Sightsong

自縄自縛日記

鈴木ちほ+北田学@バーバー富士

2019-08-13 20:54:56 | アヴァンギャルド・ジャズ

上尾市のバーバー富士(2019/8/12)。

Chiho Suzuki 鈴木ちほ (bandoneon)
Manabu "Gaku" Kitada 北田学 (bcl, cl)

鈴木ちほさんは「気負い」を演奏前から口にしていた。というのも、バーバー富士という場所の重さのこともあるし、なにより齋藤徹さんの存在があった。はじめにバーバー富士の松本さんからオファーがあったのは今年5月27日の回。その30分後にテツさんからかみむら泰一さんとのデュオで演奏したいとの連絡があり、身体のことを考慮してテツさんの回が先になった。しかし、テツさんは5月18日に急逝した。ライヴはかみむらさんと今井和雄さんとのデュオとなった。テツさんとの縁が深かったちほさんは何より「気負う」こととなった。

また、後で北田学さんが言ったところによれば、学さんはテツさんと共演はしなかったものの、音楽活動が低調な時期に強い印象に残る接点があり、即興演奏というものを問う契機にもなっていたのだという。

そのような人間の物語が音楽に結びつくのか?そうだ、という人も、視野の外に置くべきだ、という人もいるだろう。(音楽って何?わたしなどにはわかりません。)

それがどうであれ、この日の音楽は、各々の音のエッセンスが衒いや「気負い」のない形で出されたとわたしには聴こえた。このふたりは共演を積み重ねており、その蓄積をもとにしていた。従って、互いを知らぬことによる自分自身のフィールドの整地という過程はなかった。

最初はバスクラのロングトーンから始まり、やがて、バンドネオンとの間で指と指とを交差させるように音が形成されてきた。バンドネオンの蛇腹の空気音はとても効果的であり、その風とバスクラを吹く息とがシンクロした。また蛇腹の動きに呼応してバスクラが入るなど、即興演奏ながらはじめからすでに呼吸が合っていた。学さんのバスクラは大きな流れと小さな指使いとが組み合わさってうねりを作った。またときに粘ってブロウを手放さないように吹き続ける瞬間などはトロンボーンのスティーヴ・スウェルを思わせた。

2曲目はクラとバンドネオンとで、小気味よいリズムで不協和が不穏でも愉しくもあるサウンドを作った。クラはときおり秘密話を打ち明けるようで、バンドネオンが物語の背景にまわった。

3曲目はバンドネオンが和音を階段関数的に変化させてゆき、同時に音の震えが和紙を透かし見るグラデーションを思わせた。大きな流れと小さな流れとを共存させるあり方は、学さんのバスクラにも通じるものに思えた(この曲ではクラを吹いた)。確信犯的に時間がゆっくりと流れ、ふたりが並走した。

4曲目はバスクラが声を入れて咆哮し、その暴れに対し、バンドネオンが長い気をもってサウンドをこってりと厚塗りした。ただしバスクラのタッピングもまたその動きによる塗りのようなものに聴こえた。ふたりの塗りはゆったりとしてゆき、やがて絵具が擦れて収束した。

セカンドセットの1曲目はバンドネオン、バスクラともに事件だ事件だと喧伝するように思えた。やがてバスクラが跳躍を開始し、バンドネオンも隣で跳躍した。つまりこれは愉しい縄跳び、縄跳び。ここでのバスクラはやさしいタッピングにより、木管ならではの柔らかさをとても発揮した。そしてバスクラはまた事件の語り部となった。

2曲目は夜にどこからともなく聴こえてくる音。クラもバンドネオンも虫の声。クラが循環呼吸で長く粘り続けると、バンドネオンはまるで歴史であるかのように背景を形成した。

3曲目はバンドネオンが長く長く音をつなげ、その間に急変を重ねるバスクラ。同じ話を別々の人が語るような按配だった。

4曲目は文字通り息のようなバンドネオン、呼応するバスクラは深呼吸のごときだが、次第に音を発してゆき、ここにきてみごとな重音を出した。ふたりの音が感動的なほどに和音となって重なった。テツさんへの鎮魂歌に聴こえた。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●北田学
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ+喜多直毅+西嶋徹@なってるハウス(2019年)
audace@渋谷Bar Subterraneans(2019年)
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(JazzTokyo)(2019年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+シセル・ヴェラ・ペテルセン+北田学@渋谷Bar subterraneans(2019年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(2017年)

●鈴木ちほ
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ+喜多直毅+西嶋徹@なってるハウス(2019年)
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(JazzTokyo)(2019年)
アレクサンダー・ホルム、クリス・シールズ、クラウス・ハクスホルムとのセッション@Permian(2019年)
鈴木ちほ+池田陽子(solo solo duo)@高円寺グッドマン(2019年)
種まき種まかせ 第3回ー冬の手ー@OTOOTO(2019年)
種まき種まかせ 第2回ー秋の手-@Ftarri(2018年)
impro cats・acoustic@なってるハウス(2018年)
鈴木ちほ+荻野やすよし(solo solo duo)@高円寺グッドマン(2018年)
鳥の未来のための螺旋の試み@ひかりのうま(2017年)
毒食@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2017年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(2017年)
りら@七針(2017年)
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年) 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。