つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

骨の首飾りが呼ぶ……

2006-11-13 19:37:41 | ファンタジー(異世界)
さて、五代ゆう株上昇中な第713回は、

タイトル:はじまりの骨の物語
著者:五代ゆう
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H18)

であります。



【ゲルダではなくトラボルタなノッペラ星人】


先週の予告通り、五代ゆうのデビュー作が登場です。
北欧神話をモチーフにした世界を舞台にした長編ファンタジー。
唯一無二の存在に裏切られた女性ゲルダの復讐の旅を描きます。



ゲルダにとって彼は父であり、恋人であり、すべてだった。
たとえ、陰で魔女と呼ばれようと、彼の側にいられればそれで良かった。
彼の名は魔術師アルムリック、ルーンの担い手、昼と夜の主人。

二人は傭兵として、『冬』の討伐に出たゲルトロッド王の遠征軍に参加していた。
『冬』とは、北の国ヨトゥンヘイムを統べる『雪の女王』が送り込んできた魔軍である。
敵は強いが、負けはしない……アルムリックと、彼から『焔の華』の名を授かった自分がいる限り。

戦いが始まり、ゲルダは炎を操って『冬』の魔物を蹴散らしていた。
何度か『冬』との戦いを経験してきたこともあって、遠征軍は魔軍を押していく。
だが、信じられないことが起こった……勝利が見えた瞬間、アルムリックの呪いが味方を襲ったのだ。

兵士がばたばたと倒れる中、辛うじて、ゲルダは生き延びることができた。
アルムリックは北に飛び去り、後には雪と静寂だけが残った。
ゲルダは立ち上がり、北の地目指して歩き出す――裏切り者に復讐するために。



『〈骨牌使い〉の鏡』『ゲド戦記』の影響が色濃く見えましたが、こちらはアンデルセンの『雪の女王』かな?
もっとも、童話のゲルダは小さな少女で、本作のゲルダは大人の女性ですが。
ちなみに、『雪の女王』はインターネット電子図書館『青空文庫』で読むことができます。興味がある方はチェックしてみて下さい。

筋は非常に単純で、上記の粗筋の通り、ゲルダの復讐譚です。
重要キャラクターはゲルダ含めてたった五人。内二人は最終章までほとんど出番なし。
おまけに、旅物語に付きものの各地の細かい描写もありません。大雑把に、北の国と銀世界があるだけです。

これで三百頁以上書いて中だるみしてないってのが凄い。

読み終わった時には、むしろ、短い話だと感じたぐらいでした。
これは、ゲルダというハードボイルドなキャラクターの魅力もあるのですが……やはり彼女と、彼女の変化を描くために用意されたキャラクターとの絡みが秀逸なのが大きいと思います。

自分を守ってくれる存在だったアルムリック、守らなくてはならない存在・ケティル王子、そして、対等に向き合うべき存在・スヴェン。
ゲルダの旅とは三人と関わることであり、節目に配置された彼らとの出会い、別れ、再会によって、物語はプロローグからラストまで綺麗につながっています。
デビュー作でこの構成力は驚異的……さすが、大賞が出ないことで有名な某新人賞で大賞取っちゃっただけのことはあります。

数行前で舞台が薄いようなことを書きましたが、これは、世界観に北欧神話を持ち込むことでがっちりフォローされています。
ゲルダが語る天地創造の物語、作品内に出てくる数々の固有名詞、最終目的地ヨトゥンヘイムに座す雪の女王の正体等々、元ネタを知っていればより楽しめること請け合いです。
反面、北欧神話を知っているとマクロな流れが読めてしまうかも知れませんが、最後の最後は飽くまでゲルダ個人の物語としてケリを付けてくれているので、さして問題はありません。

ど真ん中ストレートのファンタジーです。かなりのオススメ。
二連発で当たりでしたが、次は何を読むべきか……。


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