時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百九十一)

2011-12-15 23:23:03 | 蒲殿春秋
さらに雑色たちにこの一件に関して調べさせる。

すると衝撃の内容が明らかにされた。
義高は入間川のほとりに確かにいた。だが、そこまで誘ったのは他ならぬ藤内光澄だった。藤内光澄が義高を匿うと申し出たものの手引きでここまで連れてきたのである。
藤内光澄は義高を討ち取った当人である。
藤内光澄は主に命じられて義高を入間川ほとりまで連れて行った。
けれども、頼朝から捜索の命が下ると藤内光澄は主の命令により義高の命を奪った。

藤内光澄の主は堀藤次である。

頼朝はすぐに裏が読めた。
堀藤次は伊豆の豪族である。伊豆の豪族は頼朝の御家人である一方で甲斐源氏にも仕えていたものも多い。
堀藤次も石橋山の戦いの後甲斐国に逃げ込み、その後一応頼朝の御家人にはなってはいたがどちらかといえば一条忠頼がいた駿河に足が向き勝ちだった。

義高が脱走したのは一条忠頼殺害の直前である。
そして、一条忠頼が死んだ報を受けた直後に義高は死んだ。堀藤次の命令によって。

頼朝は堀藤次を呼び出した。
「そなたの主は誰ぞ?」
「鎌倉殿でございます。」
堀藤次はさらりと答える。
「他に主は無きか?」
「・・・・・」
堀藤次はその問いに答えられない。

「ではわしが答える。そなたのもう一人の主は一条忠頼、違うか。」
堀藤次は黙ってうなずいた。

不意に頼朝が問いを変えた。重く低い声で問う。
「そなた、何ゆえに義高を殺した。」
堀藤次は静かに答える。
「志水冠者殿が抵抗なされました故に。」
そう答える堀藤次を頼朝は冷たく見据える。
頼朝は暫く無言である。

時間と空間が停止した。

頼朝は再び問う。
「もし、一条忠頼が生きておったらそなた義高をいかがした?」
「・・・・・」

「ではわしが答えよう。そなたは一条忠頼に義高を差し出して信濃の者達を一条忠頼の元に糾合させたであろうな。」

堀藤次は何も答えない。いや、答えられない。

「まあ、死んだ者の事を問うても栓のないことじゃ。これからはわしの家人として生きるが良い。
だが、忘れるな。今後はわし以外のものを主と仰いではならぬ。
それから、わしの家人というからにはこれからわしの言うことを全て間違えなく行なわねばならぬよいな。」

堀藤次は真っ青になりながら頼朝の言葉を聞いた。

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