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終戦のエンペラー

2013年08月03日 | さ行 外国映画
日本人なら、ほぼすべての人が見たことであろう写真が二枚。コーンパイプをくわえ、レイバンのサングラスをかけ、飛行機のタラップを降りてくるがっちりした体格の男、必ず自分を撮るときは、下からのアングルで!と命令していたそうな。男は、言わずと知れたダグラス・マッカーサー。敗戦の日本に、今から私がここを統治する!!と言葉なく宣言している図だ。

そして、それまで、すべての日本人が現人神として、顔をまともに見ることのできなかった存在と、ラフな格好でならんで撮ったツーショット。この写真が、どれだけ日本人にショックを与えたかは、計り知れない。

GHQの総司令官として、小学生からの教科書に載ってる彼は、かなりの複雑な心境で日本にやってきた。 根っからの軍人で、第一次世界大戦でも活躍。大将となった太平洋戦争当初に、日本軍からの攻撃に敗走を余儀なくされた。上昇志向が強く、骨の髄まで軍人で、負けず嫌いな彼が、唯一と言っていい敗走がこの日本軍との戦い。

どれだけ彼の自尊心を傷つけたか。「I SHALL RETURN!」があまりにも有名だが、厚木に降り立った時、日本をどうしてくれようか!!との思いに駆られ、間違っても冷静な精神で来たわけではない。

彼がやったことは、この無残な戦争を始めたのは、一体誰だったのか?誰の責任なのか?あの摩訶不思議な日本のエンペラーが最大の戦争の責任者なのではないか?彼にとっては、結論ありきと言ってもそれほど言い過ぎではないと思う。

しかし、偏屈ではあったが、公正だった。というより、天皇に責任があったんだ!ということを徹底的に調べ上げて、ぐうの音も出ない状態に追い込んで、日本を支配する・・・との結果だったのかもしれない。

そのとき、日本のことを徹底的に調べ上げたのが、ボナー・フェラーズ将校。日本通であった彼は、日本人の独特の価値観を理解しうるアメリカ人で、どう統治すればより最善の状況になるのかを出来るはずの人・・・。

ということで、若干懸念のあった作品。監督は、「真珠の耳飾りの少女」という傑作を撮ったのですが、その後はどうもなかず飛ばず。あれはまぐれだったかなあ~と感じてきてますが、感性はなかなか鋭いと思いますので、どのように廃墟の日本を撮るんだろう・・・と思った次第。

丁寧でした。とっても。一つ一つがとっても丁寧で、変な日本人もいなければ、戦争の立役者のよく見知った人たちの当て方がまたお見事。火野正平さんが東條英機とは、なんかものすごく納得。出番はとっても少なかったのですが、やはり自転車が忙しいんでしょうか。そんな冗談はさておき、この映画の重厚さを醸し出してたのは、この日本の重鎮たちを演じた俳優陣の力だと思う。

映画に対する姿勢がとっても良かったように思うだが、難点はサラッと描きすぎたことのように感じた。時間にして1時間46分。これじゃあ、小品なみ。いや、長ければいいってもんじゃないけど、いろいろと描き足りない。マッカーサーの人なりやら、東條のあのあとの様子。ほかにもいろいろと盛り込めるはずなのに、何とももったない。

戦闘は終わったけど、本当の戦いは戦争が終わってから・・・。マッカーサーが降りたって緊迫の一カ月。もっともっと描いてもよかったように感じた。東條の自殺未遂や、近衛(中村雅俊がびっくりするほど似てる!!)の言葉等々、質のいいドキュメンタリーを見ているのような迫真ぶり。やっぱもったいない。

一番の収穫は今は亡き夏八木さんの関屋宮内次官の存在。なんとプロデューサーの奈良橋陽子さんのおじい様だったとか。なるほどなあ。

この辺の昭和史は、ぜひとも昭和史初心者(?)にこそ、見ていただきたいようなわかりやすい、とっかかりやすい作りだったのだが、見ている人はほぼ60歳以上・・・かな。あたしで、かなり若い方。一番見てもらいたい層に見てもらうのは、やっぱこの際、綾野君あたりに出てもらうしかないかな・・・。恋愛話をもうちょっと削っていただいて、もっと日米いろんな葛藤を入れ混ぜてもらいたかったなあ。

初音さんは、彼女でとってもいい佇まいだったのを申し添えておきます。

きっとそのままサラッと見て、自分的に見終わるんだろうなあ・・・と思ったところ、最後に昭和天皇の登場で、天皇が「私に責任があるのです」と言った台詞につい涙していた自分がいた。泣いてる自分にびっくりした。あたしもまだまだいけるかもしんない。

◎◎◎○

「終戦のエンペラー」

監督 ピーター・ウェーバー
出演 マシュー・フォックス トミー・リー・ジョーンズ 初音映莉子 西田敏行


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10 コメント

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僕も泣きました (西京極 紫)
2013-08-06 21:42:02
昭和天皇が「自分一人が責任をとる!」と訴えた瞬間。

僕の父は天皇制廃止論者だったので
僕自身も象徴天皇という位置づけを疑問視していたのですが、
昨今の中国や韓国の日本への対応の下品さを見るに、
「ああ、日本という国は良くも悪くも上品だなぁ」と思い、
さらにその国の象徴としての天皇は
ある意味もっとも日本的な存在であるのだと
この映画を観て納得した次第です。
こんにちは (ナドレック)
2013-08-07 08:33:31
恋愛話は評判よくないですねぇ。
私は、よほど途中で席を立とうかと思ったのですが、恋愛話があったから、というか初音映莉子さんが素敵だから最後まで観ることができました。

私は本作を観て、日本人はやっぱり12歳なのかなぁと思いました。
一番釈然としなかったのは近衛の描き方です。
あんなに凛々しく主張できる人間だったら、戦争回避に向けてもっと行動できたのではないかと……。
こんにちは。 (みぃみ)
2013-08-07 16:59:36
自転車プレイボーイ(プレイオジサン?)、香川にも先日上陸なさっていましたよ~~。

ドイツや朝鮮半島みたいにならなかったのはマッカーサーのおかげで、
それは日本に他国では理解不能な存在の天皇制があったおかげで、
なんの因果か、彼がこういう国ものこしておこうと思ったから今があるのよ、
と教わった私は、「なんの因果」の部分が知りたくて、観に行きました。

お顔を拝見する事もできない「神」を処罰しなかったのはマッカーサー自身にとってもよかったのではないかな~と思いました。
なんとなく、日本人の御上への忠誠心からすると、例え封じ込められたとしても死にもの狂いで日本人は戦ったのでは?と思うので。
そして、日本という国が今もあって日本人として今を生きていられるのも天皇の存在を保持してくれたおかげかなぁと。。。

神と崇められていた天皇の戦争責任の本当のところは謎ですが、少なくとも天皇の周りを支えていた人達、軍人や政治家達は信じた道をまっすぐ歩いていたんだなぁと。
真っ直ぐな思いを持ち続ける姿勢、には、ちょっと感動したりもして。

命を落とした方達をちゃんと人間として扱い、品のある形で丁寧に書いてくれていたのはとても嬉しかったです。

観ました~ (マリー)
2013-08-07 21:37:05
自転車プレイボーイさん(もう安定の表現?)台詞なかったけど、素晴らしかったです。さすがです。

日本の描き方にこだわっただけあって、ヘンテコはあまりなかったことが良かった。

ただ、やはり向こうの作品だから~描き方があめりか~んな感じは否めません。恋愛を絡めるのが定番だし、一番説得力ある気もするし~
初音さんの古典的な佇まいがよかった~~~。
上で西京極さんがおっしゃっていられるように、全てにおいて上品でした。
日本人キャストはみんなよかった!
桃井さんなども、ほとんどアドリブだったそうだけど~居そうな日本人ってカンジでよかったです。
>西京極 紫さま (sakurai)
2013-08-09 21:01:40
それまでは、そんなにぐぐっと来るとこもなく、見知ったことが多く、なんとなく見てた気がするのですが、天皇の言葉の瞬間、ぎゅーーっときました。
すべては、あれのためにこの時間があったのか!!と思ったほど。
天皇って人は、バランスのとれた、我慢強く、とってもまっとうな人だったという認識で、その力をきちんと発揮することができなかった悔しさ、戦争を止めれなかった責任を強く感じていたんじゃないかと、勝手に想像します。

>「ああ、日本という国は良くも悪くも上品だなぁ」と思い、
そこはとっても感じましたね。それも押しつけがましくなく。
どこか奥ゆかしさをしのばせながら、まっすぐな道を歩もうとする日本人の不器用さも感じられました。
日本人でよかったかも。。。と思えた貴重な時間でした。
>ナドレックさま (sakurai)
2013-08-09 21:05:54
ちょっと恋愛話は、無理が感じられて、話の中で浮いてたような気がします。
初音さんはとっても良かったのですが、だったらもっと恋愛事情も突っ込んで描いた方がよかったかもです。
そっちに重きを置くわけじゃないので、ちょっと半端な感じになってしまいましたが。
近衛は立派に描かれすぎてた感はありましたね。
優柔不断の最たる男だったのに、役者がよすぎたかな。
でも、これまた中村さんが似合いすぎて、そういや、護煕さんにも似てるかもです。
>みぃみさま (sakurai)
2013-08-09 21:12:41
そうでしたねえ、その昔、プレイボーイと言えば、正平さん!!だったんですが、なんだかいい感じに枯れてきた。
でまさかの東條とは!!!です。

天皇制と言うのは、とっても難しいものなので、何とも表現しがたいですが、戦争の頃の天皇に対する尊崇の念と言うのは、そんなに昔からのもんじゃない。
明治維新のそのあとの、兵制を作り上げて行ったころからのもんだと思います。
それがいいのか、悪いのかはこれまた難しいとこですが、そんな天皇制とは別に、昭和天皇と言う人の人柄がやはり素晴らしかったんだと思います。
誰が悪いとか、誰のせいだとか、あの時ああすれば・・と簡単に言えればいいのですが、そう単純なものでもなく、だれしもがよかれと思ったのに、よい方向にいかない人間の世の悲しさが感じられます。
いかんともしがたい忸怩たる思いを、一番強く感じていたのが、天皇自身だったかもしれませんね。
>マリーさま (sakurai)
2013-08-09 21:15:56
やっぱプレイボーイだよねええ。
今は昔・・・。

やはりプロデューサーさんの力も大きかったんでしょうね。日本の描き方、着物の着方一つにしても、納得でした。
そういう小さなことも大事ですよね。
その小さなことにもキチンと取り組むのが、やはり日本人の品かもしれないです。品と矜持、これが無くっちゃ!!ですよ、我々には。
Unknown (ふじき78)
2014-04-06 09:44:26
日本人として見てて、とても酔えたんですが、真っ当な日本人しかいない事が、ちょっと気になりました。つまり「酔える」ことが気になる。映画初めの方で中国人に対して残虐な行為をしている日本軍の写真を壁から主人公が外させます。あの写真を糾弾する姿勢もあった上での50/50じゃないか、と。

いや、私も日本人は好きなんですけど。上品・・・なのか。私は「田舎者でお人好し」と思ってて、かつ、上品だけどキレると我を忘れてしまう、なのかな。
>ふじき78さま (sakurai)
2014-04-15 15:08:42
バランスは欠いてましたね。
それも計算上、あえての表現だったかなっと。
いろんな批判、意見、賛成、反対いろいろあることを踏まえての、やはり実験的な作品だったように感じます。

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