つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

必要なんだね

2005-12-11 15:13:56 | ファンタジー(現世界)
さて、久々にラノベの第376回は、

タイトル:灼眼のシャナ
著者:高橋弥七郎
出版社:電撃文庫

であります。

主人公である坂井悠二は、高校生になってまだ1ヶ月くらいのころに、何かわけのわからない出来事に巻き込まれ、死んでしまう。
死んでいるはずのもかかわらず、意識もあれば他人からも存在は認知できるのだが、それをひとりの少女があっさりと、冷徹に死を告げる。

ただ存在できているのは、世界の急激な変化を緩和するためだけであって、そのうち消えてしまうことも。

だが、悠二の身体には特別なものが包含されていて、それを敵……少女が狩る相手が狙うことは自明の理。
そのために少女は悠二の側に貼り付き、狩るべき敵を待ち受ける。

……あー、ストーリー紹介するのがバカらしくなってきた。
端的に言えば、12、3歳くらいの少女が、自分の背丈ほどもある刀を操って敵と戦うアクションものの話。
ちっこいけれど、べらぼうに強くて、正直すぎて口が悪くて、冷たい、そんなヒロイン……シャナが悠二と関わることによって、敵を狩るだけに生きてきたいままでの自分から、少しずつ変わっていく、そんな過程も描いた話。

ストーリー紹介するより、こう書いたほうが、だいたい「あぁ……」ってだいたいのストーリーは想像可能だろうと思われる(笑)

最初は悠二が死んでから、ずっと悠二の視点で死を受け入れられない、受け入れようとしたりする姿が描かれ、ライトノベルにしては重い書き出しではあった。
なので、こういうのもありかと思ってたんだけど……。

まったくストーリーとは関係なさそうな着替えのシーンとか、寝姿のシーンとか、あぁ、やっぱりラノベにはこういうところは、まったくストーリーに関係なくても必要なんだなぁと納得(?)
シャナが悠二に惹かれていくところあたりも、取って付けたような感じだし、ジャンル的に必要不可欠の要素だから、とりあえず入れてみました、と言った感じ。

ストーリーも、きちんと破綻なく書いているし、単語をいろいろと作って世界観を出そうとしているが、ただそれだけで特別変わった設定とか、そういうものはない。
まぁ、いまさら100%オリジナリティのある話なんか作れるわけないんだし、ありふれた設定のことを言ってもしょうがないので、ここは仕方がない。

あと文章も、ルビに点を使って表現を強調したり、印象づけたいシーンの表現のときに読点(「、」のこと)で段落を区切ったりしている。
ルビの点は多くてうざったいし、読点で区切るあたりも、さして強調になっていないような気はするし、個人的に文章の作り方としては気に入らないが、ここは特徴ということで気にしないことにする。
それよりも表現力がいいとはお世辞にも言えないので、むしろこちらのほうが減点対象か。

まぁでも、ライトノベルとはこういうものだと言う要素をしっかりと守って作っているとは思うので、そう言う意味ではライトノベル系を狙っている作家志望のひとには参考になるのではないかと思う。



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守城でGO!

2005-12-10 16:56:25 | 時代劇・歴史物
さて、やっぱり読んだことがあったの第375回は、

タイトル:墨攻
著者:酒見賢一
出版社:新潮文庫

であります。

第370回に「後宮小説」があって、その話を相棒としていたときに、そういえば読んだことがあるような……と話していたら、ほんとうに読んだことがあった(笑)

ストーリーは中国の戦国時代、諸子百家が活躍したころの話で、その中でも特異な論理を展開する墨家を題材にしたもの。

墨家は、墨子と呼ばれるひとが創始したものとされ、戦国時代にあって非攻兼愛を説いていた。
ただし、それだけではないところがこの墨家の特異なところ。

非攻を唱えたところで食うか食われるかの世の中。
攻めなくても敵はやってくる。
そこで攻めはしないがおとなしくやられるわけにはいかないので、とにかく守る。
守るために戦う、そんな墨家のひとりの守城を描いたもの。

革離と言う墨家集団の中でも有数の実力を持つ守城の専門家は、求めに応じて梁という小国の城へ赴く。
梁へと攻めてくる趙の軍勢から国を防衛するために。

梁の国民全員を動員し、城の防備を固め、規律でもって民を統率し、次々と趙の攻撃を防いでいく革離。
だが、趙の最後の総攻撃のとき、城主の息子の矢を受け革離は死に、そして梁は趙に滅ぼされてしまうところで終わる。

構成はしっかりしていると思う。
革離が城主の息子に殺されるところの伏線も、わかりやすいっちゃぁわかりやすいけど、まぁきっちりと書けていると思う。

140ページあまりの中編で、ページ数は多くないけど、当時の攻城兵器などの解説もしっかりしているし、丁寧。
文章も平易だし、戦闘シーンとかの描写もわかりやすい。

でも、どうなんかなぁ。
相棒と話してたときには「歴史書」みたいなことを言ってたけど、小説と言うよりほんとうに歴史書って感じ。

墨家集団とはこういうもので、その中のひとりの革離と言う人物がどういうことをして、どう死んだか。
そんなことを淡々と綴ったものだからだろうかねぇ。
文章も、「システム」とか、現代語が散りばめられているから、そういう時代の小説という感じがしない。
また、文中で著者の解説みたいなのが入ったりするところも、それを助長している。

まぁでも、墨子という思想がどういうもので、どういう活動をしていたのか、と言うのの表面を知るには、いいのかもしれない。
いきなり墨子そのものを読むより、いちおう物語だから読みやすいし。

……ってそいや、私が墨子をまともに読んだことがなかったかも……(爆)
読んでみようっと。

納得

2005-12-09 21:37:00 | ミステリ
さて、どこかの伝奇小説みたいにシリーズっぽくなってるなの第374回は、

タイトル:魔法飛行
著者:加納朋子
出版社:東京創元社 創元推理文庫

であります。

何が納得って、「ななつのこ」のときにコメントを入れてくれたにゅきみさんの言葉。
確かに、「ななつのこ」とこれを先に読んだら、微妙な感じになりそう。

さて、シリーズ名はないけれど、「ななつのこ」の続編のような位置づけで、主人公は駒子。
前作は、同名の本の著者である佐伯綾乃という作家との文通、と言う構成を取っていて、日常の中の小さな謎を佐伯綾乃が手紙の中で解き明かすものだった。

基本的なところに変化はない。
短編連作のところもね。
前作は駒子が「ななつのこ」を読んで手紙を書いたのが発端だった。
でも、今回はこの佐伯綾乃(=?)の勧めで物語(と言っても日常のミステリを物語にしたもの)に対して、佐伯綾乃が感想を書く、と言うスタイル。

また、ひとつの物語の合間に不可解な、駒子に宛てた手紙が挿入されている。

キャラは駒子を含めて「ななつのこ」と基本的に一緒。
ひとり駒子が所属している部の友達が増えている。

話は4話で、それぞれ、

「秋、りん・りん・りん」
大学で出会ったきついけれど、どこか惹かれる女性との関わりを描いた話。

「クロス・ロード」
交通事故で死んだ少年の幽霊にまつわる話。

「魔法飛行」
新キャラの友達と学園祭舞台にした、そしてちょっと恋愛テイストの入った話。

「エンデバー」
ここまでの3話と間に挟まっている手紙の謎を、佐伯綾乃とともに解決する話。

となんか紹介になってない気がするけれど、書きすぎるとネタバレになりそーだしなぁ(^^;
ミステリにネタバレはやっぱあかんだろうから、これで紹介は勘弁してもらおう。

さて、納得の理由はと言うと、前作よりもミステリ色やドラマ性が強くなっていること。
確かに、相変わらずのキャラたちでほんわりとした、いい雰囲気はあるのだけど、ストーリーがやや重くなっている。
間に挟まれる謎の手紙や各話に散りばめられた伏線、すとんと落ちてくれるラストなど、「ななつのこ」「ささら さや」と読んできて、これがいちばん構成がしっかりしていると思う。

だからかな、「ささら さや」のような心地よいほどの雰囲気が薄まってしまって、やや物足りないところがある。
ストーリー的にはいちばんうまく作られているんだけどねぇ。

それにしても、3冊読んでみて思ったのが、このひとの文章はかなり好きかも。
一人称となると、どうしてもひとりの視点からではあり得ない視点からの描写があったり、逆にそれに拘りすぎると描写が乏しくなる欠点がある。
そういうところが気になったりするんだけど、このひとのはそのバランスがとてもいい。
心理描写と情景描写、駒子らしい考え方や言葉などもそう。

だからだろうけど、とても読みやすい。
一度たりとも引っかかることなく、するするするする入ってきて、頭の中のキャラの動きも滞ることがない。
文章的には平凡なのかもしれないけど、この流れのよさは特筆に値すると思う。

もちろん、ラノベ的な軽さで読みやすいのではない。

これまでの3作、それなりにどうかと思うところはあるけれど、やはりオススメできる作品。
なので、また次の「掌の中の小鳥」買っちまったよ(笑)

そいや何日か前に越えたなぁ

2005-12-08 22:06:40 | 木曜漫画劇場(紅組)
さて、ある意味、計算した……わけではないの第373回は、

タイトル:365日の恋人
著者:日高万里
出版社:白泉社 花とゆめコミックス

であります。

鈴:……LINNで~す。

扇:おい、何か言えよ。

鈴:何か。
……って、名乗れよ!

扇:つっかさぁ……もう既に木曜劇場37回目なのよね。
お定まりのイントロとか、自己紹介なんかなくたってええじゃないかみたいな気分でさぁ。
常春の国マ○ネラだってパターン破りで生き残ってるわけだし、そろそろ何か変化をだねぇ。

鈴:1年の3分の2はやってんのか、こんなこと!
変化? じゅーぶんヘンだと思うぞ、この木曜劇場!(笑)
ヘンに変化を入れてもヘンにしかならんぞ、ゼッタイ!

扇:どこの標語だよ、それ。
まー、君に変化を任したところでロクなことにはならないんだけどね。
そもそもクソ面倒臭ぇ目録作りだって100%俺一人で……。(以下略)

鈴:マリ○ラの標語だ!
まー、目録はね。書き出しっぺが責任持ってやってくれろ(笑)
つか、最初追加しようとして見たとき、「あ、無理」って投げたけど。

扇:素敵に友情を感じる発言ありがとう。(怒)
というわけでもっかい最初からだっ! はい、挨拶!!!

鈴:SENで~す。(爆)

扇:死ね! そのまま死ね!

鈴:返り討ちにしてくれるわっ!!!!!!!!

扇:というわけで、本物のSENです。
最近、コンビ解消する連中って多いよねとか思ってます。

鈴:解消したところで何も変わらんような気がせんでもないが……。
ともあれ、木曜劇場的に珍しい短編集であります。
いまでこそ、このマンガ家さんの作品では「秋吉家シリーズ」と銘打たれているものですが、そのシリーズのいちばん最初の単行本であります。

扇:上から順に――
身長179cmでヤクザのような性格の長女・万葉。
元ヤンでその後童話作家に転身する長男・千鶴。
一家で最もブリザードな発言の多い次女・百華。
普通の女の子で一久へのツッコミ役、三女・十波。
学校では格好付け男、家ではボケ役、次男・一久。
一家のアイドル、千鶴の色小姓、三男・零ちゃん。
ちなみに両親共に健在ですが出番皆無です……特に母親。

鈴:そーねー、ホントに母親薄いわなぁ。
にしても、独立して話になった連中以外は、母親までとは言わないが、影薄いよな。
な、十波、一久(笑)

扇:言うてやるな……この六姉弟、実は皆同じキャラだったりするんだから……書いたら書いたで、確か誰かの話でも同じパターンなかった? ってことになるし。(爆)
とりあえずキャラの話は俺がしたから、各編の解説をやってもらおうか。

鈴:では、最初の「君をのせて」
き~み~をのせて♪ って歌いたくなってくるな(笑)
さておき、えーっと、いろいろと画策しつつも失恋する一久の話。

扇:だからなんでどっかの飛行石話だっ!
つーか、終わるなっ!

鈴:いや、だってそれしかないじゃん。いちおう、最後の最後で一久にも彼女ができるぞーーーー! みたいな感じではあったけど、やっぱ一久はこうでないとね(笑)
さて、次は「365日の恋人」で十波のお話。
嘘の恋人役をやっていたのに、結局相手の男に惚れてしまってハッピーエンドというお話。
これを最後に、十波は脇役に転ずる。南無~(爆)

扇:彼は幸せになっちゃ駄目なんだよ、若いから。(笑)
……確かに真面目な解説なんだが、情緒もヘッタクレもねぇな。
しかも表紙に出てくる十波の彼氏って、グラフィックがまんま万葉ですからっ、残念!

鈴:年食っても一久は、いじられそうだよねぇ。つか、いじられてないと一久ではないが(笑)
……にしても、とうとうきみも残念を使ってしまったか……。
まー、いーや、とりあえず次に行くべ。
「LESSON」「スローステップ」。ともに、秋吉家のマスコット兼アイドルの末っ子の零ちゃんの中学校時代のお話。
おなじバレー部(踊るほうではない)の女の子、美夏との甘酸っぱくて不器用な恋愛を描いた話。
……書いててさぶいぼ立ってきた……(爆)

扇:この家族の十年後って想像できないよなぁ……みんな同じになってそうで。
つかこの一家、甘酸っぱくて不器用な恋愛以外してないだろ。
まー、若いからいいんだけど、一久以外全員相思相愛ってパターンはどうにかならんか?

鈴:つか、V.B.ローズの零ちゃん、いったい誰だ、おまえってくらいおんなじやし。
一久以外って、いちおう、話の端々に一久も相思相愛な感じがべろべろに出てるんだが(笑)
さてと、では、次、「ひだまりの楽園」と「ふたり」というタイトル。
「ひだまり~」はごくごくふつーの秋吉家とは関係のない恋愛もの、「ふたり」は両親に先立たれた姉弟のお話。
……一言、印象薄っ。

扇:一応、「ひだまりの楽園」の女教師が十波です(嘘)。
「ふたり」の方はね、いわゆる普通のお姉ーちゃんが弟育てました物、以上になってないんだよなぁ……これで近親相姦までいってたら、それなりにヒネリはあるんだが。

鈴:まぁなぁ。でも、こういうふつうの話のほうが、ひねりがないぶん、ふつーに読める気はせんでもないが(爆)
……と、とりあえず、全話解説したか……。

扇:したんじゃない?(他人事)

錫:じゃぁ、全部解説したことだし、終わっとくか。
なんか、最初だけで気合いを使い果たした気がせんでもないけど、ではこの辺で、今回の木曜劇場は閉幕でございます。
ではでは、さよ~なら~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪

銭:さわやかに名前を変えて終わるなっ!

サリー・マイ・ラブ

2005-12-07 17:03:48 | SF(海外)
さて、SFのカテゴリーが増えてないので持ってきた第372回は、

タイトル:サリーはわが恋人
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

巨匠アシモフの短編集。
表題作を含む十五編を収録。
作品数が多いので、さらっと解説するに留めます……多分。(笑)

『正義の名のもとに』……動機ただしければ過つことなし、この言葉に集約される物語(もちろんこんな言葉は虚構に過ぎないが)。一人の理想主義者と一人の現実主義者が直面した国家紛争の話だが、アシモフ自身が書いているように、この中に存在する哲学はあまり好ましい物ではない。ただ、二人の会話はなかなか味があって好きだ。

『もし万一……』……本巻のみならず、私の知っているアシモフの短編の中でベスト1の逸品(『夜来たる』、『ホステス』よりも好きだ)。ロマンス不得手を自認するアシモフがラブコメに挑戦しているのも興味深いが、不思議な光景を見せてくれる万一さん(笑)のキャラクターのおかげでファンタジーの色彩も濃く、色んな意味で型破りな作品である。主人公の若夫婦が結婚五周年記念旅行に出かけるというシチュエーションも上手くはまっており、可愛らしいお話に仕上がっている。

『サリーはわが恋人』……フランケンシュタイン・コンプレックス(いわゆる機械達の反乱)を嫌うアシモフだが、極めて高度な陽電子頭脳に極めて高度な情報処理能力を持たせた場合、似たような現象が起こる可能性は常に追求していたと思う。ただし、この短編のサリーは明確にロボット三原則に反している――というか彼女は既にロボットではない、と思うのだがどうだろうか? どちらにせよ、この作品はあまり好きではない。

『蠅』……生命に共通するものとは何か? こう言うと大上段に構えてしまうそうになるが、極めてさらっとした答えがここでは示されている。ただ、三人の会話で展開されるこの話自体はあまり面白くない。

『ここにいるのは――』……なんと、またもロマンス(笑)。ワンアイディアものなので言及は避けるが、ラスでちょっとくすっとなってしまう。作者はこの話の主人公があまり好きではないみたいなことを書いているが、実はその間抜けっぷりを愛しているのではないかと思ったりもする。軽く読める、割と楽しい話。

『こんなにいい日なんだから』……どこでもドアが存在したら? という実験。これ、携帯電話や車に置き換えても話が成立するかも知れない。タイトルが秀逸で、作品をそのまま表現している。

『スト破り』……えげつない話。ごく少数の人間に汚れ仕事を押しつけておきながら、それに対して一片の敬意も払わないエゴイスト達の姿が描かれている。ただし、それは我々と無関係ではない。傑作かどうかはともかく、いい作品だと思う。

『つまみAを穴Bにさしこむこと』……即興で書かれたショートショート。らしいオチが付いており、笑える。

『当世風の魔法使い』……恋情触発大脳皮質因子、要するに惚れ薬を巡るドタバタ喜劇。この手の話は、極めて真面目な人が笑えない状況に陥るのが楽しいのだが、これもその部類に入る。オチの一文がなかなか強烈。(笑)

『4代先までも』……洗礼物語? なぜかレフコヴィッチという名前を探し求める男の話。かなーり、イマイチ。というか、無神論者にはピンとこないかも。

『この愛と呼ばれるものはなにか』……異種族の生態系というものは非常に興味深いが、異星人が人間に対して同様の興味を抱いたら? という実験。もっとも話自体はそんな堅苦しいものではなく、純然たるコメディとなっている。最後の部分を付け加えたという美人編集者に喝采を送りたい、いいオチである。

『戦争に勝った機械』……これまた駄洒落のような話。戦争を勝利に導いたマルチバックと呼ばれるコンピューターの話なのだが、その使用過程には色々と問題があって――ラスはそれかい! といったところに落ち着く。こういう話は大好き。

『息子は物理学者』……おばーちゃんの知恵袋的なお話。どこかミス・マープルを思わせるクレモナ夫人もいいが、ちゃんとその言葉に耳を傾ける息子も良い子だ。問題に対して、機械のスペック向上だけで対処しようとする人々の混乱も現代に通じるものがある。

『目は見るばかりが能じゃない』……かなり抽象的な内容で、ちょっとイマイチだった。ショートショートなので敢えて書かないけど。

『人種差別主義者』……これも短い。オチは好きだが、特にこれといった強烈な印象はない。

『夜来たる』ほどの完成度の高さはありませんが、ユーモア色の強いバラエティに富んだ短編集です。
個人的には『もし万一……』があるだけでオススメを付けたいけど、一番のウリはアシモフのお喋りが十五個も読めることかも知れない。(笑)



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静かに熱い女達

2005-12-06 20:20:25 | マンガ(少年漫画)
さて、珍しくまだ連載中の漫画な第371回は、

タイトル:CLAYMORE――クレイモア(1~9巻:以下続刊)
著者:八木教広
文庫名:ジャンプコミックス

であります。

『エンジェル伝説』で知られる八木教広が描くバトル・ファンタジー。
学園物だった前作から180度方向転換した本作ですが……さて。



それは、人に化ける妖魔が跳梁する世界の物語……。
妖魔は個体数こそ少ないが、人間を喰らい、糧とする術を知っている。
臓物を食い荒らされた死体が発見された時、町は死の恐怖に怯えることになる。

長きに渡る研究の結果、人類は彼らに対抗する術を得た。
自らの肉体に妖魔の血肉を取り込み、半人半妖となる技術である。
常人を遥かに超える力を得た者達は、妖魔狩り専門の組織を結成した。

奇妙なことに半人半妖の身体を手に入れることができたのはすべて女性だった。
妖魔の正体を暴く銀の瞳と、強靱な肉体を一撃で破壊する巨大な剣を持つ女達。
人は恐怖と嫌悪をこめて彼女達を呼ぶ――銀眼の魔女・クレイモアと。



正直、出だしはイマイチでした。
半人であるが故に迫害を受ける、半人だから異種族に対抗できるといった王道中の王道の設定を使っているだけで、独自のラインが全く見えなかったのです。
妖魔に家族を殺された少年を連れて行く、過去のトラウマから主人公は少年に情を移すようになる……といったストーリーもはっきり言ってありがち。

しかし、本作は途中から変わった展開を見せ始めます――。
主人公クレアはクレイモア組織の一員でありながら、個人的な復讐心で動いてる部分があるため、他のメンバーから狙われることになります。
そう……このテのバトル漫画が面白くなるには敵対勢力の幹部クラスを出すのが基本なのですが、それを味方組織に持ってきたのです。

おまけにクレアの階級ナンバーは最下級の47!
組織の上位ナンバーは揃いも揃って化物な方々ばかり、さらに覚醒者と呼ばれるクレイモアが妖魔化した強力な者達とも事を構えることになり、もう大変。
さらにさらに、クレア自身もそれらとの戦いの中で限界を越えてしまうと、自分が覚醒してしまってジ・エンドというタイトロープ状態。

クレアが勝てる要素は今のところゼロです、他が強すぎ。
ただ、そんな中でも彼女に協力してくれる人々がぽつりぽつりと現れます……もっとも、この世界でそういう人って早死にしそうだけど。
思えば、前作エンジェル伝説の主人公・北野君も逆境、逆境、逆境の中で、少しずつ周囲の人々の理解を得て前進していくタイプの主人公でした。

まだ連載中なのでラスまで保証できませんが、今のとこオススメ。
絵がちょっと人を選ぶところはありますが、慣れれば問題ない……筈。
まー、私は組織のナンバー3であるガラテア様命なので、他の顔がちょっと崩れてても気にしません。
再会した時は覚醒者になってるっぽいが……。

後宮へGO!

2005-12-05 23:27:33 | ファンタジー(異世界)
さて、第404回あたりになんか記念しようかと思う第370回は、

タイトル:後宮小説
著者:酒見賢一
出版社:新潮社

であります。

知る人ぞ知る中国風アニメーション『雲のように 風のように』の原作。
アニメの方は悲恋物といった風情でしたが、こちらは……。

腹英三十四年、帝王が崩御し弱冠十七歳の太子が王位を継ぐことになった。
彼のために宦官達は新たな後宮作りを始め、各地から多くの女性を集める。
後に正妃となる少女・銀河は、後宮の実態を知らぬままそれに志願した。

女大学と呼ばれる教育機関で房中術を学びつつ、後宮入りを待つ宮女候補達。
幸運にも、銀河と相部屋の仲間達は最終試験まで残ることができた。
新帝に選ばれ、正妃となる銀河……しかし、帝国は危機を迎えつつあった。

歴史書を元にした物語という体裁を取ったファンタジーです。
実は本文で紹介されている国や史書はすべて存在しない(!)のですが、見せ方が非常に上手いので本当に中国史を学んでいるような気分になります。
架空の歴史家によるこの物語の時代の評や、ところどころに出てくる豊富な知識、後宮独特の風習などなど、現実の歴史物語より凝っています。

上の粗筋には書きませんでしたが、この話には二人の主人公がいます。
一人はもちろん銀河、もう一人は……反乱軍の首魁の一人・渾沌です。
アニメでは銀河とロマンスを展開した新帝陛下ですが、こちらではほぼ脇役。

性別も年齢も立場も違うのに、銀河と渾沌は非常によく似ています。
銀河は市井の娘であり、当然、後宮の作法や常識などまったく知りません……しかも正妃になってもそれは変わらず、自由奔放な行動を続ける。
渾沌は退屈を紛らわすために反乱を起こしたというとんでもない男……しかも最初から王朝を滅ぼす気などなく、勝てないと解ったらあっさり降伏したりします。

感覚を最優先し、周囲の理解を超える行動を取るトラブルメーカーが主役を張るのは王道中の王道ですが、それが二人も出てくる作品というのは珍しい。
当然の如く、物語はこの二人が出会うところで最大のハイライトを迎えます……しかもかなり納得のいく形で――上手い。

ファンタジー好きのみならず、歴史好きにもオススメ。
漢字が多いので、そこが苦手な人は辛いかも知れませんが。
アニメ版も綺麗な話だったけど、個人的にはこっちの方が好き。

思いっきり少年マンガだよな

2005-12-04 13:59:40 | マンガ(少女漫画)
さて、何事もなく1年を経過してしまったの第369回は、

タイトル:カルラ舞う!(文庫版:第1巻~4巻以下続刊)
著者:永久保貴一
出版社:秋田文庫

であります。

ホラーオカルトものの「やじきた学園道中記」(笑)
いや、ホントにそのまんまだし~。

とは言え、前からどんなもんかと興味はあったので、文庫版が出たのを機に買ってみた。

主人公は迦楼羅神教の家系に生まれた双子の高校生、扇舞子、翔子。
合気道を習い、運動神経は抜群で、戦闘シーンでは攻撃を受け持つ肉体労働担当の舞子。
成績は学年トップクラスで霊視の能力はあるが運動神経は皆無の頭脳労働担当の翔子。
ふたりで一人前の双子が繰り広げるオカルト・アクションマンガ……なんだけど、これ、ホラー系の少女マンガ雑誌がもともとなんだよねぇ。

しかし、さすがに書いてるのが男性だけあって、まんま少年マンガ(笑)

文庫版の1巻は「奈良怨霊絵巻」という副題がついていて、奈良の朱雀門の改修工事を利用して呪術を行おうとする敵と戦う話なんだけど、ラストのあたりなんかジャンル間違えてるぞと思えるくらいだしなぁ。

それに、えらい解説文多いから読むのがめんどい。
まぁ、いちいち読まないけど(笑)

あと、双子が毎回観光名所を回って、その土地土地の観光名所なんかがさりげなく……とは思えないほど堂々と出てるのもなんだかなぁ。
どっかの観光協会の回し者か? と思われるぞ、絶対(笑)

まぁでも、ストーリーはほんとうに少年マンガのノリで戦ってナンボ、ってところがあるから、小難しいことを考えずに楽しめるものではある。
双子とともに主役格の呪術師とか、まぁ、キャラ構成も定番だし、まだ文庫版は4巻までしか出てないので、手に取るにはちょうどいいかもしれない。



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まったりといきましょう

2005-12-03 16:07:03 | 小説全般
さて、実は今日で365日目の第368回は、

タイトル:青空感傷ツアー
著者:柴崎友香
出版社:河出文庫

であります。

すごい美人でスタイルもよくてわがままな年下の女友達の音生(ねお)と、そんな音生に振り回される私……芽衣(めい)の、まるで一貫性のない、だらだらとした旅の話。

久しぶりに音生に出会った芽衣は、早速そのわがままぶりに引きずられ、大阪へ。
3年務めた会社を辞めたこともあり、これまた音生の1ヶ月くらい遊び倒そうと言う言葉に、次にトルコへ旅行に向かう。
日本に戻ってきたかと思えば、芽衣が大学時代にふられた後輩の親戚が経営している徳島の旅館へ。
そして最後に石垣島へ。

何ともまったりと、力の抜ける雰囲気の作品だねぇ。
帯にある「恋をめぐる女ふたりのなりゆき感傷旅行」というのに嘘はないけれど、ちょろっとくすっ、ちょろっとさびしい、ちょろっと切ない微妙な感じがある。

感傷ツアーってことで、何か悲恋ものとか、重い話を想像するとそういうところはあんまりなくて拍子抜けするかもしれない。
大学時代にふられた後輩の親戚が経営する旅館に長逗留するところも、当然その後輩が出てくるけれど、ここでも恋愛小説と言うほどの話はない。
まぁ、この微妙なところが芽衣と言うキャラクターの味にもなっているとは思うのでいいのだが。

音生もわがまま三昧の鼻につくキャラではなく、しっかりと地に足のついたキャラになっていておもしろい。

まぁ、裏表紙の抱腹絶倒という文句はどうかとは思うけれど、あっさりと読めるし、重くなりすぎない「感傷」の雰囲気もいい味になっていると思う。
格別おもしろいと言うわけではないけれど、いろんな本を読んで、息抜きにぴったりなものかもしれない。

王子様でGO!

2005-12-02 00:22:35 | 恋愛小説
さて、久々にGOシリーズ(?)復活の第367回は、

タイトル:雪の断章
著者:佐々木丸美
出版社:講談社文庫

であります。

いやぁ、解説の文章丸々ここに書き写してやろうかと思った(笑)
それくらい解説が、うむうむと納得できるものだったので。

しかし、これ、昭和50年が単行本の初版……と解説に書いてあった。
もしかしたら生まれてないぞ、オレ(笑)
文庫版の初版も昭和58年……いやぁ、近所の公園で友達と遊びほうけてたな……(遠い目)

なんでこんなものがいまごろ、と言うのはいただいたから。
と言うわけで読了したので早速。

舞台は北海道の札幌。
あすなろ学園という孤児院で生活していた主人公の倉折飛鳥は、5歳のとき、公園で迷子になったときにひとりの優しい青年と出会う。
そのときは孤児院まで送ってもらったきりだった。

その後、本岡という家へ引き取られ、衣食住、そして学校へ行くことは出来たが、それ以外は小間使いとして働くようになる。
そこでの境遇や理不尽な仕打ち……2年の様々な出来事を経て、耐えられなくなった飛鳥は本岡家を飛び出してしまう。

孤児故に行くあてもない飛鳥は、迷子になったときに出会った青年に会うことができる公園へ行き、そしてあの青年に再び出会う。
それから青年のアパートへ行き、そしてそこで青年……滝杷祐也(たきえひろや)とともに暮らすようになる。

そこから祐也やその友人の史郎、お手伝いにきているトキさん、姉のような厚子、友達の順子と言ったキャラクターたちを交えて、飛鳥が大学生になったくらいまでを描いている。

その中で飛鳥の過去の傷であり、成長していく中でも大きな位置を占める本岡家の人間が殺されたりと、解説曰く、「推理小説」らしい面も出てくるが、飛鳥の成長過程とそこにある心の変化、そして祐也とのラブストーリーが基本だろうと思う。

文体は飛鳥の一人称。
さすがに中学生になるくらいまでの文章には、それくらいの年齢の子がそんな表現はせんだろ、と言うのがたくさんあって、気にはなったが、気にしないようにしたらぜんぜん平気になった(笑)
くれたひとは文章が独特だからどうかな? みたいなことを言ってくれたけど、ぜんぜんOK。

むしろ文章表現と言う点では、秀逸だと思う。
風景描写と心理描写のかねあいがとても自然で、幻想的ですらある。
物書きとしては、おもしろい文章だと興味深く読めた。
ただし、ラノベみたいな軽いのが好きだと、かなりくどく感じそうではあるけど。

ストーリーの流れもいいし、滞りなく読める。
ただ、一人称だからと言うのもあるのかもしれないが、主人公の飛鳥以外のキャラクターが、主人公の「飛鳥」のための動くパーツのような印象が強い。

解説に、「『雪の断章』の発想の元になっているマルシャークの童話『森は生きている』が、佐々木さんのあらゆる創作姿勢の源になっているようだ。『シンデレラ物語』もそうだが、外国の童話は不幸な境遇に育った孤児の少女が、優しい王子の出現により倖せを掴むと言うパターンのものが多い」とある。
確かに、飛鳥にとって祐也はそう言う存在になっている。

だが、そのぶん飛鳥を語るためのパーツ=人間味の薄いキャラにしか見えない。
もちろん、一人称だからすべてにおいて飛鳥の視点、と言うところもあるのだろうが、飛鳥のキャラクターに比するとほんとうにただの「優しい王子」さまでしかない。
4日間も行方不明になって戻ったあと怒られ、殴られるシーンなどはあるにはあるが、そうしたシーンが「王子」のイメージを払拭するほどの強さを持っていない。

とは言え、他のキャラを差っ引いて考えれば、飛鳥というキャラクターはとてもよく描けているし、描写も申し分ない。
amazonのレビューほど、素晴らしい! とは言わないが、文章表現も含めると軽く及第点は超える作品だと思う。

しかし、ふと思ったんだが、なんで私が「ミステリ・ホラー」のカテゴリーを増やしてるんだろ(爆)
ミステリなんてまったくと言っていいほど読まなかったのに。