Sightsong

自縄自縛日記

オーストラリアのアート(5) パースでウングワレー、ドライスデイル、ボイド、ジュリー・ドーリング

2008-07-02 08:53:02 | オーストラリア

「福田ビジョン」関連で、毎日新聞社『エコノミスト』誌(2008/7/8号:6/30発売)に小文を寄稿しました。(>> リンク

仕事で、パースを数日間再訪した。カンタス航空の直行便は、国際線にしていまどき個人用のスクリーンがないおんぼろ機、おかげで睡眠をとることができた。

便の関係で日曜日の朝に着いてしまい、西オーストラリア美術館(Art Galery of Western Australia)、西オーストラリア博物館(Western Australia Museum)、パース現代美術館(PICA:Perth Institute of Contemporary Arts)を梯子した。

西オーストラリア美術館は作品数が多く、かなり見ごたえがある。キュビストであったグレイス・クロウリーや、デザイン的な抽象画のフランク・ヒンダーの小企画を組んでいたが、ほとんどこちらの感性に触れない。それよりも、先日キャンベラとシドニーで観た、アーサー・ボイドラッセル・ドライスデイルの数点ずつ展示してあった作品が良かった。

ボイドの作品は、ここでも終末世界的。川の上に森林が描いてある作品では、ユーカリの木々の幹がぎらぎらと白く、その中に何羽もの烏がいる。また、兎の巣を描いた作品でも、他の画家の手になったならば牧歌的であったに違いない世界が、そこかしこに地霊がいるような怖いものと化していた。

ドライスデイルは、一貫して、赤く黄色い大地のうえの生命を描いている。ここで観たのは、『門番の妻』、それから題名は忘れたが、男達が蜥蜴を捕まえてぶらぶらさせている絵だ。荒涼とした中に、粉を吹いたような家や、電信柱や、杭や、塀なんかがある。そこにいる人々は蜥蜴と同じように生命に他ならない説得力がある。


『門番の妻』

嬉しかったのは、エミリー・ウングワレーの作品を3点見つけたことだ。黒い大地に白い脈、ヤムイモでもあるようだ(『アーラタイト・ドリーミング』)。またしばらく凝視してしまう、野草の小さな痕跡を集めた『夏に野草を乾かす』。まだウングワレーの東京での展覧会を観ていないが楽しみだ。


『夏に野草を乾かす』

ボイドの作品集が欲しいと思い、ミュージアムショップや街の本屋何軒かで探したが、分厚い伝記しか見つからない。そのかわり、「エリザベス・ブックショップ」という古本屋で、ドライスデイルの古い画集を見つけて入手した。11ドル。シドニーで観た『ソファーラ』も収録されていた。

西オーストラリア博物館では、「Just Add Water」という企画展をやっていた。いかに水の確保に苦しんでいたのか、そしてダムの設置によって水の有無がゼロか1かになって植生が変わってしまったことが示されていた。

パース現代美術館では、3つの企画をまとめていた。1階の「An Ever Expanding Universe」は、こちらの感度が悪いのか、まったく面白くない。当然感想もない。2階の映像コーナーでは、何本もの映像作品が流されていた。適当に座って観ていたが、『Reborn from Outer Space』だったか、タイトルはエド・ウッドの『Plan 9 from Outer Space』を思い出させるもので、中身もやはりどうしようもないオバカ映画。他には船で曳航しながら、ときどき女性が吸血鬼のように葉をむき出すだけの作品とか、気分の余裕がないこともあり途中でやめた。なにをかなしんで、私は異国の地でこんな時間の無駄遣いをしているのか。まだまだ沢山作品があった。

思いがけず最高に良かったのが、同じ2階で上映していた、ジュリー・ドーリングによる『OOTTHEROONGOO(Your Country)』だった。ジュリーの姉妹の解説によると、アボリジニとしての自分のルーツを見に行く旅を記録した素材から成るもののようだ。祖母が、当時の政府の同化政策により、無理やりに両親から引き離されて白人家庭に育ったという。大地、潅木、樹木、道、空、宇宙(本人が撮ったのではないだろうけど)といったものの写真、それからジュリー本人がこちらを見て表情を変え続ける映像が、入れ替わり立ちかわり、3つのスクリーンに映し出される。ジュリーが涙ぐんだり愛嬌ある顔をしたりと、「人の顔」の良さを感じさせるものになっていて、しかも相当センチメンタルで、私はこういうのにかなり弱い。2日後、また観に訪れてしまった。

展覧会歴には、2006年に東京のブリジストン美術館で「プリズム―オーストラリアの現代美術」という展示をやったとある。調べてみると、ジュリー・ドーリングフィオナ・ホールを含めた35人が紹介されている。全然気付いていなかった。今度図録を探してみようとおもう。(>> リンク