セントの映画・小演劇 150本

観賞数 2024年 映画 79本、 演劇 51本

終着駅 トルストイ最後の旅 (2009/独=露)(マイケル・ホフマン) 70点

2010-09-17 13:37:46 | 映画遍歴
トルストイが自分の信条を具体的に実践していた、って聞いたことがありました。この作品は世界的作家が自分の想念と、いちばん卑近で身近な現実生活(家庭)との対立で悩むエピソードを映像化したものであります。

日本でも武者小路実篤らが「新しき村」という実践活動をトルストイの影響で行ったというはるか昔の授業を思い出しました。何と博愛主義者と理想主義者の集まりなんだと当時子供心に思ったものです。農奴解放前のロシアと国家主義が邁進する日本と共通する点があったのだろうか、大国小国は捨て置いて通じるところがあったのだろう。

トルストイはけれど当時起こりかけていた共産主義には目もくれなかったようで、暴力革命を是認するわけではなかったのだろう、要するにある一つの神の国を建設しようとしていたようだ。

経済そのものに目をそむけて新たな社会生活が営めるとは思えないが、映画でもそんな幼稚なトルストイが、思想と現実とのギャップ、すなわち自分の私有財産をすべて投げ出すかどうかで悩む姿をいいタッチで捉えている。

貴族の生活に別に不満があるわけではない妻が、夫のそういういわばキリスト化に感情を剥き出しにしてあらがうのももっともなことだと思われる。トルストイは仕事の環境を求めて家を出るが、途中で倒れてしまう。しかし大作家とは言えトルストイも一人の男。最後は妻を求めて死んでゆくといった内容だ。

どうも冒頭で述べたが、僕はトルストイ自体が(彼の一連の作品は別として)彼が取った思想行動としては認めているわけではないので、このロシア版「新しき村」活動に興味を持たない。この映画の現代的意味を考えるのだが、別に何も見出せない気もする。俳優はみんな熱演で、演出もじっくりとドラマ性を表している。

しかし、僕の心にひとかけらも触れ合うものがない。歴史の中にこういう思想的行動もあった、大作家と言えど、思想性と周囲で形成されるものとのギャップは出現してくる、など、理解できても、やはり現代との関係性とか、自分との心の接点が見いだせなければ(僕にとっては)ただのフツーの映画にしか過ぎない。映画そのものの出来は悪くないのでよけいそう思ってしまう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« フェアウェル さらば,哀し... | トップ | セラフィーヌの庭 (2008/仏=... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画遍歴」カテゴリの最新記事