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つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

姫の名はセセラク

2005-05-24 23:03:37 | ファンタジー(異世界)
さて、一応最後な第175回は、

タイトル:アースシーの風――ゲド戦記V
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

ついに、ゲド戦記最終巻です。
ゲドの次世代の者達の戦いが描かれます。
前四巻については、第167回第168回第169回第174回を御覧下さい。

ハブナーに王が立って十五年。
表面上、世界は平和を保っていました。
しかし、眼に見えぬ浸食は少しずつその勢力を拡大しつつあったのです。

ある日、ル・アルビで余生を過ごすゲドの元をハンノキと名乗る男が訪れます。
彼は妻の死後、幾度となく夢に見る死の世界のビジョンに悩まされていました。
ゲドはその話に耳を傾け、ハブナーに座す王のもとへ彼を送り出します。

ハンノキがハブナーを訪れた時、王もまた別の悩みを抱えていました。
東方を支配するカルガド帝国が、和平の条件として王族の姫君を送ってきたのです。
彼はカルガド出身のテナーの知恵を求め、彼女を王宮に招いていました。

悪夢を抱え、かつてゲドが見た死の世界を語るハンノキ。
未だ大賢人を選出できぬロークの賢人達、及び魔法使い。
テナーの娘であり、偉大なる種族の末裔でもあるテルー。
竜の代表として女性の姿でハブナーに降り立つアイリアン。
人種は違えど、少しずつ互いに歩み寄っていく王と姫君。
彼らが集結する時、アースシーに新たな風が吹く……。

前作から一転、非常に派手な話になっています。
色々と語ることはありますが、何よりまずこれだけは言っておきましょう。

祝、ゲド復活!

前巻でドン底まで落っこちて醜態をさらした彼ですが、歳も七十歳になり、今や立派な山羊飼いのおじーちゃんとして威厳を取り戻してます。訪れたハンノキに語りかける姿はまさしく大賢人! 魔法は使えませんが、年の功は伊達じゃありません。前作で、こんなゲドは嫌じゃ~、と叫んだ人もこれなら納得できる筈。もっとも人生山谷ですから、前巻の人間臭いゲドも非常に好きですけどね。

で、話を戻して最終巻です。
主役は……実は誰とも言えません。
ゲドは最初と最後しか出ませんが、深く考えるといいとこ取りかも。
ハンノキの視点、王の視点、テナーの視点とグルグル視点が変わるので、厳密に誰が主役とは言えない作品です。その分群像劇として見応えがあり、それぞれがいい味出してます。中でも異彩を放っているのが新キャラのアイリアン。竜の姿で颯爽と現れたかと思いきや、女性に変化して人間に向かって言いたい放題、謎めいた竜のイメージを吹っ飛ばす格好いいキャラです。

一方ストーリーですが、これでもかというぐらい謎解きの嵐が吹き荒れます。

カルガド帝国ってどんなとこ?
アースシーの竜ってどんな存在?
ロークが定めた魔法の根幹とは?
その昔、竜と人間との間に何があった?

ゲドに関わった人々の心のぶつけ合いの中で、未消化になっていた謎が次々と明かされていく展開は非常にテンポ良く、ラストまで一気に読めました。つか、ル・グウィン……貴方いくつですか?(1929年生まれで、これ書いたのが2001年)

他にも、さりげなーく三巻で出てきたチョイ役の話があったり、テナーがアチュアン時代を振り返る話があったりとサービス満点です。少なくとも、四巻まで読んできたなら絶対オススメ、読むべし読むべし。

というわけで、ゲド戦記はこれにて終了です。
実を言うと外伝があったりするのですが、そちらは未読なのでまたの機会に。

ちょっと蛇足。
前期三部作と比較して何かと賛否両論な四、五巻ですが、個人的にはこれも立派にゲド戦記だと思っています。I・III・Vが世界を巡るマクロな戦い、II・IVが個人を対象としたミクロな戦いを描いているという点で、上手くバランスを取っていると思います。



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娘の名はテルー

2005-05-23 22:00:12 | ファンタジー(異世界)
さて、最後の書と言いつつ最後じゃない第174回は、

タイトル:帰還――ゲド戦記最後の書
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

先週に引き続き、ゲド戦記の紹介です。
巻数的には第四巻に当たります。
前三巻については、第167回第168回第169回を御覧下さい。

ゴハという女がいる。
夫を失い、息子と娘が家を出た後も一人でかしの木農園に住むよそ人である。

テルーという娘がいる。
心なき者達に強姦され右の顔と腕を焼かれながらも、彼女は生きることを選ぶ。

ハイタカという男がいる。
死との戦いで魔法の力を失った時、彼はすべてに背を向けて逃走を開始する。

三人に人並み外れた力はない。
だが、自由を維持するという最も困難な闘いに挑まなくてはならない。

権力、我欲、妄執、様々なものを抱えた者達が三人を包み、翻弄していく。
すがるものは既に失われ、過ぎた時間は過酷な現実を浮き彫りにするばかり。
そして、悪意がその重囲を狭めていき、ついに――。

暗っ!

とか言ってはいけない。
重い話なのは確かです、地味さで行くとシリーズトップ。
しかし屁理屈抜きにして、現実を描いた大人のための物語です。

主役はかつてゲドとともに闇からの脱出を果たしたテナー。
ゲドの師オジオンに魔法か現実かの選択を与えられた時、彼女は後者を選びました。
女だけの世界から男女が共存する世界に飛び出した彼女は、そこに厳然と存在する男性的権威に憤りを覚えつつ、二十五年の時を過ごします。

ファンタジーの象徴とも言える魔法を捨て、日常に身を置いたテナーの視点は非常にハードです。そこには謎めいた神秘のヴェールも、哲学的な知のカーテンもありません、徹底したリアリズムのみがあります。その意味では、前巻までと本巻は完全にベクトルが違います。

ただし、ここで引いてはいけない。
どんな世界にも時間の流れがあり、現実があります。
華々しい物語だけが人生のすべてではないのは物語の主人公も同じなのです。

子供時代に読んで欲しいとは言いません。
ゲドやテナーのように世界を知り、現実を知った時に読んでみて下さい。必ず何か得るものがあります。

というわけで今回はこれまで。
ちなみに、副題が最後の書となっていますが五巻目があります。
それについてはまた明日。

P・S
真面目なことを書いたら頭がぐるぐる巻きになりそうになったので、ちょっとだけ不真面目な話をします。題してゲド戦記刑事物化計画。
第一巻が自分が逃がした犯人を追う新米刑事、第二巻が他国に潜入捜査を行う警部補、第三巻がなぜか現場に出てくる警視総監、んで本巻は定年で仕事をやめた後、昔捕まえた犯人の影に怯える元刑事……どうでしょう?
単なる思いつきなので深く考えないで下さい、何となく難解な物語が解りやすくなるような気がしただけです。(なんで刑事物やねんというツッコミは不許可っ!)



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王の名は……

2005-05-18 12:03:49 | ファンタジー(異世界)
さて、三部作三つ目の第169回は、

タイトル:さいはての島へ――ゲド戦記III
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

いよいよ、ゲド戦記第三巻です。
壮年となったゲドが三度、危険な戦いに身を投じます。
前二巻については、第167回第168回を御覧下さい。

古き歴史を持つモレド家の末裔アレンは不安を胸に賢人の島ロークに降り立った。
西の島から領地エンラッドにもたらされた奇妙な噂の真偽を問うために。
正確に言えばそれは既に噂ではなく、エンラッドすらも侵し始めていた。

凶報はアレンのもたらしたものだけではなかった。
南海域及び、世界の中心に位置する多島海南部からも同様の知らせが届いていた。
魔法の泉が枯れ、人々はその使い方はおろか存在すらも忘れかけていると……。

今だ確固たる魔法の力を有し、鉄壁の守りを維持するローク島。
その頂点に位置する九人の長と大賢人は、その夜、会合を開いた。
様々な意見が飛び交う中、大賢人は自ら原因の究明に乗り出すことを宣言する。

若きアレンは大賢人の誘いに応じ、危険な航海に出ることを決めた。
探すべきものは未だ判然とせず、行く手には死の危険が満ちている。
連れはアースシー最高の大魔法使い――名はハイタカ!

映画にしたら一番受ける話

ロード・オブ・ザ・リングもそうでしたけど、素直~な作品になるんでしょうね。
真面目だけど若者らしい反発心を抱えたアレンが主人公で。
やたらと思わせぶりなことを言う強大な魔法使いゲドがその連れで。
最後にゃ××××まで行って強敵と対峙するんだから盛り上がらない筈がない。

しかし、それは表層的な部分。
実際のところ、今回のメインは魔法の考察及び、生と死の考察です。

アースシーにおける魔法とは現代の科学に相当します。これだけなら有象無象の作品でも頻繁に使われる手法なのですが、ル・グウィンは魔法が科学よりも遥かに精神性に左右される学問であることを利用して、人間の際限ない欲望とそれが生み出すものをより鮮明に見せてくれます。

「わしらは均衡というものを考えなくてはならん。それが破れると、人は他のいろいろなことを考え出す。真っ先に考え出すのは迅速さだ」
かつて影を解き放ったゲドならではの重い台詞です。

魔法と言う便利な道具を手にした時、人は何を望むのか。
欲望のままに道具を使った時、結果として何が起こるのか。
生とは、死とは何か、それから逃避することに意味はあるのか。
数多の作品で語られてきた根源的なテーマであり、同時に最も難しい命題でもありますが、本作はかなりの完成度でこれを達成しています。

単独でも読めます、とにかくオススメ。
一巻では枝葉的な存在だった竜も、本作ではかなりメインで出張ってます。

かくて、『エアの創造』の物語は見事な結末を迎えました。
ところがぎっちょん、ゲドの物語はこれでは終わりません。

続く四巻ではヒーローとしての役目を終えた彼の姿が描かれます。
正直に言いましょう――夢を信じていたい少年にはオススメしません。
もう少し大人になってから読んで下さい。
というわけで、続きはまた来週。



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君の名はテナー

2005-05-17 15:00:31 | ファンタジー(異世界)
さて、三部作二つ目の第168回は、

タイトル:こわれた腕輪――ゲド戦記II
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

というわけで、ゲド戦記第二巻です。
アースシーの東端にある独立国家――カルガド帝国が今回の舞台。

兄弟神を祀り、王の死後の安息所となるアチュアンの墓所には一つの伝統があった。
男子禁制の神殿を束ねる大巫女が死んだ時、時を同じくして生まれた娘をその生まれ変わりとして、次代の大巫女に据えるのである。今回選ばれた娘の名はテナー。

五歳になったテナーはアチュアンの墓所に連れてこられ、一年間教育を受けた後、神殿の大巫女『アルハ』となった。十四で成人し、十五になった頃にはもはや帝国最高の巫女として神殿の一切の権限を握っていたが、彼女は退屈しか感じてはいなかった。

そんな折、神殿の下にある巨大な地下迷宮に謎の男が侵入したという報告が入る。
闇を支配する名なき者と呼ばれる強大な存在は、自分達を崇めぬ者に容赦がない。
彼らを敵に回して無事な者がいるとすれば、外海から来た邪な魔法使いしかいない。

やがてその男は闇の力に屈し、捕らえられる。
だがアルハはその男を処分しなかった、墓所以外の世界のことを聞きたかったのだ。
彼女は禁を破り、虜囚となった男に会いに行く。彼の名は――ハイタカ。

もうお解りでしょうが、今回の主役はゲドではありません。
もっともこれはゲド戦記の特徴なので気にしてはいけない。

テナーは、言ってみれば女性版ゲドです。
ゲドが若気の至りで自らの影を放ち、それと対決するはめになったように、テナーもまた、かつては光の中にいたはずの自分と名なき者に仕えるアルハとしての自分との間で葛藤し、戦うことになります。
ここで、前巻でオジオンがやっていた役をゲドがやるあたり、いい歳の食い方してるなぁ……と。もちろん、実際のところゲドは自分一人で地下迷宮に挑み、目的を達するつもりだったのだけど。(笑)

前巻の戦いの決着が×××××(自主規制)であったように、本巻の結末も名なき者を強力な呪文でなぎ倒し、美少女片手にハブナー凱旋といった――

ハリウッド映画のようなオチはありません

ゲド一人、テナー一人では成し得なかった偉業を二人は達成します。
スーパーヒーローが大活躍、ってのも嫌いじゃないけどこっちの方が納得いくかな。
つかテナーが心を開いた後、それまでの疲れ切った状態から一転、やたら元気になってしゃべりまくるゲドって……色んな意味でオジサン化してますね(笑)。

というわけで、『エアの創造』の二行目の冒険は終わりました。
次回は三行目、さらに困難な生と死の戦いが待っています。



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奴の名はゲド

2005-05-16 23:57:30 | ファンタジー(異世界)
さて、三部作スタートの第167回は、

タイトル:影との戦い――ゲド戦記I
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

かのル・グウィンの傑作ファンタジーです。
全六巻ですが、各巻は一つの話として独立しています。
本来三部作として書かれ、十年以上の時を経て続編が書かれました。
今週はまず、前期三部作を紹介していきます。

で、一巻目にあたる本書――

物凄く奥が深い魔法物語

です。
ゲドの生い立ちから、青年期までを描いています。

アースシーと呼ばれる世界の辺境にゴントという名の島がある。
少年ハイタカは魔法使いオジオンに魔法の才を見出され、彼に仕えることになった。
しかし、偉大な魔法使いになることを望む彼は魔法学院ロークに留学することを選ぶ。

真の魔法使いはここでしか生まれないと言われるローク島。
ハイタカは学院内でめきめきと頭角を現していくが、同時に不満も感じていた。
師達は言う、宇宙には均衡があり、魔法をみだりに使えばそれが狂うのだと。

ある日、ハイタカは友人との諍いから降霊術を行い、太古の霊を呼び出してしまう。
一命はとりとめたが、死の世界を垣間見たことで彼は己の影を解き放ってしまった。
課程を終えロークを去るハイタカ。そして影との熾烈な戦いが始まる――。

小学生の頃に読んで、とにかくハマりました。
若者らしく向こう見ずなハイタカが気に入ったのもありますが、世界観がとにかくよくできていたのが主な理由です。

アースシーの生物、無生物はすべて真の名と呼ばれるものを持っています。
これは言ってみれば遺伝子コードのようなもので、生まれた時から決まっている。
ハイタカの場合だと、タイトルネームであるゲドがそれに当たります。
この真の名を知られると、一切の魔法を封じられてしまうというから恐ろしい。

名が実在そのものを現している世界。
それを言葉にして操る者達、魔法使い。
ゲドの成長は、すなわち言葉を知ることでもあります。
(そこできて、師匠が『沈黙のオジオン』とは、本当に上手くできている)

三重丸のオススメ。
児童文学だと思っていた人は、まず読んでみて下さい。
少なくとも、子供向けおとぎ話……ではないです。つーか難解。

最後に本書の巻頭詩を紹介しておきます。

ことばは沈黙に
光は闇に
生は死の中にこそあるものなれ
飛翔せるタカの
虚空にこそ輝ける如くに
――『エアの創造』――

一行目がそのまま、本書にあたることがお解りでしょうか?
次巻、『こわれた腕輪』では二行目に当たる光と闇が描かれます。



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夢~で、会いましょお~

2005-03-26 22:38:17 | ファンタジー(異世界)
さて、前回ベタ褒めしといて今度はこき下ろすかも、な第116回は、

タイトル:12月のベロニカ
著者:貴子潤一郎
文庫名:富士見ファンタジア文庫

であります。

第41回で紹介した貴子潤一郎のデビュー長編です。
女神ファウゼルに選ばれ、ベロニカの名を継ぐと共に眠りに落ちてしまうヒロイン。それを守る十三人の騎士の一人にして彼女の幼馴染みである主人公。そして、騎士達の危機を救った隻腕の剣士ハキュリーの物語。

本作の外伝『眠り姫』を読んだ時から嫌な予感はしていました。
この人、長編は向いていないんじゃないかなぁ、と。
舞台をファンタジー世界に移し、眠り姫を女神に選ばれた巫女とした本作。
一抹の不安を抱えたまま、私はページをめくっていきました。

予感が当たるのって痛い……。

ハズレ、とは言いません。
非常に綺麗な話で、すんなり読めます。
キャラの扱いがバランス取れてないような気がしましたが致命的ではないです。

でも、一章読んだ時点でネタと構成とラストが全部読めちゃうのはちょっとどころじゃなく痛かった……。仕掛けを使うなとは言いません。しかし、複線の張り方が余りにも素直すぎます。『眠り姫』は簡素だったけど、こちらは冗長な感じ。短編でおさまるネタを引き延ばしたという感が否めません。

短編作家としてはかなり好きなんだけどなぁ。
無論、次作で凄い長編を出してくれたらそれはそれで嬉しいんだけど。

十二国記FINAL(現時点)

2005-03-17 19:31:39 | ファンタジー(異世界)
さて、長かった企画も今回でおしまいの第107回は、

タイトル:華胥の幽夢 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

短編集です。一つずつ感想を述べます。

『冬栄』……時代は『風の海 迷宮の岸』の少し後で、泰麒が南西の極――漣を訪問する外伝。何故彼が送られるか、その理由は『黄昏の岸 暁の天』でちょっとだけ述べられています。本編の泰麒は受難続きですが、こちらの泰麒は割と幸福。相変わらず自分の能力について落ち込むことは多いですが、子供らしく元気いっぱいなところも見せてくれます。ファンは必見。

『乗月』……『風の万里 黎明の空』で登場した祥瓊の母国、芳のその後の話。峯王を討った恵州州候月渓の苦悩を描いた作品で、心理描写が素晴らしいです。ちょっとだけ、陽子、祥瓊、図南の翼の珠晶との絡みもあります。簒奪者となることを拒み、一州侯に戻ろうとする月渓とそれを止めようとする人々の会話は非常に重みがあり、読ませます。お気に入り。

『書簡』……心優しき半獣楽俊と陽子の手紙のやり取り、という一風変わった話。大学に入ったはいいが、半獣としていわれのない差別を受けている楽俊。官吏に邪魔者扱いされ、それでも荒廃した国を立て直さなくてはならない陽子。どちらも気合いだけではどうにもならないことを知っていながら、空元気を見せて背伸びをする二人の姿が清々しい。

『華胥』……才の国で起きた殺人事件を扱ったミステリ。傾きかけた才、それでも自身の道に疑念を抱かぬ生真面目な王。国の行く末を不安視しながらも王の欠点を指摘できない人々。そして、その背後に潜む悪意。様々な人々の想いを描き、政とは何かを問う社会派ミステリー、ですね。非常に上手くまとまっています。

『帰山』……奏国王家の放蕩息子利広が今まさに倒れんとする柳を訪れる話。治世六百年、伝説まで後八十年に迫った奏の内情がちょっと明かされます。詳しくは書きませんが、「こりゃ、当分無敵だわ」ってな状態。しかし、長い治世の国ほどおちゃらけた感じの人々が多いのは、人間捨てて長いからなんでしょうかね?

以上、様々な国を描いている本作。かなり楽しめました。
長編も短編も上手なんて羨ましいなぁ……。

さて、連続十一回でお送りしてきました十二国記書評いかがでしたでしょうか?

拙い文章ですが、少しでも十二国記の世界を感じて頂けたなら望外の喜びです。
無論、この企画で読んでみる気になったというのなら、さらに嬉しい。
その上コメントして頂けるなら……もう感無量です。

今後も新刊が出るたびに紹介してきたいと思っておりますので、お楽しみに。
では、今日のところはこれにて。



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十二国初の取り組み

2005-03-16 19:21:38 | ファンタジー(異世界)
さて、陽子の発案でいろんなことをする第106回は、

タイトル:黄昏の岸 暁の天(下) 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

この下巻での見せ場はいくつかある。

まずひとつはタイトルにもあるように十二国が歴史上初めて他国の麒麟のために、各国の麒麟が集まって泰麒を捜す、と言うのが話のメイン。

李斎が頼ってきた慶はもちろん、陽子と親しいから巻き込まれた雁、南の大国奏、珠晶が治める恭、「風の海 迷宮の岸」でも泰麒を連れ戻すために出てきた漣、「風の万里 黎明の空」で鈴がいた才、そして初お目見えの範。

合計7国の麒麟が集まって、泰麒を捜すことになる。

まぁ、ストーリー上、泰麒が蓬莱に流されたのか、崑崙(中国)に流されたのかわからないので、二手に分かれる。
崑崙へは奏、恭、才の3国なので、蓬莱へ向かうのは、慶、延、漣、範。

と言うわけでこれだけの麒麟が出てくるわけだけど、まぁ、ものの見事に性格が違う。
景麒と延麒はいままでよく出てるからいいけど、氾麟はいたずら好きのちょっと生意気な少女と言う様子。
控えめでおとなしい廉麟がいちばん麒麟らしいのかもしれない。

さておき、麒麟自身が渡って使令を使って捜索は始まる。

ストーリーのメインはこの捜索の話。
その合間に李斎の話がちょこちょこと入ったりする。

さて、もうひとつの見せ場……といえるかどうかはわからないけど、この世界の神に逢うこと。

最初は諸国が協力して泰麒を捜すことが天綱に触れるか、などを訊くために蓬山の主、碧霞玄君のもとへ。
そこで、玄君は天へ諮ってその答えを得てくる。

そして泰麒が戻ってきたあとには、陽子、延麒、李斎は西王母に面会し、泰麒を助けてもらう。

この話になってなにかだいぶいろんなこと……かなり設定的なことがわかってくる。

さらにもうひとつは泰麒。
魔性の子を読んでいればそうはないのかもしれないけど、泰麒を連れ戻すところ。

まぁ、大きくはこんなところだと思う。
見せ場じゃないけど、上巻から続く李斎の心理描写は秀逸。
相変わらず、人間を描くのはうまい。

けど、ただひとつ。
ラストに泰麒と李斎はたったふたりだけで戴へ戻ることにしたわけだけど、いままでと違って、ちょっとここが中途半端、かな。

まぁ、これからの戴の話を、と言うのはわかるけど、いままできっちりと、終わらせていただけに惜しいところ。

十二国記シリーズの中では、最も評価が低いかもしれない。

それでも他の氾濫する小説群の中で言えば、抜きん出ていい話ではあるんだけどね。



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魔性の子を読みましょう

2005-03-15 19:28:40 | ファンタジー(異世界)
さて、十二国記シリーズもあと3冊となった第105回は、

タイトル:黄昏の岸 暁の天(上) 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

この話ではふたつの国がメインの舞台。
「風の万里 黎明の空」から2年後の陽子が治める慶国と、「風の海 迷宮の岸」の舞台となった戴。

始まりは、戴から。
乱の鎮圧に向かった泰王の身を案じる泰麒。
そこへ現れた戴国の重鎮、振り下ろされる剣、襲われる泰麒……。

まぁ、さておき、慶では、「風の海~」にも出てきた李斎が戦い、傷つき、ぼろぼろになって陽子を訪ねてくる。
戴を救ってもらうために……。

と、ここであらすじを書いていくとべらぼうに長くなってしまいそうなので今回はなし。

だって、構成が戴を救ってくれと言われ、何ができるかを考える陽子……慶国と、泰王である驍宗が王朝を整え、策謀の末、泰王、泰麒ともども行方不明になる戴国の話、十二国記シリーズのもととなった新潮社の「魔性の子」……泰麒が再び蓬莱(日本)に戻ってからの話、と3つの舞台で語られる、と言う形式だから。

さておき、上巻の話はほとんど戴。
王朝での驍宗の改革や策謀、急進的な驍宗への不安などなど、驍宗が登極してからの経緯がほとんど。

その合間に、慶での陽子たちの話が入り、蓬莱での泰麒の話が入る。

話の舞台は変わるし、戴は6年ほど前だから、時間も違う。
よくもまぁ、これだけ場所も時間も違うのを絡めて、まったく違和感なく書いていけるよ、と思う。

戴での話はどちらかと言うと李斎の回想みたいなところがあるからなのかもしれないけど。

李斎の話を聞き、延王尚隆、延麒六太を交えてどうするか、何ができて何ができないかなどなど、上巻はけっこう淡々と進んでいく。

ただ、戴での話は王宮での話……つまり政治的な色が濃いから、どうしてもこうなってしまうんだろうなぁ。

でも、下巻はいろんなところで見せ場がある。
世界の成り立ちや条理のことなどなど。

と言うわけで、続きは下巻に……。



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蓬山へGO

2005-03-14 19:54:31 | ファンタジー(異世界)
さて、なんかこのパターンが気に入ってしまった第104回は、

タイトル:図南の翼 十二国記
著者:小野不由美
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

場所は恭国、先の供王が斃れてから27年。
荒れ果てていく国を憂えて王になるために蓬山へ向かう主人公の珠晶……。

つか、主人公の珠晶、12歳の女の子であります。
聡明な、と言えば聞こえはいいけど、賢しくて口が達者、プライドは高いけど、諭されてそれを認めることができないほど狭量ではない。

まぁでも、もともと大富豪の娘でお嬢さん育ち。
そういう面もしっかり出てるけど、はきはきした物言いや態度とか、あまりいやらしさを感じさせないキャラ。

さて、話はあまりにも長く王が出ない現状と、自分は王の器ではないとして昇山しない大人たちを見かねて、ならば自分が、と言うことで珠晶は安全な実家を出奔する。

途中、出奔するときに連れてきた騎獣を奪われたりはしたけど、無事黄海へ続く乾県へつく。

そこで黄海に入るわけだけど、ここで連れがふたり。
ひとりは黄海で騎獣を捕らえることを生業にしている頑丘、そしてこれまた得体の知れない優男の利広。

ここからは昇山する珠晶たちの旅物語。
前半は、珠晶、頑丘、利広の3人で、おなじ昇山する者たちと黄海を進んでいく。

ここで黄海で生きるための手法をいろいろと見るわけだけど、もちろんそうでない者のほうが多い。
そうした知恵をなぜ教えないのかとよく頑丘と衝突する。

それでもしばらく一緒にいて、とうとう耐えられなくなって離れてしまう。

ここからが見せ場で、強大な妖魔がいて行ってはならないと言う道を別の者たちと進んでしまう。
妖魔の脅威に足がある者は逃げ、そうでない者は取り残される。
そんな者たちを心配して道を戻り、協力して妖魔を撃退する。

ちなみに、このとき、頑丘たちのように黄海に慣れた者がするような行動を珠晶は実践してしまう。
あえて言うけど、まだ12歳。

このあと、黄海で唯一すがれる神である犬狼真君(一部のひとには待ちに待ったひと)に出会ったりと、いくつかの出来事を経て、そして恭麒に出会い、登極する。

後半は完全に珠晶のひとり舞台。
様々なことを考え、困難を乗り越え、そして麒麟に選ばれる。

構成がどうとか、流れがどうとかはもういままでにさんざん言ってきたので言わない。
とにかく、この話は、珠晶に尽きる!

12歳は思えない聡明さと、子供らしい単純さ。
昇山しようとする気概とそして王に選ばれてしまうだけの器。

また陽子とは違ったかっこよさってのがある。

そして、また相変わらず最後のセリフが憎らしいくらいにいい。

「だったら、あたしが生まれたこきに、どうして来ないの、大馬鹿者っ!」

らしいっ、らしいぞ、珠晶!

まぁ、「風の万里 黎明の空」ではすでに在位90年を数える王朝になってるけど、この「風の万里 黎明の空」みたいな珠晶の登極後の話も読んでみたいと思う今日このごろ。



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