迷宮映画館

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Sweet Sixteen

2003年07月22日 | さ行 外国映画
リアムは15歳。サッカーが得意な少年。刑期をもう少しで終える母の出所を待っている。保護者ぶっているのは母の恋人、スタン。しかし、とても保護者と言えるような代物ではない。言う事を聞かなければ、殴る、蹴るはあたりまえ。結局スタンは、リアムを家からも追い出してしまった。転がり込んだのは独立した姉のところ。シングルマザーの姉は、ぼろぼろになっていく弟を叱咤し、母を信用してはいけないと諭す。

煙草を売って小金を稼いでいたリアムと仲間のピンボールは、ドラッグに手を出す。大金を手に入れて、母のために家を買おうとした。しかし、それは街の有力者の手の中に入る事を意味した。街を牛耳るやくざの中で、頭角をあらわしていくリアムに対して、自分をコントロールできないピンボールは、どんどん、破滅の道をたどっていく。でもリアムは成功したのか。彼もまた、茨の道をたどるしかないのか・・・。

決して心地いい映画ではない。彼の映画はどれも、だんだん見ていくうちに、眉間にしわがよっていく。ヒリヒリするような人生が痛い。なぜにここまで、痛いのかと思うが、なぜかその自虐的な映像が見るものを捕らえて離さない。

なぜ、そうなってしまったのか、あるいはこれからどうなるのか、例えば、なぜ、リアムの母が刑務所にいるのかなどのエピソードはない。多分、恋人の代わりに入所しているのかなとは容易に想像がつく。姉はなぜ、シングルマザーなのか、ピンボールはどうなってしまったのか、描いていない。今までのケン・ローチ作品とは、少々ちがったアプローチだ。でも、一層もがき苦しみ、あがいている姿が見えた、克明に。ひとえに、主人公リアムを演じた逸材、マーティン・コムストンの持つ、雰囲気にあったのかもしれない。ローチが彼を見出したときに、多くは語らせない、彼の持つオーラに任せたような気がした。『ケス』を見たときの、胸の締め付けられ方と似ていたような気がする。

イギリスの社会保障制度は素晴らしく、完成された姿のようだ。しかし、そのために労働しなければならないという気持ちがそがれるとも聞く。老後の心配もあまりしないために、非常に刹那的であるとも聞く。さらにかの国を複雑なものにしている二重構造。そのあくまでも底辺を取り続けているローチ作品。決して特殊ではない。特殊ではないことが一層悲しさを呼ぶが、好きだ。

「Sweet Sixteen」

原題「Sweet Sixteen」 
監督 ケン・ローチ 出演 
マーティン・コムストン ウィリアム・ルアン 2002年 英・独・スペイン作品


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