つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

1+1÷2=?

2006-10-28 00:35:53 | ファンタジー(現世界)
さて、そろそろ700回だなの第697回は、

タイトル:付喪堂骨董店 ”不思議取り扱います”
著者:御堂彰彦
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H18)

であります。

極めて珍しいライトノベルの、しかも今月の新刊。
表紙を見た瞬間、「雨柳堂夢咄」の亜種か? と思って手に取ってみた本で、お初の作家。

「アンティーク」と呼ばれる、ふつうの骨董とは違う特殊な能力を付与された道具を集めながらもその偽物を扱う「付喪堂骨董店~FAKE~」にアルバイトとして勤める来栖刻也、舞野咲、そしてオーナーの摂津都和子が織りなす、ミステリ仕立ての現代ファンタジー短編集。

「第一章 偶然」
それを用いて偶然を願うと、その偶然が起きる「ペンデュラム」を手に入れた僕は、自分と「同じ」者を探していた。いつしか手に入れたはずの彼女は、けれど僕を裏切り、僕はその偶然を彼女にもたらし、殺してしまう。
そしていくつもの偶然を操りながら、また「同じ」者を探していた僕の前に彼女は現れた。

「偶然」と「必然」を中心に、刻也が「僕」を見つける話だが、とかく「偶然」という単語を余りにも使いすぎるところがしつこすぎる。
構成は「僕」と刻也が交互に乱れることなく描かれ、破綻はないが、このしつこさは評価を下げる。

「第二章 像」
ある村で、右手で触れるだけで流行病を治してしまう若き僧侶。その僧侶が作った仏像は、僧侶の死後、養い子となった少女の手を介して人々を癒すはずだったが、次第にそれは逆に病をもたらす像となってしまう。
そんな「アンティーク」に咲は触れてしまい、仏像がもたらす病を受けてしまう。

僧侶の養い子である少女と、刻也の過去と現在を交互に描く秀作。
ありがちな像の「アンティーク」のネタを少し捻り、第四章への伏線も含め、どこか切ない物語を演出している。

「第三章 記憶と記録」
事故により記憶する能力がやや劣るようになった宇和島悦子は、母からもらった書けば忘れることがないノートという「アンティーク」に書いたある出来事を忘れたいがために、付喪堂を訪れていた。
忘れっぽいはずなのに、どうしても憶えている母の事故時にまつわる、忘れたい記憶。それはある人のためだった。

これも切ない、淡い哀しみを醸し出す良品。
忘れたい記憶と事故によってつけることとなった毎日の日記、両親の離婚、日記にまつわる真実などなど、展開に無理がなく、読後感も良好。

「第四章 プレゼント」
親元を離れ、貧乏学生をしている刻也が、突然アルバイトを終え、住み込みでアルバイトをしている咲に、突然プレゼントを渡す。黒ずくめが趣味の咲には、まったく趣味ではないノースリーブの、ひらひらしたピンクのワンピース。
あることから、無表情を貫き、素っ気ない咲は、しかし人形ではなく、まだ16歳の少女で、どこか浮かれる気分を味わっていた。それからと言うもの、毎日刻也は趣味ではないプレゼントを渡してくる。
そこには、刻也が不用意に手にした「アンティーク」の存在があったが……。

第二章、第三章とはうってかわって、ほんのりと甘い中に、咲の持つ影を感じる作品。
第一章の「僕」が持つ内面のプラスとマイナスや、第二章、第三章の切ない物語のあとに来るにしては……心憎い。
ただし、いかにもなあざとさが見え隠れするところは……ライトノベルだから仕方がないのかもしれない。

えー、総評。
近年……というか、おそらくいままで読んだライトノベルの中で最も秀逸な短編集。

文章は、はっきり言って白い。
段落が多く、第一章のようなしつこさもあり、表現力と言う点においてはまだまだ頑張ってもらいたいものだが、作品の雰囲気はとてもよい。
ツンデレ系の咲や、美人オーナーでキワモノ好きの都和子など、キャラ設定はいかにもだが、そこまでアクの強いキャラではない。特に人気を得るための咲は、きちんと陰を感じさせる描写などがあり、引きもしっかりと作り、狙っただけではないところを見せようとする努力が感じられる。

そして何より、ラストの見せ方、余韻が秀逸なのは特筆に値する。
特に第三章のラストはストーリーの謎、クライマックスと相俟って素晴らしい出来。
ただし……、第一章のみ、ラストに物足りなさがあるのが残念だが。

最初は「雨柳堂夢咄」を思い出し、途中「ザンヤルマの剣士」を足して2で割るとこんな設定と話になるかと思ったが、さにあらず。
文章的な欠点を差し引いても、ライトノベルでここまでクオリティの高い作品は滅多になかろう。
第一章にやや残念な部分はあるが、ライトノベルというジャンルにしては、文句なし、オススメ。



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