Sightsong

自縄自縛日記

ポール・オースターの『ガラスの街』新訳

2007-09-15 22:46:08 | 北米

雑誌『Coyote』(No.21、スイッチ・パブリッシング)が、ポール・オースターの特集を組んでいる。目玉は『ガラスの街』(City of Glass)の柴田元幸による新訳である。

この、オースター初期の小説は、もともと別の翻訳者により、『シティ・オブ・グラス』(角川文庫)として出されている。カタカナ題名のダサさはともかく、他書の柴田訳の素晴らしさゆえ、ちょっと残念でもあった。(今回、面倒くさいし、訳を比較するような暗いことはしていない。)

実は、一旦は白水社のシリーズのひとつとして(駆け出し時代の)柴田氏が訳すことになっていたが、その後すぐに先をこされていたことがわかった、という裏話があったらしい。だから、今回の新訳は、訳しかけの原稿用紙を見直すことからはじまったということだ。

オースターの魅力は、明るくても暗くてもこっ恥ずかしいほどのおとぎ話にあると思う。それも、ニューヨークのような大都市という、手のつけようがない混沌に生息する人々を主人公にしている。この作品も、改めて読んでみて面白かった―――「おとぎ話」として形をまとめようとしていることが少し気に入らないが。

『ガラスの街』には、漫画版もある(『シティ・オブ・グラス』デビッド・マッズケリ、講談社)。光と影のコントラストを基調にした作画は、明るくて暗いオースターの作風とマッチしているようで、気にいっている。この作品は、既に映画化された作品(『偶然の音楽』、『スモーク』、『ブルー・イン・ザ・フェイス』、『ルル・オン・ザ・ブリッジ』)よりも、映画の文脈に乗りやすいような気がする―――受けないかもしれないが。

映画といえば、この雑誌で、『The Inner Life of Martin Forest』、それから『最後の物たちの国で』も映画化が進んでいることを知った。映画ばかりではなく、もうオースターは小説も『The Book of Illusions』、『Oracle Night』、『The Brooklyn Follies』、『Travels on the Scriptorium』と発表し続けているらしい。考えると、その前の作品『ティンブクトゥ』が発売されたことをパリのメトロの広告で知り、帰国の飛行機で読み始めたのが99年。そのくらい熱心なファンだったのに、何故かその後ほっといていた。7年も経てば色々発表しているのは当たり前だ。

わりに柴田訳は完成するまでに時間がかかるので、気が向いたら入手しようと思っている。オースターの英語は平易なので、途中でやめるリスクも低い。


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2 コメント

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Unknown (24wacky)
2007-09-16 00:13:29
短編『オーギー・レンのクリスマス・イブ』(でしたっけ?)を訳してみたことがあります。楽しい作業でした。
映画『スモーク』は大好きです。
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Unknown (Sightsong)
2007-09-16 07:32:36
24wackyさん
『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』だったような。『スモーク』の原型ですね。市井のハーヴェイ・カイテルは茶目っ気があっていいですね。
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