さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

藤原龍一郎『202X』

2020年03月21日 | 現代短歌 文学 文化
 土曜日の「朝日」読書欄に金原ひとみが「絶望にわずかな風穴を開ける」という題で、大谷崇著『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』についての感想を書いている。と打ってみたら、本文の枕とするには重すぎることに気がついたが、えいままよ、削らないでこのまま行くことにする。この真っ赤な色の装丁の歌集、藤原龍一郎さんの作品集も「絶望に風穴を開ける」ものであるのだ。そうして、大噴火している。

 今はジャズの上原ひろみのアルバム「Hiromi’Sonicbloom 」を聞きながら藤原龍一郎の歌集をめくっているのだが、これが不思議と合う。

 雑誌の初出で見たときに、藤原さんなかなかやってるなあ、と思っていたから、本書の前半に怒濤のように噴き出す怒りのうたの数々については、本当に溜飲が下がるぜ、というところ。この一、二年はひどいことが多すぎるから、よけいにそう感じられる。

  政府広報メール届きて「議事録ヲ修正スル簡単ナオ仕事」です
  
  さなきだに無敵モードは成立しパノプティコンは呪文にあらず

  愚かなる宰相ありて知性なく徳なくそして國滅びき、と

  不起訴不起訴とニュースは告げるニッポンのロゴスとはかく虚しき光

  藤圭子自死の夏とぞ記しおく青きコーラの壜は砕けて

  湾岸に驟雨きらめきぬばたまの自主規制なる闇のやさしさ

しかし、何回目かにめくってみた今日は、下町育ちの作者の幼年時代の思い出や、父のことをうたった歌に心が寄った。

  夕汐の香こそせつなけれ深川平久町春の宵

  材木の木屑の山を横に見てズックの踵踏みて走りき
 
  ラジオから聞こえる歌に声合わせ「黒いはなびら、静かに散った」

 数々の芸能人やプロレスラーの名前が歌の中に入って来てさまになるのは、藤原龍一郎をおいて他にない。昭和の歌謡も芸能人もすでに滅びゆくものの暮色に染まって、胸をしめつけるような哀切な思いにひとを誘うのである。



種苗法「改正」 を論ずるならこの本『売り渡される食の安全』山田正彦著(角川新書)

2020年03月21日 | 政治
 コロナ騒ぎにまぎれて国会ではいろいろと策動している気配がある。日本文化と日本国家の根源を脅かすような法律をこれ以上国会で通させてはならない。

そのうちに天皇陛下が新嘗祭でお食べになるお米や、伊勢神宮をはじめとした全国の神社でお供えするお米も、外資の種子会社から購入した種子でないと法律違反になることになりかねない。

そうだよなあ。農産物の種というのは、たしかに大市場に違いない。そのうちに旧モンサント系の企業に官僚が天下りすることになるのだろうか。頼むぜ文春、日刊ゲンダイというところである。まったく、愚かな官僚には右も左も怒るべきなのだ。

「…種子の開発にはお金と時間がかかるため、資金力のある企業でなければ参入が難しい。企業は数えるほどとなり、お米の値段は企業の思いひとつで上げられてしまう。多様な品種はみるみる淘汰されるだろう。」(36ページより)

あとは、最近書店の店頭にこの本を見かけなくなった。一冊買いながらこれを平積みにしてくれ、とU堂で言ったのに、ひと月経っても反応が無かった。あとは、『暴走する能力主義』(ちくま新書)も無かった。これも現体制のあり方に対して強い警鐘を鳴らしている書物である。

ついでに、平成天皇と安倍首相との角逐をわかりやすく描出してみせたのは、菅孝行著『三島由紀夫と天皇』(平凡社新書)である。これは三島ぎらいの人にも薦められる。