時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三十六)

2006-07-11 18:04:20 | 蒲殿春秋
果てしなく長く長く続く旅路。
東山道の山道を抜け、坂東の地にたどり着いてさらに幾日。

範頼は再び東へと向かった。
今度は範頼の養父範季の供で奥州に向かっていた。
安元二年(1176年)
式部少輔藤原範季は陸奥守を拝命した。
今までの任国ならば範季は目代を派遣して自らは
任地に赴くことは無かった。
けれども今回は自ら都を遠く離れた陸奥の地へ自ら赴くことにした。

黄金、馬、武具その他多くの重要なものを産出する
奥州の地は範季の足を動かせるだけの重大なる大地であった。

途中まで範季の婿で甥で猶子の下野守範光も同行していた。

範頼が四年間過ごした上野を過ぎ下野に入った。
父義朝も数年国守を勤め上げた地でもある。
そこに範光をおいて一行はさらに進む。

未知なる奥州の地を範頼はある種の期待をもって踏み入れた。

範頼の祖先が憧憬し、そこでの利権を巡って
幾たびかの戦乱を巻き起こした地。

その地の権利を行使して父の武家としての生命線である武具、馬の調達権
を握り締め
父を思うがままに支配した信頼。

それがゆえに信頼とともに滅ぶことを余儀なくされた父。

奥州は範頼にとっても因縁の地でもあった。

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