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初老の男が刑務所を出てくる。15年の刑期というが、どこか晴れ晴れとしている。
名前はヤン・ジーチェ。子どもという意味らしい。名前の通り、体格が小さい。刑務所を出たあとは、何をするでもなく、山の中の小屋をあてがわれ、そこで暮らすことにするが、なぜ、彼がこういう人生に至ったのかが、おいおいわかってくる。
貧しいヤンは、さまざまな仕事をするが、ソーセージ売りから始まって、ビアホールの給仕、ホテルの見習い給仕になって、一流ホテルの主任給仕にまでなる。
不幸と幸せは隣り合わせ。不幸になれば、そこには、別の幸せが巡ってくる。それが人生だと、身をもって感じてきた。自分は貧乏だが、自分の投げたわずかなコインには、どんな人でも群がる。どんな金持ちであろうと、四つん這いになって、その金を拾おうとする。
それを見ながら、百万長者になろうと決意するヤン。
ヤンが師と仰いでいたのは、最高級ホテル『ホテル・パリ』の給仕長のスクシーヴァネク。彼はお客を見ただけで、その注文をずばりと当てる。その経験からくるプライドは、ヤンにはどうしても及ばない。給仕長の矜持は「英国王の給仕だった!!」だ。
その頃、チェコは、ズデーテン地方をドイツに占領され、ひたひたとナチスの足音が近づいていた。ドイツ人が町を闊歩し、きな臭さが、国を覆ってきた。チェコの町のあちこちにドイツ人が幅を利かせてくる。しかし、あの給仕長は、どんなことがあってもドイツ人に媚びを売ることはなかった。
しかし、第一次世界大戦後、ハンガリー帝国解体によって建国されたチェコスロヴァキアは、ミュンヘン会談の決定によって、国が消滅してしまう。もう、大きな顔をしているドイツ人に、何も文句は言えない。
複雑な感情が入り混じっていたとき、ヤンは、チェコ人に乱暴されようとしてた小柄な女性のリーザを助ける。民族の対立なぞ関係ない。彼女を純粋に愛するヤンは、ドイツ人を毛嫌いしている給仕の仲間の面々から、受け入れてもらえない。
ナチスの仕事を手伝うようになったヤンは、かつて働いたことのある、ユダヤ人のホテルで、優等民族を生み出すための女性たちへの給仕をせっせと行う。まるで、桃源郷のような世界。ここはいつも変わらない。
しかし、当初のナチスの勢いは坂を転がるように落ちていき、敗戦が濃厚になる。空からの爆撃は、高慢なナチスの鼻をへし折り、世界が変わる予感を感じさせた・・・。
ということで、イジー・メンツェルの作品を始めて見たが、どこかとぼけていて、それでいて辛辣で、夢の世界を描いているような感覚に陥った。映画に出てくる人は、現実の世界にはいない人たち。それを自由自在に操っている・・・。そんな感覚だ。
大戦前のプラハは、ぬるま湯のような心地よさ。日がな一日、論争しながらビールを酌み交わす金持ちたち。たまに出会う美女に目を奪われ、チェスに興じ、幸せそうだ。
そんな世界をちょっと引いた眼で見ているヤン。彼は主人公でありながら、プラハの、チェコの歴史を見てきた傍観者、あるいは証言者のような役割を演じる。
最初は見ていても、何の時代なのか、わからないのだが、ハーケンクロイツのマークが出てきて、ズデーテン地方占領・・・などから、大戦前、大戦後、社会主義の体制・・・ということが、徐々にわかってくる。
ちょっとした出会い、皮肉、不幸、どんでん返し・・・・。ひと時の幸せに浸り、金のある豊かさを堪能し、そして散っていく。金持ちっていうのは、金の使い方をよーく知っているのか、それともただのあほなのか?そんな皮肉込めながら、ヤンは歴史を眺めていく。
その中で、何にも揺るがず、己を通し、プライドと自信を持って生き抜いた給仕長のスクシーヴァネクに対する尊敬の念。それが素直に伝わる秀作だった。
◎◎◎◎●
『英国王給仕人に乾杯!』
監督・脚本 イジー・メンツェル
出演 イヴァン・バルネフ オルドジフ・カイゼル ユリア・イェンチ マリアン・ラブダ マルチン・フバ ミラン・ラシツァ ズザナ・フィアロヴァー
名前はヤン・ジーチェ。子どもという意味らしい。名前の通り、体格が小さい。刑務所を出たあとは、何をするでもなく、山の中の小屋をあてがわれ、そこで暮らすことにするが、なぜ、彼がこういう人生に至ったのかが、おいおいわかってくる。
貧しいヤンは、さまざまな仕事をするが、ソーセージ売りから始まって、ビアホールの給仕、ホテルの見習い給仕になって、一流ホテルの主任給仕にまでなる。
不幸と幸せは隣り合わせ。不幸になれば、そこには、別の幸せが巡ってくる。それが人生だと、身をもって感じてきた。自分は貧乏だが、自分の投げたわずかなコインには、どんな人でも群がる。どんな金持ちであろうと、四つん這いになって、その金を拾おうとする。
それを見ながら、百万長者になろうと決意するヤン。
ヤンが師と仰いでいたのは、最高級ホテル『ホテル・パリ』の給仕長のスクシーヴァネク。彼はお客を見ただけで、その注文をずばりと当てる。その経験からくるプライドは、ヤンにはどうしても及ばない。給仕長の矜持は「英国王の給仕だった!!」だ。
その頃、チェコは、ズデーテン地方をドイツに占領され、ひたひたとナチスの足音が近づいていた。ドイツ人が町を闊歩し、きな臭さが、国を覆ってきた。チェコの町のあちこちにドイツ人が幅を利かせてくる。しかし、あの給仕長は、どんなことがあってもドイツ人に媚びを売ることはなかった。
しかし、第一次世界大戦後、ハンガリー帝国解体によって建国されたチェコスロヴァキアは、ミュンヘン会談の決定によって、国が消滅してしまう。もう、大きな顔をしているドイツ人に、何も文句は言えない。
複雑な感情が入り混じっていたとき、ヤンは、チェコ人に乱暴されようとしてた小柄な女性のリーザを助ける。民族の対立なぞ関係ない。彼女を純粋に愛するヤンは、ドイツ人を毛嫌いしている給仕の仲間の面々から、受け入れてもらえない。
ナチスの仕事を手伝うようになったヤンは、かつて働いたことのある、ユダヤ人のホテルで、優等民族を生み出すための女性たちへの給仕をせっせと行う。まるで、桃源郷のような世界。ここはいつも変わらない。
しかし、当初のナチスの勢いは坂を転がるように落ちていき、敗戦が濃厚になる。空からの爆撃は、高慢なナチスの鼻をへし折り、世界が変わる予感を感じさせた・・・。
ということで、イジー・メンツェルの作品を始めて見たが、どこかとぼけていて、それでいて辛辣で、夢の世界を描いているような感覚に陥った。映画に出てくる人は、現実の世界にはいない人たち。それを自由自在に操っている・・・。そんな感覚だ。
大戦前のプラハは、ぬるま湯のような心地よさ。日がな一日、論争しながらビールを酌み交わす金持ちたち。たまに出会う美女に目を奪われ、チェスに興じ、幸せそうだ。
そんな世界をちょっと引いた眼で見ているヤン。彼は主人公でありながら、プラハの、チェコの歴史を見てきた傍観者、あるいは証言者のような役割を演じる。
最初は見ていても、何の時代なのか、わからないのだが、ハーケンクロイツのマークが出てきて、ズデーテン地方占領・・・などから、大戦前、大戦後、社会主義の体制・・・ということが、徐々にわかってくる。
ちょっとした出会い、皮肉、不幸、どんでん返し・・・・。ひと時の幸せに浸り、金のある豊かさを堪能し、そして散っていく。金持ちっていうのは、金の使い方をよーく知っているのか、それともただのあほなのか?そんな皮肉込めながら、ヤンは歴史を眺めていく。
その中で、何にも揺るがず、己を通し、プライドと自信を持って生き抜いた給仕長のスクシーヴァネクに対する尊敬の念。それが素直に伝わる秀作だった。
◎◎◎◎●
『英国王給仕人に乾杯!』
監督・脚本 イジー・メンツェル
出演 イヴァン・バルネフ オルドジフ・カイゼル ユリア・イェンチ マリアン・ラブダ マルチン・フバ ミラン・ラシツァ ズザナ・フィアロヴァー
給仕人を始めたときと、最後のシーンで同じよ
うにビールを注ぐヤンの姿がとても印象的でし
た。チェコといえばビール(ピルスナー・ウル
ケル)とスメタナが有名ですけども、メンツェ
ル監督の「スイート・スイート・ビレッジ」と
いう作品にも一杯ビールが登場します。まさに
チェコの象徴で、そこに祖国に対する誇りと愛
情を感じました。
やっぱ『フランス映画社』だあ、としばらくぶりのBOWを堪能しました。
第一次大戦から、二次までのわずかな間ですが、チェコの一番いい時代だったんだろうなあと、思わせました。
ビール!!おいしそうでした。
私も、一杯やっちゃいました。
ナチスを皮肉っている表現にまさにビールで乾杯です。笑える内容なのに、直にドーといかないシニカルさを加えて、激動のチェコ現代史のさわりをちょっぴり。この監督さん、いいですね。
なんでしょ、あのプライド!!
「ホテル・パリ」での様子が、いろんなことをあらわしてました。
やっぱ、あの給仕長が見事ですよね。
さまざまな問題を包含しつつ、まったくのシリアスにならず、全体のバランスも見事。
いいもの見ました。
似たような語り口の映画が多い中、このスタイルにはうなっちゃいました。
そうか、「フランス映画社」なんでしたね。
BOWものは新作ではあまり見かけないですが、こういうのをちゃんと日本に運んでくれるのは嬉しいですねー。
東欧あたりの国からはるばる来た映画は、さすがにいい映画ですよね。
こういうのはなるべく見逃さないようにしてます。
センスが、ハリウッドあたりのものとは全然違うのが嬉しくなります。
とっても良かったです。
ロードショーがすぐに終わってしまったのが残念ですね。また観たい映画になりそうです♪
最初は、一体どんな背景で、どうなるのか??とわくわくしながら見てましたよ。
で、ドイツの靴音が聞こえてきたあたりから、なるほど!!と。
いい映画を見た!という満足感でいっぱいでした。