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雪の女王

2008-12-16 17:02:26 | Weblog

3年ぐらい前にNHKでアニメ「雪の女王」を放送していました。それを観ながら原作であるアンデルセン童話の雪の女王も読んでみようと思ったのですが、いつのまにか月日は流れようやく先月読むことができたのでその感想を書きます。

読んだのは新書館のアンデルセン童話集1「雪の女王」(荒俣宏 訳)です。

アニメや映画などを観た後に、オリジナルの原作を読んでみたくなることはよくあることですよね。NHKアニメの雪の女王は、北欧の厳しくも美しい自然やその中で暮らす人々の情景がよく表現されており、画的にも劇画タッチの静止画で登場人物の感情を切り取るような工夫などがなされていて興味深いものがありました。

それから音楽が千住明、真理子兄妹のオープニング曲と小田和正のエンディング曲ともにまさに雪の女王にピッタリで素晴らしかったです。

ところがこのアニメは全36話の長編で、オリジナルの原作にはないエピソードが大量に挿入されていたのでアンデルセンがこの物語に込めて表したかったものが見えなくなっているように思いました。

そうです。アンデルセンといえば寓意に満ちた物語。雪の女王はなぜカイをさらったのだろう?カイって意思が無いわけじゃないんだけど、なぜか運命にもてあそばれているのは何かを象徴する存在なのだろうか?雪の女王はカイをさらっておきながら、魔王と戦ったりしているけどそもそもいったい何者?

というような疑問が次々に湧き上がってきたので、アンデルセンがストーリーの裏に込めた意図を知りたくなったわけです。でもそのまま何年もほっといたんですが...

雪の女王は「七つの話からできている物語」という副題がつけられています。アニメの36話構成ほどではないですが、複数のエピソードを積み重ねるつくりになっているんですね。

その第2話「男の子と女の子のこと」の中で、おばあさんがゲルダとカイに雪の女王の話しをします。窓の外を舞い散る雪がまるで蜂の群れのように見えるのですが、その群れの中には女王蜂と同じように雪の女王がいるのだと。

昔、人々が自然とより密着して暮らしていた時代は、自然そのものを擬人化して表現することが多かったわけです。北欧や北極圏の極寒の地では、雪や吹雪、氷のような寒さを司る雪の女王という存在や迷信を受け入れることは自然なことなんでしょうね、きっと。

自然は人に大いなる恵みをもたらしてくれますが、時として突如牙をむいて人に襲い掛かったりするわけですから、カイがなぜさらわれたのかという理由は必要なかったですね。

アンデルセンの原作では、ゲルダという女の子は正直で勇気がありそして心の中にやさしい汚れのない気持ちをもった少女として描かれています。だからこそゲルダに出会った人々は彼女に手を貸してあげたくなる。その結果北の果てまでたどり着くことができたんだと。

一方、NHKアニメのゲルダは強い気持ちをもった女の子、信じ続ける強い思いが運命をたぐりよせたという描き方です。

アニメを観ているときは、かわいい顔小さな身体のわりにちょっと精神的に大人びすぎていてアンバランスかなと思いましたが、現代アニメのキャラとしてそのぐらいの強さが必要だったのでしょうね。

さて、問題のカイ。

意思のしっかりとしたゲルダに比べ、カイは悪の象徴であるガラスの破片が目と心臓に刺さって性格が悪くなり、雪の女王にさらわれ、最後はゲルダに助けだされます。何も悪いことはしてないのになぜカイはこんな目に合うのでしょう?

若いとき、若気の至りなどと言いますが、何かに夢中になってしまいがらりと性格が変わってしまうとき、もしくは変わったように見えるときがあります。

はるかに年上の女性が素敵にみえてまわりがまるで見えなくなったり(ぜんぜん良いことですが)。

またあるときは、この一線を越えたら元の道に戻れなくなるというぎりぎりのところまでいったり(超えてしまう人もいますが)。

のちに思い返してみると赤面してしまったり、若かったよななどと思ったりします。

カイに降りかかった出来事は、まさに人が生きていくうえで遭遇する様々な出来事そのものでした。あるときは自然の猛威にさらされ(雪の女王にさらわれ)、またあるときは間が刺し(悪のガラスの破片が目と心臓に刺さった)。

悪い仲間にそそのかされて道を踏み外しかけていた男が、最後は田舎から上京してきた幼馴染に助け出されたといったところでしょうか。

今、本(アンデルセン童話1)をぱらっと開いてみたのですが、ちょうど66ページ。見開きの左側にはゼルダがトナカイにくちづけしている挿絵が載っています。

そして右ページをちょっと読んでみると、「カイって子は、たしかに雪の女王のところにいる。しかもそこで、見るもの聞くものに、すっかり喜んでいる。その子は、そこがこの世でいちばんよいところだと思っている...」

う~ん、まさに若気の至りでまわりが見えなくなっている若者そのものじゃないですか。

アンデルセン童話、やはり寓意に満ち満ちていました。








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