大浴場には旅館の規模にしては立派な内湯と露天があって、それぞれ強い硫化水素臭の漂うお湯が贅沢に掛け流されています。湧出は毎分393リットルとのこと。豊富です。
・泉質:単純硫黄温泉 68.2度
・訪問日:2012年9月12日
乗鞍の山懐に抱かれた平湯温泉は海抜1,250m。平湯・新平湯・福地・栃尾・新穂高などから形成される奥飛騨温泉郷のなかでいちばんの歴史を持ち大きな旅館街です。
以前は山間の鄙びた温泉地だったのだが、安房トンネルの開通で松本方面からのアクセスが大きく改善、東京方面からの観光客が一気に増加しました。
さらに、上高地や乗鞍のマイカー規制が実施されたことにより、この平湯の駐車場に車を置いて、シャトルバスに乗るという観光パターンが定着し、たったひとつのトンネルの開通で秘湯から山岳観光の大拠点へと大きく変貌しました。
平湯温泉地内には約40もの井戸・源泉があり、全部あわせて毎分13,000リットルという膨大な湯量を誇るとともに、源泉ごとに微妙に異なる泉質を楽しむことのできる、温泉好きにはたまらない温泉地ですね。
この平湯の温泉街から少し離れたところ、平湯神社のすぐ横にある、飛騨地方の旧家を保存した平湯民俗館に併設された温泉を伺ってみました。
このお湯、入浴料は「寸志」…脱衣所と露天風呂ひとつのプリミティブなお風呂で、脱衣所には棚があるだけの実にシンプル。
早速浸かってみると、過度の加水のためやや温くはなっているが、茶褐色で少し金気臭のあるお湯が掛け流されています。舐めてみても無味ではあるが、うっすら硫黄臭が漂います。
お湯の質もさることながら、森林浴と温泉浴が同時に楽しめる極上の雰囲気。自然を慈しむことができます。
このすぐ近くの旅館の源泉は硫黄臭がもっと強いものの金気臭が全くしない。ほんの数十メートルしか離れていないのにこの違い。平湯のお湯の底力を感じますね。
・場所:濃飛バス・平湯BT
・泉質:炭酸水素塩泉・ナトリウム-炭酸水素塩泉、塩化物泉(緩和性低張高温泉)75.2度
・訪問日:2012年9月13日
七釜温泉(しちかまおんせん)は兵庫県北部の新温泉町、カニで有名な浜坂から少し内陸に入った岸田川畔にある鄙びた温泉地。温泉の発見は1955年というから、比較的新しい温泉です。
この温泉街には大旅館は存在せず、個人経営の旅館が数軒ある程度。場所が場所だけに冬場はカニ目当てのお客さんで賑わうそうなのだが、訪れた時ははシーズンオフ。温泉街は閑散としていて、この旅館も貸し切り状態でした。
カニのシーズンオフとはいえ、漁場に恵まれたこの地域のこと。新鮮な魚介類は事欠きません。
七釜では源泉の温度がちょうどいいので、ほとんどの旅館が加温も加水もない源泉掛け流しだそうで、もちろんこの旅館も同様。
小規模のお宿なので浴室もさほど大きくなく、浴槽もやや小さめだが、浴槽の水面下に湯口があって、そこから静かに新鮮なお湯が注入されています。
カーキー色のお湯は匂いも味も希薄。浴槽温度はやや高めで、浸かるとガツンと身に沁みます。あまりにも有名なカニに目が行きがちだが、実はこんな良泉が潜んでいるのですよ。
・場所:全但バス・栃谷七釜温泉BS、七釜温泉口BS
・泉質:ナトリウム・カルシウム‐硫酸塩高温泉 50.4度
・訪問日:2012年5月13日
京都丹後鉄道・夕日ヶ浦木津温泉駅からすぐのところ、木津温泉(きつおんせん)は京都府内でももっとも古い温泉です。今から1250年ほど昔、天平の飢饉で疫病が発生したとき、日本各地に開湯伝説を残している行基が人々にこの地に湧くお湯に浸かるよう説き、そのおかげで疫病の難から救われたといい伝えられています。
ここからそう遠くない場所、海岸近くにある夕日ヶ浦温泉は、その眺望とカニで人気のため、大規模な旅館が数件立っているのに比べ、この木津温泉には旅館が4軒しかありません。ここはそのひとつの老舗です。松本清張が長期に投宿し、「Dの複合」を執筆したことでも知られています。
新館にある大浴場には澄明なお湯が掛け流されています。匂いも味も感じられない淡白な浴感だが、アルカリ泉らしいしっとりとした肌触りが感じられます。
源泉温度が高くないので、冬場の加温は致し方ないが、それ以外の時期は自然の状態の新鮮なお湯を楽しめます。この大浴場には露天もあって、手入れの行き届いた庭園を眺めながらの入浴は格別です。
しかし、この旅館の値打ちは旧館にある貸し切り湯にあります。「ごんすけの湯」は小さな浴室だが、清らかなタイル貼りの浴槽に、天井にはステンドグラスが配されている。前期昭和のモダンが溢れています。
湯口からはほぼ適温の清澄で滑らかなお湯が掛け流されているが、熱くなりすぎたときにはもうひとつの湯口から冷泉を足し入れることができます。冷泉はライオンの口から流れ出てきます。
「しずかの湯」はさらに小さくなっていて、タイル張りやステンドグラスは同様だが、浴槽に浅い部分があって、寝っ転がりながら浸かることができる。これは気持ちいですね。有名な温泉評論家が「日本一の貸し切り湯」だと評価したのは納得でした。
この旅館、浴室だけでなくロビーやピアノのある休憩室にも昭和初期のロマンティシズムが漂っています。鉄筋コンクリート造りの新館に比べ、旧館は床がギシギシ軋むなど古さは否めないが、逆に雰囲気が抜群。
加えて料理もいいですね。
なるほど、松本清張が落ち着きすぎて2ヶ月も滞在してしまった理由が見えてきました。
・場所:京都丹後鉄道・木津温泉駅
・泉質:単純泉 40.2℃
・訪問日:2010年5月30日
コウノトリが傷を癒していた事により発見されたとの伝説がある城崎温泉は、1300年の歴史をもつ「海内第一泉(かいだいだいいちせん)」の誉れ高き温泉で、現在も有馬温泉、湯村温泉とともに兵庫県を代表する温泉です。
JR山陰線・城崎温泉駅の辺りから大谿川沿いに7つの外湯をはじめ、木造の古い旅館や商店が建ち並ぶ温泉街を形成し、川べりにそよぐ柳が独特の風情を造り上げています。
城崎温泉はすでに江戸時代から賑わいを見せており、近郊の藩主や藩士が多数訪れており、また、幕末に桂小五郎が新選組に追われて城崎温泉に逃げてきたこともあったとのこと。
さらに明治以後、文人墨客に愛され、『城の崎にて』を書いた志賀直哉、作家・有島武郎をはじめとする多数の文豪が来訪。最近では元兵庫県議会議員の野々村竜太郎氏がたびたび視察?に訪れたことでも有名になりました。
城崎温泉では戦前まではほとんどの旅館に内湯が無く、戦後、内湯を認められるようになっても、その規模を制限されているため、宿泊者は7つある外湯に出向くことになります。
旅館宿泊者は全外湯の入浴料が免除され、全外湯を巡る「外湯めぐり」が名物となりました。その際、浴衣を着て下駄を履くのが正装とされ、ほとんどの旅館では旅館内用の浴衣とは別に、温泉街を出歩くための浴衣も用意しています。浴衣姿の宿泊客が下駄を鳴らしながらそぞろ歩く様は温泉情緒のひとつとなっています。
昭和の高度成長期、制限されてるとは言え各旅館に内湯が造られるようになると、お湯の安定供給が課題となり、1972年、すべての源泉のお湯を集中配湯管理施設に集められ、町内に張り巡らされている配管を通じて各外湯・旅館に送られるようになりました。
湧出温度が37~83 ℃の各源泉のお湯を、平均温度を57 ℃に安定させてから各外湯や旅館に配湯されています。それらに満たされてる澄明で塩辛いお湯は、循環ろ過の程度や加水の有無、清掃のタイミングにより多少の違いはあるが、基本的にどこも同じ泉質です。
外湯は大谿川の上流から下流に向かって鴻の湯、まんだら湯、御所の湯、柳湯、一の湯、地蔵湯があり、駅隣接のさとの湯を合わせて全部で七湯。
最も奥にある「鴻の湯」は城崎で最も歴史ある湯で、源泉に最も近い位置にります。また、ここには美しい庭園露天風呂があります。駐車場があるので日帰り入浴も多いようです。しかし、この駐車場が邪魔をして、徒歩の入浴客は公衆トイレの直前を横切って入ることになります。も少し配置に工夫が必要ですね。
まんだら湯」は「鴻の湯」に次いで歴史ある湯です。717年(養老元年)から720年(養老4年)、道智上人が千日の修行を行った末に湧出したことが城崎温泉のはじまりとされ、ここはその所縁の場所にあります。小さい浴槽だが、珠から湯が溢れてくるデザインは仏教的な因縁を感じさせます。
「御所の湯」は後白河天皇の御姉安嘉門院、御入湯の湯として由緒のある外湯。七湯の中でリニューアルが最も直近で、寺院のような建物は相当お金がかかっていると感じさせる豪華なつくりです。天井がガラスの内湯と露天とはつながっていて、大扉を開ければ全浴槽がオープンエアに。露天の奥には人工の滝を配し、温泉を楽しませようとの演出は抜群。しかしお湯はかなり薄まっていると感じてしまいます。
「柳湯」は 柳の木の下からお湯が湧き出たからこの名とされたとか。外湯のなかで最も小さいが、新しく小ぎれい。湯は熱めで、浴槽は小さいが深い。温泉感もあるし、静かで落ち着きます。
外湯の筆頭とされる「一の湯」は、江戸時代「新湯(あらゆ)」と呼ばれていたが、江戸時代中期の漢方医、香川修徳が「海内一(日本一のこと)」の泉質と絶賛したことから「一の湯」に改名したとのこと。規模は大きい部類で、山肌に掘った洞窟風呂が自慢です。しかし集中配湯の泉質にこれといった特徴もなく、温泉感は希薄です。
この温泉の泉源からお地蔵さんが出てきたからこの名となった「地蔵湯」は、そのことから建物横に地蔵尊が奉られています。江戸時代には、城崎の村民の多くに親しまれていた里人の湯で、古き良き、城崎の温泉文化の名残を留めるレトロモダンな施設です。
「さとの湯」は日本最大の駅舎温泉です。正式名称を「豊岡市立城崎温泉交流センター」といい、指定管理者によって運営される公設民営の温泉施設です。城崎では比較的新しく、最も巨大な外湯です。ここでは多種のサウナが整っているのがユニークですが、温泉でサウナが自慢ってなんで…?ただ、「ペンギンサウナ」と称する極低温サウナは秀逸。5度に設定していて、外湯めぐりで湯あたり気味の体には実に快適でした。
各外湯にはそれぞれ由緒はあるものの、今やどこも同じ温泉水が満たされているだけなので、それぞれのお湯の違いを楽しむことなどできません。ここは温泉そのものより温泉情緒を楽しむところだといえます。
・場所:JR山陰線・城崎温泉駅
・泉質:ナトリウム・カルシウム‐塩化物泉 75度
・訪問日:2007年5月8日
鹿児島空港の東側、天降川の畔にある妙見温泉、ここでは川沿いを掘削すると火山性の炭酸水素塩泉が自噴するという、豊富な源泉に恵まれた温泉地です。この「雅叙苑」は古民家を移設した田舎情緒溢れる温泉旅館で、メディアの露出も多い、予約困難な有名旅館です。
敷地内に入ると標識があって、ここでは人や車より鶏の通行が優先されるとのこと、気分を盛り上げますね。
この旅館の客室は全10室。そのうち8室が露天風呂付きになっていて、スタンダードな部屋でも二間続きで20畳ぐらいの広さをもっています。客室、お風呂、食堂、ロビーなどが、それぞれ独立した建屋になっています。
ここの一般浴場「建湯」は、一枚岩をくり貫いた浴槽が特徴、岩の手触りがいいですね。お湯はやや白濁した炭酸水素塩泉で、舐めてみると長湯温泉ほどではないがかなりの金気臭が感じられる。赤茶色の湯の華が舞っていて温度も比較的高めで、ガツンと身に沁みいるお湯です。
ここの白眉は貸切浴場の「ラムネ湯」にあります。部屋名の入った木札をお風呂の入口に引っ掛けることにより「貸切風呂」となるシステム。ここには2つの浴槽と打たせ湯があり、入口に近い浴槽は比較的湯温が高い炭酸水素塩泉、建湯と同様のガツン。
奥の浴槽は低温の澄明なお湯です。「ラムネ湯」というのはこれのことかな?かなり温いがしばらく浸かっているうちにホカホカしてきます。舐めると確かにラムネのような炭酸を感じます。実に優しい浴感、これはひとたび浸かってしまうと時間が止まってしまう…
このラムネ湯は今のような特徴的な旅館となる前、普通の温泉旅館だったときの大浴場。それを貸切専用にして再利用しているのですね。こちらの風呂にはシャンプーや石鹸が置いてなくて、純粋にお湯を楽しめるようになっています。10室中、8室が露天風呂付き客室なので、この貸切湯が混み合うことはないでしょう。ゆったりできますね。
お風呂はさらにもう一つ、天降川沿いに露天風呂があるようだが、大雨などによる増水で目隠しの囲いがしばしば流されるため、現在は足湯になっているとのこと。しかし、この日はそのお湯すら抜かれていました。冬場は使用しないのかもしれません。
この旅館の料理は良質の素材を用いた素朴ながら手の込んだ数々が並びます。
メディアで見るイメージとは違い、絶景があるというわけではないし、近くの道路を走る車の音や鹿児島空港を離発着する飛行機の騒音が聞えたりして、秘湯というような気はしない。が、田舎の親戚を訪ねてきた感覚っていうか…なんだか心安らぐんですよね。
「和」の空間構成は、それが作られたものであるとしてもかなり心地よい。これぞ空間デザインの成果。スタッフのみなさんの肩に力の入っていない適度なホスピタリティも心地いいですね。お代は決して安くはないが、それ以上の値打ちを感じさせてくれました。
指宿駅から開聞岳に向かうバスで20分ぐらいのところ、伏目口BS近くにある温泉です。日本最南端の鉄道駅として有名な西大山駅を使うことも可能だが、かなり歩くことになるのでバスの方が賢明です。
火山地形の海岸に向かって崖を降りる急な坂道を進んで行き、眼前に恐ろしく尖った竹山、後ろに美しいコニーデの開聞岳(曇っててその裾しか見えなかったが…)を眺めながら防波堤沿いを200mぐらい歩いたところ。温泉の蒸気がもくもく立ち上っているからすぐ判りました。
コンクリート造りの質素な建物が山川天然砂むし温泉の本館です。温泉と行ってもここは指宿。砂蒸し温泉です。まず、受付で入浴料(800円)を支払い、浴衣を借り受けます。脱衣所で素っ裸になって借りた浴衣を纏い、タオルを持って外へ。
砂場でタオルを被り、タオルの両端を口で噛んで砂の上に横たわります。そしたら麦わら帽子のおっちゃんがスコップで砂を掛けてくれます。
この状態で10分から15分蒸される訳だが、想像以上に砂が重くて少し苦しい。それより、足の先が熱い…というか痛い。これで10分も耐えれるのか?っと最初は思ったが、だんだん慣れてきて、つま先の痛みも心地よく感じてきました。
波の音を聞きながらジッと耐えていたら、恐ろしいぐらいの汗が噴き出してきました。それより、全身が圧迫されているので、ドクドクと脈打つのが感じられる。それは相当新陳代謝が得られそうです。
さすがに15分もすると耐えられなくなり、砂をかき分けて脱出。すると、不思議なことに全身に清涼感が駆け巡る。これが実に気持ちいい。砂に埋まってる間、砂ををかけてくれるおっちゃんが写真を撮ってくれるのもありがたいサービスです。
砂蒸しの後は浴場で汗を流します。ここのお湯、ここ単体でも充分の値打ちがあるお湯が掛け流されています。排水がそのまま海に流れていくため石鹸類は使えないが、ここで石鹸を使うのはもったいない、トロトロで塩気の強いナトリウム泉です。
指宿の旅館街にもきれいで立派な砂蒸しの浴場があるようだが、こちらの方が小ぢんまりして素朴なので好感が持てます。
・場所:鹿児島交通、伏目口BS
・泉質:ナトリウム-塩化物泉
・訪問日:2011年6月27日