■今回のまとめ
1)ここまでの上昇を演じた買い手は誰だったのか?
2)ヘッジファンドの決算とアルゴリズム取引の影響
3)直近10年のうち5回は、3~4月に一旦天井をうっている。そのうち4回はその後の調整で転換点シグナルが点灯している。
1万円を達成した日経平均はもみ合いとなっていますが、上昇の買い主体の分析を通して考えられる可能性についてレポートします。
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ここまでの上昇過程を上記のチャート(類似比較チャート)に沿っておさらいをしますと、まず、日経平均はギリシャ債務問題の目処がついてきたことや米国市場の堅調さなどから自立反発しました。
通常、自立反発の範囲であればトレンドラインの上限付近でいったんは失速するのですが、2月のはじめから続く円安トレンドが2月14日の日銀による追加的な金融緩和(インフレターゲットについても言及)で加速し、日経平均の短期的な下落トレンドラインを突破しました。
そして、世界的金融緩和による金融相場と円安による業績回復が期待されて、1万円を回復するまで上昇してきました。
しかし、中身を見てみますと・・・
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上昇期間の買い主体は外国人投資家であることは明らかで、この間の買い越し金額は1兆円を超えているようです。
また、裁定買い残が高水準になっていることもこの期間の特徴でした。
これらを勘案しますと、
「日経先物への買い仕掛け→裁定取引による現物買いを誘発→指数の上昇」という上昇サイクルが見えてきます。
リーマンショック以降、ヘッジファンドといわれる投資家たちは、銀行の自己資本規制の強化により、投資資金を金融機関から調達することが困難になったといわれています。
これが原因で、ヘッジファンドの多くは少ない資金を元手にレバレッジを効かせた運用手法をとらざるを得なくなっています。
日経平均の上昇を支えている日経先物の買い手が、レバレッジを効かせたヘッジファンドであるといわれていますが、レバレッジを効かせた投資の特徴は、「短期の回転売買」です。
為替市場でも同じようなことが起きています。31年ぶりとなる日本の貿易赤字や日銀による追加的金融緩和があり、マクロ的にも円安になりやすい環境が整っていたものの、円安の進行を加速させた一因に、ヘッジファンドのレバレッジ投資とアルゴリズム取引が関係している可能性があります。
今回の為替市場の円安について、「軽い円安」と表現している専門家がいます。「軽い」とは、取引の主役であるヘッジファンドの資金量と売買手法からきています。
現在進行する「ドル買い/円売り」は、海外短期筋が主導するという現象面だけを見れば1998年のLTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)危機に至るドル高局面に似ているのですが、このときと今回では重量感(投資資金の量)に決定的な違いがあるようです。
「当時は実際に相当規模のマネーが動いていた。今はアルゴリズム取引による先物の回転売買がたまたまワークしているだけで、重みが全くない」と、ある欧州銀トレーダーは指摘しています。
※アルゴリズム取引とは、投資戦略の一部または全部をあらかじめ記述し機械的に実現する取引手法で、実際の売買に際して、人間の判断を介さないものを指します。
BIS(国際決済銀行)の2010年末の報告書によりますと、為替取引におけるアルゴリズム取引のシェアは45%と計算されています(前回調査時の2007年は28%でした)。
アルゴリズム取引の特徴は「同じ方向に傾きやすい」こと、及び、「運用手法が変わるときには劇的に変わる」ことにあります。
日本市場の上昇の担い手が外国人投資家であり、その取引手法がヘッジファンドによるレバレッジ投資やアルゴリズム取引であるとすると、実は安定した上昇を続けている日経平均も売買の中身を見ると、危うい要素も含まれていることが分かります。
さらにヘッジファンドの決算が5月に控えていることも、忘れてはいけない相場変動の要因となります。
米国では「株は秋に買って春に売れ」というアノマリーがありますが、これはヘッジファ
ンドの決算時期が深く関係しているようです。
そこで、日経平均が直近10年間で3月、4月に天井をつけたときのケースをまとめてみました。3月、4月に高値をつけた年は合計5回でした。図の最下部には転換点シグナルの状況も入れておきましたので参考にしてください。
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直近10年間で3月、4月に高値をつけた年の転換点シグナル状況を見ると、5回中4回、転換点シグナルが点灯していることが分かります。
今年がそれに当たるのかどうかは当然分かりませんが、上昇の買い主体が投機的資金であることは否定できず、それゆえ変わり身も早いことが予想されます。したがって、調整が起きた場合、日柄調整ではなく、過去の傾向からも急落を伴う値幅調整の可能性も十分あるということだと思います。
転換点投資を考えている会員の方は、あせって高値を買うことなく、転換点シグナルが点灯するような調整を待ち、自分流投資をされている方は、過去の傾向から大きな調整が来るかもしれませんから、キャッシュを多めに用意して、「負けないこと」を優先することをお勧めします。
レポート担当:ケンミレ株式情報 新美 文康