどうしてかな? それは単に幸福の最大化への最善策だからか、あるいは他に道徳的に配意した重要な理由があるのだろうか。

【マミコ】
 道徳的にです。自分のコミュニティーからお金がないことによって、死んで行く人間を出してはいけない。これが人類の目的・・・やるべきこと義務だと思います。

【サンデル教授】
 人への義務あるいは、適切な生き方というのは、誰にとってもそのために進んで犠牲を払うことだ、ということだね。医療が受けられないほど、あるいは食べられないほど、絶望的に貧しい人がいない社会を造るために、自分で稼いだものをどう課は自分で決める、という人たちよりも、そういう人々は善良な人々だと思うかい?

【マミコ】
 はい、そう思います。

【サンデル教授】
 他の人への義務を認識して、進んで犠牲を行う善良な人々なんだね。いいだろう。

 どうもありがとう。一連の質問・・・イチロー、教師、オバマ大統領の給料や富の分配について意見を言ってくれた君たち・・・。

 さてこの議論の中で、わつぃたちは少なくとも”正義 ”についての最初の二つ考えが出てくるのを見てきた。

 裕福な人から貧しい人への再分配に賛成する功利主義の意見を聞いた。

                   

              ※功利主義の議論(富の再分配擁護)
 金持ちに巨額な富を残しておくよりも幸福が増加するだろう。これが功利主義の議論だ。

 そして”正義 ”の二つ目の伝統的な考え方から再分配について対立する二つの意見が出た。その伝統とは、人間の尊厳と選択の基本的な権利を重視するものだ。

 その一つは、課税を強制だと考える、リバタリアンだ。

          

            ※リバタリアンの主張(課税を強制と考える)
 リバタリアンは、自分のことを決める自律の基本的権利、選択する権利は・・・自分の財産や稼ぎをどうするかの決定も含んでいると解釈する。

 この権利があまりにも強力なので国家が最下層の貧しい人々を助けるために人々に強制し税金を払わせることは間違っているというのだ。

 それに対して、人間の尊厳の伝統と自律と選択の尊重というカント的な考え方に訴えて、

          

              ※カント的考え方(人間の尊厳の原理)
リバタリアンの権利の解釈を退ける人もいる。ちょっと待って、生命に対する権利と財産に対する主張の間には違いがあるというのだ。

 財産はお金であり、生命そのものではない。そしてイチローがこれだけのお金を稼ぎ、オバマが大統領になったのは、チャンスを与えてくれた社会の御かげだと指摘した人もいた。

 したがって彼らは、その社会に暮らす全ての人を少なくとも、まっとうな生活水準まで支える借り、義務があるのだ。だから所得の再分配の問題に関して、人間の尊厳の倫理と基本的権利が導くところに二つの対立する意見がある。

 そして美徳に注目する三つ目の考え方については、私たちはちょうど善良な生活についてマミコの議論を聞いたところだ。善良な性格を持つということは貧しい人々に分け与える倫理や自己犠牲の倫理を持つことである。そして貢献についての議論がでた。貢献の道徳的な価値は、実際オバマの方がイチローよりも大きいと論じられた。

          

 したがってイチローの稼ぎはもっと少なくてよく、オバマはもっと稼ぐべきだという議論だった。私たちの多くは野球ファンであってもオバマのしていることは、道徳的に野球よりももっと重要だからだ。これが正しい所得の分配の考え方として貢献の道徳的価値を物差しにする考えだ。

          

だからこれは公正な分配の根拠を美徳や善や仕事の道徳的重要性におく”正義 ”の三つ目の伝統に関連している。

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 サンデル教授は一切メモをしていません。それぞれの発言者の意見を聞き、その中で述べられていることが、講義の主題である”正義 ”とは何か?に向けて、生徒に哲学的理論の基となる考えも示しながら説明していきます。(凄い!)

 また発言者が実に流暢な英語で、自分の意見をしっかり述べていきます。実に若いということは素晴らしいものです。

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