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つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

やって来い来い、鏡の迷宮

2005-10-03 23:41:13 | ファンタジー(異世界)
さて、児童文学ではない第307回は、

タイトル:鏡のなかの鏡―迷宮
著者:ミヒャエル・エンデ
出版社:岩波書店

であります。

『モモ』『はてしない物語』で知られるエンデの連作短編。
世界も人も全く異なる30の短編を収録。

非常に奇妙な作品。
一つの一つの短編は、それだけで一つの話として独立しています。
数頁に渡るものもあれば、たった2頁のものもあり、内容も千差万別。

ただし、前後で全くつながりがないわけではありません。
前の話で出た小さな要素が次の話で出てきます、本当に微妙だけど。
無理して深読みしようとすると、本当に迷宮にはまります。

それでは、と個々の短編の解釈を試みるのですが、これがまた難解。
エンデが自分の哲学を盛り込んでいるためか、理屈と皮肉を混ぜ合わせた奇妙な会話のオンパレード。
オチがなかったりするのは当たり前、最悪の場合、物語にすらなってないと思える話まであります。

あと、この作品をさらに特異なものにしているのが挿絵。
エンデの父にしてシュールレアリズム画家のエトガー・エンデが描いているのですが……正直、気色悪い。
好きな絵もないではないんですが(傘がいっぱい並んでる絵とか)、基本的には歪んだ景色ばかりだと感じました。

お気に入りは21番目の短編『山のうえの売春宮殿は、今夜』かな。
女王と乞食の舌戦は秀逸、二人の過去を想像するのも面白いです。
『ここは部屋である、と同時に』は素直過ぎて逆に面白くなかった。

エンデを児童文学作家だと思っている方にオススメ。
全体的にブラックな雰囲気が漂っているので、彼の別の面を見るには最適です。
(『はてしない物語』もある意味ホラーだけど……)

モルドールへGO!

2005-09-28 19:58:23 | ファンタジー(異世界)
さて、そういえば未完のアニメーションがあったなぁ、な第302回は、

タイトル:指輪物語(旅の仲間、二つの塔、王の帰還)
著者:J・R・R・トールキン
出版社:評論社

であります。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作。
カバー見たら3-6○○って名前が書いてあった……。
読んでから○○年経つんだなぁ、としみじみしてしまいました。(笑)

バトルファンタジー(?)の元祖です。
すべての指輪を支配できる『一つの指輪』を巡って、ホビット、人間、エルフ、ドワーフと魔王サウロンの配下が熾烈な戦いを繰り広げます。

問題は……長い

一言で言っちゃうと、ホビットの青年フロドが『一つの指輪』の所持者となり、仲間ともにサウロンの魔の手から逃れつつ、指輪を破壊できる唯一の場所である滅びの山を目指すお話。
これに枝ストーリーとしてフロドとはぐれた仲間達の冒険や、中つ国連合軍と魔王軍の戦いなどが挿入されています。

ただ、メインストーリーである筈のフロドの物語が非常に冗長。
盛り上がりに欠ける上、非常に細かいことまで書いてあるので、読んでて眠くなってしまいました。
フロドが嫌い……と言ってしまえばそれまでですが、序盤もかなり冗長だったし、単に旅の記述が退屈なだけかも。

強力だけど無敵ではない魔術師ガンダルフ、仕切ってるけど実はリーダー適正に難があるアラゴルン、指輪に魅入られて肉体が変質してしまったゴクリなど、味のある方々が登場しますが、個人的にはフロドの従者サムが一番好き。

サムは一芸に秀でているキャラではありません。
魔法は使えないし、剣技も並みかそれ以下、しかも泳げなかったりする。
しかし、忠誠心だけでフロドを守り続けます、はっきり言って最強。
つか、最後の最後までこいつがキーマンだった……。

見せ場は結構ありますが、全部通して読むにはかなりの気合いが必要です。
正直、飛ばし読みでいいと思う。(ひどっ)

失敗作

2005-09-23 19:02:38 | ファンタジー(異世界)
さて、こんなことを言うときついとは思いつつの第297回は、

タイトル:天の階 竜天女伝
著者:森崎朝香
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

とりあえず、最初のがなかなかだったので、まぁ、他に手を出してはずれを引くよりは、と思ったんだけど、見事にはずれ。

まぁ、こういうのもやってみようと言う意気込みはいいけど、失敗したら元も子もないわな。

……さておき、話は前と同様、古代中国を舞台にしたファンタジー。
前作「雄飛の花嫁」から時代が下り、統一王朝が出来たくらいの時代がベース。

ときの皇帝は、後宮に数多の女性を侍らせつつも、後継たる男子が産まれない。
ある占いに従い、出会ったのがとある隠者で、ある年のある時期に生まれた女児が後継たる男児を産むであろう、との予言を受ける。

それを受け、国中を探して9人の女児を捜し出し、18になる年に後宮へと召し上げることとなった。
その中には、恨みを持った妾に誘拐され、この捜索にかからなかった女児もひとりいて、まぁ、これが主人公と言うことになるのだろう。

著者のあとがきに曰く「いろんな『お約束』を集めた話」と言うだけあって、この選ばれた9人の女性たちは、確かにお約束なタイプ、と言える。
宰相の娘で、容姿、才覚ともに後宮においてさえ並び立つ者がいない女性や、皇帝の寵を受け、栄達を望む野心的な女性、かたや栄達などには興味がなく、好きな本を読んで暮らす女性、雛育ちであるが故に無知で、純朴な、けれどそれが寵を競う後宮にあって皇帝の寵を得る女性……などなど。

また、主人公は不吉な予言から頑なに女であることを厭い、剣を取って戦う女性になっている。

まぁ、これだけのキャラがいるのはいいとしよう。
主人公にまつわる占いと、皇帝が得た予言との関係も、ネタとしては、まぁ許容できるものと言えるだろう。

ただし、300ページに満たないたった1冊の文庫の分量で、これらの9人の話を、しかも主人公がいるのでそこにもページを割かないといけないと言う状況の中で描くとなると、どうしてもキャラクターに深みと言うものがなくなってくる。

前作の主人公も、お約束なキャラではあったけれど、しっかりと書き込まれた心理描写のおかげで、魅力的なキャラクターになっていたけれど、この作品ではそうした部分が大幅に抜け落ちているために、キャラクターが「お約束」と言う表面で捉えられる、薄っぺらなだけのものになっていて、主人公と9人のメインキャラそれぞれに魅力がほとんど感じられない。

主人公、皇帝に与えられた占い(予言)との関係、主人公が出会う男性の素性、主人公の素性、9人のメインキャラともに、せめて上下巻くらいで、じっくりと書き込んでくれれば、もっとキャラにも話にも深みが出て、読み応えのある作品になったのではないかと思う。

1冊と言う分量に縛られていたのであれば、9人のメインキャラの話ではなく、主人公を中心とした話にしたほうが、もっと読める話になっていたと思う。

そう言う意味で、はっきりと、著者には悪いが、『失敗作』と言っておく。
前がそれなりにいい得点をつけられただけに、非常に残念ではあるのだが……。

アリス・イン・ミラーランド

2005-09-20 10:16:10 | ファンタジー(異世界)
さて、こっちはいまいちマイナーな第294回は、

タイトル:鏡の国のアリス
著者:ルイス・キャロル
文庫名:新潮文庫

であります。

『ラビリンス』
『ARMS』
『キャベツ畑でつまずいて』
『真女神転生』
『アリス・イン・ナイトメア』

『不思議の国のアリス』をネタにした、もしくは影響を受けた作品を挙げだしたらきりがありません。
それぐらいこの作品は――現代から見ても――特異であり、その名が示す通り不思議な話だったのです。(個人的には不気味と言いたいが)

で、本作はその続編。
前作のベースが語りの中から生まれたのに対し、本作は始めから続編として書かれたためか、非常にロジカルな色彩が濃くなっています。
ビックリ箱的展開が薄れたためかイマイチ人気が低いのですが、前作より解りやすい作品になっているのは間違いありません。

本作のアリスは鏡の国を訪れます。
前作がトランプの国だったのに対してこちらはチェスの国。
そこでアリスは白軍の最下級の駒(白のポーン)の役割を与えられ、チェスで言うところの敵陣の最下行を目指します。

一応、元のゲームを知らなくても話の筋は解るようになっていますが、知っていれば多少楽しみが増えるのは事実。
ポーンが一手目は二マス動けることや、駒による王手、クイーンの凄まじい移動力等が、作品内でちゃんと表現されています。
個人的にはキャスリングもやって欲しかったけど。(笑)

禅問答のような会話も健在。
数学者らしく、妙な所で筋は通っています。
もっとも、御子様にはわけが解んないかも知れませんが。

一番面白かったのは赤の王の話。
この方ずっと寝っぱなしなのですが、すべては彼の夢なのだとか。
でも読者はこれがアリスの夢だと知っているわけで、じゃあ赤の王はアリスの夢の一部なのだけど、アリスもまた彼の夢の一部で……あ~こんがらがる。

ファンタジー好きよりむしろSF好きに向いてます。
ただ、今回読んだ新潮版の訳と絵はあまりオススメでない。
お兄さん風の語り口調で書かれているのがなんか気持ち悪いし、絵もテニエルのものに慣れてしまうとやはり違和感があります。
邪婆有尾鬼(ジャバウォッキ)、の表記は笑えましたが。

ちなみに昔読んだ岩波版(だったと思う)には、全キャラクターと駒の対応表が付いていました。もっとも、登場人物の殆どが実際の駒の動きとは関係ない行動を取るのであまり意味はありませんが。

なかなか……とは思いつつ

2005-09-18 19:15:48 | ファンタジー(異世界)
さて、久々にクラシックのコンサートに行って来たの第292回は、

タイトル:雄飛の花嫁 涙珠流転
著者;森崎朝香
出版社:講談社X文庫ホワイトハート

であります。

……前ふりと小説の内容はぜんぜん関係ないです(笑)

さておき、本書は古代中国をベースにした中国風のファンタジー。
主人公は、綏(すい)と言う国の公主である珠枝という少女。

公主とは言うものの、母親の身分が高くなく、近親婚を繰り返して血統を重んじる王宮にあって、周囲の冷たい蔑みを受けながらも、王である兄を慕って日々を暮らしていた。

だが、北方の蛮族の国である閃(せん)が、いくつかの小国を打ち破りながら綏へ迫っていた。
これまでの小国と違う規模の綏国に、戦うことはたやすいがその戦力や、自国の状況を勘案し、公主を正妃に迎えることを条件に和議を提案する閃。

珠枝とともにもうひとりいる公主……だが、珠枝は結構主義に固執する王太后の言葉に押し切られるように、慕っていた兄王から閃王である巴 飛鷹(は ひよう)のもとへ送り出されてしまう。

そうして、閃と言う異国で珠枝の物語は始まる……。

なーんて(笑)

まぁ、本の解説文だったらこんな感じかなぁ。
基本的には、珠枝の成長物語であり、飛鷹とのささやかな恋愛物語である、と言っていいと思う。

中国風と言うことで、格闘ゲームばりの派手な戦いや、得体の知れない道士が怪しげな術を使ったり、なんてことはまずない。
だいたいは珠枝の描写……生まれ育った綏への思いや、兄王への思慕、閃での役目、飛鷹との関わりなど、とても細やかに、珠枝の気持ちが語られている。

文章も1文がそこまで長くないけれど、珠枝の心理描写がしっかりしているので、適度に軽く読みやすい。
するすると入っていけるので、おそらくキャラへの感情移入もしやすいのではないかと思える。

ストーリーは、まぁ、上の解説文もどきを読めば、だいたいの流れはわかるはず。
奇を衒うこともなく、意外な結末がある……ほんのちょっとあるくらいで、大筋はとても安心して読めるお約束な話ではある。

ただ、文章の中で珠枝を表現する描写で、「悲愴な覚悟を背負った、けれど凛とした透明感のある姿」というような描写が、何度も何度も出てくるのは閉口する。
時折、強調するのにはいいけれど、こうも何度も出てくるとうざったくなってくる。

あと、ラストに歴史家が記す、と言ったような、珠枝や閃国、綏国などのその後を語った部分があるんだけど、個人的にここは失敗以外の何者でもないと思う。

まぁ、その前のクライマックスが終わったあとに流れが、だらだらしていて、それまでのいい流れを阻害しているので、全体としてラストはいただけない。
歴史家が記す、みたいな感じで書くにしても、十二国記のように史書の文章として、簡潔に書かれると、ラストがぴしっと締まるとは思うので、書き方をもっと考えればいいと思う。

ただし、ラストのこれを我慢すれば、全体としてなかなか読める話ではあった。
この手の中国ものが好み、と言うのを差っ引いても、十分に及第点を超えるだけの話になっている。

たぶん、ホワイトハートなのでライトノベル系に分類されるんだろうけど、ライトノベルというくくりでいけば、かなりの高得点をつけてもいいだろうね。

ファンタジー買います?

2005-08-22 00:22:42 | ファンタジー(異世界)
さて、ハヤカワFTも久々だなと思う第265回は、

タイトル:魔法の王国売ります!
著者:テリー・ブルックス
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

妻を失って抜け殻と化した弁護士ベン・ホリデイ。
ある日、彼の元へ妻宛の商品カタログが送られてくる。
その中に、特に目を引く広告が一つあった――魔法の王国売ります。

半信半疑ながらもバイヤーと接触し、彼は購入を決意する。
価格は100万ドル、決して安くはない、だが惜しくもなかった。
辛い思い出を振り切り、新たな人生を手にするため、ベンは旅立つ。

しかし、上手い話には落とし穴がある。
そして、この取引もその例外ではなかった。
寂れた王国ランドオーバーの王となったベンの運命やいかに……。

努力・友情・勝利から成る、ユーモア・ファンタジーです。
現実逃避のために幻想世界へ来た筈がそこでも苦労するところとか。
へっぽこな従者達と親交を深めていき、チーム一丸で闘うとことか。
ようやく何かが掴めたと思った時、巨大な敵と対峙するとことか。
もろハリウッドですね。(笑)

でも、主人公のベンは巻き込まれ型の情けない奴ではありません。
状況に振り回されながらも、ちゃんと自分の意思を通します。
職業柄か、素直に引き下がるということを知りません、突撃あるのみ。
時に臆病、時に喧嘩っ早い……でも誠実かつ責任感の強い人物です。
うーん、素敵なオヂサンだ。

脇を固めるサブキャラ達もいい味出してます。
情熱はあるが実力はかなり怪しい宮廷魔術師クエスター。
皮肉屋だが、認めた相手には礼を尽くす宮廷書記アバーナシィ。
ちょっと電波入ってるけど(笑)、無条件にベンを愛するウィロウ。
怖~い魔女とか、ちょっとすれた感じのドラゴンとかも出ます。

ちなみにこれ、ランドオーバーと呼ばれるシリーズの一作目です。
二作目以降は正式に王となったベンの苦労が語られるらしい……。
綺麗にまとまってるので、本巻で終わりでもいいかなと思います。

都合良くいかない、現実っぽいファンタジーが好きな人向け。
ダジャレはあまり出てきませんが、会話に味があります。

本の扉の向こうで何かが起こる

2005-08-03 19:54:22 | ファンタジー(異世界)
さて、実は女王様が一番怖い話な第246回は、

タイトル:はてしない物語
著者:ミヒャエル・エンデ
出版社:岩波書店

であります。

エンデの名を高からしめたファンタジーの傑作。
映画『ネバーエンディング・ストーリー』の原作でもあります。
本をこよなく愛する少年バスチャン・バルタザール・ブックス(凄い名前!)が、とある古書店から盗み出した『はてしない物語』をめぐるお話です。

作中の『はてしない物語』はバスチャンの言葉によってのみ語られるものではなく、独立した話としてきちんと書かれています。不思議な異世界ファンタージェンの荒廃と、それに立ち向かう勇者アトレーユの苦闘を描くもので、途中に挿入されているバスチャンの感想にうんうんとうなづいてしまうほど面白い。

アトレーユが立ち向かう敵は、魔王とか悪魔といった、確固たる悪の存在ではありません。広大なファンタージェンの各地に発生し、すべてを無に変えていく、『虚無』と呼ばれる不可思議な現象です。そして、誰もがそれに抗う術を持ちません。それでも彼は女王幼心の君のため、愛馬と共に探索の旅に出ます。

同年代の少年アトレーユの冒険に一喜一憂しつつ、物語にのめり込んでいくバスチャン。いつしか夜も更け、周囲から人の気配が消えた頃……異変は起こりました。作中に、あたかもバスチャンの現実と『はてしない物語』の世界が連動しているかのような文章が無数に出てくるのです。

決定的な一文を目にしても、バスチャンは読み続けることをやめることができませんでした。恐怖より先を知りたいという欲求の方が勝ったのも確かですが、絶望とともに終わりを告げようとしていたアトレーユの旅から目を背けることは、彼を見捨てるのと同じだと考えたからでもありました。そして、物語は佳境に入り――。

というのが前半のあらすじ。映画の1はこの前半部分だけをぶった切って、最後にロクでもないオチを付けた作品です。それでも好きですけどね……とにかく画像が綺麗だったので。

後半については敢えて語りません。抽象的な言い方をすれば、前半が『不思議の国のアリス』、後半が『鏡の国のアリス』といったところでしょうか。前半ではナビゲーターに近かったバスチャンが、後半では目一杯主役になり、さらに作者エンデの哲学が全面に押し出されてきます。『鏡~』ほど説教臭くはないけど。

虚無に飲み込まれていくものの描写、バスチャンが物語に浸食されていく過程、シュールかつ少し不気味な挿絵などなど、そこかしこにホラーの手法が使われています。同作者の『鏡の中の鏡』ほどどぎつくはないけど、恐がりのお子様にちょっとしたトラウマを植え付けるには充分。(笑)

ファンタジー好きなら必読。
一応、児童文学のカテゴリーに入りますが、大人も読むべし。

最後に映画の話をもうちょっと。
1のアトレーユと女王幼心の君の美しさは絶品です。
できれば2、3も同じ方々でやって欲しかった……。
まー、あのラストではエンデが激怒するのも解りますが。

古いのがいいとは限らないのでは?

2005-07-01 22:37:40 | ファンタジー(異世界)
さて、久々にまじめに読んだの第213回は、

タイトル:ゲルマン神話 -北欧のロマン-
著者:ドナルド・A・マッケンジー著 東浦義雄、竹村恵都子翻訳
出版社:大修館書店

であります。

前に世界神話事典を読んだのもあって、ふと本屋で見かけたので、久しぶりにしっかりしたのを読んでみよう、と思ったので買ってみた。

ゲルマン神話、と言うといまいち馴染みがないかもしれない。
どちらかと言うと、北欧神話と言ったほうが馴染みがあるだろう。
でも、ゲルマン民族が早くからキリスト教化して、古伝を失ったのに対して北欧ではそこまでではなかったため、ゲルマン民族の神話を伝えることができた、らしい。

だから、ゲルマン神話=北欧神話みたいな感じではあるけれど、もともとはゲルマン民族の神話らしい。

さて、まえがきを読むと、ゲルマン神話の原典でもある「古エッダ」を中心として構成されているようなことが書いてある。
確かに、神話なのだから古いほうが、もともとのものに近いはず、と言える。

だからと言って、読み物としておもしろいかどうかは別。

ゲルマン神話は、「天地の創造」から「神々の黄昏-ラグナロク」まで、神々や英雄たちの物語が描かれている。

まず、ヨーロッパの神話って、ギリシャ神話もそうだし、このゲルマン神話もそうだけど、かなり人間くさい。

オーディンは変身してトールを手玉に取るし、不死を得る林檎がなくなってうろたえるし、ヴァン神族にアースガルズは奪われるし。
あんたらほんとうに神様かい! って思えるくらい。

それに、この神話、最大の謎かもしれないロキの存在。
ラグナロクでは、結局このロキの子供である狼フェンリルにオーディンが、ミズガルドの大蛇ヨルムンガンドにトールが殺されてしまう。

そのくせ、いろんな悪事を企み、実現させながらもロキはオーディン以下のアース神族の中で生活している。

もちろん、そうしたところにも神話学では意味のあることだと語られているけど、ただ読み物として読む場合は、解決されない謎みたいなもの。

それに、古いからいいもの、と言うわけではなく、読み物としては支離滅裂だったり、話がつながらなかったり、展開が唐突だったりと、統一性に乏しい。

この本では翻訳のものと、訳者の解説があるので、どちらかと言うと解説のほうだけ読んでもいいかもしれない。
解説、と言ってもストーリーの概略も書かれているからね。

でもまぁ、原典に近いもの、と言う意味ではいいものかもしれない。
解説も、神話学の香りをさせつつも、平易に説明されているから読みやすい。

ただし、これだけのものに2500円も出せるか、と言うと読んだあとには、高すぎる、と言う感じ。
はっきり言って、新書くらいの値段でないと買わないよ、この内容だと。

行こ、行こ

2005-06-27 12:55:45 | ファンタジー(異世界)
さて、ちょっと乗り遅れた気がしないでもない第209回は、

タイトル:ICO―霧の城―
著者:宮部みゆき
出版社:講談社

であります。

同名のアクション・ゲーム『ICO』のノベライズです。
ゲームにハマってから読んだので、ちょっと(かなり)先入観があるかも。

その村には一つのしきたりがあった。
角の生えた子供を生贄として海の上の城に捧げるという。
今年の生贄の名はイコ――村でただ一人、角を生やした子供。

13歳の誕生日、イコは神官達に連れられて城へと向かう。
城の中、立ち並ぶ石棺の一つに閉じこめられてしまうイコ。
偶然に助けられて石棺から出たイコは城内をさまよい歩く。

人気のない廃墟の城。
そこでイコは檻に入れられた少女と出会う。
言葉の通じない二人は手をつないで外界を目指すが……。

上記のストーリーは小説、ゲーム共通です。
イコの年齢、しきたり等についてゲーム本編では語られませんが、取扱説明書にあらすじが記載されており、ある程度の情報が得られます。

話を戻して、本書は500頁強、四章構成の長編ファンタジーです。
各章の色がかなり違うので、一章ずつ解説していくことにします。

『すべては神官殿の申されるまま』……一章です。
内容はほぼ作者のオリジナルで、ゲームのストーリーになかった、イコが村を出発するまでの過程と霧の城の伝説についての解説がメイン。
イコ、その育ての親である村長夫婦、友人でオリジナルキャラのトトの葛藤、悲哀、憤り等の心情が丁寧に描かれています。

本書で一番出来のいい章で、イコが選ばれた戦士だったりとか、伝説の書が出てきたりとか元のゲームを知っている身として小説独自の設定に引っかかる部分があったものの、良くまとまっており、次章に期待して一気に読めました。ここだけならオススメ。

『霧の城』……二章です。
ゲームの序盤~中盤に当たる部分で、イコと少女が城のあちこちを巡り、外界に通じる正門までたどり着くも、そこで強力な妨害者と遭遇するまでを描きます。
城に登場する物言わぬオブジェクトに作者なりの解釈が加えられているのが特徴……なんだけど、その見せ方がひどい。

ゲームにない要素として、イコが少女と手をつなぐと彼女の記憶がフラッシュバックするというのがあるのですが、これが余りにも多い。
元のゲームが解説を極力排して、美しい景色を自分なりに解釈して楽しむものだっただけに、これはもう最悪としか言いようがありません。
せめて、イコが観察しつつ想像する描写でとどめて欲しかったところです。
記憶の中で解説されるのでは想像の余地がないので、ファンタジーとして見ても劣悪。

さらに言えば、ゲームをやっていないと城の構造がよく解りません。
描写は細かいのですが、それがかえって読者を混乱させていると思います。
ゲームやった人、やってない人、どちらにも勧められない最低の章です。

『ヨルダ――時の娘』……三章です。
完全オリジナルの話で、イコが霧の城で出会った少女ヨルダの過去を描いており、本書の三分の一近くを占めています(笑)。
はっきり言って作者はこの章を書くのが目的だったんじゃないか? と思えるぐらい気合いが入った章……というか独立した短編。

過去の霧の城を舞台にヨルダの視点で話は進みます。
彼女と城主の確執、放浪の騎士オズマとの出会い、武闘大会、など様々な出来事が展開し、この世界の輪郭がおぼろげながらに見えて来る。
凄い! という程ではありませんが、ゲームと切り離して普通のファンタジーとして見れば悪くない出来だと思います。

ゲームのヨルダについてちょっと触れておくと、彼女のモチーフは鳥です。
最初に入れられていた檻は高い天井からぶら下がっており、モロに鳥籠。
道中で鳥が出てくるのですが、ほっとくと彼女は一緒に付いて行ってしまいます。
透き通る真っ白な衣装も、鳥の翼を思わせます。

『対決の刻』……四章です。
ここは敢えて詳しく触れません。
今までの複線を統合し、過去と現在を知ったイコが城主に挑みます。

で、全体的な感想を言うと。

駄目だこりゃ

ですね。

詳しく語られないとは言え、ゲームには美しいストーリーが存在します。
寂れた城の中で右も左も解らないイコが、同じように捕らわれた少女に出会う。
イコだけでも、ヨルダだけでも城から出ることはできません。

生贄の少年と籠の鳥の少女。
言葉の通じない二人にとっては、つないだ手だけが唯一の絆。
そしてその絆を断たれた時、イコはたった一人で巨大な敵に立ち向かうのです。

最後の戦いでは角折られちゃったりするのですよ。
血がどくどく流れるのを見た日にゃ、もうボルテージ全開。

この城主、絶対殺す!

と画面に向かって吠えたのは私だけじゃない筈。

ところが、この小説版ではイコの闘う背景がすり替えられてます。
詳しく書かないけど、過去からの因縁みたいな、伝説の再来みたいな。

ふざけるな

で、切り捨て御免ですな。

ゲームを知らない人には楽しめる……かな?
ただ、1890円の値段に見合ってるかはちょっと言いかねる。

彼女の名はトンボ

2005-05-30 00:34:18 | ファンタジー(異世界)
さて、買ってきてすぐに読み終わってしまった第181回は、

タイトル:ゲド戦記外伝
著者:アーシュラ・K・ル・グウィン
出版社:岩波書店

であります。

先々週、先週と紹介してきたゲド戦記の外伝です。
またの機会に、と言いつつ速攻で買ってきて速攻で読んでしまいました。
正伝全五巻については、第167回第168回第169回第174回第175回を御覧下さい。

アースシー世界をよく知るには打って付けの作品です。
中編集なので、一つずつ感想を述べていきます。

カワウソ……暗黒時代を駆け抜けた魔法使いカワウソの一生を描いた力作。勇士マハリオンの死後、海賊の横行する無法地帯と化したハブナー。魔法の才を持ちながらそれを隠すことを余儀なくされたカワウソは、周囲のまじない師から正義を学び、海賊に抵抗を試みるが――。三百年前のアースシー、特にロークの成立を知ることができるファンにはたまらない一品。魔法使い同士の対決、カワウソのロマンスなど見せ場も充実。

ダークローズとダイヤモンド……表題になっている二人のロマンス。ハブナーの裕福な商人ゴールデンの息子ダイヤモンドは少女ダークローズと魔法使いの間で揺れる。人生いいとこ取りとはいかないが、三つは駄目でも二ついっぺんにぐらいならいけるんじゃないか、と考えたくなるのが人のサガ。しかしダイヤモンドはローズの恋人、商人、魔法使い、楽士の四つのうち一つしか選べないと思いこんでしまう。彼のラストの選択を責めはしないが、親父のゴールデンがかなーり可哀相な気がするのは歳を食ったせいか?

地の骨……ゲドの師匠の師匠の話。そのまた師匠も話もあるし、もちろんゲドの師匠もめいっぱい登場する。空に向かって「師匠ぉ~っ!」と叫ぶ(大嘘)ゲドの師匠に沈黙の師匠の威厳はないが、師匠然としていない師匠の姿を見られるのはなかなか嬉しい。師匠ばかりで読むのに支障をきたしそうな解説だが、私は何回師匠と言ったでししょう? 物語としては、オジオンがゴントの地震を止めた時の話です。←真面目な解説これだけかいっ。

湿原で……ゲドが大賢人だった時のショートエピソード。つまり、時系列では二巻と三巻の間に当たる。ハブナーの北西に位置するセメル島をガリーという魔法使いが訪れる。家畜の伝染病を治しに来たという彼にはある秘密が――。なんといっても、ゲドが登場するのが良い。三巻、その他でも何かとお騒がせな呼び出しの長トリオンもちょっとだけ話に出る。物語としては、ロマンスかな、多分。

トンボ……五巻で大活躍したアイリアンの生い立ち。女人禁制の魔法聖地、比叡山ならぬローク島の現状が描かれる。カルガド生まれの様式の長とアイリアンの交流が美しい。魔女による名付け、魔法使いとの出会い、まぼろしの森での時間、最後の対決、と流れるようにストーリーは進む。アイリアンの男前っぷりが炸裂しているのでファンは必見。第五巻を読む前に読んだ方がいいかも知れないが、後から読んでも支障はない、かな。ラスの驚きはなくなってしまうだろうが。

アースシー解説……アースシー世界の解説。ページは少ないが、竜、神聖文字、歴史、魔法等、内容はかなり充実している。読むと一巻から読み直してみたくなること請け合い。

以上、非常にお得な中編集です。
発表順でいくと四巻の後、五巻の前なので、順番通りに読むとアースシーの風がもっと解りやすくなるかも知れません。私の場合五巻の後でしたが、『トンボ』以外は特に問題ないと思いました。

というわけで今度こそゲド戦記は終わり。
だよね……ル・グウィン



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