さて、実は主役が存在しない第587回は、
タイトル:まぼろしの城
著者:池波正太郎
文庫名:講談社文庫
であります。
上杉、武田、北条等の巨大勢力に囲まれた地に座し、内紛の果てに真田昌幸によって滅亡させられた沼田家の人々を描く歴史長編です。
小国の悲劇といった話ではなく、自分の立場を自覚せずに狭い範囲内での権力争いに終始した人々の末路、と言った方が正しいかな。
事実上主人公は存在せず、沼田城の主・沼田万鬼斉(顕泰)、その側室ゆのみ、ゆのみの父・金子新左衛門、万鬼斉の嫡子・弥七朗(朝憲)、ゆのみの子・沼田平八郎(景義)など、様々な人々の視点で物語は進行します。
メインキャラが徹底的に甘い人物として描かれているのが特徴で、同じ小勢力でも機知によって激動の時代を切り抜けた真田の方々とは雲泥の差です。
謀略により自分の地位を固めようとする金子新左衛門ですら現実認識がかなり甘く、自分の立場を理解できないまま醜態を晒して舞台を去っていきます。
作者としては、そういう人々を哀れむわけでも蔑むわけでもなく、淡々と眺めている、そういった印象。
愛に溺れ、野望に溺れ、空回りしてすべてを失う、そんな人々の姿を描くのが主題の筈なんだけど……描き切れてないな、というのが正直なところ。
どのキャラも単純思考で物語のパーツ以上になっていないし、心理描写もかなり軽いため、情念も何も全く伝わってこない。
一人だけ、和田十兵衛というなかなか面白い役回りの人物がいたのですが、飽くまで脇役として身を引きました……この方だけオリジナルキャラだったのってある意味凄い皮肉かも。
キャラクター同士の個人的な絡みはともかく、沼田氏の内紛、万鬼斉の逃亡、平八郎の沼田城奪回作戦等、マクロなストーリーは史実を追っています。
そこで、折々に当時の情勢の簡単な解説を入れ、それについて作者が雑感を述べるという形を取っているのですが……非常に表層的な内容で、呆れました。
無意味な改行が多いためページ数の割には情報も少なく、歴史コラムと割り切るにしても底が浅い……ま、他がおざなりなおかげで最後に登場する真田昌幸だけ目立つのですが、それってどうかと思います。
全体的にイマイチでした、分量の問題もあるかも知れませんが。(全240頁)
『裏真田太平記』として読めば面白い……かも、平八郎を手玉に取る真田昌幸は結構ダークで格好いいです。
もっともその昌幸も、後に凄まじい漢っぷりで知られる小松姫に、沼田城の前で門前払いを食らうあたり、歴史は繰り返すと言うか何と言うか……。(笑)
タイトル:まぼろしの城
著者:池波正太郎
文庫名:講談社文庫
であります。
上杉、武田、北条等の巨大勢力に囲まれた地に座し、内紛の果てに真田昌幸によって滅亡させられた沼田家の人々を描く歴史長編です。
小国の悲劇といった話ではなく、自分の立場を自覚せずに狭い範囲内での権力争いに終始した人々の末路、と言った方が正しいかな。
事実上主人公は存在せず、沼田城の主・沼田万鬼斉(顕泰)、その側室ゆのみ、ゆのみの父・金子新左衛門、万鬼斉の嫡子・弥七朗(朝憲)、ゆのみの子・沼田平八郎(景義)など、様々な人々の視点で物語は進行します。
メインキャラが徹底的に甘い人物として描かれているのが特徴で、同じ小勢力でも機知によって激動の時代を切り抜けた真田の方々とは雲泥の差です。
謀略により自分の地位を固めようとする金子新左衛門ですら現実認識がかなり甘く、自分の立場を理解できないまま醜態を晒して舞台を去っていきます。
作者としては、そういう人々を哀れむわけでも蔑むわけでもなく、淡々と眺めている、そういった印象。
愛に溺れ、野望に溺れ、空回りしてすべてを失う、そんな人々の姿を描くのが主題の筈なんだけど……描き切れてないな、というのが正直なところ。
どのキャラも単純思考で物語のパーツ以上になっていないし、心理描写もかなり軽いため、情念も何も全く伝わってこない。
一人だけ、和田十兵衛というなかなか面白い役回りの人物がいたのですが、飽くまで脇役として身を引きました……この方だけオリジナルキャラだったのってある意味凄い皮肉かも。
キャラクター同士の個人的な絡みはともかく、沼田氏の内紛、万鬼斉の逃亡、平八郎の沼田城奪回作戦等、マクロなストーリーは史実を追っています。
そこで、折々に当時の情勢の簡単な解説を入れ、それについて作者が雑感を述べるという形を取っているのですが……非常に表層的な内容で、呆れました。
無意味な改行が多いためページ数の割には情報も少なく、歴史コラムと割り切るにしても底が浅い……ま、他がおざなりなおかげで最後に登場する真田昌幸だけ目立つのですが、それってどうかと思います。
全体的にイマイチでした、分量の問題もあるかも知れませんが。(全240頁)
『裏真田太平記』として読めば面白い……かも、平八郎を手玉に取る真田昌幸は結構ダークで格好いいです。
もっともその昌幸も、後に凄まじい漢っぷりで知られる小松姫に、沼田城の前で門前払いを食らうあたり、歴史は繰り返すと言うか何と言うか……。(笑)