迷宮映画館

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エデンより彼方に

2003年09月01日 | あ行 外国映画
50年代のアメリカらしい風景、クラシックカーに、瀟洒な住宅地のたたずまい。静かな、アメリカの最もいい時代だったかもしれない。秋が美しいコネチカットのハートフォードに住むブルジョア階級の幸せなウィテカー家。妻のキャシーは毎年恒例のホームパーティのメニューに頭を悩ませ、亭主は忙しく、仕事に追われてる。絵に書いたような幸せな家庭だった。

ある日、夫のフランクが自分の病気に目覚めてしまったことからこの典型的な幸せの構図が崩れてしまう。フランクは同性愛者。これは忌むべき病気であり、やむを得ない性癖だ。美しい妻を抱けない。いきなり不幸のどん底に突き落とされるキャシー。それでもけなげに振舞おうとするが、結局は空回りに終わってしまう。その虚無感をうめてくれたのが、庭師のレイモンドだった。

物静かで、博識で、あたたかい娘思いの父親。素晴らしい男性だった。ただ肌の色がちがうだけ。心を開いていくレイモンドとキャシーだったが、周囲はそれを許さなかった。

50年代というのはアメリカの古きよき時代、もっとも幸せな時代だったかもしれない。大戦は大勝利で終わり、実質上の冷戦は始まっていない。黒人の公民権運動もそれほど激しくはないし、それより、そんな公民権など何の現実性も持っていなかったかもしれない。ヴェトナム戦争もはじまらず、青春を謳歌していたのだ。絵に描いたような幸せ。それがいくら虚飾であろうとも、偽りの幸せでも、十分の世の中だったと思う。しかし、その虚飾の世界が本当に暴かれてしまったとき、あまりにつらい現実が突きつけられてしまうのだ。

そこに遭遇した白人と黒人の一組の男女。コネチカットとという土地柄全体が、リベラルで、裕福で、自分達は北部のもののわかったブルジョアだという自負に包まれていたのだと思う。黒人の世界にも理解を示していると思っていたところに暴かれてしまった自分達の本性。その悲しい人間の内面を描いた、と感じた。全米が泣いた感動の『メロドラマ』などという簡単なくくりでは表現しきれない映画だった。非常に興味深く、面白く、見た甲斐のある映画だった。

この監督、トッド・へインズ。憎たらしいほどのうまさだったが、私と同じ歳だった。なんかちょっとショック。老練の技を感じてしまった。

「エデンより彼方に」

原題「Far from Heaven」 監督 トッド・へインズ 出演 ジュリアン・ムーア デニス・クエイド デニス・ヘイスバート パトリシア・クラークソン 2002年 アメリカ作品


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