久しぶりに、溝口健二『雨月物語』(1953年)を観る。ブックオフに韓国版DVDが500円で置いてあったのだが、もう著作権も切れたということだし、本屋のワゴンにでも廉価版が売っていたりするのかな。
戦国時代、琵琶湖の北の畔。窯で器を焼いて生計を立てる男とその妻子。隣には、侍になりたいと妄想する馬鹿男とその妻。戦のどさくさで焼き物が売れに売れ、あぶく銭を手にしてしまった男たちは、金と欲に目が眩む。かたや、成仏できずにさ迷う亡霊に憑りつかれ、かたや、手にした銭で武具を買い、出世を狙う。
溝口健二は、妥協を知らない職人だったという評価をどこかで読んだ記憶がある。名作として称えられるこの映画を観ると、確かにそうだったのだろうと確信してしまう。
焼き物を積んで霧の中を漕ぎだす湖の場面は、宮川一夫の撮影手腕もあるのだろうが、実に見事。唐突にあらわれる亡霊の姫様(京マチ子)の妖艶さ、男が化かされる屋敷でやはり突然カメラが向けられる甲冑の迫力には、文字通り、吃驚してしまう。男が命からがら戻った家で、真っ暗ななか蝋燭が灯され、妻(田中絹代)の顔が浮かび上がる確信犯的な場面。すべてに隙がない。
この素晴らしいモノクロ映像は、きっと、フィルムによる上映を観たならば、さらに網膜に焼きついたことだろう。
当時の観客は、度肝を抜かれ、茫然として、あるいは陶然として、映像を凝視したに違いない。
●参照
○溝口健二『雪夫人絵図』(1950年)
以前、日本映画専門チャンネルでやっていたのを録画したまままだ観ていません。このところものすごく忙しくて、映画を観るどころかブログの更新もままならない状態で、いささか欲求不満です。
上田秋成は以前夢中になっていた時期があって、なかでも「雨月物語」「春雨物語」は映画やドラマ、はては水木しげるの漫画まで観まくっていたのですが、溝口健二のこの映画は機会を失ったままでした。あらためて観てみようという気になりました。
この歳になって溝口って凄いななんて呟いている自分が、ちょっと恥ずかしくもあるのですけども。
上田秋成とはまた渋いですね。水木しげるの漫画もあるのですか・・・。それはそれで、怖そうな。