つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

探偵ベートーヴェン再び

2006-10-09 23:51:54 | ミステリ
さて、図らずも見つけてしまった第678回は、

タイトル:ベートーヴェンな憂鬱症
著者:森雅裕
出版社:ブッキング(初版:H17)

であります。

『モーツァルトは子守唄を歌わない』の続編です。
もっとも、以前紹介したのは漫画で、こちらは原作の続編ですが。
短編集なので、一つずつ感想を書いていきます。

『ピアニストを台所に入れるな』……モーツァルト派最後の刺客バウエンハイントと演奏対決をすることになったベートーヴェン。にも関わらず、相手はわざわざ家までやってきて、まだ九歳のチェルニーを弟子にして欲しいと言い出す。生意気な子供を押しつけられてはたまらない。ベートーヴェンは邪険に応対するが――。
時は一八〇〇年。『モーツァルトは子守唄を歌わない』の名コンビ結成編で、殺人事件の容疑者となったベートーヴェンを、少年探偵チェルニーが救う(?)という展開が面白い。一応、最後はベートーヴェンがシメるのだが、その後さらに爆笑モノのオチがあり、短い割に非常に贅沢な短編に仕上がっている。四編すべてに登場する重要キャラ・ジュリエッタも登場するが、ここは顔見せといったところ。 

『マリアの涙は何故、苦い』……恋人のジュリエッタと某貴族の婚約が決まり、憂鬱な日々を送るベートーヴェン。今度演奏会を行うことになっているドカティ教会には少々不気味な噂があるが、それが気にならないぐらい心は沈んでいる。ただ、その噂が現実となり、さらにジュリエッタが絡んでくるとなると――。
時は一八〇三年。無関心を装いつつ、元恋人の動向が気になって仕方がないベートーヴェン、すっかり弟子として定着し、十二歳とは思えない毒舌を振りまくチェルニー、そんな二人などお構いなしに独自路線を走るジュリエッタ、と、メイン三人がそれぞれ面白い動きを見せてくれる。必死で頑張ったものの真相は……というラストも、このシリーズらしくていい。

『にぎわいの季節へ』……突然現れたアンナ・ナキア伯爵夫人に、王女エレーナを救出して欲しいと依頼されたベートーヴェン。音楽家が受ける仕事じゃないと渋ったものの、相手があっさりと500ポンドの報酬を持ちかけてきたので心が揺れる。とどめは、この件にジュリエッタが絡んでいるという話だった――。
時は一八一五年。ウィーン会議の経緯、ナポリの王女の立場、金融業者の戦略等々、数多くの歴史要素をぶちこんでおり、四編の中で最も長い。だが……長さと登場人物の多さの割には、さして面白みは感じなかった。相棒役のチェルニー君が登場しないため会話のテンポは悪く、ベートーヴェンの役回りも単なる道化で(『マリアの涙は何故、苦い』よりひどい)、読んでてくたびれた。気球を出したり、花火を使ってみたりと、遊びは見られるのだが、結局歴史の一部を追っかけただけという印象。

『わが子に愛の夢を』……自分の隠し子二人がウィーンに来ているという噂を聞き、不機嫌極まりないベートーヴェン。しかし、八年前にジュリエッタと会った時の話では、彼女に子供は一人しかいないということだった。果たして、どちらかが自分の子供なのか、さもなくばどちらも――。
時は一八二三年。チェルニーとその弟子のリストが登場し、なかなか動こうとしないベートーヴェンをせっつくのが楽しい。事件そのものにさして面白みはないが、ベートーヴェン個人の話としては、過去の関係が蒸し返されたことをきっかけにジュリエッタとの関係にケリを付けるという、トリに相応しいものになっている。しかしこの二人、回を追う毎に険悪な仲になっていくなぁ……。

『モーツァルトは子守唄を歌わない』の時もちょっと書きましたが――
やっぱりチェルニー君最高。
知力、行動力、毒舌の三拍子揃った素晴らしいワトスンです。
おかげで、彼がまったく登場しない三話目と、出番が少ない四話目の印象が薄い……。
ま、四話目はチェルニー因子を受け継いだリスト君が、似たような役回りを演じてくれてますけど。

前作ほどではありませんが、それなりに楽しめました。
魔夜峰央がイラストを担当しており、特別に四コマ漫画を二つ載せてくれているのも嬉しい。
ただ……作者があとがきで前作の話を持ち出し、フィクションなのだからいちいち細かいケチを付けるなとボヤイているのはどうかと。

実在の人物と歴史を利用した時点で、ここの部分は史実と食い違っているという非難や、固有名詞が英語とドイツ語混在しているという指摘や、私の想像する××のイメージと違う! などという妄想全開の言いがかり等が来ることは覚悟すべきでしょう。
そういった意見に対して高飛車な態度で反論するのは極めてみっともないと思います。
おかげで他の作品を探す気が失せましたよ、私は。