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Sightsong

自縄自縛日記

ジャズ的写真集(2) 中平穂積『JAZZ GIANTS 1961-2002』

2008-05-03 23:59:02 | アヴァンギャルド・ジャズ

中平穂積氏といえば、新宿「DIG」「DUG」のマスターにして写真家。いまは別の場所に統合されているが、私がよく行ったのは、新宿三丁目のモアビル4階にあった頃だ。「DUG」のウェブサイト(→リンク)で調べてみると、1987年から2000年の間だったようだ。「DIG」が最初にできたのが1961年、この写真集『JAZZ GIANTS 1961-2002』(東京キララ社・三一書房、2002年)も、そこから始まるということになる。

ここには、あまりにも貴重な記録にちがいない写真が収められている。1961年、アート・ブレイキー初来日。1964年、マイルス・デイヴィス初来日。1966年、ニューポートでのコルトレーン。「DIG」でビリヤードに興じるアンソニー・ブラクストン。晩年の宮沢昭や富樫雅彦。日本でツアーバスに乗るセシル・テイラー。1980年代のメールス・ジャズ・フェスティヴァル。ひょっとしたら、マッコイ・タイナーやスティーヴ・レイシーの演奏時には、私も同じ場に居合わせた可能性もある。

1961年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでは、中平氏は8ミリ(ニコンのスーパー8、コダクローム)でコルトレーンの姿を記録しているが、これが世界唯一のコルトレーンのカラー映像のようだ。70年代に、どこからかききつけたアーチー・シェップに見せるため、新宿二丁目のスナックにフィルムと映写機を持っていったところ、シェップはボロボロと泣いて「涙で何も見えなかったから、もう一度やってくれ」と言ったという、感動してしまうエピソードがある(高平哲郎編『新宿DIGDUG物語』、東京キララ社・三一書房、2004年)。

これでも、中平氏は、バド・パウエルやアルバート・アイラーなどの巨人を撮ることができなかったと悔やんでいるのである。以前、アラーキーの写真展で、膨大な作品群の中に中平氏の姿が記録されているのを見つけたことがある。そのアラーキーは、「中平さんの写真は人に頼まれて撮っていないからいいんですよ」と言っていたらしい。そのとおりに、猛烈なジャズ・ファンの撮った記録だという目でみれば、そのときの興奮や思いを追体験できるような気にさせられる。そういえば、「DUG」の入口脇には、ライヴのスナップ写真がピン止めしてあり、ここに収められている写真のポストカードが売られていたが、いまはどうなのだろう。

日本で撮られた写真が多いから、チック・コリアとヒノテル、スタン・ゲッツと日野元彦などといった国際セッションもある。山下洋輔は、この写真集を評し、「メジャーリーグとの交流試合はジャズではとっくに始まっていたことをあらためて伝える」と書いている(『アサヒカメラ』2003年4月号)。

いちジャズ・ファンとしては、自分もこのように、富樫雅彦、エルヴィン・ジョーンズ、スティーヴ・レイシーなど既に鬼籍に入った偉大な音楽家たちの姿を撮っておくべきだった、などと思ってしまう。


アンソニー・ブラクストン(再来日熱望!)


宮沢昭(結局、直接聴くことができなかった)


ローランド・ハナ 広角の使い方がうまい


スティーヴ・レイシー


山下洋輔絶賛の「Jazz Mobile, Brooklyn」

「DUG」では、いくつも印象的なライヴを聴いた。壁にはマイルス・デイヴィスの直筆の絵が飾ってあった。そしていつも、中平氏は後ろから椅子に乗って写真を撮影していた。たかだか10年か20年か前の話なのに、思い出すとそのころのもろもろの記憶と結びついて身動きが取れなくなってしまうのだった。

ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンやダスコ・ゴイコビッチの初来日時は熱心なファンでとても盛り上がった。リー・コニッツが来たときに、ゲストとして何曲か参加したケイコ・リーをはじめて聴いた。ダニエル・ユメールのシンバルを多用するドラミングには感激した。しかし、カーメン・マクレエが弾き語りをした1973年のライヴCDを聴くと、ここにも居たかったものだなあと思う。


ダスコ・ゴイコビッチ『After Hours』(Enja)


リー・コニッツ『Motion』(Verve)


ヨアヒム・キューン+ダニエル・ユメール+JF.ジェニー・クラーク『Triple Entente』(PolyGram)


カーメン・マクレエ『Live at the DUG』(JVC) 1973年に聴けた人が羨ましい

jazu

これからの備忘録

2008-05-03 10:52:31 | もろもろ

また例によってどれだけ足を運べるかわからないが。

●細江英公『ガウディへの賛歌』 @ときの忘れもの 5/9-17, 20-31 >>リンク >>行けなかった
77-78年、84年のヴィンテージプリント。

●細江英公『胡蝶の夢 舞踏家・大野一雄』 @写大ギャラリー 4/9-6/8 >>リンク
大野一雄は、むかし『天道地道』を観た。色気に期待。

●北井一夫『表現派 ドイツ』 @ギャラリー冬青 7月 >>リンク
三里塚のあとで当時評判が芳しくなかったそうだが、奇妙な建築の写真群はいいと思う(DVD『北井一夫全集2』に収録されている)。

●森山大道『レトロスペクティヴ1965-2005/ハワイ』 @東京都写真美術館 5/13-6/29 >>リンク >>感想
ハワイの陽射は森山作品では白だが、モノクロプリントでどのように焼いたか。

●土田ヒロミ『土田ヒロミのニッポン』 @銀座ニコンサロン 4/30-5/13 >>リンク >>感想
「俗神」、「砂を数える」など。

●ヴォルフガング・ティルマンス『Lichter』 @ワコウ・ワークス・オブ・アート 4/10-5/24 >>リンク >>行けなかった
ここは随分前のゲルハルト・リヒターから訪れていない。

●リー・フリードランダー『桜狩』 @ラットホール・ギャラリー 4/11-6/1 >>リンク >>行けなかった
「この世のものとは思えない、まばゆいほどの天上の光の下で, 繊細な枝や幹がからみあい、それはまた、淫らですらあった」と語っている。

●姜泰煥×高橋悠治×田中泯 @下北沢アレイホール 5/28 >>リンク >>感想
姜泰煥のアルトサックスは、最近では、以前の循環奏法によるロングトーンと異なってきているようだ。

●池谷薫『蟻の兵隊』 @ポレポレ東中野 5/24-30 >>リンク >>行けなかった
中国山西省の残留日本軍。これまでなかなか観る機会がなかった。

●『8ミリフィルム映画祭 2008春』 @neoneo坐 5/17, 18, 22-25 >>リンク >>行けなかった
生のにじみのような8ミリ。

●坂田雅子『花はどこへ行った』 @岩波ホール 6/14-7/4 >>リンク >>感想
枯葉剤の問題は風化していない。ジャン・ユンカーマンが協力している。

●マーク・フランシス、ニック・フランシス『おいしいコーヒーの真実』 @渋谷アップリンク 5/31- >>リンク >>感想
エチオピアのコーヒー農家の様子、ひいては国際流通構造を垣間見るために。

●我部政男『沖縄近現代史と「本土化」/「国民化」政策』 @早稲田大学琉球・沖縄研究所 5/23 >>リンク >>行けなかった
ことば、教育、イデオロギーなどの側面から注目したい。

●ジョージ・ルイス『A Power Stronger Than Itself: The AACM and American Experimental Music』(University Of Chicago Press) >>リンク >>読書中
フリージャズ、アヴァンギャルドの歴史から外せないシカゴAACMについての690頁の大著。延び延びになっていたが遂に出たようだ。早速注文した。