つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

夜カミング

2005-06-21 23:28:31 | SF(海外)
さて、昔を思い出しつつ記す第203回は、

タイトル:夜来たる
著者:アイザック・アシモフ
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

表題作を含む五編を収録したアシモフの短編集。
読んだのは……わっ、十年以上前だ。
例によって一つずつ感想を書いていきます。


『夜来たる』……六つの太陽に囲まれた惑星ラガッシュに二千年に一度の【夜】が訪れる時が来た。サロ大学学長エイトン七七は、闇が人類の潜在的な恐怖を呼び起こし、世界の終わりを招くことを予見するが――。
SFの古典。登場人物の名前に数字が混じっているのがなかなかユニーク。終末が訪れるまでの時間、エイトン達は【夜】について様々な議論を展開するが、最後の時、予想を超えるそれに驚愕することとなる。彼らにとって【夜】は死と同義であり、結局のところ直面するまでそれを真に理解することはできないのだ。ただ、目の見えない子供としゃべれない子供がハーメルンの笛吹き男の難を逃れたように、この話も盲目の人間は生き延びることが出来たのではないか、と考えるのはちょっと意地悪だろうか(笑)。ちなみに、この短編を元にしたシルヴァーバーグの長編があるらしいがまだ発見していない、残念。

『緑の斑点』……セイブルック星の生命体には奇妙な特徴があった。眼にあたる部分に感覚器官と思われる緑色の絨毛の斑点があるのだ。問題は、動物に限らず、すべての生物に同様の斑点が存在していることだった。完全滅菌を済まし、地球への帰路を急ぐ宇宙船。しかし、ある事実が判明した時、恐怖が一人の学者を襲う――。
単一の生態系を持つ生物と人類のコンタクト話。謎の生物の心理描写と人間の会話が交互に描かれており、二つの生命の思考のギャップが面白い。

『ホステス』……スモレット夫妻の家にホーキンズ星の学者ハーグ・ソーランが宿泊することになった。妻のローズはシアン化物を呼吸するホーキンズ人と直にふれ合う機会を得て瞳を輝かせるが、夫のドレイクはあからさまに難色を示す。しかし、いざソーランがやってきた時、ドレイクは彼の生態に執拗なまでの興味を示した――。
ミステリ仕立ての異星人コンタクト話、ホラーも混じっていてなかなか贅沢。異星人であるソーランを観察するローズが逆に彼から人類の特殊性を指摘され、思考の迷宮に陥っていく展開は秀逸。ソーランの目的、ドレイクの目的が明かされていくプロセスも上手くまとまっていて、この短編集で一番読み応えがある。イチオシ。

『人間培養中』……原子力研究者の一人、ラルソンが自殺をはかった。警察、同じ学者筋の者達が彼から自殺の理由を聞き出そうとするが、彼は頑なに自らが死ななくてはならないのだと主張する。しかし、一人の医師と対面した時、ラルソンは恐るべき理論を展開し始めた――。
語りたいことはいくつかあるが、簡単にネタが割れてしまうので自粛。ちょっと地味で、いまいち乗れなかった。ラルソンの恐怖は解るが、ホラーとしてはちと冗長な感じ。

『C-シュート』……地球人の商船がクロロ人の軽巡洋艦に攻撃された。生き残ったのは僅かに七人。捕虜となった彼らはいがみ合いつつも助かる方法を模索するが――。
入れ替わり立ち替わり視点が変化し、七人の性格が浮き彫りになっていく密室心理劇。退役軍人、皮肉屋、臆病者、復讐者、現実主義者など、キャラクターも多彩。最もクールで計算高く見えつつも、実は感情を自制しているマリンのキャラクターが良い。


以上、非常に中身の濃い短編集です。
人間培養中は私的にはイマイチでしたが、他はかなりの当たり。
アシモフ好きなら間違いなくオススメ、未読の方の入門書としても最適。



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アジモフ × シルヴァーバーグ (にゅきみ)
2005-06-22 22:05:02
と言えばアンドリューNDR114もそうですよね。

というか「夜来たる」見つから無いんですよ…

昔はあんなに山積だったのに…(いつの話だ)
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長編化っ。 (SEN)
2005-06-22 22:49:31
元ネタが『バイセンテニアル・マン』の奴ですね、残念ながらそちらも未発見です~。



『夜来たる』、アマゾンの奥地で1550円の値が付いてましたね。実は絶版なのかな?

確かに、私が手に入れた時はどこにでも置いてあった気がします。時の流れって残酷だ……。
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なぜか今頃 (てくり)
2005-07-08 21:28:51
ふと気付くと、こんなところに未読記事が。。。



この本、持っていて、絶対読んだことがあると

思うのですが、例によって覚えていないですねぇ。

『夜来る』はSFマガジンで読んだ印象が強いので、

もしかして短編集文庫の方は未読なのかなぁ?



こうして紹介されると、また読みたくなります。

読みたい本が増えすぎて、嬉しい悲鳴を上げています。





あ、そうだ。

リーディング・バトン、もう少し待ってくださいね。

なかなか5冊、選定できない。。。

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いえいえお気になさらず (SEN)
2005-07-08 22:11:40
面白いのは間違いないです。

アマゾンの値段見る限り、入手は厳しそうですが。



バトン、楽しみにお待ちしております。

って、これはLINNの台詞か。(笑)

私もLINNのとこで書いたりしてます。
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