千駄木のブーザンゴで「フェルナンド・ペソアを語る夜」(澤田直さん、山本貴光さん)(2023/10/22)。
ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアはすこし読んだのみだけれど、自分自身へのうたがいをやさしくエモーショナルなことばにしていて、すっと入ってくるところが好きだ。永遠に足場を信じられない者はたぶんペソアの詩を愛する。ふたりの話から、そのうたがいは、ひとりにひとつのアイデンティティがあるという前提を問いなおしているからでもあるのだと気づかされた。澤田さんは、アイデンティティとはその人固有の魂を想定するキリスト教的なものでもあるという。そして、ペソアにとってそれは絶対的ではない。
「もうずいぶんまえから、私は私ではない。」
ペソアは70もの異名を持ち、別人格でことばを発する人だった。かれが南アフリカで英語を学び、その時点で故郷も母語も明確でなかったことと無関係ではない。ポルトガル語のサウダーデ、郷愁、ペソアはそれを過去の特定の対象のみにではなく、複数の想像上の存在、それから未来のなにものかにも向けていた。