もう1ヶ月以上前なんですが、5月25日にNHKのETV特集で【石ノ森章太郎・サイボーグ009を作った男】という番組を放送していました。
とても興味深い内容だったので『よし、ブログに書こう!』と決めたのですが、私のブログは絵日記です。今度の週末に何か009っぽい画像を作ろうなどと思っているうちに、なかなか時間がなくてあっという間に1ヶ月...
精神科医の名越康文さんがインタビュワーとして、養老孟司(解剖学者)・姜尚中(政治学者)といった方々と対談しながら萬画家・石ノ森章太郎とその代表作であるサイボーグ009の魅力を読み解くという番組でした。
私などが普段想像もしないような視点で語っておられたので、新鮮な驚きと興味を持って見ることが出来ました。
また、サイボーグ009の数あるエピソードの中でも名作と言われる「地下帝国ヨミ編」をこの番組でも取り上げていたので、昔感動したあの物語を久々に思い出しました。
やっぱり傑作ですねえ。特にラストシーンは昔読んだときもジーンときましたが、今回改めて『なんてすばらしいラストシーンだ!』と思います。
美しいんですよね。夜空の流れ星に「世界に戦争がなくなりますように...世界中の人がなかよく平和にくらせますように」と祈る姉弟、そしてその流れ星は009・ジョーと002・ジェットが悪に立ち向かい犠牲となって燃え尽きていく姿であった...
このシーンに限らず石ノ森氏の萬画表現の美しさとか巧みさは、以前から天才的(もちろん天才なのですが)な切れ味をいろいろな作品上でしばしば感じさせてくれたような気がします。
たとえば主人公の感情・気持ちを顔の表情だけでなく、小道具や自然(植物や天気など)、さらに土地の風物などの比喩で表現したり、時間の経過を同じく自然などを描写することで美しく巧みに描いたシーンに唸らされたりしたものです。
あの漫画の神様・手塚治虫が石ノ森の才能に嫉妬した(ジュンという石ノ森のファンタジー作品を手塚が否定的に批評したという件)というくらいですから、当人にとってはさほど難しいことをしている意識はなかったのでしょうけど。
実はこの番組でちょっと驚かされたことがあります。単に私が知らなかっただけで、もしかしたら石ノ森ファンの間では有名なことだったのかもしれませんが。
それは石ノ森章太郎が本当は小説家か映画監督になりたかったという事実です。
しかも漫画家という職業が一生を懸けるに値する仕事ではないのではと考え悩んでいたとのこと。
この事実には驚かされました。『あの石ノ森章太郎がそんなことを考えていたとは!』と思いました。
石ノ森章太郎という人は、私の中では「漫画を描くために生まれてきた人」というイメージだったからです。
なにしろ少年漫画~少女漫画~成人モノ、そしてお得意のSF~時代劇~ギャグにいたるまでまでありとあらゆるジャンルで描きまくり、その結果【石ノ森章太郎萬画大全集】は500巻770作品にまでおよびギネスブックに認定されているわけですから。
その漫画の申し子がそのような悩みを懐いていたとは思いませんでした。
ただしその当時(石ノ森氏が若かりしころ、たとえばトキワ荘時代)の社会的背景を考えると、理解できるような気もします。なにしろ今でこそ漫画・アニメは日本が世界に誇るべき文化にまでなりましたが、その当時はまだまだ一般的な職業としては認知されていなかったでしょうから。
でもその事実を知ると、先ほど書いた彼の美しい比喩的表現・文学的表現は合点がいきます。
本当は書きたかった小説や撮りたかった映画というメディアの手法を漫画で表現していた...まだまだ社会的には低く見られていた漫画という表現手段を「本当はここまで表現できるすばらしいメディアなんだ!」ともしかしたらうったえていた、もしくは自分自身を納得させていたとさえ思えてきます。
さて、この番組の後半では「天使編・神々との闘い編・2012 009 conclusion GOD'S WAR」というヘビーなテーマの作品に迫っていますが、その感想はまた今度書こうと思います。
神々との闘い編と2012 009 conclusion GOD'S WARは、まだ読んでないので。
※このページを書くにあたり、下記ブログの記事を参考にさせていただきました。おかげ様で忘れかけていた番組内容を鮮明に思い出すことが出来ました。
そこに魂はあるのか?:■ETV特集 『石ノ森章太郎・サイボーグ009を作った男』。深刻な傷が癒えるとき。