「guntû(ガンツウ)」は、「せとうちに浮かぶ小さな宿」をコンセプトに、中四国の瀬戸内海沿岸における景勝地を錨泊しながら周遊する宿泊型の客船です。尾道市にあるベラビスタマリーナを母港として2017年10月17日に就航しました。
体は全長:81.2m・全幅:13.75m・総トン数:3,200t。船のデザインは建築家の堀部安嗣氏で、屋根瓦のある瀬戸内の風景に溶け込むような三角屋根と、海の色にあわせて変化するシルバーの船体が特徴です。
客室は4タイプで19部屋、乗客数は最大38名。世界遺産の宮島やモダンアートで知られる直島など、瀬戸内海を巡るさまざまな航路を2泊3日、または3泊4日をかけて10ノットの巡航速度で周遊します。
今回、妻殿と一生の思い出に残る旅を…ということで、この「guntû」に乗船してみることにしました。2019年秋のツアーがリリースされた半年前、清水の舞台から飛び降りる気持ちでなけなしの貯金をはたき、待望のこの日を迎えることができました。
今回、申し込んでいた航路は1泊目は宮島沖、2泊目は大三島沖に錨泊する2泊3日のプラン。2019年10月6日の出港です。
山陽新幹線・福山駅からお迎えの車でベラビスタマリーナに着くと、アテンダントの女性がエントランスで待っていてくださいました。専用のラウンジでチェックインの手続きとともに飲み物やお菓子のサービスがあります。
目の前のマリーナの奥に、建物が海の上に浮かんでいるようなユニークなデザインの「guntû」が佇んでいました。常石造船で建造中の巨大な貨物船と並ぶと「guntû」は小舟。それらの船影を眺めながらシャンパンは美味い。
乗船時間になると電動カートで桟橋へ。右舷から乗り込むと登場スタッフのお出迎えがあり、担当の案内で船室へ。私たちの部屋はスタンダードな「テラススイート」ながら、海に面したテラスやバスルーム、小さいながらもリビングもあります。
なお、最高級の部屋は操舵室の真上、船首の前方を独占するにある「ザ ガンツウスイート」で、その次が「グランドスイート」。どちらも露天風呂が付いていて、部屋もかなり広く取られているとのこと。
部屋に届けられていた荷物を整理していると、いつの間にか少しずつ桟橋から離れています。エンジン音も揺れもしないので全然気づきませんでした。港を出たところで長声一発!いざ出航です。
船内は3層になっていて、最上部のDECK3にはメインダイニング、寿司カウンター、カフェバー、ラウンジなど。中間のDECK2に最高級の「ザ ガンツウスイート」を含む客室、ジム、エステ、サウナ付き大浴場。そして下層のDECK1には乗船口とともに「テラススイート」が並んでいます。
また、DECK1の先端は操舵室があり、後部は寄港先での上陸時に使用するテンダーボート2隻を搭載するACTIVITY DECKとなっています。そしてその下は機関室・乗組員区画とのこと。
出港してから30分ほど、DECK3の左舷にある「縁側」に寝そべりながらシャンパンとカナッペをいただいていると、尾道水道に差し掛かりました。「guntû」の右舷に尾道市街が迫ってきて、こちらに手を振る人々の表情まで見えてきました。
「guntû」での食事は「お好きなものを、お好きなときに、お好きなだけ」がテーマ。メインダイニングは東京都原宿の老舗割烹「重よし」の佐藤憲三氏が監修で、瀬戸内の新鮮な食材をふんだんに使用し、手の込んだ料理を提供しています。
さらに炭焼き台が設けられ、選んだ魚介やお肉、野菜をグリルしてくれるほか、和食だけでなく洋食やスイーツも楽しめます。もちろんワインや日本酒などのストックも多彩です。
メインダイニングの一角には6席だけの小さな鮨カウンターがあり、2名の職人が待ち構えています。こちらは淡路島「瓦(のぶ)」の坂本瓦生氏の監修で、獲れたての海の幸をネタにしつつ、アイディアあふれる握りの姿を見せてくれます。
食後は前方のカフェバーでグラスを傾けます。スコッチやバーボン、ジャパニーズなどの各種ウイスキーやシェリー・ベルモットなどが用意されているほか、瀬戸内海をイメージしたオリジナルカクテルもいただけます。
気候が良ければ前方のデッキや左舷の縁側で過ごすことも可能。街の灯を眺めながら杯を重ねるのは気分も高まります。多少飲みすぎたところで、エレベーターで下に降りれば部屋にすぐ戻れるのもいいですね。
部屋に戻ればフルーツが用意されていました。この日は岡山のシャインマスカット。小型のワインセラーにはハーフの高級ワインなどがストックされているので、リビングでさらにグラスを傾けます。
「guntû」の素晴らしい料理の詳細は食べログで。
テラスの一角にバスルームがあり、もちろんオーシャンビュー。コックをひねればすぐに適温のお湯が出てくるし、質の高いアメニティーも充実しています。とても船の中とは思えません。
TVが設置されていないのもいいですね。せっかくの非日常を楽しむにはTVはむしろ害悪です。代わりにi-padがあって、音楽や映画を楽しむことができるが、使用が集中する時間帯ではWi-hiが不安定。これについては改善が必要だと思います。
「guntû」では様々なアクティビティー(船外活動)が用意されています。今回の航路の翌早朝、宮島の厳島神社周辺で早朝散歩を楽しみました。参加者はDECK1の乗船口に集合してライフジャケットを装着、「guntû」に2艇搭載されたテンダーボートに乗り込んで宮島に上陸します。
テンダーボートに乗り移るには「guntû」に設置されている桟橋を利用します。この桟橋が非常によく出来ていて、安全に乗り移れるだけでなく、水上飛行機も横付けできるとのこと。
「guntû」の朝食もメインダイニングで用意されます。和・洋のプリフィックスのメニューから選ぶことになるが、それ以外でも食材さえあれば希望を叶えてくれることも。
ビュッフェコーナーには瑞々しい野菜とともに多種類のドレッシング、ジュース、ヨーグルト、シリアル、チーズ、フルーツが取りそろえられています。
DECK3の最後尾は「和」をイメージしたカーペット敷きのラウンジとなっています。ここでは靴を脱いで座敷感覚で寛ぐことができるとともに、立礼による本格的なお茶席が設えられています。
ここでいただける茶菓子は奈良「樫舎(かしや)」の喜多誠一郎氏監修による本格的な和菓子です。和菓子職人が目の前で作ってくれる乾菓子や最中をお茶とともにいただくと、心穏やかにさせてくれます。
この「guntû」はディーゼルエンジンで発電し、モーターによってプロペラを回す電気推進です。潜水艦みたいですね。そのおかげで音も静かで振動も少ない。さらに船特有の重油の臭いも気になりません。
波穏やかな瀬戸内を滑るように進んでいるうち、遠くのほうにベラビスタマリーナが見えてきました。マリーナから水上飛行機が飛び立とうとしています。夢のような2泊3日も終わりに近づいてきました。スタッフが部屋に訪ねてきてチェックアウトと荷物発送の手続きをします。
揺れもなく静かに桟橋に接岸しました。いよいよ豪華な船旅のフィナーレです。桟橋には乗客を福山駅や広島空港に送るリムジンが待機しています。下船口には「guntû」の大多数のスタッフがお見送りに集まっていました。
乗客は方面ごとに順次呼び出され、リムジンが走り去っていきます。私たちの番が来てリムジンに乗り込みました。静かにリムジンが出発、操舵室の外にキャプテンが立ち、私たちを見送ってくださいました。
この夢のような船の旅、気になるのはその料金です。部屋のグレードによって変わるが、基本的に1泊40万円~100万円(1室を2名利用の場合)。今回は2泊の航路なので、いちばん安いグレードの私たちは80万円の支払いです。
乗船中の食事や通常のサービスはすべて含まれているので、積まれているごく一部の高級ワインを飲んだり、ショップでの購入、エステの利用が無ければ追加料金はありません。
なのでこれを高いととるか安いととるかはその人の考え方次第でしょう。煌びやかな豪華さは無いが、新鮮な食材に囲まれて、スマートな空間で気の利いたサービスを受けることができるのなら、決して高くは無いでしょう。
穏やかな瀬戸内の洋上で過ごす極上の船旅。これは一生の思い出に残ることに違いありません。