さて、SFのカテゴリーが増えてないので持ってきた第372回は、
タイトル:サリーはわが恋人
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫
であります。
巨匠アシモフの短編集。
表題作を含む十五編を収録。
作品数が多いので、さらっと解説するに留めます……多分。(笑)
『正義の名のもとに』……動機ただしければ過つことなし、この言葉に集約される物語(もちろんこんな言葉は虚構に過ぎないが)。一人の理想主義者と一人の現実主義者が直面した国家紛争の話だが、アシモフ自身が書いているように、この中に存在する哲学はあまり好ましい物ではない。ただ、二人の会話はなかなか味があって好きだ。
『もし万一……』……本巻のみならず、私の知っているアシモフの短編の中でベスト1の逸品(『夜来たる』、『ホステス』よりも好きだ)。ロマンス不得手を自認するアシモフがラブコメに挑戦しているのも興味深いが、不思議な光景を見せてくれる万一さん(笑)のキャラクターのおかげでファンタジーの色彩も濃く、色んな意味で型破りな作品である。主人公の若夫婦が結婚五周年記念旅行に出かけるというシチュエーションも上手くはまっており、可愛らしいお話に仕上がっている。
『サリーはわが恋人』……フランケンシュタイン・コンプレックス(いわゆる機械達の反乱)を嫌うアシモフだが、極めて高度な陽電子頭脳に極めて高度な情報処理能力を持たせた場合、似たような現象が起こる可能性は常に追求していたと思う。ただし、この短編のサリーは明確にロボット三原則に反している――というか彼女は既にロボットではない、と思うのだがどうだろうか? どちらにせよ、この作品はあまり好きではない。
『蠅』……生命に共通するものとは何か? こう言うと大上段に構えてしまうそうになるが、極めてさらっとした答えがここでは示されている。ただ、三人の会話で展開されるこの話自体はあまり面白くない。
『ここにいるのは――』……なんと、またもロマンス(笑)。ワンアイディアものなので言及は避けるが、ラスでちょっとくすっとなってしまう。作者はこの話の主人公があまり好きではないみたいなことを書いているが、実はその間抜けっぷりを愛しているのではないかと思ったりもする。軽く読める、割と楽しい話。
『こんなにいい日なんだから』……どこでもドアが存在したら? という実験。これ、携帯電話や車に置き換えても話が成立するかも知れない。タイトルが秀逸で、作品をそのまま表現している。
『スト破り』……えげつない話。ごく少数の人間に汚れ仕事を押しつけておきながら、それに対して一片の敬意も払わないエゴイスト達の姿が描かれている。ただし、それは我々と無関係ではない。傑作かどうかはともかく、いい作品だと思う。
『つまみAを穴Bにさしこむこと』……即興で書かれたショートショート。らしいオチが付いており、笑える。
『当世風の魔法使い』……恋情触発大脳皮質因子、要するに惚れ薬を巡るドタバタ喜劇。この手の話は、極めて真面目な人が笑えない状況に陥るのが楽しいのだが、これもその部類に入る。オチの一文がなかなか強烈。(笑)
『4代先までも』……洗礼物語? なぜかレフコヴィッチという名前を探し求める男の話。かなーり、イマイチ。というか、無神論者にはピンとこないかも。
『この愛と呼ばれるものはなにか』……異種族の生態系というものは非常に興味深いが、異星人が人間に対して同様の興味を抱いたら? という実験。もっとも話自体はそんな堅苦しいものではなく、純然たるコメディとなっている。最後の部分を付け加えたという美人編集者に喝采を送りたい、いいオチである。
『戦争に勝った機械』……これまた駄洒落のような話。戦争を勝利に導いたマルチバックと呼ばれるコンピューターの話なのだが、その使用過程には色々と問題があって――ラスはそれかい! といったところに落ち着く。こういう話は大好き。
『息子は物理学者』……おばーちゃんの知恵袋的なお話。どこかミス・マープルを思わせるクレモナ夫人もいいが、ちゃんとその言葉に耳を傾ける息子も良い子だ。問題に対して、機械のスペック向上だけで対処しようとする人々の混乱も現代に通じるものがある。
『目は見るばかりが能じゃない』……かなり抽象的な内容で、ちょっとイマイチだった。ショートショートなので敢えて書かないけど。
『人種差別主義者』……これも短い。オチは好きだが、特にこれといった強烈な印象はない。
『夜来たる』ほどの完成度の高さはありませんが、ユーモア色の強いバラエティに富んだ短編集です。
個人的には『もし万一……』があるだけでオススメを付けたいけど、一番のウリはアシモフのお喋りが十五個も読めることかも知れない。(笑)
――【つれづれナビ!】――
◆ 『アイザック・アシモフ』のまとめページへ
◇ 『海外作家一覧表』へ
◆ 『つれづれ総合案内所』へ
タイトル:サリーはわが恋人
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫
であります。
巨匠アシモフの短編集。
表題作を含む十五編を収録。
作品数が多いので、さらっと解説するに留めます……多分。(笑)
『正義の名のもとに』……動機ただしければ過つことなし、この言葉に集約される物語(もちろんこんな言葉は虚構に過ぎないが)。一人の理想主義者と一人の現実主義者が直面した国家紛争の話だが、アシモフ自身が書いているように、この中に存在する哲学はあまり好ましい物ではない。ただ、二人の会話はなかなか味があって好きだ。
『もし万一……』……本巻のみならず、私の知っているアシモフの短編の中でベスト1の逸品(『夜来たる』、『ホステス』よりも好きだ)。ロマンス不得手を自認するアシモフがラブコメに挑戦しているのも興味深いが、不思議な光景を見せてくれる万一さん(笑)のキャラクターのおかげでファンタジーの色彩も濃く、色んな意味で型破りな作品である。主人公の若夫婦が結婚五周年記念旅行に出かけるというシチュエーションも上手くはまっており、可愛らしいお話に仕上がっている。
『サリーはわが恋人』……フランケンシュタイン・コンプレックス(いわゆる機械達の反乱)を嫌うアシモフだが、極めて高度な陽電子頭脳に極めて高度な情報処理能力を持たせた場合、似たような現象が起こる可能性は常に追求していたと思う。ただし、この短編のサリーは明確にロボット三原則に反している――というか彼女は既にロボットではない、と思うのだがどうだろうか? どちらにせよ、この作品はあまり好きではない。
『蠅』……生命に共通するものとは何か? こう言うと大上段に構えてしまうそうになるが、極めてさらっとした答えがここでは示されている。ただ、三人の会話で展開されるこの話自体はあまり面白くない。
『ここにいるのは――』……なんと、またもロマンス(笑)。ワンアイディアものなので言及は避けるが、ラスでちょっとくすっとなってしまう。作者はこの話の主人公があまり好きではないみたいなことを書いているが、実はその間抜けっぷりを愛しているのではないかと思ったりもする。軽く読める、割と楽しい話。
『こんなにいい日なんだから』……どこでもドアが存在したら? という実験。これ、携帯電話や車に置き換えても話が成立するかも知れない。タイトルが秀逸で、作品をそのまま表現している。
『スト破り』……えげつない話。ごく少数の人間に汚れ仕事を押しつけておきながら、それに対して一片の敬意も払わないエゴイスト達の姿が描かれている。ただし、それは我々と無関係ではない。傑作かどうかはともかく、いい作品だと思う。
『つまみAを穴Bにさしこむこと』……即興で書かれたショートショート。らしいオチが付いており、笑える。
『当世風の魔法使い』……恋情触発大脳皮質因子、要するに惚れ薬を巡るドタバタ喜劇。この手の話は、極めて真面目な人が笑えない状況に陥るのが楽しいのだが、これもその部類に入る。オチの一文がなかなか強烈。(笑)
『4代先までも』……洗礼物語? なぜかレフコヴィッチという名前を探し求める男の話。かなーり、イマイチ。というか、無神論者にはピンとこないかも。
『この愛と呼ばれるものはなにか』……異種族の生態系というものは非常に興味深いが、異星人が人間に対して同様の興味を抱いたら? という実験。もっとも話自体はそんな堅苦しいものではなく、純然たるコメディとなっている。最後の部分を付け加えたという美人編集者に喝采を送りたい、いいオチである。
『戦争に勝った機械』……これまた駄洒落のような話。戦争を勝利に導いたマルチバックと呼ばれるコンピューターの話なのだが、その使用過程には色々と問題があって――ラスはそれかい! といったところに落ち着く。こういう話は大好き。
『息子は物理学者』……おばーちゃんの知恵袋的なお話。どこかミス・マープルを思わせるクレモナ夫人もいいが、ちゃんとその言葉に耳を傾ける息子も良い子だ。問題に対して、機械のスペック向上だけで対処しようとする人々の混乱も現代に通じるものがある。
『目は見るばかりが能じゃない』……かなり抽象的な内容で、ちょっとイマイチだった。ショートショートなので敢えて書かないけど。
『人種差別主義者』……これも短い。オチは好きだが、特にこれといった強烈な印象はない。
『夜来たる』ほどの完成度の高さはありませんが、ユーモア色の強いバラエティに富んだ短編集です。
個人的には『もし万一……』があるだけでオススメを付けたいけど、一番のウリはアシモフのお喋りが十五個も読めることかも知れない。(笑)
――【つれづれナビ!】――
◆ 『アイザック・アシモフ』のまとめページへ
◇ 『海外作家一覧表』へ
◆ 『つれづれ総合案内所』へ
アシモフ博士の復刻版が少ない気がする…
読みたいぃ…
最近読んだ短編集は「火星人の方法」が超良かったっす
帰ってこないのですかねぇ……。
火星人の方法、持ってた筈なのにどっか消えました。
どこのダンボールの中だろう……?