つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

作者が堂々と出るなっ!

2006-03-01 18:37:55 | ミステリ+ホラー
さて、どんどんミステリが増えていく第456回は、

タイトル:ぼくのミステリな日常
著者:若竹七海
文庫名:創元推理文庫

であります。

会社の社内報に掲載される短編小説――という体裁を取った連作短編です。
作者は匿名となっており、社内報の担当者は何と若竹七海自身(!)。
編集後記も含めて全十三編。細かく解説すると凄いことになるので、寸評に留めます。

『桜嫌い』……自分が好きなものを嫌う奴などいないという、根拠のない自信がある――あ~、そういう人いるなぁ。思うのは勝手だけど、こっちに押しつけないでね、ウザイから。花見の席で桜嫌いを宣言した『ぼく』に、もう一人桜嫌いを知ってる、と先輩が過去にあった放火事件を語る展開は実にスムーズ。桜絡みで気のきいたオチも付いている。

『鬼』……妹の死に関係しているからと言って、木に殺意を抱くものだろうか? 鬼とは一体誰のことだったのか? 最後の『ぼく』の推理は当たっているのか? 不気味な余韻を残す、サイコ・サスペンス。語り手、その妹、そして謎の男――三人の立場を考慮しつつ、最初から読み返してみるのも面白い。

『あっという間に』……シンプルな暗号解読もの。草野球のブロックサインを盗むためにここまでするか? とも思うが、ミステリと手品は想像の範疇を越えてなんぼなので仕方ないか。(笑)

『箱の虫』……その場の雰囲気が伝わってくる、女学生のかしましい会話は見事。きっと、作者が昔を思い出しながら書いているのだろう。ただ、七人もいるので誰が誰やらさっぱり解らないのには閉口した。個人的に、オチはイマイチ。

『消滅する希望』……本書中では異色のホラー・ファンタジー――なのだが、実はこの作品には裏があって(以下自主規制)。単発で読むと特に印象はないが、全体で考えると、非常に重要な一編。十二編全部これだったら、もっと評価が上がってたかも。

『吉祥果夢』……これまたファンタジー仕立てだが、やはり裏がある。最初読んだ時はさっぱり気付かなかった。私もかなり幸せな頭をしていると思う。それにしても、『子ども』って書き方はやっぱり嫌いだ。感覚的な問題なので、どう感じるかは人それぞれなのだろうが。

『ラビット・ダンス・イン・オータム』……そうきたか、という印象の名前当て。関東で五番目と言われてもさっぱり解らないのは悲しいとこだが。それにしても、身勝手な人物がやり込められるというのは実に楽しい。自業自得だ、ざまーみろと言ってやりたくなる。では、自分は身勝手ではないのか? いや、充分身勝手です、あははは――。(汗)

『写し絵の景色』……ミステリとしては、イマイチ納得できず。ただ、友人に疑われる状況、友人を疑わざるを得ない状況、という設定はいい。

『内気なクリスマス・ケーキ』……小説ならではの引っかけに、思わず笑ってしまった。文脈読んでいればピンと来るのだが、花言葉の知識があればもっと確実に真相を言い当てることが出来る。後日談を想像するのも面白い、非常に可愛らしい作品。

『お正月探偵』……知らない内に部屋の中の物が増えている、と前置きした上で、自分が健忘症あるいは神経症かどうか確かめて欲しい、と電話で依頼してくる友人。このシチュエーションが非常に面白い。貴方はどう考え、どう考えるか? 例によって、その後がぼやかしてあるのもポイント。

『バレンタイン・バレンタイン』……会話だけで展開される話。こういうのって、書く方は大変でも、読む方はささっと読んでしまうので感慨も何もなかったりする。もう一度読むと変化があるのだろうが、二度読む気はしない。

『吉凶春神籖』……思い込みとは恐ろしいものだが、往々にして当事者はそれに気付かない。にしても、ちょっとこの女性の解釈は無茶すぎる気がする。もっとも、前日にその彼氏が取った行動もかなり無茶だが。真面目すぎる人々が思い詰めると、かなり深刻な誤解を招くといったところか?

『ちょっと長めの編集後記』……これまでに登場した短編の裏にあるものを、社内報編集長の若竹七海が読み解く解決編。これのおかげで作品の完成度がぐんと高くなっている反面、作者本人が出ていることで私が出す評価はがた落ちに――。

基本的に、主人公である『ぼく』の一人称で話が始まり、友人や先輩が語る話を聞いて、その真相を当てるといった安楽椅子探偵タイプのミステリです。
とにかく構成が上手く、20~30頁の長さの中に、人間関係、謎、真相(?)が無理なく収まっているのは見事。
余韻が残るオチが多いのも好感が持てます。

連作短編ならではの妙味を味わえます、オススメ。
作中でもちょっと触れられていますが、アシモフの『黒後家蜘蛛の会』にちょっと似ているかも。

ただし……しつこいようだけど、作者本人がキャラクターとして出てくるのはどうにかして欲しい……気にならない人は気にならないんだろうけど。



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ご無沙汰でした。 (まんだ)
2006-09-30 10:18:46
確かに私の紹介したお話は辛い評価を受けているようですね~。

でもSENさんのツッコミを見てるのも面白いです。

『箱の虫』のオチがイマイチというのは私も感じましたしね。女の子も3人くらいしか覚えてません(笑)



『黒後家蜘蛛の会』はまだ読んだことがないんですよ~。

私も今度読んでみようかしら?
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御無沙汰でございました (SEN)
2006-10-01 21:23:01
感覚の違い……ですかね。

まんださんのレビューを読んだ後、速攻で自分の記事

を確認してちょっと焦りました。

「マズイ……ものの見事にけなしている」(汗)

つい先日、『スクランブル』を読んだら、『箱の虫』

のメンバーが出演してました。(※マリン除く)

読み返してみると、もうちょっと印象変わるかも。



『黒後家蜘蛛の会』は全編『箱の虫』といったところです。

職業で色分けされたオジサン達+探偵役の給仕さんが、

椅子に座って謎解き談義をします。

一話完結の短編集なので、時間の合間に読むのに丁度良いです。(笑)
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