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ツォツィ (2005/英=南アフリカ)(ギャヴィン・フッド) 90点

2007-05-08 20:11:29 | 映画遍歴
恐れ入りました。主人公は最初はどこにでもいる悪童の、どうしようもないぎらぎらしている黒人青年なのである。良心の呵責もなく平然と金のために悪びれることなく千枚通しで電車内で一般人の胸を刺す男なのである。人が死のうが、家族がどう悲嘆にくれようが、お構いなしの悪たれ坊主なのである。

このシーンを見た後、これ以降この映画をどう見ればいいのかなあと正直悩んだ。こんな、浅い人間を見る余裕は僕にはないのだ。と、斜めに見ていたら、、。
次の車両強盗で車の後ろに赤ん坊をいるのに気づいてから、この赤ん坊を通し、この悪たれ黒人が、自分自身を今までの人生に重ね、眼差しが変わってくるところがすごい。人生への敬虔がみなぎってくる。

土管の中で生活を余儀なくされ、母親がエイズに感染していたため接触を断たれていた子供時代の無念さ、、。
一気にこの映画は人間復古へみなぎってくる。
画面は静かだ。
盗んでしまった赤ん坊に母乳を与えようとする。その過程で、図らずもその女性を好きになってしまう。
このあたりの演出、演技は見事だ。特に、黒人青年役のまなざしは世の中を透いているかのようで素晴らしい。初めて人間に戻るその瞬間なのだ。

ラスト、恐らく手を上げて捕まった黒人青年は重刑を与えられるかもしれないが、それでも彼は捕まるまでの間に、この世の何かを理解し、人間の本当の愛情を体得し、初めて人間になれたのであろう。
この映画の秀逸なところは、何気ない場面でも、言葉で語ろうとせず、現在でもアパルト政策が矛盾を社会に与えており、黒人でも富める者と生きるに値しない生活を虐げられている者との2極化が進んでいること、などを映像のみで見ている観客に分からせる説得力を持っているということである。
ツォツィ(不良)という名前ならぬ名前で半生を生きた黒人青年がやっと自分の本当の名前を赤ん坊に見立てた時のその立派な明るい顔。この場面も感動的だ。
本年屈指の秀作だと思う。

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