つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

タイトルに偽りなし

2006-08-27 00:30:31 | 小説全般
さて、でもミステリじゃないのよの第635回は、

タイトル:怪笑小説
著者:東野圭吾
出版社:集英社 集英社文庫

であります。

タイトルどおり、怪と笑の短編集で、9編の短編が収録されている。
では各話ごとに。

「鬱積電車」
都心から郊外へ向かう私鉄の急行電車。それに乗り込んだある研究所の研究員である川原宏は運良く満員電車で座席に座ることが出来た。
だが、それを見てチャンスを逃した隣にいた飲み会帰りの岡本義雄は苦々しく思う。

と言う感じで始まるこの作品は、とにかく満員電車の中でキャラを変えて、それぞれが座席を譲る譲らない、ミニスカート姿の女性の値踏みする、隣の男のニンニク臭さに辟易する……などの心理を軽妙に描いている。
きっと誰しも思うようなことだし、思われているかもしれないと言えるような内心の声ばかりでおもしろい。

オチはまぁある意味定番だが、それでも笑えるものなのでOK。

「おっかけバアさん」
近所でもケチで通っている倹約家のシゲ子ばあさんは、もらったチケットで行った杉平健太郎の特別講演で、杉平にはまってしまい、いままでの貯金、年金などをはたいて追っかけを始めてしまう。
その金を捻出するために、質素すぎる生活を送っていたために倒れてしまうがその日はリサイタルのある日。
かくしてシゲ子はふらふらになりながらもリサイタル会場である県民ホールへと急ぐ。

実際、こういうひとって、……いそうよね……(笑)
まぁ、だから笑っては悪いのかもしれないが、笑ってしまうのだから仕方がない。

「一徹おやじ」
息子をプロ野球選手にするという野望から娘である望に野球をやらせていた父は、待望の息子誕生で、その野望を実現させようと息子勇馬に野球漬けの毎日を送らせるとともに、どこから仕入れたネタか(読者にはきっと)一目瞭然の強化策をやらせていた。
それを息子の誕生と同時に野球漬けの生活から逃れられた望の視点から、冷静に語る、と言うもの。

望が何をしても「ああ、そうか」ですます父だが、プロゴルファーになって大会でも3位に食い込むまでになったにも関わらず、やはり「ああ、そうか」ですませたりするところや、オチ、そのオチでの望の姿など、これも爆笑とは言わなくてもほどよく笑えて楽しめる良品。

「逆転同窓会」
巣春高校で教鞭を執っていたことのある教師たちが集う同窓会に、思い出深い15期生の生徒を呼んで同窓会をしようと言うことになり、何人かの生徒たちとともに同窓会を行う話。

社会人となり、それぞれ生徒たちが仕事の話などをしたりしてついていけない教師たちや、教師になった生徒が現れた途端に活気を取り戻すところなど、哀愁が漂うのだが、またそれが妙に可笑しい。

「超たぬき理論」
空山一平が、子供のころ、母の田舎に行ったときに出会ったたぬきと信じている動物が、空を飛んで逃げたことに端を発し、一平は様々な研究を重ね、「UFOタヌキ説」を完成させ、ついには「UFOはタヌキだった」と言う本を出版するまでになる。
そしてある番組で「UFO宇宙人乗り物説」を唱える相手と論争することになる。

理論のばかばかしさがまずおもしろい。
オチは当然と言えば当然のものだが、それでもおもしろいものはおもしろい。

「無人島大相撲中継」
豪華客船での旅行中、火災が発生し、乗客乗員は無人島に漂着する。
救助を待つ中で、大相撲のことなら何でも知っていると言われる徳俵庄ノ介のラジオ丸暗記で退屈を苛々を紛らわせていた。

毒にも薬にもならないような平板な話で、笑えるものでもなければ読み応えもなし。
この短編集中、もっともおもしろくなかった話。

「しかばね台分譲住宅」
ある朝、ある叫び声を聞いて出てみると、住宅街の道路にひとりの男が死体で倒れていた。
10世帯ほどの住民たちは、しかし警察に届けるどころか、これ以上、この住宅地の値下がりを嫌って、別の場所にある黒が丘タウンという分譲住宅地に捨ててきて、そちらのイメージダウンを図る。

しかし、捨ててきたあとになってまた死体は道路の上に。
かくして、しろかね台分譲住宅側と黒が丘タウン側の死体を捨てあう不毛な戦いが始まった。

をいをい。
と突っ込みを入れてしまうくらいテンポのよい短編で、オチの付け方も見事。

「あるジーサンに線香を」
アルジャーノンと同様、日記形式で綴られる作品である老人が病院の医師から若返りの実験を手伝って欲しいと頼まれ、若返るとともに、その効果が切れて老いていく姿を描いた作品。

ブラックユーモアの作品であろうが、笑えない……。
まぁ、だからと言っておもしろくないかと言えばそう言うわけでもないので安心しよう(笑)

「動物家族」
見る人間がすべて動物に見えてしまう中学生の少年の肇は、地味で臆病で、学校でも不良グループにカツアゲをされても泣き寝入りするようなタイプの少年だった。
しかも両親はともに愛人を作り、兄と姉は公立学校に通うしかなかった肇を見下していた。
様々な鬱積したものを抱えていた肇は、あるとき、大事にしていた友人からもらった標本を壊されてしまい……。

これも「あるジーサンに線香を」と同様、ブラックなネタで、笑えると言う意味でのおもしろさはない。
けっこうネタ的にもえぐいし。
展開も定番だが、作品としての読み応えはしっかりしているので、良品のひとつに数えられる。

以上、9編だが、1編を除いて一気に読めるだけのおもしろさ、可笑しさなどがある良品が多く揃った短編集。

はっきり言って、まったく期待していなかったものだから、いい意味で期待はずれ、と言えるだろうね。
前日に続いて、男性作家ではいい作品を読んだかな。
「怪笑」という名にふさわしく、きちんと笑わせてもらえたし、ね。


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