バスde温泉

バスで行く温泉旅日記

未だに残る鉄道連絡船の旅

2016-04-24 10:00:13 | 乗り物(船舶)
一昔前、鉄道利用者が本州から北海道へ行くには青函航路。本州から四国へは航路という、鉄道連絡船を使って海峡を渡っていました。列車を降りて連絡船へ乗り継ぐ際、連絡船の座席を確保するため、駅のプラットホームで誰もが猛ダッシュ…なんて光景が年末年始やお盆などの風物詩となっていました。
 
青函トンネルや瀬戸大橋が開通した今では、北海道や四国に鉄道で直通できるので、今やこんな面倒くさい鉄道連絡船なんて日本では無くなっているものと思っていました。
 
ところが、実はまだ一昔前の面影を残す鉄道連絡船がしぶとく生き残っているんですね。そのひとつはJR西日本の宮島航路。JR山陽線や広島電鉄から船に乗り換えるので、確かに鉄道連絡ではあるが、どちらかというと観光船というイメージが強い。
 
それよりもっと鉄道連絡船の面影を残している航路があります。それが和歌山港と徳島港を結んでいる南海フェリーです。大阪ミナミの真ん中、南海電鉄・難波駅から和歌山に向かう特急サザンの一部が、和歌山市駅を経て和歌山港駅まで直通しており、この駅で南海フェリーが連絡、紀伊水道を渡って徳島に向かうというものです。
 
桜も散り果てて、日中には暑さも感じられるようになった春の日、この貴重な鉄道連絡船を使って四国にわたることにしました。早朝の7時前、大阪環状線の寺田町駅から新今宮駅へ。ここで南海に乗り換えます。
 
和歌山市駅行きの急行に乗りました。この時間帯はまだ特急サザンの直通はなく、和歌山市駅で乗り継ぎになります。和歌山市駅で和歌山港線に乗り換えです。和歌山港線用のホームに7200系の2両編成が待っていました。この7200系は南海電鉄の中で最大の車両数を誇る系列だが、車両の痛みも目立ち、そろそろ取り換えも始まるようです。
 
単線の和歌山港線で、起点の和歌山市駅の次の駅がもう終点の和歌山港駅。以前は途中駅もあったようだが、利用者がいなくなったので廃止されました。5分ほどの乗車で和歌山港に着きました。
 
電車を降り、PITAPAをピタっとタッチして改札外へ。ここまでは普通の駅と変わらんが、目の前に南海フェリーの案内看板が立っている。少し進むと長い回廊が続いています。ボーディングブリッジですね。この回廊にはなんとムービングウォークも設置され、にわかに船旅気分が高まります。
 
回廊の終端に券売機があり、ここで乗船券を購入。片道2,000円です。切符を係員にスタンプしてもらって渡り廊下を渡ると、そこは後部甲板。いつの間にかもう船に乗っていたようです。
 
甲板を進み船内へ。入り口では南海フェリーの萌え系キャラの「高野きらら」たんと「阿波野まい」たん(苦笑)がお出迎えです。南海フェリーの船舶は「フェリーかつらぎ」と「フェリーつるぎ」の2隻。今回乗船したのは「フェリーかつらぎ」です。
 

和歌山の特産品「みかん」をイメージした「クリームオレンジ色」の船体は全長/108.00m、全幅/17.50m。船のの大きさを示す総トン数は2,620トンで、近距離用に適した中ぐらいの大きさです。性能は「フェリーかつらぎ」も「フェリーつるぎ」もほとんど同じ。速力/21.60ノット、旅客定員/427名、最大搭載車両台数/8tトラック換算39台です。
 
船室は80席のリクライニングシート席と、日本のフェリーでは定番のじゅうたん席が主体で、他にテーブル席や図書館のようなブースがあるビジネスコーナー、簡易ベッドのあるドライバールーム。それに加えてセレブな方には別料金のフルリクライニングを備えた30席のグリーン席もあります。
 
船室の中央部には売店があって、お弁当やお土産、そして例の萌え系キャラによるオリジナルグッズも販売されています。経営の苦しいフェリー運行を支える孝行娘たちですね。
 
船室をサラッと観察してリクライニングシート席に座るとまもなく出港。さすが鉄道連絡船。連絡は実にスムーズです。席に落ち着く間もなく、今度はデッキに出てみましょう。
 
ブリッジの真後ろに展望デッキがあって、海風を浴びながら紀伊水道の景色が広がっています。春の海は穏やかで実に気持ちいい!この海には時々イルカ君が現れるとのこと。しばらく粘って眺めていたが、残念ながら見つけることはできませんでした。
 
航路の半分ぐらいにさしかかったころ、左舷前方に徳島港から出港した僚船「フェリーつるぎ」が見えてきました。フェリーはのんびり進んでいるようでも、相対速度になるとけっこう速い。他の写真を撮ったりして目を離していたら、すぐに通りすぎて行きました。

デッキで海風を浴びていたらさすがに寒くなってきた。席に戻ってリクライニングを倒すと、すぐに意識が遠くなってきた…今朝はいつになく早起きしたからですね。間もなくの到着を告げる線内アナウンスで目が覚めた。急いで再びデッキへ。船員さんたちが着岸準備に追われています。艫綱を岸壁に投げると地上側の職員がナイスキャッチ。みるみる接岸されて行きました。
 
出口は右舷の中ほどから。自動車の乗客は車両デッキからの下船になるので、今ここで下船を待っている20人ぐらいの方々が鉄道連絡の乗客。そう考えると少ないですね。バス1台分にも満たない…
 
ボーディングブリッジの先はフェリーターミナル。ここにはお土産売り場と食堂、そしてちょっとしたコンビニがあって非常に充実しています。ターミナルビルの正面に、徳島市交通局の連絡バスが待っていて、このバスが徳島市の中心部を経て徳島駅とを結んでいます。残念ながら、この徳島側が鉄道連絡ではなくバス連絡。なので完全な形の鉄道連絡船ではないのが残念なところです。
 
以前はこの航路の徳島側の港が小松島港となっていて、1985年までは国鉄小松島線を介して両端が鉄道連絡となっていたが、小松島線が第1次特定地方交通線に指定されて廃止され、完全な鉄道連絡船という形態が失われました。その後、徳島県側の港が徳島港に変更となり、現在のようなバス連絡になったようです。
 
バスの車両は「エルガミオ」のノンステップ。料金は後払いで一律210円。それほど待つことなく出発しました。途中、地元のお客さんをこまめに拾って徳島駅に近づくに従って立ち客も出る盛況具合。20分ぐらいと意外に時間をかけて徳島駅に到着。大阪・徳島の鉄道連絡船を完全乗車しました。
 
やや不完全な形ではあるが、今や貴重な鉄道連絡船の雰囲気を味うことができる南海フェリー。船は古くなってきてアラも目立つが、船内をリニューアルしカラーリングも変更、南海電車との割引企画切符販売など大変努力されていると思います。厳しい環境はまだまだ続いているでしょうが、なんとか今後も航路を維持してほしいものです。