さて、最近はまりつつある第468回は、
タイトル:依頼人は死んだ
著者:若竹七海
文庫名:文春文庫
であります。
人気キャラクター葉村晶が主人公の連作短編集です。
小林警部補がいなくなったことで、毒が『プレゼント』の二倍になりました。(笑)
例によって一つずつ感想を述べていきます。
『濃紺の悪魔』……再び、長谷川探偵事務所の仕事を受けることになった葉村晶。一日三万円という美味しすぎる話の裏には、やはり事情があって――。葉村がボディガードをするという異色編。依頼人である松島詩織の言っていることは嘘か真か? これだけ読むとあっさり答えが出ているように思えるが、実は本書書き下ろしの『都合のいい地獄』を読むと(以下略)。短編としてはまとまっているが、いまいち葉村のキレが悪い。探偵業を離れて、勘が鈍ったか?(笑)
『詩人の死』……葉村の友人・相場みのりの婚約者が自殺した。みのりは自分の母親の言葉に婚約者の死の原因があるのではないかと疑い、探りを入れて欲しいと葉村に頼むのだが――。娘を支配し続ける母親、詩人気取りの馬鹿男、責任の所在を押しつけ合う関係者達等々、悪意の象徴が次々と登場する、葉村シリーズの真骨頂とも言うべき作品。真相ぼかしが上手くいってるとは思えないが、オチはちゃんとついている。ちなみに、憤りをぶつける相手をみつけられず、葉村に絡む相場みのりもかなりのエゴイスト。『悪いうさぎ』にも登場しており、そこでも悪意を撒き散らしている。
『たぶん、暑かったから』……破天荒な母絡みで持ち込まれた依頼。自己満足のため、自分の娘の起こした事件の調査を依頼する女。葉村は気が進まないまま、既に解決された事件を掘り起こすが――。凄まじい破壊力を誇るオチがすべて(笑)。それに比べれば、鬱陶しい依頼人や下品な記者、被害者にまつわる黒い噂なぞ可愛いものである。何度もこれをやられると腹が立つが、一作だけならかなりいい感じ。以下、激しくネタバレなので反転。
暑かったから、って……もしかしてムルソー君ですか?
『鉄格子の女』……自殺した画家の目録を作って欲しい、という奇妙な依頼。葉村は調査を進めるうちに、仕事抜きで彼の絵に興味を持ち始める――。一枚の絵をめぐる謎解きミステリ。珍しく、依頼人のキャラクターが軽い。その姉もさっぱりした性格で、作品のトーンを明るくしている。最後のひっかけもさらっとしており、重い作品が続いて疲れた読者にとっては清涼剤となるかも。ただし、オチそのものはブラックである。(爆)
『アヴェ・マリア』……『ぼく』は教会から盗まれた聖母マリアを求めてさまよっていた。だが、調査が進展したと思った矢先に長谷川所長が現れ――。『プレゼント』でも書いたけど、このパターン多すぎ。いい加減慣れてしまって面白くない。例によって、人の心の不気味さは出ているのだが、二度読む気なし。
『依頼人は死んだ』……鬱陶しい友人のパーティ。葉村は、そこで出会った女性に相談を持ちかけられる。受けてもいない健康診断の結果が郵送されてきて、ガンと宣告されたと言うのだ――。被害者の死により誰が得をするのか、を探っていくスタンダードな犯人当て。最初の状況設定が面白かったのでかなり期待したが、その後の展開は起伏に乏しく、最後まで読んで萎えた。ただ、依頼人が死亡するという異常事態を作ることで、葉村のキャラを引き出しているのはいい。
『女探偵の夏休み』……葉村晶はルームメイトの相場みのりに連れられて海辺のホテルに来ていた。しかし、何かが引っかかる。彼女には何が目論見があるのではないか――。珍しく、相場の方にスポットを当てた作品。微妙に『詩人の死』ともリンクしている。大嫌いな相場&無味乾燥なサブキャラクター集団に辟易して、殆ど読み飛ばしてしまった。当然、トリックにも気付かず。(うががが)
『わたしの調査に手加減はない』……死んだ友人が夢に現れるのだと、依頼人は言った。葉村は、精神心理学の分野など畑違いだと言って追い返そうとするが――。またしても、嫌~な依頼人登場。あからさまに怪しい上、犯人を知っているなどと言い出す始末。若竹七海は、こういう悪意の塊みたいな人間書かせたら本当に上手い。ストーリーは故人の足跡を追っていくシンプルなもので、特に引っかけはない。ダークだが、ラストは多少鬱憤が晴れる。
『都合のいい地獄』……本書の他の短編とリンクするサイコ・ホラー。ネタバレになるので敢えて解説はしない。ただ、私が読んでるのは若竹七海であって、恩田陸じゃなかったよな? と思ってしまった。好きなオチだけど(笑)
というわけで、人の悪意が詰まった素敵な短編集です。
短編毎に好き嫌いがはっきり分かれるかと思いますが、少なくとも、名探偵・葉村晶の活躍は堪能できます。
さて……来週は『悪いうさぎ』かな。
――【つれづれナビ!】――
◆ 『若竹七海』のまとめページへ
◇ 『つれづれ総合案内所』へ
タイトル:依頼人は死んだ
著者:若竹七海
文庫名:文春文庫
であります。
人気キャラクター葉村晶が主人公の連作短編集です。
小林警部補がいなくなったことで、毒が『プレゼント』の二倍になりました。(笑)
例によって一つずつ感想を述べていきます。
『濃紺の悪魔』……再び、長谷川探偵事務所の仕事を受けることになった葉村晶。一日三万円という美味しすぎる話の裏には、やはり事情があって――。葉村がボディガードをするという異色編。依頼人である松島詩織の言っていることは嘘か真か? これだけ読むとあっさり答えが出ているように思えるが、実は本書書き下ろしの『都合のいい地獄』を読むと(以下略)。短編としてはまとまっているが、いまいち葉村のキレが悪い。探偵業を離れて、勘が鈍ったか?(笑)
『詩人の死』……葉村の友人・相場みのりの婚約者が自殺した。みのりは自分の母親の言葉に婚約者の死の原因があるのではないかと疑い、探りを入れて欲しいと葉村に頼むのだが――。娘を支配し続ける母親、詩人気取りの馬鹿男、責任の所在を押しつけ合う関係者達等々、悪意の象徴が次々と登場する、葉村シリーズの真骨頂とも言うべき作品。真相ぼかしが上手くいってるとは思えないが、オチはちゃんとついている。ちなみに、憤りをぶつける相手をみつけられず、葉村に絡む相場みのりもかなりのエゴイスト。『悪いうさぎ』にも登場しており、そこでも悪意を撒き散らしている。
『たぶん、暑かったから』……破天荒な母絡みで持ち込まれた依頼。自己満足のため、自分の娘の起こした事件の調査を依頼する女。葉村は気が進まないまま、既に解決された事件を掘り起こすが――。凄まじい破壊力を誇るオチがすべて(笑)。それに比べれば、鬱陶しい依頼人や下品な記者、被害者にまつわる黒い噂なぞ可愛いものである。何度もこれをやられると腹が立つが、一作だけならかなりいい感じ。以下、激しくネタバレなので反転。
暑かったから、って……もしかしてムルソー君ですか?
『鉄格子の女』……自殺した画家の目録を作って欲しい、という奇妙な依頼。葉村は調査を進めるうちに、仕事抜きで彼の絵に興味を持ち始める――。一枚の絵をめぐる謎解きミステリ。珍しく、依頼人のキャラクターが軽い。その姉もさっぱりした性格で、作品のトーンを明るくしている。最後のひっかけもさらっとしており、重い作品が続いて疲れた読者にとっては清涼剤となるかも。ただし、オチそのものはブラックである。(爆)
『アヴェ・マリア』……『ぼく』は教会から盗まれた聖母マリアを求めてさまよっていた。だが、調査が進展したと思った矢先に長谷川所長が現れ――。『プレゼント』でも書いたけど、このパターン多すぎ。いい加減慣れてしまって面白くない。例によって、人の心の不気味さは出ているのだが、二度読む気なし。
『依頼人は死んだ』……鬱陶しい友人のパーティ。葉村は、そこで出会った女性に相談を持ちかけられる。受けてもいない健康診断の結果が郵送されてきて、ガンと宣告されたと言うのだ――。被害者の死により誰が得をするのか、を探っていくスタンダードな犯人当て。最初の状況設定が面白かったのでかなり期待したが、その後の展開は起伏に乏しく、最後まで読んで萎えた。ただ、依頼人が死亡するという異常事態を作ることで、葉村のキャラを引き出しているのはいい。
『女探偵の夏休み』……葉村晶はルームメイトの相場みのりに連れられて海辺のホテルに来ていた。しかし、何かが引っかかる。彼女には何が目論見があるのではないか――。珍しく、相場の方にスポットを当てた作品。微妙に『詩人の死』ともリンクしている。大嫌いな相場&無味乾燥なサブキャラクター集団に辟易して、殆ど読み飛ばしてしまった。当然、トリックにも気付かず。(うががが)
『わたしの調査に手加減はない』……死んだ友人が夢に現れるのだと、依頼人は言った。葉村は、精神心理学の分野など畑違いだと言って追い返そうとするが――。またしても、嫌~な依頼人登場。あからさまに怪しい上、犯人を知っているなどと言い出す始末。若竹七海は、こういう悪意の塊みたいな人間書かせたら本当に上手い。ストーリーは故人の足跡を追っていくシンプルなもので、特に引っかけはない。ダークだが、ラストは多少鬱憤が晴れる。
『都合のいい地獄』……本書の他の短編とリンクするサイコ・ホラー。ネタバレになるので敢えて解説はしない。ただ、私が読んでるのは若竹七海であって、恩田陸じゃなかったよな? と思ってしまった。好きなオチだけど(笑)
というわけで、人の悪意が詰まった素敵な短編集です。
短編毎に好き嫌いがはっきり分かれるかと思いますが、少なくとも、名探偵・葉村晶の活躍は堪能できます。
さて……来週は『悪いうさぎ』かな。
――【つれづれナビ!】――
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毒というか、悪意というか…
どのキャラも極端に走ってはいるけどキャラ的にははギリギリOK。
レトリックによる引っ掛けも、嘘はついていないので許容範囲内。
次の作品を読みたい、とも思うんだけど
このスッキリしなさは何なのでしょうか…
後は読者の想像にオマカセします、みたいな
オチの投げ捨てっぷりが好みじゃないのかも…
とりあえず、葉村モノで続けてみようかと。
えーと……非常に申し上げにくいのですが……今回決着
つかなかった『謎の人』、以後の作品に出てきません。
つまり、本当に放り投げのまま終わってます。
私は、「これはきっとホラーなんだ!」と自分で自分
を納得させました――無理矢理。(爆)
次の『悪いうさぎ』は一応オチが付いてます。
葉村はこの先どーなるの? みたいな疑問は沸くし、
それ以降葉村シリーズは出てないし、と、やっぱり
スッキリしない部分はあるかも知れませんが……。