時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百九十四)

2008-08-18 05:03:10 | 蒲殿春秋
小山勢の西に陣を張った志田義広は小山勢の東から押し寄せるであろう常陸大掾一族の援軍を待った。
小山勢を挟み撃ちにしようとしている。

小山、志田双方ともまだ常陸大掾が下河辺で撃退されたことを知らない。

小山軍中では朝政、宗政を中心に策が練られていた。
この頃野木宮では風が吹き渡っていた。
その時、老いた郎党がふと言った。
「若殿、この風は直ぐに向きが変わりまする。」
「ほう、どのように。」
と問い直す朝政。
「今は北から南へと吹いていますが、間もなく東から西へ吹く風に変わりまする。
それも、猛烈な突風になって。」
「では。」
「さようでございます。我が陣から志田の陣に向かって強い風が吹くことになりまする。」

「五郎、打つべき策が決まったな。」
朝政は弟を促した。
風が吹くならば戦の常道を行使するのに使わない手はない。

「者供!火矢の支度を致せ!」
宗政は大声で指示を飛ばした。

小山勢は風向きの変わるのを待った。
やがて、老郎党の言うとおり東から西へ吹くように風向きが変わった。

「放て!」
長沼五郎宗政の号令に合わせて一斉に火矢は放たれた。

閏二月の下野の空気は乾ききっている。
木々も草草も水気を失っている。
放たれた火は大いに燃え上がり、風に煽られ火は西へ西へと怒涛の如く突き進んでいく。

火の攻撃を受けた志田勢は大混乱に陥った。
煙で周りが見えない。
火に追い立てられる。

大将の志田義広はなんとか西へと逃れたものの、多くの郎党達は炎と煙の中
散り散りになって逃げまとうばかりであった。

炎の攻撃が去った後に志田勢を待っていたのは
小山勢による殺戮であった。
この頃には、小山へ次々と援軍が現れた。
逃げる志田の兵の多くは次々に討ち取られてしまった。

多くの仲間を討ち取られながらも、生き残った志田勢は常陸大掾の援軍を待っていた。
だが、頼みの援軍ー平氏である常陸大掾の赤旗の部隊は来ない。
やがて来るべき赤旗の代わりに多くの白旗を抱えた部隊が現れた。
源氏の白旗をはためかせているのは源範頼率いる武蔵勢の大軍であった。

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