つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ドンブラコ

2006-03-29 18:21:59 | ミステリ+ホラー
さて、ここ数年、船には乗っていない第484回は、

タイトル:船上にて
著者:若竹七海
文庫名:講談社文庫

であります。

若竹七海のオムニバス短編集。
いつもの如く、ハッピーエンド好きな方々には向かない作品揃いです。(笑)
例によって、一つずつ感想を書いていきます。

『時間』……川村静馬は在学中に好きだった五十嵐洋子のことを考えながら、大学の構内に立っていた。つい先日、彼女が一年前に亡くなったことを知ったのだ。死の直前に彼女は言ったという、時間だ、時間だわ、と――。時間、及び、真実という言葉に関する考察。静馬と洋子のロマンチストっぷりにかなり引いた。最後にさらりと、別の真実を暗示しているのは悪くない。

『タッチアウト』……橋爪幸彦は、苦痛と共に病院のベッドで目覚めた。記憶を探り、なぜ自分が怪我をしているのかを知ろうとする。そして、思い出した、愛する女に殴打されたことを――。エリート気質の少年・幸彦の妄執が凄まじい。短編ならではの細かい仕掛がしてあり、最後に「あ、そうか」と思わせてくれる。ただ、面白い作品かと聞かれると、疑問。

『優しい水』……次々と夢を見る、私。頭がはっきりしてきても、何かを忘れている、私。なぜか、ビルとビルの隙間に倒れている、私。左手を上げると、そこには――。主人公の一人称には閉口した。おしゃべりそのままと言った感じで、読み辛いことこの上ない。ただ、妙に軽いノリが、えげつないオチを引き立てているので帳消し。結構好きな作品。

『手紙嫌い』……手紙嫌いの志逗子。彼女はひょんなことから、どうしても手紙を書かなくてはならない状況に追い込まれる。意を決して、『実践・特殊手紙文例集』なる怪しい書物を購入するのだが――。ページの半分ぐらいが怪しい論文で埋められており、読んでて疲れた。ブラックジョークにしても、くどい。

『黒い水滴』……私、は久々に日本に帰ってきた。ある目的を胸に秘めて、空港のロビーに出る。別れた男の所有物、十三しか違わない義理の娘・渚がそこに立っていた――。本書中で最もミステリらしいミステリ。ちょっとしたアリバイ崩しができる。主人公と死んだ男、どっちもタチが悪いのは御約束。

『てるてる坊主』……輝男、広美、恭平は幼い頃からの友達だった。だが、その関係は唐突に壊れた。友達ではないと自覚した瞬間に――。この手のタイプの話を見ると、妙に身構えてしまうようになった。誘導するのが作者の仕事なら、それを暴くのが読者の仕事である。小説を読む姿勢として褒められた物ではないかも知れないが……って、内容について全然触れてないな。(笑)

『かさねことのは』……精神カウンセラーの春日が私に出した問題。それは、八通の手紙を読み、そこに登場する人物の間に何があったかを当てろ、というものだった。私はその挑戦を受けて立つが――。他人の手紙ほど、読んでてくたびれるものはない。仕掛も何もかも無視して、ささっと読み飛ばしてしまった。ラストは、はぁ、そうですか、といった感じ。

『船上にて』……ニューヨーク発、フランス行きの船上で、私は一人の老紳士と知り合った。たまたま手にしていたO・ヘンリーの著作に、彼が興味を示したのである。意気投合した私達は食事をともにするが、その後、事件が発生し――。O・ヘンリーについて詳しい人はオチが読めてしまうし、知らない人はさっぱり解らない、何とも言えない作品。珍しく、ブラックじゃないのが、特徴と言えば特徴。

『優しい水』と『黒い水滴』は好きなんですが、他はどうかなぁ……といった感じ。
相変わらず毒は入ってるけど、『依頼人は死んだ』ほどではありません。
まー、こんなこと言ってたら作者に、「私は毒の入ってない作品以外書いちゃいかんのか」と怒られそうですが。(爆)

軽く、ミステリを味わいたい人向き。
若竹ファンは……スルーしてもいいかも。



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