つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

一言で真相が言える作品の解説は難しい……

2006-07-11 23:52:52 | ミステリ+ホラー
さて、お初のようでお初でない方な第588回は、

タイトル:プラスティック
著者:井上夢人
文庫名:双葉文庫

であります。

二人で一人のミステリ作家『岡嶋二人』の一人、井上夢人のミステリ長編です。
ネタそのものはともかく、書き方がすごく特殊なので、どうやって説明したものかと悩み中。(笑)



五十四個に分けられた奇妙な文書ファイルを『貴方』は読んでいる。
一つめのファイルは向井洵子という名の主婦が書いた日記のようだ。
そこには、夫不在の時に起こった奇妙な出来事に怯え、次第に追い詰められていく彼女の心情がつづられていたが、ようやく夫が帰って来るという日で唐突に終わっていた。

二つめのファイルは『貴方』宛のメッセージだった。
どこか学者然とした男・高幡英世は、異なる複数の人物によって書かれた文書を編集したのが自分であることを明かし、このまま読み進めることを促す。
それと最後に、一つめのファイルに登場した向井洵子が、途切れた日記の後にどうなったかがごく簡潔に述べられていた――。



異なる人物が書いたファイルを読み進めていくことで、次第に全体像が見えてくるというタイプのミステリです。
この手の断片的に情報を明かしていく手法は、読者の知的好奇心をあおる効果がある反面、物語が空中分解する危険を常にはらんでいるのですが、これはかなり上手い方。
ビックリマンチョコの裏書きを読む感覚で、サクサク読めました。いや、冗談じゃなくて、あれも限られた情報から一本の物語を構築していくタイプの作品なんですってば。(笑)

一つ目のファイルで普通の主婦を襲う異常事態を描き、二つ目でこの特殊な文書ファイルの解説、そして三つ目で洵子の日記を読んだ別の人物の考察を入れる、と、一人になってもテンポの良さと読者を引っ張っていく力は健在。
群像劇として見るには個々のキャラクターに魅力が薄い気がするのですが、各人の性格よりも立ち位置の方に重点を置いた物語なので仕方がないかな、とは思います。
むしろ、きっちりその方向に読者を誘導している構成の素晴らしさを褒めるべきか。

ちなみにこの物語、真相そのものは非常に単純です。
序盤からヒントが出まくっているので、勘のいい人はすぐに気づいてしまうかも。
ただ、解っても解らなくても特に支障はありません、全体の三分の二を消化したところで堂々と真相が明かされ、以後はそれに基づいた物語が展開されます。

岡嶋二人ファンなら文句なしにオススメ。
ミステリのネタとしてはちょっと……という方もいるかも知れませんが、トリック当てや犯人捜しにこだわらなければ楽しめると思います。



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