庭でタバコを吸っていると、目の前のオジギソウの植木鉢に一匹の毛虫がいる。植木鉢の縁を黙々と歩いています。ま、そんなこともあるでしょう。どんな蛾になるのか、蝶になるのか私にはわかりません。背中にコブみたいなのを4つ背負っている。私はしばらく、そこから目を離して、他の所をぼんやり見ていた。植木鉢に目を落とすと、まだ縁を歩いている。
今度は、注意して毛虫を見る。黙々とまた一周した。ときどき止まっては、下を覗き込んだり、下に降りようかなという素振りを見せるが、結局は、また歩き始める。黙々と。私が見ている限り、4周目くらいで、また下を覗き込むが、やっぱり縁を歩いている。植木鉢の直径は30センチを超えている。つまり1周で1メートル以上はあるはず。君は、どこへ行きたいのだ。そんな視線を投げかけても毛虫は夢中で縁を歩く。もう5周目。私は庭に落ちている小さな小枝を植木鉢の縁に差しのばした。そこへ毛虫がやってくる。一瞬、びっくりしたように立ち止まる。そして、道を邪魔している小枝に乗っかった。私はその小枝を、地面においた。小枝を降りた毛虫は植木鉢とは反対方向に去っていった。
無限ループにはまった毛虫を笑ってはいけないよ。私たち人間だって、気付かないうちに何かのループにはまっていて、気付いていないだけかもしれない。考えてみれば、そういう人はよくいますよね。そういう人ほど、他人のいうことに耳を貸さないのだから。私も気をつけなくっちゃ。世の中の、狭い世界の中を、グルグルグル。当人は、未だ気付いてはいない。明日も、グルグルグル。