さほど熱心な澁澤龍彦の読者でもなかったのだけれど、1970年代に書かれた旅日記『旅のモザイク』(人文書院、1976年)を気分転換に読んだらちょっと感心して笑ってしまった。
阿蘇山の噴火を見て、澁澤は「火山とエロティシズム」の関係に憑りつかれたようになる。噴火を眺めて興奮し火口で狂態の限りを尽くすサド侯爵の『悪徳の栄え』からはじまり、ゲーテが『イタリア紀行』において火山から死に誘惑されたこと、古代ローマの博物学者プリニウスが火山の噴火時にその場から動かず死んだこと。白昼夢のような想像から醒めて、澁澤が足を運んだのはストリップ劇場だった(なぜ火山かは省略する)。
あるいは竜飛岬のつららを見て、J・G・バラードのSF『結晶世界』を思い出したりもしている。
こういう人は碩学とか衒学的とかいうよりブッキッシュといったほうがいいのかな。
●澁澤龍彦
ヴィクトル・I・ストイキツァ『幻視絵画の詩学』、澁澤龍彦+巖谷國士『裸婦の中の裸婦』
澁澤龍彦『高丘親王航海記』