思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

21世紀の良心・碩学の言語学者・チョムスキーの見方(3月1日)ロシア・ウクライナ問題

2022-04-04 | 社会批評

ノーム・チョムスキー 93歳

21世紀の良心・碩学の言語学者・チョムスキーの見方(3月1日
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アメリカも国際法を踏みにじった。

──ロシアのウクライナ侵攻は、武力による威嚇または行使を禁じた国連憲章2条4項に明確に違反する行為です。ところが、プーチンは侵攻初日の2月24日におこなった国民向けの演説で、ウクライナ侵攻に法的な正当性を与えようとしました。
ロシアは、アメリカとその同盟国が国際法を繰り返し違反してきた証拠としてコソボ、イラク、リビア、シリアの事例を挙げています。プーチンによるウクライナ侵攻の法的な正当性について、そして冷戦後の国際法の地位についてはどうお考えでしょうか? 

 最初の質問については、何も言うことはありません。プーチンが侵略に法的な正当性を与えようとしたところで、意味はありません。
 もちろん、アメリカとその同盟国が国際法を平然と破っていることは事実ですが、だからといってプーチンの犯した罪が軽くなるわけではありません。とはいえコソボ、イラク、リビアの事例と、今回のウクライナ紛争とのあいだには直接の関連があります。

 米軍のイラク侵攻は、ナチスがニュルンベルクで絞首刑になった戦争犯罪と同じで、まったく一方的な侵略でした。そして、ロシアの顔面に一発パンチをお見舞いしたのです。

 コソボ紛争はNATO、つまりはアメリカによる侵攻で、このときは南アフリカの法律家リチャード・ゴールドストーンを議長とする独立国際委員会などが「違法だが正当な攻撃」と判断しました。
 空爆によって進行中だった残虐行為を終わらせたという理由から正当化されたのですが、それは時代を逆行する決定でした。侵攻がおびただしい残虐行為をもたらしたとする証拠のほうが、圧倒的に多かったからです。
 これは予測可能な悲劇であり、実際に予測もされていました。もっと言えば、交渉の余地は残っていたのに、いつものように暴力が優先され、外交的な選択は無視されたのです。

 当時のアメリカ政府高官も、親ロシアのセルビアを空爆したせいで、冷戦後のヨーロッパの安全保障のためにアメリカと落としどころを探っていたロシアの努力がひっくり返されたと認めています。空爆は、セルビア側に事前連絡されずおこなわれました。
 この逆行はイラク侵攻と、リビア空爆でさらに勢いがつきました。リビアについては、国連安保理決議に対して拒否権を発動しないとロシア側の同意をとりつけたにもかかわらず、NATOはあっさり反故にしたのです。

 起きたことには必ず結果が伴いますが、ドクトリン(政策)によってその事実が覆い隠されてしまうことがあります。
 冷戦後の国際法の位置づけは、まったく変わりませんでした。クリントン大統領は、アメリカが国際法を遵守する意思がないとはっきり表明しました。
 彼は自身のドクトリンで「主要な市場、エネルギー供給分野、戦略的資源への無制限のアクセスを確保する」といった重大利益を守るためなら、一方的に軍事力を行使することを含め、アメリカには「一方的に行動する権利」があると宣言したのです。彼の後継者も同じです。いずれも法を踏みにじって平気でいられる人たちばかりでした。

 だからといって、国際法には価値がないと言っているのではありません。国際法が適用可能な範囲というものはやはりあります。ある面においてはすぐれた基準なのです。

アメリカvs.中ロの戦いが始まる?

──ロシアのウクライナ侵攻の目的は、ゼレンスキー政権を倒して親ロシア政権を樹立することにあるようです。しかしどのような展開になっても、ワシントンの地政学的ゲームの駒になると決めたウクライナの前途には茨の道が待ち受けているでしょう。
この点に関して、経済制裁がウクライナに対するロシアの態度を変える可能性はどれぐらいあるでしょうか? また、ロシアへの経済制裁の狙いはもっと大きいところ、たとえばロシア国内でのプーチンの求心力の低下やキューバ、ベネズエラとの関係、さらには中国そのものの弱体化にあるのでしょうか? 

 ウクライナは最も賢明な選択をしたわけではないかもしれませんが、そもそも用意されている選択肢がありませんでした。経済制裁を受けたロシアは、中国への依存度を高めるのではないかと思います。
 よほどのことがない限り、ロシアは依然として化石資源頼みの「泥棒政治国家」です。ロシア側の打つ手がなくなるのか、西側が終わりを迎えるのか。ロシアの金融システムが、経済制裁を含む痛烈な打撃に耐えられるかどうかはわかりません。だからこそ、どんなに不愉快であっても、ロシア側に逃げ道を用意する必要があります。

──西側では政府、イギリス労働党を含む主要野党、そしてマスメディアがこぞって熱烈な反ロシア・キャンペーンを展開しています。その対象はロシアの新興財閥オリガルヒのみならずミュージシャン、指揮者、歌手、さらにはチェルシーFCのオーナー、ロマン・アブラモビッチにまで至り、音楽コンテストの「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」はロシアを締め出しました。
これは、アメリカによるイラク侵攻のときのマスメディアと国際社会の反応と同じですよね。
 
 皮肉な論評ですが、ごもっともです。ここでもまた、私たちは昔ながらの手垢にまみれた手法に甘んじたいのです。

──今回のウクライナ侵攻により、西側諸国とロシア、もしくはロシアと同盟関係にある中国との長きにわたる戦いが始まったのでしょうか? 

 誰の上にその灰が落ちるかわからない──これはメタファーではなく、文字どおりそうなるかもしれません。中国は、現時点では冷静に振る舞っています。ライバルの潰し合いを横目に見ながら、世界の大部分を経済的に統合する「一帯一路構想」を着実に拡張しているのかもしれません。つい最近も、この構想にアルゼンチンを引き入れました。
 先に述べたように、アメリカとロシアが衝突すればそれは人類への死刑宣告となります。この戦いに勝者はいません。私たちはいま、人類史上の重大な岐路に立っています。これは否定も、無視もできない事実です。

From Truthout (US) 
Text by C.J. Polychroniou
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