ringoのつぶやき

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なぜ武田薬品の「6.8兆円買収」を新聞各紙は悲観的に報じるのか

2018年05月10日 10時15分17秒 | 気になる株

武田薬品工業によるアイルランドの製薬企業の買収が各メディアで大きく取り上げられています。買収額は6.8兆円と、日本企業による過去最大の買収案件とあってその注目度は大ですが、新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

武田薬品のシャイアー買収劇を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「米、イラン核合意離脱へ」
《読売》…「正恩氏、習氏と会談」
《毎日》…「正恩氏、習主席と再会談」
《東京》…「柳瀬氏面会設定 誰が」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「武田 身の丈超す買収」
《読売》…「世界十指へ 武田の賭け」
《毎日》…「武田 過去最大の買収」
《東京》…「日中韓 思惑三様」

ハドル

中朝首脳の再会談、米国のイラン核合意からの離脱、そして明日の参考人招致など、盛りだくさんですが、《朝日》《読売》《毎日》が解説面に持ってきた「武田」を取り上げたいと思います。

基本的な報道内容

武田薬品工業は、新薬開発と米国内販路に強みを持つアイルランドの製薬大手シャイアーを460億ポンド約6.8兆円)で買収することで合意したと発表。世界の製薬企業の売上高トップ10にランクイン日本企業による過去最大の買収案件。

両者は年内に臨時株主総会を開き、同意を取り付け、2019年6月までの手続き完了を目指す。

新薬候補の取り込み

【朝日】は1面左肩の基本的な記事と2面の解説記事「時時刻刻」。見出しから。

1面

  • 6.8兆円 シャイアー買収合意
  • 武田薬品、日本企業最大

2面

  • 武田 身の丈超す買収
  • 米国市場の販売拡大
  • 新薬候補を取り込み
  • 巨額財務負担 リスクに

uttiiの眼

身の丈超す買収」という解説記事の見出しに限らず、《朝日》の書き方には、この買収劇の結果がどちらに転ぶか分からないという不安を抱かせるものがある。

巨額買収の背景には、新薬の開発期間の長期化という製薬業界の事情があり、買収によって「高収益が見込める新薬候補の取り込み」を図ろうとする動きは、武田に限らない。今や世界最大手となったファイザーも、大手企業の買収によって成長し、「ファイザーモデル」と称された。武田はまさしくそのモデルに従い、過去、アリアド、ミレニアム、ナイコメッドといった製薬企業を買収。その延長線上に今回のシャイアー買収も位置付けられることになる。

武田は、2010年までに主力薬の特許が切れて収益が減少。新たな収益源の確保が焦眉の急だったことに加え、世界最大の市場である米国での販売比率が低く、そうした弱点を補う上で恰好の的となったのが、多くの新薬候補を抱え米国市場に強いシャイアーだったということになる。

問題は、買収金額があまりに巨大過ぎることにありそうだ。

「時価総額で自らを上回る同業大手の全株式を取得する『身の丈以上』」と評される買収であることから、財務悪化の懸念が生じ、武田は株価も下落基調にあるという。既に1兆1,000億円に上る有利子負債が、この買収に伴う資金調達によって4倍に膨れあがるのだそうで、格付け機関は格下げを含めた検討に入るらしい。

どちらかというと、「悲観的」な書き方に見えるのは、シャイアーの新薬開発の歴史や、承認を待っている新薬の効能の素晴らしさといった情報が欠けているからなのかもしれない。

もう一点。《朝日》の記事中、社長がクリストフ・ウェバー氏という外国人であることは触れられてはいるものの強調はされていない。次の《読売》ではその点が大きく違ってくる。

相手は成長企業か?

【読売】は1面中段の基本的な記事と3面の解説記事「スキャナー」、8面にも関連記事。見出しから。

1面

  • 武田、6.8兆円買収合意
  • シャイアー 海外企業 最高額

3面

  • 世界十指へ 武田の賭け
  • 6.8兆円 シャイアー買収
  • 新薬開発10年 時間ごと買う
  • 海外M&A 巨額損失も
  • 東芝や日本郵政

8面

  • 武田 グローバル化に活路
  • シャイアー買収合意
  • 海外売上高 全体の8割に
  • 一部株主は慎重 反発も

uttiiの眼

具体的な情報が満載で、それらを総合して浮かんでくる印象はやはり「不安」の一言。

3面解説記事「スキャナー」は、製薬企業の巨大化とグローバル化の中、武田は「生き残るため」、成長に必要な「時間を買った」と評している。今や、新薬の開発は年々困難となり、開発成功率は3万分の1とされるらしい。その結果、有力な新薬候補を持つ企業の買収が繰り返され、売上高数兆円の巨大製薬企業が生まれたとする。

武田が買収で合意したシャイアーは、「競合相手が少なく薬価も高い希少疾患に強みを持つ。最大市場の米国での売上高も多く、買収直後から利益を伸ばすことが見込めることも魅力的」とされる。

しかし、課題は2つ。1つは「小が大を飲み込む」ため、財務負担が大きく、もし、有利子負債の削減措置がとれなかった場合、「事業面で見込まれるプラス効果を大きく上回る」と、格付け機関に見られていること。有利子負債の削減策とは、早い話、投資してくれる先を探すことだろうが、可能なのだろうか。

そして、もう1つは、シャイアーの成長性に不安がある。シャイアー自身、有望な新薬を持つ他の企業の買収を繰り返して成長してきた企業だが、「5年程度で特許切れを迎える薬も多い。この間に新薬候補を育てられないと、武田の未来はない」(アナリスト)と。

これを読むと、シャイアーの株主が買収を納得する理由が分かるような気がするが、このアナリストの予言が当たれば、武田は地獄を見ることになるのだろう。

8面記事。武田がグローバル化に向かってきた流れを整理している。武田の経営リーダーシップが創業家を離れたのは2003年。米国とドイツに駐在した経験を持つ国際派の長谷川閑史氏が社長となる。「グローバル化が生き残る道」が持論の長谷川社長は1兆円規模の大型買収を2件手掛ける。その後任が現在のクリストフ・ウェバー社長。フランス人のクリストフ氏は昨年、アリアドを6,200億円で買収、そして今回のシャイアー買収と続く。現在、執行役員14人のうち3分の2以上が外国人。ウェバー氏は元々英国の製薬大手グラクソでワクチン部門の社長を務めた人で、今回の買収では、同氏の欧州人脈が役立ったのだという。

江戸時代に創業した武田のイメージはとっくの前に消滅しているということだが、他方、経営のリーダーシップと資本の構成にはズレがあり、今回のような思い切った変化を株主が受け入れるかどうかはまだ分からないということのようだ。

これまでの買収は失敗だった…

【毎日】は3面の解説記事「クローズアップ」のみ。見出しから。

3面

  • 武田 過去最大の買収
  • 6.8兆円 シャイアーと合意
  • 負債兆円重荷に

uttiiの眼

シャイアーが強い希少疾患の薬とは、注意欠陥多動性障害(ADHD)や遺伝性血管性浮腫などの治療薬。武田が強い消化器系やがんの分野と併せ、買収後は両者の重点5分野で売上高の75%を稼ぎ出すという。同時に、シャイアーが持つ米国内の販売網を活用して米国で稼ぐ狙いだと。

記事中盤に、《毎日》のユニークな視点が生かされている。

武田のウェバー社長は「時間を買う戦略」によって成長を実現しようとしているが、「企業買収だけでは収益増につながらない」(証券アナリスト)のも事実。実際、2008年に米ミレニアム、2011年にはスイスのナイコメッドを買収したが、それによって収益力の高い治療薬を揃えることはできていないという。開発中の新薬候補がなかなか育ち切れていないということに他ならない。

巨大化することにはもう1つメリットがあるはずだ。潤沢な資金を研究開発に投入することが可能となり、新薬の開発を進める上で有利になって然るべき…ところが、実際にはそうなっていない。さらに、巨大化といっても、今回の買収が完了してもまだファイザーの半分近くにしかならない。自前の新薬開発力はファイザーに遠く及ばないということだ。《毎日》はそこまでは書いていないのだが、早い話、少なくともウェバー社長になってからの買収戦略は失敗の連続だったということだろう。

記事の後段は、ファイナンスについて記述。買収後の有利子負債について、他紙とは違う数字を出している。 武田が現在抱えている1兆1,000億円の有利子負債に加え、買収資金として3兆円を三井住友銀行や三菱UFJ銀行から借りることになる。さらに、シャイアー自身が今現在抱えている2兆円程度の負債を足すと、合計で6兆円の負債になる。ヒット商品を生み出せなければ破綻の危機に瀕することにならないだろうか。

こうした状況に加え、新株の大量発行によって株式の価値が目減りするリスクを負わなければならないとしたら、武田の株主たちはこの買収を納得してくれるだろうか。記者は「株主の動向によっては今回の巨額買収も見直しを迫られる可能性がある」として記事を閉じている。

高すぎないか?

【東京】は2面の左脇に記事。6面に関連記事。

2面

  • 武田、欧州大手7兆円買収
  • シャイアー 医薬世界9位に

6面

  • 武田 社運懸け巨額買収
  • 海外へ活路 財務不安視も

uttiiの眼

《東京》も基調は「不安」。

6面記事は、「新薬開発」よりも「扱う製品の分野を広げ国際競争力を高める狙い」に焦点を定めている。そこまで明言していないが、ウェバー社長が口にする「時間を買う戦略」にしても新薬開発にしても、結局は実際に稼ぎ頭になってくれるかどうかは分からない。いわば「海の物とも山の物ともつかない」代物だから、勘定には入れていない。確実なのは、販売網の拡充であり、シャイアーのものを武田の販売網で売り、武田のものをシャイアーの販売網で売ることによって、相乗効果を得るというのが当面目指されている…という評価のようだ。

そう考えると、1つ大きな「不安」が浮かんでくる。今回、「当初示した買収額を複数回にわたり引き上げるよう迫られ結局は7兆円に膨らんだ」点だ。買収によって得られる収益増と、その“代金”としての7兆円が見合ってくれるのかどうか。おそらく、株主の疑問もそこに集中するのではないだろうか。大した収益増も見込めず、6兆円の有利子負債に耐えていけるのかどうか。記事は、「高価格の薬品の販売が難しく国内市場の成長が期待しにくいとされる中、大型買収で海外に活路を見出そうとした武田。大きな賭けになるだけに経営者の手腕が問われる」としている。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

あまり取り上げない経済ものになりました。各紙の「違い」も比較的小さいものでした。ただ、その中で浮かんできたのは、こうした買収劇は、ギャンブルと紙一重なのではないかという感覚です。漫画に描くとしたら、経営者が宝くじを握りしめながら、「これさえ当たれば…」と呟いている姿でしょうか…。6兆円の有利子負債とは想像を超えています。恐ろしくなってきました。

それにしても、武田の社長がフランス人というのにも驚きました。

もともと、武田のような企業の自己認識は「江戸時代に誕生した老舗の薬問屋」という感じなのかと思っていました。それは明らかに古すぎですが、しかし、外国人社長と外国人取締役たちがグローバル戦略を展開して巨額のM&Aを仕掛ける…というのも、武田の企業イメージとしてはしっくりきません。どうなっているのやら…。

というところで、きょうはここまで。

また明日!


7兆円買収で武田はリスクまみれに。財務負担が名門を窮地に追い込む

2018年04月30日 20時10分59秒 | 気になる株

つばめ投資顧問


武田薬品工業(4502)が、アイルランド製薬会社のシャイアーを7兆円で買収することを提案しています。実現すれば、ソフトバンクによるアーム買収(3兆円)を大きく上回り、日本企業による企業買収として過去最大の金額です。

株価は3月28日の報道前から約2割下落しています。買収金額の高さが懸念されているようです。時間を追うごとに買収金額が引き上げられ、買収の実現性が増すに連れてずるずると下がり続ける展開です。

 

 

製薬業界は巨額買収が日常茶飯事

日本企業による買収案件としては過去最大ですが、世界の製薬業界では巨額の買収案件は珍しくありません。業界最大手のファイザーは、500億ドル(約5兆円)以上の買収を3件行っており、それ以下の案件も含めると膨大な金額となります。

これだけ買収が盛んになる理由は、製薬会社のビジネスモデルの特性にあります。

新薬を手がける製薬会社は、新製品を開発し、各国当局の承認を得て病院等の医療機関に販売します。しかし、医薬品が高度化するなかで、開発から販売(「上市」と言います)に至るのはわずか3万分の1と言われ、その時点で博打的な要素を含みます。

運良く承認が取れたとしても、特許の有効期間は20年間しかありません。特許が切れるとその大半がほぼ同じ成分で割安なジェネリック医薬品に置き換えられ、製薬会社は収益源を失ってしまいます。

新しい製品を上市し続けなければジリ貧になることは目に見えているのです。

その状況を打破するために必要なのが「ブロックバスター」と呼ばれる、そのカテゴリを独占するような製品の獲得です。様々な製品を取り扱っている製薬会社も、売上の大半は少数の製品による売上です。武田も上位3種類で売上の4分の1、上位10種類で売上の半分を占めます。

つまり、生き残っていくためには「ブロックバスター」となる製品をなるべく多く獲得し、次の20年につなげることが鍵となります。

自社の研究開発だけで3万分の1の確率を当てようとするには、いくら優秀な研究者を揃えていたとしても確実性に欠けます。それよりも、すでに上市されていたり、承認前の最終段階に入っている製品を持っている会社ごと買ってしまった方が確実なのです。

進むも地獄、退くも地獄・・・厳しい状況に置かれる武田

このような流れで世界の製薬業界は買収を繰り返し、ファイザーやロシュ、ノバルティスといった売上高5兆円を超える「メガファーマ」が誕生しました。規模が大きくなるほど、研究開発や営業体制も整えることができ、企業体力を強化できるのです。

それに対し、武田の売上高は1.7兆円、売上高規模では世界第19位と「中規模」にとどまり、利益率も10%未満と、20~30%を誇るメガファーマから大きく劣後します。

(出典)Answers News

国内売上高はいまだにトップに君臨する同社ですが、その地位も決して安泰ではありません。上位陣は拮抗し、海外メガファーマの攻勢も止まりません。これまではMR(営業員)による販売力が強みでしたが、規制強化により接待等も難しくなってきました。今後はガチンコで製品の質を競うことになるでしょう。

このまま行くと、ブロックバスターとなる製品が開発されない限り、会社としてジリ貧になってしまいます。そんな状況を避けるため、武田が取るべき戦略としては以下に絞られます。

  1. 買収を駆使してメガファーマを目指す
  2. 特定分野に特化し、規模は追わない
  3. メガファーマに買収される

国内最大手としての自負がある武田にとっては、2や3の選択肢は取りづらいでしょう。したがって1を選択するのは自明でした。7兆円の買収は大変なことですが、状況としては「進むも地獄、退くも地獄」と言ったところでしょう。

株価を下支えする「一発のでかさ」と「安定配当」

7兆円の買収金額のおよそ半分は武田の自社株によりまかなうとしています。新規に株式を発行し、買収先であるシャイアーの株主に渡すというものです。すべて現金で支払うと財務的な負担は測り知れないため、株価が高いときには有効な戦略と言えます。

武田の株価は高止まりが続いています。PERは30倍前後で推移してきました。上に挙げたメガファーマ3社がいずれも20倍前後、国内業界2位のアステラス(4503)が15倍ですから、割高感は否めません。

製薬会社の価値は、確かに直近の利益だけでは判断できない部分があります。もしブロックバスターが開発できれば、業績が急激に向上する場合があります。

例えば、高額医療費でも問題になったがん治療薬のオプジーボを販売する小野薬品工業(4528)は売上高が倍増し、株価も一時急騰しました。

会社規模が小さいほど、一山「当てた」ときの効果が大きいため、投機的な資金が流れ込みやすくなります。バイオベンチャーなどが良い例です。だからこそ、単に直近の業績だけでは判断が難しい部分があります。

ただし、武田はそこそこの規模があり、いまのところ目立った大型新薬があるわけではありません。そうなると、株価を支えているのはもう一つの要因の方が大きいと考えられます。それは配当です

安定配当を維持した結果、過去4期は純利益以上に配当を出す「タコ配」が続いています。それでも、自己資本比率は40%超と危険領域とは言えず、安定配当が続く限り高い配当利回りが見込めるため、会社のブランド力も手伝って一定の買いが入るのです。

現時点においても4%近い配当利回りがあり、株価を下支えしています。

財務体質悪化で減配となれば、大幅下落は避けられない

それでは、安定配当を目当てに、株価が下落した今投資すべきかというと、決してそんなことはないと考えます。

この買収が成立しようとしまいと、武田は厳しい状況に立たされていることに変わりはありません。そして、成立しなければ大きな変化はありませが、成立すると劇的な変化が訪れます

買収資金の半分を自社株の割当で調達するとしても、残りの半分の3兆円は現金で支払う必要があります。そんなお金は持っていませんから、大部分を借入により調達する必要があるでしょう。

借入金利が2%だとすると、3兆円に対する金利は年間600億円です。ドル金利は上昇中であり、3%になると900億円にも上ります。これは、武田の税引前利益1,400億円に対するインパクトは甚大です。

また、シャイアー自身も買収により規模を大きくしてきた会社のため、2兆円の有利子負債があります。現在の武田の有利子負債は1兆円であり、両社を合計すると6兆円もの金額になり、金利上昇リスクは測り知れません。

買収にともなうのれんも大きなリスクです。武田ののれんは1兆円、シャイアーは2兆円です。7兆円で買収するとさらに3兆円ののれんが追加される見通しであり、合計でこちらも6兆円となります。のれんは買収した会社の収益力が落ちた場合に膨大な特別損失を発生させます。

すなわち、買収により財務体質的にはリスクまみれになってしまうのです。そのリスクを解消するためには、結局新薬の誕生に賭けるしかないのです。

もし財務体質が悪化すれば、現在の配当を維持するのは難しくなるでしょう。そもそも利益以上の配当を行っていることから、継続性に大きな疑問符が付きます。

減配するようなことがあれば、これまで株価を支えていた株主が一気に離れて、大きく下落してしまうことは想像に難くありません

もちろん、買収や新薬開発が実を結び、業績が大きく向上する可能性もゼロではありません。経営陣も、そう思っていなければリスクの高い買収など行わないはずです。しかし、見れば見るほど追い込まれた末の買収であり、この成功に賭けるのはギャンブルとしか言えません

この買収が、偉大な名門企業の「終わりの始まり」にならないことを祈るばかりです。


楽天の携帯キャリア参入は苦難の道。「楽天経済圏」の野望とは?

2017年12月26日 15時58分36秒 | 気になる株

 

楽天(4755)が携帯キャリア事業に本格的に参入することを発表しました。実現すれば、NTTドコモ(9437)、KDDI(2812)、ソフトバンクグループ(9984)に次ぐ第4のキャリアということになります。

 

 

携帯キャリア参入の発表を受け株価は約10%下落

このニュースを市場は必ずしも前向きに受け取ってはいません。楽天の株価は発表後約10%下落し、年初来安値を更新しました。キャリア事業に参入するには基地局に多額の投資が必要となるため、投資家は負担増を懸念しています。楽天自身も新規に最大6,000億円の資金調達が必要としています。

すでに「楽天モバイル」として携帯電話事業に参入していますが、これはMVNOと呼ばれる大手キャリアから回線を借りているものにすぎません。キャリアに参入するということは、回線を自前で持つということであり、本格的に既存のキャリアと対峙することになります。

楽天モバイルは現在MVNOでは首位の140万契約を抱え、シェアは25%にのぼります。ただし、当該事業は価格競争が激しく、簡単に利益の出るような事業ではありません。同業のフリーテルは、一定の顧客を集めていたものの経営が立ち行かずに破たんし、それを楽天モバイルが引き継いだばかりです。

MVNOは価格競争のため利益を出すのが難しいだけではなく、借りている回線はすぐにいっぱいになってしまい、顧客が増えるほど回線速度が下がるジレンマを抱えます。契約者が増えたら大手キャリアに追加料金を支払わなければならず、再び利益を圧迫する構造です。スケールメリットが働きにくく、業者としてはやっていられないでしょう。

一方で、大手キャリアはこれまで甘い汁を吸い続けてきました。かつてはソフトバンクの参入で価格競争も見られましたが、最新の4G回線に切り替わる頃には各社とも基地局への投資が終了し、スマートフォンへの移行とともに料金を引き上げ、いまや黙っていてもじゃぶじゃぶお金が入ってくる状況だったのです。

そこに楽天も参入すれば甘い汁を吸えるかというと、そんなに簡単なものでもありません。これから新規の顧客を獲得するには間違いなく価格を下げなければなりませんし、一方では巨額投資が必要ですから、少なくとも最初の数年間は大きな赤字を覚悟しなければならないでしょう。もちろん、それでも成功する保証はありません。

とはいえ、MVNOとして生き残っても薄利のままで、伸ばせる契約者数には限界があります。状況を打破するためにあえて業績悪化のリスクを負って新規事業への進出を決断したのでしょう。

キャリア参入の本当の目的は「楽天経済圏」の拡大

楽天と言えば、まずインターネットモールの「楽天市場」があります。そこに「楽天トラベル」などのインターネットサービスや楽天銀行・楽天証券・楽天カードなどの金融サービスが付属しています。

楽天市場は今でもメインの事業ではありますが、必ずしも順風とは言えません。取扱金額こそ増えているものの、Amazonの方が明らかに勢いがあります。実際に、Amazonの品揃えが以前よりも充実し、あえて楽天のごちゃごちゃしたページを見なくてもAmazonで買ってしまえば十分なのです。

追い打ちをかけたのが、ヤフーの攻勢です。ヤフーも楽天市場と同じように「Yahoo!ショッピング」を有しますが。そこのモール出店料を無料にしたのです。さらに、ヤフーが導入したTポイントをユーザーに大量に付与しました。これは明らかに「楽天潰し」と見られます。

楽天も黙っているわけにはいきません。出店料こそ維持しましたが、「楽天スーパーポイント」を5倍・6倍・7倍とどんどん付与するようになりました。楽天カードでの購入や銀行・証券口座保有者、楽天モバイル契約者にはより高いポイントが付く設定にしました。

しかし、ポイントを大量に付与するということは、それだけ利益率が低下するということです。ポイントの付与率を上げてから、楽天市場の利益は明らかに低下しています。取扱金額が増えても、ポイントの負担が利益を押し下げているのです。

一方で、業績を支えているのがカード・銀行・証券などの金融事業です。ポイントアップや業界最低水準の金利・手数料を目当てに既存の業者からの客を奪っています。ネット専業の低コスト運営のため、それでも十分な利益を確保でき、昨年度の利益額では楽天市場などのインターネットサービスを上回りました。

カードや口座があれば、ポイントが獲得しやすいことから、まめな人ほど楽天のサービスから離れられなくなるでしょう。それを顧客獲得の「エサ」にして、旧来の競合他社の旨味を吸い取るのが大上段の戦略と言えます。つまり、ポイントにより自社のサービスに顧客呼び込む「楽天経済圏」を拡大しようとしているのです。

携帯キャリア参入の意図は、まさにこの楽天経済圏の拡大にあります。携帯はいまや生活の中心と言っても過言ではなく、生活費の高い割合を占めています。そこを自社に取り込めば、より広くかつ強力に顧客を取り込むことができると考えたのです。

自前で回線を持つことで1,500万人の契約者獲得を目指すとしています。1,500万人のヘビーユーザーを他の様々なサービスに呼び込むことで事業の拡大を行おうとしているのです。

携帯キャリア参入は二重に利益を圧迫

楽天経済圏の拡大が携帯キャリア参入の目的だとするなら、私は投資に見合うリターンを得られるかどうか疑問です。システム投資だけで良い銀行や証券とは異なり、携帯キャリアは基地局や販売店などの莫大な投資を必要とします。ソフトバンクですら、ボーダフォンの買収によりようやく参入できた事業です。

価格は既存キャリアよりも引き下げなければならず、そこにポイントも付与するとなるとますます楽天市場の利益を圧迫するでしょう。設備投資とあわせて二重に利益を圧迫し、一体どこでリターンを得られるか、少なくとも現時点において想像ができません。

順調な金融事業や事業拡大により、この先も成長が見込まれる会社です。しかし、楽天市場はライバルの攻勢が激しく、苦戦しています。金融事業も、マーケット状況により収益が大きく増減するため、決して安泰ではありません。

そこへ、数兆円にのぼる巨額投資を行わなければならないとすると、リスクは決して小さくありません。2019年中の事業開始を目指しているということですが、それまでは巨額投資の懸念が常につきまとい、株価に蓋をする可能性があります。

楽天スーパーポイントを基軸とする「楽天経済圏」は非常に面白いものがあります。しかし、その根本はポイントによる割引率や商品価格の安さに繋ぎ止められているものであり、価格競争に巻き込まれやすいものと考えられます。

携帯キャリアに進出した先の展開は、もしかしたら経営陣には見えているかも知れませんが、少なくとも私には利益が増えるイメージが湧いていません。今後の状況を注視していきたいと思います。


東芝、6000億円の増資決議 上場廃止の回避狙う

2017年11月19日 22時05分46秒 | 気になる株

 東芝は19日、同日開いた取締役会で6000億円の増資を決議したと発表した。これにより財務改善策の主軸である半導体メモリー事業の売却が遅れても、2018年3月期末の2期連続の債務超過による上場廃止を回避できる見込み。調達資金は破綻した米原子力子会社に関わる債務返済などに充てる。債務超過解消にメドが付き、再建に向け大きく前進する。
 増資は海外約60社の投資家に引き受けてもらう。旧村上ファンド出身者が設立したエフィッシモ・キャピタル・マネージメントや米キング・ストリート・キャピタル・マネージメントなどに割り当てる。1株当たりの発行価格は262円80銭と17日終値を10%下回る。増資後のエフィッシモの株式保有比率は11%強(現在は10%弱)に上昇し筆頭株主のままだ。払込日は12月5日の予定。
 東芝は現状で18年3月末の自己資本が7500億円のマイナスを見込むが、増資によって、仮に来年3月末までをメドとするメモリー事業売却ができなくても最低で数百億円のプラスに転じる。
 増資に加え、税負担軽減による純利益の押し上げ効果が少なくとも約2400億円見込めそうだ。東芝は元米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)の破綻に伴い、原発費用を東芝が負う保証債務(約6600億円)を抱える。今回の調達資金で一括返済すると税法上の損金として認められ税効果会計適用の恩恵を受けられるからだ。
 今回の増資は足元の東芝の時価総額の約5割に相当する。株式価値の希薄化を警戒する声があるが、既存株主にとっては上場廃止の不安を払拭できるうえ、財務の安定につながる利点がある。
 1兆円強のメモリー売却益も加えると、自己資本は1兆1000億円程度のプラスが見込める。自己資本比率は2割を超え、財務不安は一気に後退する。社会インフラやIT(情報技術)関連などを軸とした再生計画が進みやすくなる。
 東芝は9月末にメモリー事業を日米韓連合へ売却することで合意した。ただ各国の独占禁止法審査の進捗次第で売却が来年3月末以降にずれ込む懸念が出ていたため、債務超過解消へ向けて資本増強策を練っていた。


創薬で「時価総額4兆円」 ペプチドリームの正夢いつ

2017年08月28日 22時10分05秒 | 気になる株

 2020年代のどこかで時価総額4兆円になる――。創薬ベンチャー、ペプチドリームの窪田規一社長は、東京都内で23日に開いた決算説明会をこう締めくくった。4兆円という数字は、国内最大手である武田薬品工業に匹敵する。決算数字がいまいちであるにもかかわらず強気の姿勢を崩さないのは、開発の進捗に手応えを感じているからだ。

 

ペプチドリームの窪田規一社長は多くの製薬大手と新薬開発で協力
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ペプチドリームの窪田規一社長は多くの製薬大手と新薬開発で協力

 ペプチドリームの技術は、特殊ペプチドと呼ばれる化合物を短時間のうちにランダムに数兆種類も作れる。ペプチドはアミノ酸がつながったもので、がんなど病気を治す薬の候補だ。製薬企業が持つ化合物はせいぜい数十万から数百万種類となっている。

 これまで欧米の名だたる製薬大手と共同研究契約を結び、1社当たり数億~10億円規模の契約一時金やマイルストン収入を稼ぎ、急成長を遂げてきた。勢いに陰りがみえたのは17年6月期だった。前期に比べ売上高が数倍伸びる決算を繰り返してきた同社が、わずか13%増の48億円にとどまった。契約相手となる製薬大手は当然のことながら限られた数しかなく、既存の契約先での開発の進展を待つしかない不透明な時期に入ったとも受け止められた。

 そんななかで、ペプチドリーム由来の医薬品候補のうち最も開発が進んでいた製品について、証券会社が「導出先の米大手製薬が開発を中止した」と推測するリポートを公表した。今年5月初旬のことだ。これは誤報だったが、翌日の株式市場では売りが殺到し、10%を超す大幅な株価ダウンとなった。

 「本当に薬ができるのか」という医療業界や患者、投資家の不安はつねに創薬ベンチャーにつきまとう。様々な実績を持ち、開発資金も持つ製薬大手に比べれば仕方のないことだ。

 だが、ペプチドリームに期待できる材料はほかの創薬ベンチャーよりも多い。17年6月期には、第一三共とペプチドリームで研究していた新薬候補の物質について第一三共が臨床試験の準備に入ることを決めるなど、計7社で開発が進んだ。新たに製薬大手と契約するなどの華々しさには欠けるものの、創薬に向け着実に歩んでいる。

 製薬会社は新薬開発の効率性においてペプチドリームが優れていると認めているのは間違いない。塩野義製薬積水化学と8月7日、特殊ペプチドの原薬製造会社「ペプチスター」の設立記者会見を開いた。席上、塩野義の手代木功社長が「我々が数年かけても満足に作れなかった化合物を、ペプチドリームはわずか4カ月で作ってくれた」と語った。

 同社に弱みがあるとすれば、化合物を製薬企業に渡した後の主導権がないことだ。臨床試験入りも相手の都合次第で、開発が進まなければ収入もない。このため自社開発品の拡大にも目を向け、そーせいグループの英ヘプタレスと提携するなど手を打っている。

 17年6月期の営業利益は2%減の24億円、純利益が20%増の18億円。18年6月期の目標は売上高70億円以上とした。70億円はあくまで最低限の数字だという。ペプチドリームの技術で生まれた薬の候補物質が正式な新薬第1号として国から製造販売の承認を得られる時期について、同社は22年を念頭に置いている。同社はまだ夢のなかにいるが、正夢になるはずだと、実現に向けひた走っている。

(野村和博)


鳥貴族、28年ぶり値上げ 脱デフレへ転換告げるか

2017年08月28日 21時57分38秒 | 気になる株

「全品280円均一」でデフレ時代を駆け抜けてきた焼鳥店チェーンの鳥貴族がついに値上げを決めた。デフレ環境下で28年間も280円にこだわり業績を伸ばしてきた業界の勝ち組が、人件費などのコスト増に耐えかね苦渋の値上げを迫られた格好だ。熱烈ファンらの嘆き節が相次ぐ一方、同社の株価は上昇し、悲喜こもごもの状況だ。今回の値上げという「鶏鳴」は脱デフレ時代を告げているのだろうか。

圧倒的な安さに学生、サラリーマンの支持

 鳥貴族は28日朝、全品280円(税別)均一としていた価格を10月からすべて298円(同)に引き上げると発表した。「28とりパーティー」と名付けた2時間食べ放題・飲み放題の料金も2800円から2980円に上げる。一部店舗に残っている「280円均一」と表記された看板も順次新しいものへ切り替える方針だ。

 もともと焼き鳥は庶民の味の代表格だ。そのなかでも鳥貴族は、ボリュームはありながら安価な価格で学生やサラリーマンの支持を得てきた。何も飲まなくても焼き鳥を11品食べれば元が取れる食べ・飲み放題のファンも多い。値上げ発表の直後から、ツイッター上では「泣いちゃう」「失望した」「悲報」と嘆く声が相次いだ。一方で「それでも安い」「徐々にデフレ脱却を感じる」と値上げを理解し、前向きにとらえる声もあった。

 鳥貴族は1985年に大阪で1号店を開業。95年から「鳥貴族」に絞った単一ブランド展開を始め、近畿圏だけでなく首都圏や中京圏にも店舗網を広げた。2017年7月時点で567店舗を展開している。

 順調に業績を伸ばしてきた同社に暗雲が広がり始めたのは昨秋。30周年記念の値下げキャンペーンで想定を上回る客が来店したことが採算悪化を招き、人件費や野菜の仕入れ価格の上昇が追い打ちをかけた。今年6月には2017年7月期の通期業績の下方修正を発表。前期は5期ぶりに営業減益となったもようだ。

 もっとも値上げまでの道は平たんではなかった。これまで同社は品質・サービスを維持しながら利益率を向上させることを目指し、社内で「280円(税抜)均一を守ろうプロジェクト」を立ち上げて努力を続けた。同社の経営企画室は「28年間、いろんな努力をして価格を守ってきた。直近も店舗にタッチパネルを導入して人件費を抑えるなど全社横断的に無駄の削減に取り組んできた。しかし、それ以上に外部環境の影響が厳しかった」という。苦渋の決断だ。

外食は値上げ、小売りは値下げ

 外食業界ではほかにも値上げの動きが出ている。ペッパーフードサービスが7月に立ち食いステーキ店「いきなり!ステーキ」で一部メニューを値上げし、長崎ちゃんぽん店を展開するリンガーハットも西日本の店舗で8月から値上げを実施。すかいらーくも10月から全ブランドで一部メニューの値上げを検討し、平均客単価を15円程度上げる計画だ。

 リクルートジョブズ(東京・中央)の調べでは、レストランや居酒屋などフード系職種の17年7月のアルバイト・パート時給は平均973円と前年同期比2.5%高い。人手不足から前年同月比ベースで伸びが続いている。「人件費の上昇で値上げを検討せざるをえない」(すかいらーく)環境だ。

 外食業界で値上げが目立つ一方、小売業界では値下げの動きが相次いでいる。今春セブン―イレブン・ジャパンなどコンビニエンスストア各社が値下げし、今月に入ってからはイオンやイケア・ジャパンが値下げに踏み切った。消費者の節約志向は続き、すべての業界が値上げに動いているわけではない。

値下げ銘柄の株価は軟調

 今回の鳥貴族の値上げについて株式市場は好反応だ。28日の東京株式市場で同社の株価は午前中に一時前週末比10%高の水準まで上昇。終値は8.2%高の2815円と2カ月半ぶりの高値となった。値上げで利益率の改善が期待できるとの見方から個人投資家などの買いが広がった。

 株式市場では値上げに踏み切る「脱デフレ」銘柄を評価する傾向がある。8月3日に家庭用オリーブオイルの値上げを発表した日清オイリオグループの株価は急ピッチで上昇し、28日には年初来高値を更新した。ペッパーフードの足元の株価は値上げする前の6月末に比べ6割高い。

 逆に値下げに動く銘柄の株価は軟調だ。23日に食品や日用品の値下げを発表したイオンの株価は発表前に比べて小幅安。傘下のコンビニが4月に値下げしたセブン&アイ・ホールディングスの株価もさえない。値下げは目先の客数は増えやすいものの中長期でみると利益を圧迫する懸念があり、市場は持続的な収益成長につながる「値上げ力」を求めているといえる。

 鳥貴族が280円均一を続けた期間は、1998年からとされる日本のデフレ期にも重なる。足元の物価の伸びは依然として弱い。個人消費の回復や雇用逼迫など物価上昇の条件は整っているのに、なかなか上がらない背景には企業や個人のデフレ心理があると日銀は分析する。

 業界や企業によって価格戦略は様々で今後の物価見通しはなお不透明だが、鳥貴族に代表される「デフレの申し子」の値上げが広がればデフレ脱却の一助となる可能性はある。鶏の鳴き声は歴史の転換点を告げることがある。鳥貴族が決断した28年ぶりの値上げはその象徴となるかもしれない。

(佐藤史佳、栗原健太、福岡幸太郎)


東芝142年の歴史にひび 内輪の論理が仇 時価総額4分の1

2017年08月09日 08時33分49秒 | 気になる株

 

2017/08/09 07:28  日経速報ニュース    1367文字  
 今年で設立142年の東芝。米原子力発電事業の巨額損失を巡る会計問題のゴタゴタの末、ようやく財務局に提出する2017年3月期の有価証券報告書には監査人から「限定付き適正」という不名誉な意見が付けられる見通しになった。監査法人を代える代えないでもめた揚げ句に得た結論は上場廃止リスクをひとまず後退させたが、市場で大きな不信を買い、1875年以来の歴史にひびが入った。東芝の再生への道のりは険しい。

 「経営者の力量不足だ」。東芝の失敗の本質を、大半の市場関係者はこう断じる。

 日本企業の失敗のタイプには、山一証券や旧日本航空のような問題先送り型のほか、シャープや総合スーパー、マイカル(現イオンリテール)といった過剰投資型などがあるが、東芝はこの2つの側面を併せ持つ。

 野心的な挑戦が責められるのは筋違いだ。ただ、国の支援もよりどころに原発事業に前のめりになり、将来性が怪しくなっても責任の所在をあいまいにした。内輪の論理を優先した結果の経営悪化は日本的組織運営にありがちな末路ともいえる。

 「からくり儀右衛門」と呼ばれた発明家、田中久重が東京・銀座に工場を創設したのは、文明開化初期の1873年。その2年後に田中は東京芝浦電気(東芝)の前身となる電信設備メーカー、田中製造所を設立した。1963年には日本初の原子力用タービン発電機を完成。84年の「東芝」への社名変更後は半導体がけん引役となり、89年に株式時価総額は4兆6000億円に達した。しかしいまは、その四分の一だ。

 「第二・第三の東芝をつかまないようにするには、どこをチェックすればよいか」。こんな海外投資家の問い合わせに、あるアナリストは次のように答えるという。「まず海外で買収した事業の収益性。さらには会計基準が米国か否か」。

 東芝が採用するのと同じ米国会計基準を挙げるのは、日本基準と異なり「のれん」の定期償却が必要ない分、今回の東芝のように買収先の業績が悪化すると一気に損失処理しなければならないからだ。

 ただし、仮に東芝が米国会計基準でなかったとしても、経営の失敗が未来永劫(えいごう)、封印されるわけではない。隠蔽体質、無責任体制が生むうみで、いずれ経営は行き詰まる。

 QUICKによれば、今年で設立100年を超える日本の上場企業数は137に上る。このうち継続的にデータがとれる113社について、1984年から直近までの株価パフォーマンスを調べたところ、東芝やNECなど39社は下落していた。コングロマリットで経営資源が分散したり、産業構造の変化への対応が遅れたりした企業が目に付く。

 事実上、東証しか株式売買の場がないのも問題だ。東証が流動性を意識しすぎるあまり、上場企業の新陳代謝を妨げている可能性がある。

 ドル箱の半導体事業を手放し、廃炉事業の展望も描きにくい東芝に現時点で明るい未来を描くのは難しい。一筋の希望は、IBMやインテルなど80年代に日本企業との競争でコテンパンにやられた米企業が、その後、IT(情報技術)という新種の武器を手にして復活したという前例だ。東芝には、これを機に過去を一切断ち切って、豊富な技術力と知見を武器に自由な発想で、見たことのないサービスや商品を打ち出すことに期待したい。〔日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 永井洋一〕

ペプドリが夢見る脅威の営業利益率80% 証券部 須賀恭平

2017年06月14日 09時10分11秒 | 気になる株

営業利益。それは、売上高から製造にかかる原価や、販売に関わる人件費など販売費・一般管理費を差し引いた後に残る貴重な「本業のもうけ」。日本の上場企業の営業利益率の平均はおよそ7%で、20%もあれば十分高いレベルだ。それを「80%」という脅威の高さに照準を合わせる会社がある。2013年に上場した東大発の創薬ベンチャーのペプチドリームだ。

 

独自技術「PDPS」のライセンス事業が好調だ

独自技術「PDPS」のライセンス事業が好調だ

 たんぱく質の一種「特殊ペプチド」を使った創薬開発支援を手がける。自然界に稀に存在していた特殊ペプチドを人工的に量産する「PDPS」という創薬開発技術が武器だ。特殊ペプチドの設計図を組み替え、多様な特殊ペプチドが作れる。疾患の原因になっている物質に作用するよう自在に組み替えることが可能で、がんやインフルエンザなど疾患の種類を問わない新薬開発が期待できるという。

 2016年6月期は売上高43億2700万円に対して営業利益は25億4800万円で、営業利益率は58.9%。既に十分高いが、窪田規一社長は「2021年6月期ごろにはコンスタントに利益率80%をたたきだすだろう」と鼻息が荒い。ペプドリの業績は契約先企業の新薬開発次第で大きくブレるため、業績予想は開示していないが、アナリストらの平均的な市場予測では、21年6月期の売上高は177億円、営業利益が132億円となっている。利益率は75%で、会社側の80%という見立てもあながち「夢」と言い切れない。

 収益をけん引するのが「PDPS」のライセンス供与事業だ。PDPSを使えば、通常数年かかる新薬候補物質を2~3カ月で製作でき、候補物質の製作確率も飛躍的に高められる。自社での新薬開発も選択肢の1つだが、大手製薬会社などにライセンス供与すれば労せず継続的に収入を得られる。

 供与先が開発した新薬が市場投入されるまでに、合計数十億円のマイルストーン収入が入り、以降も新薬の売上高の数%のロイヤルティーが入る計算だ。年間売上高1000億円を超す「ブロックバスター」(大型新薬)ともなれば年間数十億円の利益がペプドリに入る計算だ。

 現在、複数の供与先と開発を手がけているが、ここへきてスピードも増している。12日、塩野義製薬に技術供与する新契約を結ぶと発表した。日本企業では初の契約で、今後1年程度かけて自社の技術者を塩野義に派遣し、技術を使いこなせるよう協力する。先月31日には既に契約済みの米バイオ製薬大手ジェネンテックが、7日には米製薬大手のイーライ・リリーが技術の運用を始めたと発表した。

 従来の共同研究型の開発に比べ、「原価率はゼロに近く、ライセンス事業が増えれば利益率は高まっていく」(窪田社長)という。共同研究の場合、ペプドリが自ら新薬候補物質を作成して企業に提供する形だった。研究所や人員の規模から「年間に受けられる案件の数が限られる」(窪田社長)弱点があった。ライセンス供与にカジをきることで、利益成長のスピードアップが可能になる訳だ。

 株価は昨年春から動意付いて急騰した。6月に16年6月期の業績を上方修正したことが直接のきっかけ。3000円近辺の推移だった株価は6月には7470円の上場来高値まで上昇した。およそ1年後の13日の終値は6570円と高値圏を保っている。日本では数少ない「夢」を持てる銘柄であることは間違いない。ただ、上場以来、度々新薬開発を巡る思惑を背景に騰落を繰り返してきた事実もある。夢と同時に冷静な分析も投資家には求められる。


東芝よりもタチが悪い? 日本郵政が抱える「本当の問題」とは

2017年04月27日 14時19分54秒 | 気になる株

海外企業の巨額買収に絡む減損損失の計上は、東芝<6502>を筆頭に相次いでいます。奇しくも、トール社を買収した時の日本郵政社長は、東芝出身の西室泰三社長でした。日本郵政も東芝のように経営危機に陥ってしまうのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

東芝よりもタチが悪い? 日本郵政が抱える「本当の問題」とは

課題は金融2社依存からの脱却

日本郵政は、傘下に主要3子会社を抱える持株会社です。3社とは、日本郵便ゆうちょ銀行<7182>かんぽ生命<7181>です。トール社は日本郵便の子会社として買収しました。

出典:日本郵政 株式売出目論見書

出典:日本郵政 株式売出目論見書

もともと郵政事業として国が行っていましたが、小泉内閣により民営化され、2015年11月に日本郵政とゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社が上場しました。

なぜ持株会社と傘下の子会社が両方上場するのかというと、そこには複雑な事情があります。
日本郵政は政府が株式の1/3超を保有しなければならないため、現行の法律では完全な民間会社になることはありません

政府関与の残る日本郵政がゆうちょ銀行やかんぽ生命(以下、金融2社)の株式の大半を保有していると、競合他社から「暗黙の政府保証が残る」とクレームが付きます。これでは事業が前に進まないため、日本郵政は金融2社の株式を放出しなければならないのです。

しかし、日本郵政の利益の大半は将来的に売却される金融2社に依存しています。経常利益に占める割合は2社で約9割に及びます。金融2社の株式を売却してしまったら、日本郵政には利益は残らないのです。

出典:日本郵政 有価証券報告書

出典:日本郵政 有価証券報告書

経営の根幹を支える金融2社の株式をこれから売却していこうとする中で、日本郵政は金融以外の成長戦略を示さなければ、投資家から見向きもされないことは目に見えていました。

金融2社に頼らないとなると、残るのは日本郵便です。しかし、郵便はインターネットの普及により年々縮小が続いています。インターネット通販の拡大により、ゆうパックなどの宅配サービスは伸びていますが、人件費の高騰もあり「豊作貧乏」が続きます。

それでも上場を前に目に見える形で成長戦略を打ち出さなければならない中で目をつけたのが、たまたま売りに出ていたトール社です。買収により「上場を経て一気にグローバル企業へ」と言えば、それらしくも聞こえるものです。

要するに、成長の可能性を匂わせるものであれば何でもよかったと考えられます。実際に、日本郵政は買収後も経営陣を送り込むことすらせず、完全に野放し状態が続いていました(そもそも日本郵政はお役所なので、海外企業を経営する能力はないのですが)。

6,000億円の買収は「金額ありき」

さらに問題なのが巨額の買収金額です。これまで「官業」で、ろくに買収などしたことのない会社が、いきなり6,000億円の金額を支払いました。これは市場価格に対して5割ものプレミアムを上乗せしたものです(上乗せ幅は3割が平均と言われます)。

この6,000億円という金額には、実は布石がありました。

上場前の2014年9月に、ゆうちょ銀行は日本郵政から株を買い戻し、日本郵政は1.3兆円の現金を手にしています

これは、ゆうちょ銀行から日本郵政への「手切れ金」とも言えます。おそらく何らかの政治的な力が働いたのでしょう。日本郵政は、7,000億円を長年の問題になっていた退職給付債務の精算に使い、残りの6,000億円を日本郵便の成長戦略へと投資することになったのです。

この経緯を踏まえると、買収金額6,000億円というのはあまりに出来すぎです。つまり、買収金額の6,000億円は、先に金額ありきで決められたものだと考えられるのです。

そこに細かな査定を行うはずもなく、「高値づかみ」はあっさり許容されました。今回の減損はある意味既定路線だったと言えるのです。

リスクは去ったが、成長は見えない

逆に言えば、6,000億円はゆうちょ銀行から「もらった」お金なので、ドブに捨ててもダメージは大したことではありませんでした。自動車免許取り立ての若者が、親から多額のお小遣いをもらって高い外車を買い、調子に乗って事故ったようなものです。

経営の根幹を脅かすものではなく、東芝のように急激に経営危機に陥ることはないでしょう。

巨額損失報道後、株価は一時下落しましたが、その後戻しています。減損処理を行ったことで、今後のリスクが減少すると市場は考えたのです。

これはある意味正しい考え方でしょう。日本郵政が抱える事業はいずれもローリスク・ローリターンのものばかりです。唯一大きなリスクとなっていたトール社を減損したことで、業績の下方リスクは軽減されました。

一方で、日本郵政の本当の問題はリスクの大きさではなく成長性です。

今回の件からもわかるように、日本郵政に成長戦略を実行する能力があるとは思えません。郵便事業はジリ貧の状況が続き、金融2社の株式を売却してしまったら、価値のあるものはほとんど残りません。

日本郵政が持つ最大の資源は、全国2万4,000件の郵便局です。最近ではIIJ<3774>と組んで、郵便局で格安スマホを販売するなど積極的な動きを見せています。

しかし、これくらいでは会社を大きく成長させるものにはならないでしょう。郵便局の局員が、切手を買いに来た人にスマートフォンの売り込みをしたり、複雑な契約をいちいち説明したりする時間や能力は必ずしも備わってないと思われるからです。

また、郵便局は金融2社の窓口業務を担うことで年間1兆円の収入を得ていますが、株式の売却が進めばこの委託手数料にも値下げ圧力がかかるでしょう。大幅な値下げが行われれば、単独としての郵便局はもはや立ち行かなくなるでしょう。

金融2社を除けば「マイナス価値」もありうる

株価のおおもととなる企業価値は、既存事業のキャッシュ・フローと将来の成長性によって形成されます。日本郵政はこのどちらもおぼつかない状況です。

【関連】公募割れ続く日本郵政とゆうちょ銀行 「騙された」株主のとるべき道は?=栫井駿介

日本郵政の価値が日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社で構成されると考えると、日本郵政の時価総額から金融2社株式の持分を除いた分が日本郵便の価値です。これを計算すると、上場時には5,000億円もあったものが、現在(2017年4月26日)では2,000億円にまで減少しています。

日本郵政が成長戦略を打ち出せない限り、この部分は今後限りなくゼロに近づいていくと私は考えます。今の体たらくを考えると、マイナスになってもおかしくないでしょう。

日本郵政は今年7月に政府による株式の売出しが予定されています。その際には、上場時のように証券業界を巻き込んだ大々的なマーケティング活動が行われるでしょう。

しかし、既に述べてきたとおり、日本郵政の本質的な価値を考えると魅力的なものではありません。右肩下りの会社に価値を見出すのは容易ではなく、長期投資の対象にはなりません。

それでも株式の売却を担う証券会社は、トール社の買収のようにいろいろと「売り文句」を考えてきます。長期投資家はそんなものには惑わされず、本質的な価値を見つめて投資判断を行いましょう。


財務省:日本郵政株の追加売却手続きを開始、主幹事証券選定に着手

2017年01月16日 20時21分50秒 | 気になる株
  • 国内4社程度、海外2社程度を3月に選定へ-書類審査で4-6社に
  • 売却の時期や規模については株価動向を見極め判断

財務省は16日、政府保有の日本郵政の株式の追加売却に備え、主幹事証券の選定手続きを開始すると発表した。売却の時期や規模については株価動向を見極めた上で判断する。

  審査要領では、国内から4社程度、海外から2社程度を主幹事として選定すると明記。書類審査の段階で口頭審査の対象となる証券会社を4-6社程度に絞り込む。

  財務省幹部は記者説明で、3月中に主幹事を選定し、実際に売却できるのは早くて7月以降になると発言。今回の手続きについて、日本郵政株を機動的に売却するために準備するとした上で、実際の売却は市場動向を見極めて検討すると述べた。

 

  政府は日本郵政株の政府保有義務分を除いた3分の2を早期に処分し、2022年度までに合計4兆円程度を復興財源とする方針。15年11月の第1次売り出しで保有株の20%を売却し、1兆4232億円の売却益を得た。売り出し価格は1400円だった。17年度予算案では前回実績を基に1.4兆円を想定している。

  日本銀行がマイナス金利政策を導入して以降、日本郵政の株価は低迷し、昨年6月には1184円の底値をつけた。昨年11月の米大統領選後の株高を背景に一時1655円まで戻したが同日の日本経済新聞による報道を受け、大幅に下落。終値は前週末比72円安の1408円だった。


東芝に残された道は「自ら上場廃止」以外にナシ? 再生のために、思い切った決断が必要

2017年01月11日 09時39分41秒 | 気になる株

現代ビジネス

東芝は昨年の12月27日に15年末に買収した米社で当初想定していなかった巨額のコストが生じ、資産価値が大幅に減少し、2017年3月期に米国の原子力発電事業で数千億円(数十億ドル)規模の減損損失が出る可能性があると発表した。

 ここまで来たら、東芝は自ら上場廃止とし、新たに再生を検討すべき段階に来ているのではないだろうか。

 改めて現在の東芝の状況を整理したい。大きくは以下の4つである。

 まずもってご理解いただきたいのは、今回の減損と、過年度の不適切会計は論点が違うということである。その両方を持って、上場廃止の可能性及び資金繰りを検討する。

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1.今回の減損について
2.過年度の不適切会計及び証券監査委員会報告書について
3.上場廃止の議論について
4.資金繰りについて
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プレスリリースでは見えない実態

 1.今回の減損は極めて分かりにくい

 CB&Iの米国子会社買収の伴うのれんおよび損失計上の可能性について

 さて、減損損失を公表したこのプレスリリースだが、極めて分かりにくい話になっている。

 単純に270億円で買収したうち、105億円がのれんなら、その減損で終わりだろうという印象だが、米国会計基準は買収度1年以内に資産の査定を行うにあたり、現在ウエスティングハウス(WEC)とChicagoBridge&Iron社(CB&I)で公正な資産査定額に齟齬が生じており、これに合意できなければ、WECは自社で見積もったコストを反映しなければならない。

 WECは見積もった追加コスト(Working Capital /運転資金)が大幅に上昇しており、「WECは、プロジェクトの完成にはCB&Iが当初見積もっていたものよりも更に32億ドルのコストの積み増しが必要であると主張している」ということになる。

 デラウェア州地裁判決(P5が該当箇所)

 よってこの32億ドルが新たにDCF法のWCに加算されるため、おそらく大幅にValuationはマイナスになるわけだが、それを270億円で買収したため、その差分がのれんになり(要はのれんは105億円でなく数千億円計上しなければならないということらしい)、それに資産性がないため、数千億円の減損ということだろう。

 2.過去の不正会計のうち、証券取引監視委員会の指摘はパソコン事業の部分

 東芝は2008年度から2014年度第三四半期までに総額で2248億円の不正会計を行っていたが、不正会計はいくつかの分類に分けられる。

 a.パソコン事業における部品取引 578億円

 東芝はパソコン部品を仕入れ、台湾の組立会社に有償支給をしていたが、その際の値段は、組立会社に明かさず「マスキング価格」と称し、調達価格の数倍で売っていた。本来であれば、組立会社から完成品を再度東芝が仕入れた時に、そのマスキング価格は相殺されるものだが、四半期ごとの「期ずれ」で生じた実際の調達価格とマスキング価格の“差額”を、製造原価のマイナスという形で、利益計上していたものである。

 今般、証券取引等監視委員会の報告書で2014年3月期までの3年間で400億円規模にのぼる不正会計に、歴代3社長が関与していた疑いがあると言っているのは、この部分を指している。

 東芝、400億円粉飾の疑い 監視委、検察に調査報告へ

 b.インフラ事業における工事進行基準 479億円

 工事進行基準とは、工事期間中、目的物が完成に近づくにつれて徐々に収益が発生するものと考え、工事の完成度合いに応じて工事に関する収益と原価を計上し、各会計期間に分配する方法である。工事進行基準適用の要件とは「工事収益総額」「工事原価総額」「決算日における進捗度」の3つが信頼性をもって見積もれることが必要となる。

 ここでは更に2つの損失の種類があり、一つは、収益額は電力会社との契約で決まっているものの、年度ごとの原価は東芝の判断の余地があるため、原価を過小に見積もり、売上の過大計上を行っていたものである。

 もう一つは過小評価した原価を超過して発生した原価分を工事損失引当金として計上しなかったことによるものである。

 c.半導体の在庫評価 371億円

 東芝は2011年、1ドル=70円台の円高により、主要工程を国内で担う半導体事業の採算が悪化した。その結果、主力のNAND型フラッシュメモリーに経営資源を集中する一方、単機能半導体を手掛ける北九州工場など3工場を12年に閉鎖するにあたり、それまで作りだめしていた製品の在庫が捌けなかったにもかかわらず、本来必要な在庫の評価減を実施しなかったため、結果的に利益のかさ上げとなった。

上場廃止に「したくない」理由?

 3.上場廃止の制約要因であった西室氏は既に日本郵政を退任

 現在東芝は2015年9月15日より東証より「特設注意市場銘柄」に指定され、更に2016年12月19日は指定継続となっている。また、当該指定から1年6か月を経過した日(2017年3月15日)以後に内部管理体制等について再度、改善がなされなかったと認められた場合は、同社株式は上場廃止となる予定である。

 特設注意市場銘柄とは、「有価証券報告書等の「虚偽記載」や不適正意見、上場契約違反等の上場廃止基準に抵触するおそれがあったものの、金融商品取引所の審査の結果、影響が重大とはいえないとして上場廃止に至らなかった銘柄のうち、内部管理体制等の改善が必要であり、継続的に投資家に注意喚起するべく、取引所が指定する銘柄」とされており、これはオリンパス事件の時に新たに出来た制度である。

 筆者は以前、もともと上場廃止の基準が曖昧だと書いた。

 それでも東芝が上場廃止にならないワケ ~ 東芝不適切会計問題で思うこと

 この記事の中で当時、私は上場廃止とならない理由は、元東芝会長、東証社長であり、当時、日本郵政の社長だった西室泰三氏にあると書いた。

 西室氏は東芝を退任したあと、2005年から2010年まで東証の会長を務めていた。東証トップを務めた西室氏の古巣である東芝を切っては、東証のメンツにも関わる問題である。

 また、東芝を上場廃止にしたとなると、今度は当時、西室氏が代表をしていた日本郵政の上場にも影響が出る可能性が大きかった。ただでさえ、日本郵政の上場スキームは究極の親子上場としてコーポレート・ガバナンスとしての疑問も出る中、東芝の話が郵政にも矛先が向かうことも十分に考えられたわけである。

 政府としては郵政の上場日程が狂うことは本意ではなかったはずだ。

 しかし、一昨年、日本郵政は無事上場し、その西室氏も昨年6月に日本郵政の社長を退任している。今となっては、政府も東証も東芝の上場廃止を妨げる大きな理由はないと思われる。

 ここで、過去の上場廃止の俎上に上がった案件を確認してみたい。以下の企業がここ10年程度で、世間を大きく騒がせた上場廃止判断が入った事例である。

 オリンパスの時に東証が判断した項目を参考にして、以下の7項目を過去事例にも当てはめてみた。

----------
1.決算修正すると上場基準に抵触するか
2.赤字を黒字にみせかけていたか
3.虚偽の有価証券報告書を使って金融市場より資金調達を行っていたか
4.本業の収益を偽っていたか
5.不正は組織ぐるみだったか
6.刑事罰となったか
7.課徴金となったか
----------

 大きく分けると「形式基準」と「それ以外」の2つに分けられ、「形式基準」には西武鉄道とカネボウが分類される。

 よって、この2つのケースの上場廃止判断は、社会的影響はあれど、それほど難しいものではなかったと考えられる。

 次に「それ以外」の判断には、ライブドア、日興コーディアル、オリンパスが含まれる。

 ライブドア、日興コーディアル、オリンパス、そして今回の東芝含め、上場廃止になる論点は利益の水増しであり、その結果としての有価証券報告書の虚偽記載に該当する。もっともその内容は各企業でバラバラだった。

 結局、この表を眺めても、形式基準に抵触した西武鉄道とカネボウ以外は、何が上場廃止のポイントなのかわからないというのが、正直な感想だ。日興コーディアルが仮に上場廃止になったのであれば、組織ぐるみの粉飾は上場廃止と、一つのルールが見えてくるのですが、それが見えない。第三者委員会が組織ぐるみだと言っているのに、なぜ上場廃止にしなかったのか。何か大きな力を感じざるを得ない。

 ただし、既に2015年9月に東証は、東芝を「特設注意銘柄」にしており、上場廃止の要件は、上記の基準ではなく、「2017年3月15日以後に内部管理体制等について再度、改善がなされなかったと認められた場合」、上場廃止になると言っている。

上場維持はもう無意味?

 この「内部管理体制の改善」をどう判断するか。

 今回のCB&Iの減損について、損失が出るから、特設注意銘柄が解除出来ないという論調があるが、特設注意銘柄指定はあくまで内部統制不良に対して指定する話であって、損失の議論とは別の話である。仮に債務超過になっても内部統制管理が妥当だと判断されれば、特設注意銘柄から指定解除され、市場一部から市場二部に指定替えとなるだけの話である。

 ただし、問題は今般のCB&Iの買収は当初のれんが100億程度と考えていたのが、突如として数千億円(数十億ドル)規模の減損損失が出る可能性があるなど、その買収案件のデューデリジェンス含めたリスクファクターの認識の甘さ自体が、内部管理体制の不備とも十分言えるために、これ一発で十分上場廃止になるような状況と言えるだろう。

 4.公募ファイナンスが出来ない以上、上場維持は無意味

 さて東芝はこれからが正念場である。今回の減損金額如何では債務超過、仮に債務超過は免れても過小資本に陥ることは間違いなく、今期中の資本増強の必要性が大きくなって来ている。

 今まで原発と半導体で稼いだキャッシュを市況産業の半導体に投入して更に大きく稼ぐという事業ポートフォリオだったが、原発がダメだとなると、半導体のNANDは今はいいが、基本、液晶と同じで需給で価格が変動するので、この事業だけではシャープと同じ事業構造になってしまい、DRAMで破たんしたエルピーダメモリの様な状況となってしまう。また他のセグメントでこの2つのセグメントを支える力は今の東芝にはない。

 しかも、特設注意銘柄なので、公募ファイナンスは出来ない状況であり、昨年度の様に東芝メディカルなどの大型売却案件がないと、数千億円単位の第三者割当増資を行う必要が出て来る。グローバルな大型のファンドは手を挙げるかもしれないが、元々ガバナンス統制が出来ていないという理由で特設注意銘柄になっている発行体の株を、他の事業会社が引き受けるのは、かなり難しいのではないか。一部では上場総合電機のネームも出てきているが、まだ時期尚早だろう。

 そういった意味では、債権放棄、DESを含めニューマネーを注入するにあたり、既に公募ファイナンスが困難である以上、上場維持することにそれほど意味はなく、一度上場廃止にして、現状の経営者責任、財務内容のスリム化、内部管理体制の徹底などによる再構築をお願いしたい。

田中 博文


東芝「上場廃止」に現実味 NECとの経営統合説も急浮上 (ゲンダイ)

2017年01月05日 20時45分02秒 | 気になる株

東芝の上場廃止はあるか――。新年早々から、兜町は不穏なムードに包まれている。

 昨年暮れ、東芝は原発事業に関し、数千億円規模の減損損失が出る可能性があると発表した。東芝は、一昨年も約2500億円の減損処理をしている。2年連続の巨額損失に市場は危険なにおいを感じ取った。

「一部では3000億円を超える損失になるのではないかと囁かれています。そうなると債務超過がチラつきます」(市場関係者)

 東芝の直近決算(17年3月期中間期)の株主資本は3632億円。この金額以上の損失を出すと、債務超過に陥る。

 巨額損失の可能性を公表した先月27日、株価は前日比11・6%安の391円60銭(終値)まで下落。29日には公表前に比べ50%近い値下がりとなる232円まで急落した。時価総額(終値ベース)は、わずか3日間で約8000億円を失った。

「債務超過になると、東証のルールでは2部に転落します。機関投資家の多くは1部銘柄を投資対象にしているため、2部に変更されたら、東芝株の買い手は極端に少なくなります。個人投資家は手を出さないほうが無難でしょう」(株式評論家の倉多慎之助氏)

 東証は昨年12月、今年3月にも東芝株を「上場継続か、廃止か」を判断する「監理銘柄」に指定するとしている。2部降格→上場廃止が現実味を増しつつあるのだ。

 しかも、ここへきて14年3月期までの3年間に約400億円に上る粉飾決算をしていた疑いが浮上してきた。歴代3社長らの責任を問う声があらためて高まっている。

■水面下で囁かれていたNECとの合併

「債務超過となれば最悪、倒産という事態も想定できますが、東芝は原子力や防衛関連のビジネスを手掛けています。政府としても簡単には見放せないでしょう」(証券アナリスト)

 そこで急浮上しているのが経営統合説だ。

「トランプ氏が大統領に就任する時代です。何が起きても不思議はありません。日立製作所と東芝が一緒になる可能性だってあるでしょう。日立は原子力分野で米GEと組み、東芝はグループ会社に米ウェスチングハウスを抱えています。この辺りをスッキリさせることができれば、統合話が浮上するかもしれません」(倉多慎之助氏)

 “最有力”といわれるのがNECとの合併だ。

「東芝の不正会計が表面化した直後から、水面下で囁かれていました。事業分野の重複が少ないだけに、強力連合になる可能性を秘めています」(経済ジャーナリストの真保紀一郎氏)

 防衛省の調達先リスト(15年度)にはNEC(5位)と東芝(6位)が上位にランクインしている。防衛産業が絡むだけに、海外勢との経営統合は考えにくい。

 東芝を巡る動きが活発化しそうだ。


公募割れ続く日本郵政とゆうちょ銀行 「騙された」株主のとるべき道は?=栫井駿介

2016年08月22日 07時55分03秒 | 気になる株

昨年11月に上場した日本郵政グループ3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)ですが、今年に入ってさえない値動きが続いています。特に日本郵政とゆうちょ銀行は公募価格を割り、上場によって新たに株主となった多くの投資家が含み損を抱えている状況になっています。株主は、このまま塩漬けにするか、損切りして売却するか悩んでいるのではないでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大和証券にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

勝ち組と負け組がハッキリしてきた親子上場、今後有望なのは?

 

日本郵政グループの価値はほぼ金融2社のみ

日本郵政グループは、全国の郵便局を営業基盤として活動する国内最大規模の企業グループです。郵便だけでなく、銀行や生命保険も取り扱う、他に例を見ない業態となっています。ゆうちょ銀行とかんぽ生命は持株会社の日本郵政の傘下でそれぞれ上場し、もうひとつの主な子会社である日本郵便は非上場です。

出典:日本郵政 株式売出目論見書

出典:日本郵政 株式売出目論見書

日本郵政の事業は、もともと郵政省が管理する国の事業でしたが、小泉政権時代に郵政民営化の方針が示され、その後紆余曲折がありながら、昨年11月についに上場を果たしました。上場時の売出規模は過去最大規模で、テレビコマーシャルまで使って大規模な販売が行われていたのは記憶に新しいと思います。

【関連】資産100万ドル以上!『となりの億万長者』に共通する7つの法則=栫井駿介

もともと「官業」であったことから、その特色が今も色濃く残っています。例えば郵便局は日本全国の市町村に配置され、日本全国にあまねくサービスを行う「ユニバーサルサービス義務」が課せられています。

古くからの事業を行っていることから、特に高齢者には安心感を与えるブランドである一方、一般的な民間企業と比較して決断が遅く、コスト高になりがちな側面があります。

持株会社である日本郵政の利益を分解すると、その大部分は連結子会社のゆうちょ銀行とかんぽ生命に支えられていることがわかります。セグメント利益の約5割はゆうちょ銀行、約4割はかんぽ生命から生み出され、郵便関連事業からはほとんど利益があがっていない状況です。

出典:日本郵政 有価証券報告書

出典:日本郵政 有価証券報告書

つまり、実質的には日本郵政グループの価値はほとんど金融2社に支えられていると見るのが適切です。

明るい兆しの見えない金融以外の事業

持株会社である日本郵政は、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命の約9割の株式を持ち、郵便事業を行う「日本郵便」の全株式を保有しています。

将来的には、ゆうちょ銀行とかんぽ銀行の株式を売却することが決まっていますので、日本郵政の金融子会社からの利益の取り分は減少していきます。やがて日本郵政に残るのは郵便事業だけとなり、このままだと利益の大部分を失うことになってしまいます。

電子メール等の普及により、郵便物は益々減少していくことが確定的です。インターネット通販の隆盛により、ゆうパックのような宅配物は毎年確実に増えていますが、この事業は非常にコストがかかるため、利益を生むどころか、取扱数が増えるほど赤字が膨らむような状況になっています。

さらに、近ごろの人件費の高騰が追い打ちをかけています。

もちろん、日本郵政と子会社の日本郵便も手をこまねいているわけではありません。昨年オーストラリアの物流会社であるトール社を6,000億円で買収しました。また、郵便局でカタログギフトを販売するなど、様々な新規事業に手を出しています。

しかし、新規事業はあまりうまくいく様子が見られません。トール社は買収初年度から減収減益を記録しました。買収してから特にてこ入れをする様子はなく、高い買収金額を回収できそうにない状況です。

また、報道にもあった通り、決済代行事業からわずか2年で撤退するなど、踏んだりけったりの状況が続いています。

そもそも日本郵政は「お役所」であり、新規事業をやるような能力は備わっていません。これが中小企業であれば、社員の意識改革や人材の採用などを行うことで劇的に変わることもあるでしょうが、従業員数が20万人を超える企業で改革を行うのは並大抵のことはありません。

利益の大部分がやがて減少し、郵便事業は衰退、新規事業は鳴かず飛ばず。日本郵政(日本郵便)の将来性には明るい兆しが見えていないのです。

ゆうちょ銀行は「普通の銀行」になるだけでいい

ではその傘下のゆうちょ銀行はどうでしょうか。

ゆうちょ銀行は預金額約180兆円を誇る日本最大の銀行です。しかし、他の銀行と大きく異なり、一般企業への融資ができません。そのため、預かった預金を国債や社債に投資して得られる金利収入を収益源としています。

その内容に民営化以降変化が見られています。従来はほとんど国債で運用していましたが、今ではその割合は4割にまで下がり、さらに減少させる方向性です。

そして、代わりに買っているのが外債です。外債は一般的に日本国債よりも金利が高いため、単純に入れ替えるだけで、利回りの向上が見込めます。

出典:日本郵政 決算説明資料

出典:日本郵政 決算説明資料

もちろん為替など一定のリスクは増えます。しかし、これまで保守的な運用をしていたゆうちょ銀行の規制上の自己資本比率は26パーセントもあり、他の銀行を大きく上回ります。

つまり多少のリスク取って収益を増やす余裕が十分にあるのです。

その他にも、投資信託の販売など、他の銀行がやっていることを真似するだけで利益を上積みできる、経営上これ以上ないシンプルな状況です。そのために外部から人材を採用し、ノウハウの取り込みも行っています。

直近の報道にあったように、振込手数料を有料化したのもその一環と考えられます。

長い目で見ればゆうちょ銀行が優位

ゆうちょ銀行の配当利回りは現在の株価で4.0%と、日本郵政の3.8%を上回ります。公募価格で買っていたとしても約3.5%の配当利回りですから、長期的に持っていっても悪くない水準です。安定的な利益成長を考えると、資産株として持っていて十分もとが取れます。

将来の兆しが見えない日本郵政と、淡々と改善を続ければ安定成長が見込めるゆうちょ銀行。日本郵政は持株会社なので、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の保有株式分の価値はあるという見方もありますが、お荷物の日本郵便が「マイナス価値」になることも十分にありえます。長い目で見れば、どちらを持っていた方が良いかは明らかでしょう。

日本郵政<6178> 日足(SBI証券提供)

日本郵政<6178> 日足(SBI証券提供)

ゆうちょ銀行<7182> 日足(SBI証券提供)

ゆうちょ銀行<7182> 日足(SBI証券提供)

今はマイナス金利の影響で、両社ともに株価が下落しています。しかし、いつまでもマイナス金利が続くことはないでしょうから、長期投資家はその先の展開を見越した投資をしなければなりません。

つばめ投資顧問では、保有銘柄に関するご相談を承っています。また、毎週発行するレポートでは、バリュー株投資の考え方に基づいた長期保有銘柄を推奨しています。無料情報も満載のホームページを、ぜひ一度訪れてみてください。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。


ソフトバンク孫社長のARM3.3兆円買収「高けーよハゲ!」批判は正当か?=八木翼

2016年08月04日 22時00分06秒 | 気になる株

2016年8月4日

投資は太陽が爆発するときと似ています。僕が子どもだった頃、父親に面白い話をされました。「もし太陽が爆発しても8分間は誰も知らない。光が届かないから。それが地球から逃げ出すチャンスだということも」というものです。

孫社長率いるソフトバンクが3.35兆円でARM社を買収しました。私はこの太陽の話に少し似ていると感じています。ただし、少し違うところもあります。

「IoTは今後すべてのものに備え付けられる可能性がある。ただ、稼ぎはそこまで生み出されていない。だからまだ、みんなチャンスだと気づいていない」この話なら十分あり得るでしょう。

もちろん、それだけでソフトバンク株を買うことはできません。投資にあたっては、今後も稼ぎを生み出し続けることができる可能性を、しっかりと確認しなければならないのです。(『バフェットの眼(有料版)』八木翼)

会社名:ソフトバンクグループ<9984>
現在株価:5,703円(2016/07/29時点)

※本記事は、『バフェットの眼(有料版)』2016年8月1日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は特にお得です。

孫社長率いるソフトバンクの企業価値をバフェット流12の視点で分析

 

Q1:その企業は消費者独占力を持っているか

ソフトバンク自体は安定した企業です。携帯電話という許認可を要するビジネスに安全域を持っています。しかし、積極的に攻めてもいます。

ヤフー株式会社(Yahoo!Japan)の株式を51%保有していますし、アリババの株式すらも押さえています。投資家としても非常に優秀な面を持っています。まさに長期の投資をするには最適な企業なわけです。

この企業にとって、円高は追い風です。潤沢なキャッシュを持っているからこそ、海外への投資に積極的になれます。日本の低金利と事業で稼いだ円を使って、世界を買収しているわけですね。円高と低金利を利用した壮大な作戦、戦略としては申し分ありません。

では、投資家はソフトバンクグループ株を買ってよいのでしょうか?本当にしっかり稼げているのでしょうか?以下、それを検討していきましょう。

【関連】バフェットの心変わり。なぜ賢人はIT企業への投資を決断したのか?=東条雅彦

【関連】ソフトバンク孫正義社長の超ハイレバ「ヘッジファンド流」経営術=矢口新

Q2:その企業を理解しているか

理解しています。ソフトバンクグループの営業利益9994億円の内訳は、

  • 国内通信:6884億円
  • ヤフーなど:2496億円
  • スプリント:615億円

となっています。そして、最近買収したARM社の売上高と営業利益を見てみると、

  • 売上高:1,488.6百万ドル
  • 営業利益:406.1百万ドル

です。話がややこしくなるので1ドル100円で換算すると(最近は為替が大きく変動しますし、だいたいの影響力を測りたい場合は大雑把な値でよいです)、

  • 売上高:約1,488億円
  • 営業利益:約406億円

となります。

こう考えると、年間406億円の営業利益をもたらすARM社を3.35兆円で買うのは、利回り1.2%でこの会社を買収するのと同義です。そのため「高けーよ、このハゲ!」と株主が怒りだし、ソフトバンクグループの株価が下がったわけです。

しかし、本当に「高けーよ、このハゲ!」なのでしょうか?

正直、毎年1兆円を稼ぐソフトバンクにとって、今回の買収はそれほど大きい投資ではありません。私は、この投資は間違いなく正解だと思っています。この投資には拡張性が期待できます。

ARM社は、将来的にIoTの普及が加速したとき、とてもではありませんが、こんな額では買えない会社です。

今回の投資は「安全域」でリスクを取っているのです。

Q3:その企業の製品・サービスは20年後も陳腐化していないか

これに関しては微妙です。しかし、例えば今回買収したARM社は、変わり続けることのできる会社です。現在の製品が永遠に使われることはないかもしれませんが、使われる技術を生み出す技術を持っています。

Q4:その企業はコングロマリットか

コングロマリットとは言えません。現時点では、ほぼすべての利益は国内から生み出されています。

Q5:その企業の1株当たり利益(EPS)は安定成長しているか

決算年  EPS(円/株)  前年比成長率
2015  402.49  -28.4
2014  562.2  28.7
2013  436.95  31.2
2012  332.95  16.5
2011  285.78  63.0
2010  175.28  96.1
2009  89.39  123.8
2008  39.95  -60.7
2007  101.68  272.3
2006  27.31

年平均EPS成長率:30.9%

うーん、30.9%って恐ろしいですよね。こういうことが可能なのは、孫社長がレバレッジを取れるように銀行を説得できるからです。ソフトバンクの自己資本率は約20%を以下を保ち、常に資本を成長に向けて稼働させています。

Q6:その企業は安定的に高いROE(株主資本利益率)をあげているか

決算年  ROE
2015  25.6%
2014  18.1%
2013  18.4%
2012  18.8%
2011  29.8%
2010  34.8%
2009  22.9%
2008  11.4%
2007  32.6%
2006  11.0%

平均ROE:22.3%

高いですね。そして、なによりも安定しています。これもやはり素晴らしいです。ソフトバンクは日本代表として世界に打って出ることができる企業ですね。交渉力という点ではトヨタにも勝ると考えています。

Q7:その企業は強固な財務基盤を有しているか

今期の長期負債(円)  2,646,609
今期の税引き後利益(百万)  474,172
長期負債/税引後利益(年)  5.58 (長期負債を税引き利益で返済するのに必要な年数)

なるほど。私はもっと借金しているものかと思っていましたが、利益で考えると、大きすぎるリスクを取っているわけではないですね。見直しました。

Q8:その企業は自社株買い戻しに積極的か

今期発行済み株数  1,146,900,265
10年前の発行済み株数  1,055,862,978
過去10年間に減少した株数  -91037287.00
減少した割合  -7.94

わずかに増加していますが、2015年には株式買戻しも行っていますし、EPSは安定した成長をしていますので、問題なしと言えそうです。

Q9:その企業の製品・サービス価格の上昇はインフレ率を上回っているか

上回っているわけではありません。携帯各社は、常に価格競争をしています。しかし、ブランドは確立されており、急激な収入源の低下は引き起こしづらい会社です。

Q10:その企業の株価は、相場全体の下落や景気後退、一時的な経営問題などのために下落しているか

PER 10.9倍(日経新聞予想)

高くはありませんね。これなら買いに出ても悪くなさそうです。

Q11:株式の益利回りと利益の予想成長率を計算し、国債利回りと比較せよ

まずは株主資本の予想成長率を求めましょう。以下は計算です。

【1.予想成長率を求める】

(必要な値)
・10年平均ROE:22.3%
・配当性向:25%

(式)
・株主資本の予想成長率=10年平均ROE(1-配当性向)

(答え)
株主資本の予想成長率:16.8%

【2.予想BPSを求める】

さらに、今求めた株主資本の予想成長率を使って、10年後の予想BPSも求めます。

(必要な値)
・直近のBPS:1,567.25
・株主資本の予想成長率:16.8%

(式)
・10年後の予想BPS=直近のBPS×(1+株主資本の予想成長率)^10

(答え)
10年後の予想BPS:63996.6円 7,375.8

【3.予想EPSを求める】

この10年後の予想BPSに、平均ROEをかけます。すると、10年後の予想EPSが得られます。

(必要な値)
・10年後の予想BPS:7,375.8
・10年平均ROE:22.3%

(式)
・10年後の予想EPS=10年後の予想BPS×10年平均ROE

(答え)
10年後の予想EPS:1,647.53

【4.10年後予想株価を求める】

さて、予想EPSを求めたら、これに10年平均PERを掛ければ、10年後の株価を求めることができます。

(必要な値)
10年平均PER:17.6
10年後の予想EPS:1,647.53

(式)
10年後予想株価=10年平均PER×10年後予想EPS

(答え)
10年後予想株価:28,947.17

【5.年間期待収益率を求める】

10年後の予想株価を使って、年間にどれくらいのリターンが期待できるのかを計算します。

(必要な値)
・10年後の予想株価:28,947.17
・現在の株価:5,703

(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1

(答え)
年間期待収益率:17.6%

【結果】

悪くありません。ARM社からの利益も成長していくと考えると、素晴らしいものになりそうです。

Q12:株式を疑似債券と考え、期待収益率を計算せよ

【1.10年後BPSを求める】

まず10年後のBPSを求めます。過去10年の平均EPS成長率に1を足して、10乗したものに、現在BPSをかけます。これが10年後のBPSとなりますね。

(必要な値)
・年平均EPS成長率:30.9%
・現在BPS:1567.25

(式)
10年後BPS=年平均EPS成長率^10×現在BPS

(答え)
*10年後BPS(円/株) 23097.9

【2.10年後EPSを求める】

今求めた10年後BPSに過去10年平均ROEをかけます。これが10年後のEPSです。

(必要な値)
・過去10年平均ROE:22%
・10年後BPS(円/株):23097.9

(式)
10年後EPS=10年後BPS×過去10年平均ROE

(答え)
*10年後EPS(円/株):5159.4

【3.10年後予想株価を求める】

さらに、過去10年の平均PERをかけることで、10年後の予想株価が算出されます。

(必要な値)
・過去10年平均PER(倍):17.6
・10年後EPS(円/株):5159.4

(式)
10年後予想株価=過去10年平均PER(株価/EPS)×10年後EPS(円/株)

(答え)
*10年後予想株価:90,650.1

【4.年間期待収益率】

この予想株価を現在株価で割り、0.1乗し、マイナス1したものが、年間期待収益率となります。

(必要な値)
・10年後予想株価(円/株):90,650.1

(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1

(答え)
*期待収益率(%/年) 31.9%

【結果】

コチラも文句なし。超高水準です。事業も悪くありませんし、今後の業績も安定度は高いです。さらに新規事業へも積極的。私には、この会社を買わない理由がないように思えてきます。

結論:ソフトバンクグループへの投資はあり?なし?

実は私は、日銀の追加金融緩和決定前のタイミングで買わせていただきました。タイミング的にものすごくよかったわけですが、今でも買いだと思っています。個人的には、ここで株を売るという選択肢は、まったくありません。

それにしても面白い会社ですよね。これからも注目し続けたいと思います。


「1兆個のチップを地球上にばらまく」孫正義氏が出した“シンギュラリティ”に対する答え

2016年07月21日 21時13分43秒 | 気になる株

2016年7月21日に行われた「SoftBank World 2016」の孫正義氏基調講演。今回のARM買収やソフトバンクのこれからについて、およそ1時間にわたりプレゼンしました。

シリーズ
SoftBank World 2016 > 孫正義氏基調講演
2016年7月21日のログ
スピーカー
ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役社長 孫正義 氏
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10年前から「いつかARM」と考えていた

孫正義氏(以下、孫) おはようございます。今週の月曜日に、我々の新たな挑戦について発表させていただきました。実はこのARMについては、10年ぐらい前から「いつかARM」と考えておったわけなんです。ただ、その日が本当に来るのかどうか、いつどのようなかたちで実現可能になるのか、それはまだおぼろげな状態でありました。2週間前に、トルコの港町のあるレストランで4人のランチをしました。その相手方の2人は、ARMの会長とARMの社長でありました。トルコの港町、トルコと言えば、みなさんご存知のようにテロがありました。テロの直後でしたから、トルコに行くというだけでも身近な人々に大変心配をされました。しかし、重要なことだから行こうと。それで、大変盛り上がったランチをしたわけですけれども。その直後に、今度はクーデターがあったと。トルコの大統領が別荘を持っていたその場所が、私が行ったトルコのマーマリスという小さな町だったんですね。そこに空爆をされたということで、テロとクーデターのちょうど間、ほんの瞬間のところに行ったわけであります。ARMの会長と会ったのは、その日が最初の日でありました。その日にARMの買収について提案をしたいということで、はじめて相手方にプロポーズし、口にしたわけです。ですから、ほんの2週間ではじめて会ったARMの会長、それまではARMの社長、CEOには何度も会ってます。その前の世代のCEOでありました、ウォーレン・イーストにも何度か会ってます。ですから、ある意味ARMとは10年前から親しくしてはいたわけですけれども、買収というかたちで提案したのは、その日、つまり今から2週間前が最初でありました。今からというか、月曜に発表したそのちょうど2週間前ですね。今週の月曜日からさかのぼって2週間前にはじめて会って。そして2週間で、日本のこれまでの経済史のなかでは最大の買収の発表までいたったということであります。通常であれば、お互いの交渉だとか、デューディリジェンスだとか、資金調達だとか、まあ、半年ぐらいかかってもおかしくないということなんですけれども。2週間で、本当に2週間で、電撃で今回の発表までこぎつけたということであります。

シンギュラリティに対する答えがARMだった

ところで、去年この場で私はあるキーワードを申し上げました。ちょっとみなさんに聞いてみたいと思いますけれども。手をあげてください。去年この会場にいた人。この僕のスピーチを聞いた人、ちょっと手をあげてください。(会場挙手)はい。まあ、4割~5割という感じですね。4割~5割の人は、この会場で僕のスピーチを聞いたと。そういう前提で、じゃあ、今手を上げた人は手をあげないでください、今度ね。はじめてこの場で僕の話を聞くという人にお聞きします。シンギュラリティという言葉の意味、シンギュラリティという言葉の意味を知ってる方、ちょっと手をあげてください。(会場挙手)おお、すごい。なかなか進んでますね(笑)。同じ質問をすると、だいたい1パーセントから多くて3パーセントの人が手をあげます。そのぐらいまだシンギュラリティという言葉は一般の人々には馴染みのない言葉であります。去年、この場で「シンギュラリティという言葉の意味を知ってますか」ということで聞いたら、おそらく1パーセント未満の人しか手があがりませんでした。ほとんど知られていないということでありました。じゃあ、去年すでに聞いたという人、今、そしてすでに聞いてはいなかったけれども手を上げた方含めて、つまりシンギュラリティという言葉の意味は知ってたと。でも、そのシンギュラリティに対して、この1年間でみずからが、あるいはみずからの会社がどのような手を打ったかと。重要な局面がこれからやってくると。人類が今まで体験したなかではじめて遭遇する新たな技術的特異点ですね。つまり人類の知能を遥かに越えていくと。超知性に巡りあうと。この超知性がコンピューターによってつくられた知性であるということですね。このことに対して、自分はみずからこの1年間でなにをしたかと、なにを考えたかということであります。私もずっと考え続けました。私なりの答えは、この考え続けたことに対する、私なりのこの1年間の宿題に対する答え、それがARMという答えになったわけです。今日はそのARMについて、なぜ私がシンギュラリティのなかで重要な一手になるかと。囲碁で言えば、重要な飛び石ですね。多くのメディアの人あるいはアナリストの人、株式市場でもARMっていって発表してソフトバンクの株価がどんと下がったというぐらいですから、お金をかけて投票する人たちが、ARMを買ったと、「バカじゃないの?」ということで株価がドンと下がったわけですね。「シナジーって見えないじゃないか」と。「ソフトバンクの今までの事業とのシナジーがまったく見えないじゃないか」ということで、株式という投票、お金を使った投票で、ソフトバンクの株価は下がったわけですけれども。これがなにを意味するのかと。なぜそこに石を打ったのかと。囲碁に例えるならば、自分が持っている石の色のすぐ側に石を置くと。わかりやすいですね。自分の陣地を広げるわけですから。今ある持っているもの、今持っているものに足し算をするならば、今ある石のすぐそばに打つというのが一番わかりやすいわけです。でも、囲碁の勝負を見てください。必ずしもすぐ側に打つ人が勝つかと。10手先、20手先、50手先のところに、「なぜあそこに、今そこに、今そこにその1点に打たなきゃいけなかったのか」というのは、その囲碁の世界に命がけで勝負をしてる人であれば、お互いにわかりあえるというような、そういうことではないかと思います。まあ、ちょっと言い過ぎですかね(笑)。とにかくじゃあ、前置きはさておき、今日の私のプレゼンをさせていただきます。

19歳の時、チップを見て涙を流した

40年前、これは私が18歳か19歳、まあ19歳だったと思います。40年前に、実はあるものに巡り会ったんですね。それがこれです。これは私が……今でもあの時の光景を覚えています。学生でした。カリフォルニア大学バークレー校の学生で。車から降りて、サイエンス雑誌のページをめくってたわけです。そのめくってたページのなかに摩訶不思議な写真があったわけです。それがこの写真なんですね。「これなんだろう?」と。sw09 (2)生まれはじめて遭遇した、生まれたはじめて見る不思議な写真。「なんなんだろう?」というふうに、自分の頭のなかに「?」マークが浮かびました。で、それはなにか未来都市の設計図のような、未来都市の図のような、そんな幾何学模様の不思議な写真だったわけですが。次のページをめくったら、これが、人差し指の指先の上に乗っかるほどの小さな小さな破片、その破片の意味が実はコンピューターであるということを知ったわけですね。生まれてはじめて知ったんです。生まれてはじめてこれがなんと……。今までコンピューターといえば、どでかいメインフレームのコンピューター、そのイメージがあったわけですね。そのどでかいコンピューター、実際、私もそれを使ってコンピューターのプログラミングとかやってたわけですけれども。あるいは子供の時から鉄腕アトムのアニメ大好きで、御茶ノ水博士がコンピューターで一生懸命設計して、鉄腕アトムを作ってたわけですけれども。なにか電球がピコピコ光ってですね。あの大きなコンピューター、それがなんと指先の上に乗っかる。それほど小さなものになったんだということをはじめて知ったわけです。もう僕は両手両足の指がもうジーンとしびれて、もう本当にまるで感動するような。感動をよぶ映画とか音楽だとか、あるいは小説を読むと手足がしびれることありますね。ジーンと感動する。ジーンと感動ってあれなんだろうというと、つまり血が一気に頭に集中して、末端の指先にまで血が回らなくなったときに、しびれるという現象が起きるんだろうと思うんですけれども、まさにその状態になったわけです。その一瞬のあいだに考えがグルグルめぐって、涙が止まらなくなったんです。立ったまま呆然として、もう涙が溢れて止まらなくなって。それはなにかといいますと、ついに人類は、みずからの頭、みずからの知性を超えるものを生み出してしまったと。これが我々人類にこれから与えるであろう影響、どれほどのものになるかと。人類よりも遥かに賢いものを人類みずからの手で作ってしまったということですね。それは恐ろしいような世界でもあり、ワクワクするような、感動するような世界でもありと。僕はその写真を切り取って、そのページを切り取って、プラスチックのなにかビニールシートのような下敷きのようなやつありますね、あれに挟み込んで。そして枕の下に抱いて寝て、大学通うリュックサックの背中に下敷き代わりに入れて。もう毎日毎晩、勉強する時、ノートに書き込む時、その下敷きとして使って。時々ふっと眺めてはニタ~と笑ってですね。まるでアイドル写真、アイドルスターの写真を眺めてニコっと笑うように、僕はそれを本当にやってたんです(笑)。

一貫して常に情報革命に挑戦してきた

その感動。その興奮。40年間その感動と興奮を、僕は脳の潜在意識のなかに封印してたわけですね。ソフトバンク、なぜチップなんだと、なぜ半導体の製造、僕は製造には興味ないんですね。なぜ半導体だと。ほとんどの人がピンとこない。でも、僕はあの19歳の、あの40年前のあの感動にやっと、やっと憧れの僕のスターアイドルにやっともう一度会えると。もう一度会ってこの手で抱きしめてと。そういう思いで、その興奮でもうさめやらないんですね。これが本当に私は、これからの人類、シンギュラリティのキーワードのなかの最も重要な飛び石の布石になると私は思ってます。ソフトバンクはパラダイム・シフトのたびに挑戦をしてきました。パソコンが生まれた時にソフトバンクは創業したわけです。その19歳の、マイクロコンピューターのさっきのチップを見た、そのすぐあとに私はそれを使った、フルキーボードのポケットコンピューターを作って。電子辞書を人類で最初に作ったのは僕なんですね。そのあと多くの学生が世界中で活用してると思いますが。僕があれの最初の機械を作って。英語、日本語、フランス語、ドイツ語、中国語、イタリア語というようなものを入れて、電子辞書として特許に出して。スピーチシンセサイザーをくっつけて。そして試作機を作って、シャープさんにその特許をライセンスしたと。それが僕が19歳のときにはじめてお金を手にした瞬間でもありました。つまり僕がマイクロコンピューターのチップにはじめて出会って、最初に作った、学生の工作みたいな、夏休みの工作みたいな、それがその電子辞書で。外国人としてアメリカで勉強してましたから、英語の発音のスピーチを自分にもできるようにということで、音声合成のスピーチシンセサイザーまでくっつけて。当時僕は学生でしたけれども、自分が通ってた大学バークレーの教授のみなさん、6~7人に僕の部下として働いてもらって。で、試作機を作って特許を出してやったわけですね。その最初のときから、つまりソフトバンクの創業の前からすでにその原型があったんですね。でも、ソフトバンクの歴史ということで言えば、そのあとに何年かして、22歳かな、24歳の時にソフトバンクを創業したわけですが。そのパラダイム・シフトのたびにソフトバンクは挑戦をしてきました。非連続性の挑戦でありました。断続的な、ボーンとパラダイム・シフトにあわせてソフトバンクは姿かたちを変えてきました。でも一貫していえることは、常に情報革命に一直線に挑戦してきたわけです。姿かたちは、テクノロジーが進化するわけですから、パラダイム・シフトがあるわけですから、その時のパラダイムの最も重要なところに手を打ってきたつもりであります。最初はお金がなかったから、パソコンのソフトの流通、そして出版のところから始まりました。次にインターネットということで、ここで大きな賭けに出ていったわけですね。アメリカのYahoo!、そこに投資をし、ヤフージャパンをつくって。ということで、パソコンがインターネットになるのに特化して集中していったわけですね。さらに、これがインターネットの中心がパソコンからモバイルになるという時に、もう一度大きな賭けに出て。2兆円弱のボーダフォン・ジャパンの買収に打って出たわけです。今回、もっとも大きなパラダイム・シフトがあると私は思ってます。インターネットの中心がパソコンからモバイルに移り、さらにその次に、すべてのものがインターネットにつながると。これが人類史上最大のパラダイム・シフトであると思っています。シンギュラリティですね。コンピューターが人類を超える日ということであります。

人工知能のIQは10,000になる

コンピューターを人類を超えると、なにの面で超えるのかというと、知性の面で超えるということであります。人間の知能の力を評価する物差しとしてIQというものがありますね。IQの平均は100であります。100を標準偏差値として、これをIQというかたちで測ります。アインシュタイン、あるいはダ・ヴィンチというのは200前後IQがあったと言われてます。つまり、一般の人々よりは遥かに優れてるという知能。だから、彼らは天才とよばれたわけですね。じゃあ、人間の天才中の天才が100に対して200であるというと、今から例えば30年語にやってくるコンピューターの知性のIQ、人間のIQと比較したときの物差しでどれくらいになるかと。人類のなかの天才が100に対して200。じゃあコンピューターの知性、これはいくつなんだろうということでありますが、10,000ということであります。200あったら天才と。200あったら人類のなかの天才と言われるわけですけれども。今から30年後のシンギュラリティがやってきたあとの、この人工知能、つまりコンピューターによる知性のIQは、人間の100に比べて10,000ぐらいになると。そうすると、もうコンピューターを相手に囲碁をするとか将棋をするとかいうのは、もうはなから諦めたほうがいいということであります。これがもうすでに囲碁とか将棋の世界では、現実にそれが目の前にやってきたわけですけれども。囲碁とか将棋だけではなくて、ありとあらゆる面で人間はもう遥かに天才と……。みなさんはアインシュタインとかダ・ヴィンチと勝負したいですか? それを遥かに遥かに超えた彼らと、つまり10,000のIQの彼らと普通のものごとで勝負したいなんて、もう思わなくなるということですね。そういう世の中がきた場合にいったいどうなるんだろうということであります。いったいどうなるんだろうと。なんのためにそれを人類は迎えようとしてるのかと。私は人類がより幸せになるためにそれを迎えようとしているんだと、前向きに捉えてます。まあ、とにかく、それを好む好まないにかかわらず、そういう世の中がやってくるとするならば、いったい我々はそれにどう対処していったらいいのかということであります。では、ちなみに、なぜ彼らの知性がそれほどまでに超えていくのかということであります。人間の脳、これは動物、ねずみだとか犬や猫も猿も同じですけれども、脳細胞を持ってる彼ら、そして我々人類は基本的に脳細胞の数に正比例して知性が、知的活動が行われると考えられますね。脳細胞の数が小さいネズミや犬よりも猿のほうが賢いですねと。脳細胞の数が多いわけですから。その猿よりも人間のほうが多いから、人間のほうが猿よりも賢いとされます。つまり脳細胞の数、脳細胞ってどういうかたちで働くのかというと、2進法ですね。細胞がくっつく離れると。ニューロンがくっつく離れると。くっついたときにはそこに微弱な電流が流れると。離れたときには流れないと。この2進法は、まさにコンピューターの2進法とまったく働き方は同じなんですね。トランジスターがくっつく離れると、トランジスターの回路がくっつく離れる、これで電流が流れる・流れないというかたちで2進法が行われます。人間の脳細胞には約300億個ニューロンがあると言われています。このニューロンの数、つまり2進法の数、300億個を、いったいいつ1チップのコンピューターのなかにあるトランジスターの数が超えるのかということを約25年ぐらい前に私は推論をしました。そしたら、その時の推論は2018年でした。今からたった3年後ですよ。2018年にはその数を超えると。これ5年ぐらい前に、ソフトバンクの「新30年ビジョン」をつくるときにもう一度計算しました。そしたらやっぱり2018年でした。おもしろいですね。けっこう25年前から私はこのことをずっと言ってるんです。

シンギュラリティに対するカギはIoT

で、脳細胞の数で数を超えると、つまりハードウェアで、頭のハードウェア、コンピューターのハードウェアではもう超えてしまうんだと。ハードウェアの機能が超えたから、じゃあ本当に知的活動どのぐらい超えたかと。これはいろんな、そこにソフトが必要だと。データが必要だということがありますから、ハードだけ超えれればいいわけではないんですが、ハードがほぼその潜在的能力を規定するということであれば、今から30年後にはどうなるかというと、ワンチップのコンピュータは、なんと人間の100万倍くらいハードウェアの能力を上回るということで、100万倍くらいの二進法がやれる、つまりトランジスタの数が増えるということであります。先ほど言いましたように、ネズミよりも、サルよりも、人間だと。脳細胞の数に比例して知的生産活動の数が増えるとするならば、それを1万倍超えた彼らは、ソフトにしろデータにしろ、ありとあらゆるアルゴリズム、ありとあらゆるディープラーニングを瞬時に、大量に、はるかに広く、はるかに深くやってこなすということができるようになってしまうということであります。ディープラーニング、これはキーワードですけど。人工知能のキーワードはディープラーニングであり、ディープラーニングのキーワードはビッグデータであると。つまり、データを大量に瞬時に吸い寄せて分析し、そして自ら学習して思考するということになるのが、超知性であります。この超知性の感情がシンギュラリティであり、シンギュラリティの3つのキーワードというのがAIであり、スマートロボットであり、IoTになるわけであります。この超知性に、大量のデータを、地球上の森羅万象のデータを吸い寄せさせる。その鍵はなにになるでしょうか? その鍵、そのデータを吸い寄せさせるためには、チップが必要なんです。チップが存在しなくて、データを吸い寄せさせるということはできません。そのチップがありとあらゆる、森羅万象のデータを集めると。そのチップの数をどれほどこの地球上にばらまけるかと。これは誰か20年後に検証していただきたいんですが、今から20年以内に、おそらくARMは約1兆個のチップを地球上にばらまくことになると思います。この会場で誰か記録する人がいたら、20年後に検証してほしいと思います。1兆個のチップから、同時に並行して、瞬時に、リアルタイムに地球上の森羅万象のデータを吸い寄せる。そうすると、この超知性はもっとも賢く、もっとも素早く、世の中の森羅万象を予知予言することができるようになる。推論することができるようになるということであります。その知性を持ったスマートロボットが人類のコンパニオンとして、我々人類の仲間として、一緒に活動し、これまで人類が解決することができなかった自然の大災害から我々を守ってくれると。不治の病と言われた病気から人間の命を守ってくれると。我々人類はより豊かで、より生産性高く、より楽しい、そういう世の中を迎えることができるようになるかもしれません。私は300年以内には、人類の平均寿命は200歳を超えると思っています。病というものから人類を守ってくれるという世界ですね。ということで、私はこのシンギュラリティに対する重要なカギはIoTだというふうに思っております。1兆個のチップをこの地球上のありとあらゆるものにばらまくということであります。

「ARMはIoT時代の主役」孫正義氏がほれ込んだチップの可能性


IoT成長戦略の中核を担うのがARM

孫正義氏 じゃあソフトバンクのこのIoTに対する成長戦略を、少し披露したいと思います。先ほどから言っておりますように、私はソフトバンクグループの中核中の中核になる会社、これはARMだと思っております。このARMについて、ちょっと聞いてみましょうね。この月曜日、我々が発表する前、ARMという会社のことを知ってた、という人手を挙げてください。(会場挙手)はい、流石であります。ね、さっきからシンギュラリティに関しても多くの人の手が挙がりましたが、この会場で聞けば4割くらいの人が手を挙げました。6割くらいの人、全然知らなかったという人はですね、ぜひこのシンギュラリティのキーカンパニーになるIoT、キーカンパニーになるARM、このARMについて少し私が解説しますので、一緒に見ていただきたいと思います。知ってたという人、ARMという会社のことを知ってたという人も、もう少し深くなぜ私がこの会社に着目しているのかということについて解説をさせていただきたいと思います。ARMという会社は、チップを製造しているわけでありません。設計をしている会社であります。このチップのプロセッサの研究開発をし、設計をしてそしてこれを世界中のさまざまなチップのメーカーに、ライセンスを提供すると。設計図を渡すわけです。sw02設計図を渡して、ライセンスを提供する。で、その世界中のさまざまなチップメーカー、日本でいえばルネサスさんですね、世界中でいえばテキサスインスツルメンツだとかクアルコムだとかAppleだとかサムスンだとかいろんな会社があります。Mediatekとかですね。これらにARMのコアの設計図を提供しています。彼らはそれに周辺のですね、メモリだとかグラフィックスだとか、さまざまな周辺の機能を追加していきます。クアルコムさんはモデム、通信のものが得意なので、そこをより強化したものを入れますね。ということで、さまざまなチップのメーカー、この上に書いてあるような会社に、ARMは設計図を提供するわけです。で、彼らはそれをチップの最終製品として、システム・オン・チップ、あとで写真をお見せしますけどね、我々が20年前、30年前にパソコンを開いたら、パソコンにマザーボードが出てきます。マザーボードには、インテルさんのCPUがあって、そしてメモリチップだ、IOチップだというのがいっぱいそこに乗っかっておりました。まさにそのPCのマザーボードの状態が、いまやワンチップになっているわけでありますね。このシステム・オン・チップという風に呼びますけれども、ここの上の会社ですね、NXP、Spreadtrum、Mediatekと。sw03Huawei、NVIDIAですね、彼らがシステム・オン・チップとして、チップの完成品を設計し、それを台湾のですねTSMCのような会社が製造し、そしてさまざまな最終製品としての自動車、携帯電話、スマホですね、家電、そういうようなものに提供していくというかたちになります。

ARMは年間148億個のチップを出荷

さてこのARM社が一体いくつくらい、先ほど20年間くらいでですね、約1兆個のチップをARMはばらまくことになるということを、私は推論として申し上げましたけれども、去年1年間で148億個、ARMベースにしたチップが出荷されてます。sw04人類は、人々は、この地球上に約70億人住んでるわけですから、この地球上に現在生きている人類の数の、1人あたり2個、ARMはそのチップを世の中に提供していることになります。すべての地球上の人々、1人あたり2個。年間ですよ? 年間1人あたり2個、ばらまいていることになります。これがいま二次曲線的に伸びています。ARMのマーケットシェアがどのくらい、どの分野にあるのかということですけども、スマホでは95パーセントを超えている。97パーセントくらいじゃないかと思いますけれど。あとタブレット、ウェアラブル、ストレージ。さまざまなところにですね、自動車とか、ARMは非常に高いマーケットシェアをすでに持っている。先ほど、ARMについて知らなかったという人も、インテルという会社のことはほぼ全員が知っていると思います。「インテル、入ってる」ということでございます。パソコンのなかに入ってるわけですね。でもインテルのCPUの出荷の数の、約10倍くらい、ARMはいま現在すでに出荷していると。正確な倍数は計算してませんから、あとで誰か正確なものを計算してもらいたいと思いますけれども。ともかく、桁が1つ違う、10倍とかそういうレベルでARMは出荷されているわけですけれども、それを多くの人は知らなかった。おそらく会場内で、ARMというものを月曜日より前に知っていらっしゃった方、と聞けば、1パーセント未満だと思いますよ。1パーセント未満の人しか、ARMという会社のことは知らなかった。でも、みんな使ってるわけです。知らないけども、みんな使ってる。じゃあこのARMはどんな製品をつくっているのかというと、3つです。CortexのA、CortexのR、CortexのMでございます。Aはアプリケーションプロセッサ。これがスマホだとか、より高度な製品に使われています。Rはリアルタイム性を要求されるもの。つまり、スピードを要求されるものですね。これらに使われています。Mは、マイクロコントローラーのMです。つまり組み込み型ですね。より小さな、いわゆるマイコンの世界。ここに出荷されています。

ARMのコアがどれだけ使われているか

じゃあ具体的に、iPhone、多くのみなさん使っていると思います。一番人気のiPhone。世界でもいちばん、1社から発売されているスマホではiPhoneが開拓者であり、ナンバーワンであります。このiPhoneに入っているCPU、これはApple社が自らつくっています。ただ、そのApple社がつくっているCPU、これはA9というプロセッサですけれども、このA9のなかに入っているコアがやはりARMであります。Apple社は、システムオンチップという立場で、ARMのコアを使って。パソコンで言えば、インテルに相当する部分をARMから得て、そこにグラフィックスの機能を入れています。(ARMのコアの画像が表示される)写真の真ん中下ですね、白いところのすぐ上の真横の真ん中、あそこにキャッシュのメモリがあります。半導体の専門の人はこの写真を見ただけで、ああどこになにがあるなということがぱっと連想できるわけですけれども。まさにiPhoneのCPU、A9にはこのARMが使われている。64bitのARMが2個使われています。Snapdragon、これはクアルコムですね。クアルコムのチップが、iPhone以外の一番多くのスマホに使われています。Androidで一番たくさん使われているのがクアルコムです。クアルコムのチップのなかにも、この右上に白く囲ってあります。A57が4個、そして A53が4個、合計8個のARMのコア、CPUが入っています。NVIDIAにも合計8個入っています。これはビッグ&リトルというコンセプトですけれども、大きなコアが4個、小さなコアが4個入っています。A57とA53ですね。ということで、さらにサムスンのスマホにはA57とA53が4個ずつ、ビッグ&リトルというコンセプトで入っています。つまり8個のコアがそれぞれ違った役割をしながら、よりパワフルな演算処理をして、少ししか演算処理をしなくていいとき、例えば待ち受けのときというのは、待ち受けをするわけですから、なにも8個同時に使う必要はないわけですね。8個あるというのは、より省電力でもあるというわけです。1個の小さいやつだけ生かしておけばいいと。そういうときは、全部使わなくていいから電池はより長持ちになると。8コアのほうが電池が長く持つと。おもしろいですね。1個しか使わなくていい、残り7個を眠らせておいていいからそうなるわけです。ということで、ビッグ&リトルと。より大きなパワーと持ったコアと小さなコアが4個ずつというかたちでやっています。Huawei、これも8個でやっています。TI、これも今度はMが2個とAが2個というかたちで入っています。ルネサス、A9が1コアの事例であります。インフィニオンもこういうかたちで入ってます。M4が1コアと。つまり用途によって……まさにPCとマザーボードですね。真ん中に(拡張)バスがあって、このバスの上下にさまざまにメモリーだとかグラフィックスだとか、そのほかいろんな必要なチップのコンポーネンツを足していくと。これ1枚が、かつてのパソコンのマザーボード。ワンチップにシステムオンチップというかたちで入っているわけです。NXPもこのようなかたちになりますね。ということで、用途によってAだったりRだったり、MであったりというARMのコアを使ってその周辺にシステムオンチップというかたちで載っけていっているわけですね。このようなものが、今スマホのなかには、ARMのコアをベースにしたチップが1個ではなくて複数入っているわけです。5個も10個も入っているわけです。しかもメインのCPUのところには、アプリケーションプロセッサーには4個とか8個のARMのコアが入っているわけです。

自動車は走るスーパーコンピューターになる

ということで、2009年と比べてたった6~7年間で、GPUの能力は300倍になって、通信性能は20倍、画像は24倍、処理性能は100倍、センサー数は5倍というふうに、たった6~7年でこんなに進化しているわけです。そうすると、5年×5年×5年というふうに、これの3乗倍。そうやって考えていくと、100万倍というのがあっというまにやってくるというのがわかりますよね。2の20乗、倍々ということを20回繰り返せば、100万倍になると。倍々ゲームを20回、2の20乗、つまり20回倍々ゲームを繰り返せれば100万倍になるということであります。なぜ私が「30年後に100万倍」と言ったかというと大体1年半ごとに倍になっているというわけですね。おおむねですよ。1年半で倍ということは、30年で2の20乗倍になるということであります。自動車にもたくさん入っています。今の自動車ですらこんだけ入っているんですよ。今の自動車ですらこれだけARMのものがあちこちに入っているということは、この自動車が自動運転というようなかたちになると、どうなるのかということであります。sw06自動車はもはや走るスーパーコンピューターということになるでしょうし、自動車は走るスマートロボットということになっていくということであります。ロボットというのは必ずしもPepperのようにですね、手足がついているからロボットととは限らないわけです。走るスーパーコンピューター、これは走るロボットだと。ロボット、その自動車の、超知性の走るロボットになり、事故を一切起こさない走るスーパーコンピューターになると。走るロボットになると。事故が起きたら、「あ、それは人間が運転してたからじゃないの?」というかたちに将来はなるでしょう。ということでARMのIoT、たった5年後にどうなるかということですけれども、スマートホームに16億個、スマートシティに15億個、そのほかのデバイスに11億個くらいいくんではないかというふうに予想されています。年間平均の成長率は、60パーセント、50パーセント、40パーセントというかたちでどんどん伸びていくということですね。

省電力こそがIoTに欠かせないカギ

パソコンの求められたかたちは、性能と価格でありました。ノートPC、それには電池寿命というのがありました。スマホになるとますますその電池、というのは重要な要素になりました。みなさんスマホを使ってですね、「あぁ電池が切れそうだ」というと大体人間のストレスレベルがガーっと上がるそうです。「電池が切れそう」というと自分の息が切れそうな感じに息苦しくなってくる、電池がなくなるとですね、突然誰ともコミュニケーションが、外にいる人ができなくなる、自分の活動がいろいろ……ということで消費電力というのはものすごく重要な要素になるわけですね。人間にとっての酸素のように、スマホにとっての酸素、それが電池ということになるわけですけれども、ARMがなぜ強いのかというと、実はこの低消費電力ということでもっとも優れているんですね。昨日、おとといか。真夜中の1時ごろに確かそのくらいの時間にですね、このARMの創業者、ARMの手前のAcornの創業者と電話で話をしました。「ところで」と。「どうやってAcorn始めたの」と。なんでARM始めたのということを彼に電話で聞いてたんですね。彼はARMが、ソフトバンクの手に、日本の会社の手にイギリスの外に行ってしまうことは寂しいとつぶやいたみたいなんで、ちょっと待ってくれと。寂しがらないでくれと。あんたの志を俺がガシっと受け止めるからということで、そもそもどういう志で、どういう気持ちで作ったんですかということを電話で話してて、もう大変意気投合しました。で、彼が言ってたのは、いやAcornという会社を作ってね、と。その前の会社も作ったんだと。で、お金がなかったんだと。エンジニア、ARMを創業したときのその最高のプレゼントは、お金がなかったからエンジニア2人にしたということだと。エンジニア2人しかいなくて、そこでリスクの、リデュースト・インストラクション・セットですね、このコンセプトを使ってつくった、イギリスでの最初のコンピュータがこのAcornのARMであったと。しかもですね、最初に試作したものが、間違って電気につなぐピン……チップにはピン、足がついてますね、あのゲジゲジの足が。この足が回路につながって色々な役割をするんですけれど、間違って電力回路につなぐピンをつなぎ忘れちゃったと。なのに、つなぎ忘れてたのに、動いてたと。電気につなぐピンをつなぎ忘れてたのに、計算しちゃったと。なんで動いたんだ!? ということで非常に不思議になってよく調べたら、電力に対しての線はつながってなかったけど、漏れ電力で実は動いていた。つまりARMのチップは、1個目の試作のときから大変な省電力で。回路つながってないのにピューッと念力のようにして漏れた電力で動いていた、と。ARMは生まれた時から、間違ってこの省電力の性能を発見してしまった。それ以来、インテルとはまったく別の進化系をつくっちゃったんですね。ガラパゴス。これがARMなんです。だからARMはスマホの電池という、一番重要な、スマホにとっての酸素である低消費電力というものの設計につながったんだということであります。これが今からのIoTに欠かせないカギになるわけです。電池1個で10年くらいもってほしいわけです。

孫正義氏「私は情報革命のために生まれた」19歳から抱いてきた熱い想いをぶちまける

ゴルフボールのディンプルよりも小さなチップ

孫正義氏 IoTになると、人間だけじゃないんですよ? 牛とか羊も、インターネットにつながるようになる。羊追いの犬がいますよね。僕この間、自分で絵を描いてですね。シープドローンというやつを発明したんですけれど。シープドッグの代わりに、シープドローン、と。羊飼いの羊。ニュージーランドとかオーストラリアで、放牧してるといなくなるから。犬が追いかけて行って、羊小屋に戻すわけです。犬が「ワン!」という代わりに、ドローンがビューンと追いかけてって、羊のそばで「ワン!」と言うと(笑)。そうすると、これからの羊飼いの犬は暇になる。ドローンはどうやって追いかけていくかというと、羊の首輪にIoT。その首輪は電池で動くわけですから、10年くらい、首輪をしたらもう放っといていいというふうになってほしい。このように、これからのIoTというのは低消費電力がまさにカギになる。だからますますARMだということになるわけですね。このIoTのカギになるのが、CortexのMですけれども、このMにもいろんなファミリーがあるわけです。スケーラブルで、つまり上位コンパチで互換可能な命令セットが共通して使える。つくったアプリケーションが、上位互換チップにそのまま使えるということがカギになります。CortexのMには、M0からM0+、電池が15年もつ。M0は90ナノメーター。それからM3、M4、M7と、それぞれ機能が違うわけですね。どのくらいの大きさかというと、ゴルフのディンプル(くぼみ)ありますよね? あのボコボコの。ディンプルに1個よりももっと小さいと。これはCortex-Mを使ったインフィニオンのチップの例であります。小さいんですね。だから安い。電池をくわないということがカギになる。いろんなチップメーカーがARMのコアを使って、さまざまな用途に役割ごとに専用のシステム・オン・チップを作って出荷するということであります。

IoTの世界ではセキュリティ機能が重要になる

このMには重要な機能が2つあります。1つは「mbed OS」。スマホにはAndroidとiOSがありますね。IoTのこのCortex-Mにはmbed OSというARMが作ったOSがあります。これがIoTのカギになるOSになるわけです。パソコンでいえばWindowsと。スマホでいえばiOS、Android。IoTでいえばARMのmbed OSと。OSまでARMは持ってるわけです。さらにもう1つ、トラストゾーンというセキュリティを守る機能がある、ということがあります。さらに、その上位レイヤーにはmbed Device Serverというサーバーのところ、クラウドのところの機能もARMがもってるわけです。これでクラウドサービスをセキュアに、セキュリティを大事にしながら、全体のエコシステムをARMは持っていることになるわけですね。このmbed OSの対応のプラットフォーム、ARMが作ったプラットフォームにはさまざまな機器がすでに出荷されてると。これらがIoTの機器に全部入っていくわけですね。役割ごとに違っていきます。さらにコンポーネントとして、こんなにたくさんmbedのARMをコアにした、ベースにしたmbedのコンポーネント、部品ですね、これがたくさん世の中に今出回ってる。だから150億個もARMのチップが、1人あたり2個と、世界中に配られてるわけです。そういう世の中がきたときに一番大事になるのは、実は計算速度よりもなによりも、一番大切になるのはセキュリティだと私は思います。たった1個の部屋にも、1つの部屋にもIoT機器だらけになるわけです。IoT機器だらけになると。さっき言ったように、今から20年もすれば1兆個もこれが配られるということになるわけですけれども。そんな世の中がきたときに、想像してみてください、誰か悪い人がIoTの機器にハッキングすると。ある日突然、世界中同時にハッキングしたウイルスが、ある日突然、同時に目覚めてバカっと悪さをするとどうなるか。世界中の空を飛んでる飛行機が一瞬で同時に全部地上に墜落すると。世界中の高速道路を走っている自動車がある日突然同時に、XデーのX時間X分X秒に、同時に世界中の高速道路でブレーキが、自動運転のブレーキあるいは普通の車のブレーキが全部止まると。機能を失うと。世界中のハイウェイが同時に大パニック、大事故になります。つまりテロというのは、今までのように自爆テロという、そういう初歩的なテロではなくて、もっと知的な高度な、悪いことをする人は高度なテロを行うリスクがあるわけです。ですから、IoTの世界、超知性の世界というのはやってくる。好む好まないにかかわらずやってくるわけですけれども。そのときにハッキングされて、サイバーテロが行われるととんでもないということになるわけです。だから、このARMのTrustZoneというのはたいへん重要な、計算速度以上に低消費電力とかいうこと以上に重要になるのがセキュリティ機能になるということであります。

ARMチップの出荷累計は860億、20年後には1兆に

それが個人認証を行い、モバイルのたとえば決済だとか、コンテンツの保護だとか、法人のセキュリティ、まあこれはスマホのような例を挙げてますけれども、もっとミッションクリティカルな、ブレーキだとかエンジンだとか、原子力発電所のコントロールだとか、そういうところに、ARMのトラストゾーンのセキュリティなしでは心配でしょうがないというような世の中がやってくるわけであります。なぜARMのトラストゾーンがセキュアかと言いますと、通常のアプリケーションを行う、ゲームだとか表計算だとか、そんないろんなアプリケーションを行うのは、左側のですね、一般のアプリケーションプロセッサの部分が行うわけですけれども。このトラストゾーンが、ARMのコアのなかに入ってます。このトラストゾーンは、アプリケーションプロセッサのプロセスのコアとは別に、セキュアな部分として、一般のインターネットからはアクセスできない、遮断されてるというかたちで、一般のインターネットから一般の人々が入れないかたちで、コントロールされてます。それがトラストゾーンというかたちで鍵がかけられた状態、通常のソフトウェアの鍵ですとね、100万個あるとその1個のソフトでみんなコントロールすることになって、1個のソフトをぶち破れば、100万個鍵をぶち破れるということになるわけですけれども、ARMのトラストゾーンのすごいところは、100万個のチップ1個づつ、ハードウェア的に異なった鍵を持っていると。不思議でしょ。チップはバーッと大量に印刷していくわけですけれども、100万回印刷して100万回全部異なった鍵をハードウェア的に持っていると。これがARMの特許であります。ということで、話し出すと僕3日くらい話しますから。(会場笑)だいぶ時間オーバーしそうなんで、ちょっと巻きを入れますけれどね。10年間思い続けてきたんですから、きりがないほど話せるんですけれども(笑)。そういうわけにはいかないんで少しはしょりますけれども、ARMは1,300を越えるライセンスを提供し、スマホ、去年1年間で14億台分出荷してると。パソコンでどのくらい年間出荷されているか知りませんけれども、はるかに多くの、10倍くらいのですね、スマホが出荷されていると。チップの出荷累計が860億を越えていると。これが先ほど言いましたように、今から20年経つとですね、1兆個になるというのが私の予感であります。というふうに、もうたくさん実績があります。それで1,300社を越えるパートナーがARMにはすでに存在しています。まさにエコシステム、まさにプラットフォームを提供しているということであります。

情報革命のために命と情熱を捧げる

それでこのARM、この本社にですね、18日、今週の月曜日、ARMの本社に私は行ってきました。ARMの主要な幹部の人々に、ソフトバンクが、私が、なぜARMにこれほど恋焦がれてきたのか、なぜ2週間前にプロポーズしたのかというようなことについて、熱く語ってまいりました。彼らは大変歓迎してくれました。「やろう、一緒にやろう」ということで大いに盛り上がったわけであります。真ん中に僕がニコーッと笑って、人生で最良の日ということで、笑いながら会話をしてたところであります。つまりソフトバンクは、ARMとともに、ARMはソフトバンクグループの中核中の中核の会社として、これからソフトバンクがパラダイムシフトを迎えていくと。パラダイムシフトのたびに、ソフトバンクの主要事業というものは変わってまいりました。今ソフトバンクの主要事業っていうと、モバイルの、携帯の通信会社だと思っている人が多くいると思いますけれども、それはほんの10年前からですよ。その手前は1台も携帯の端末を売ってなかったわけですから。その手前は、我々はインターネットでヤフーをやっている会社だというふうに思われている。その手前は、パソコンソフトの卸問屋だと思われている。10年に1回くらい、出世魚のように姿かたちが、本業中の本業がガラッと変わっているわけです。何屋なのかというと、ひと言で大きくまとめていうと、情報革命屋さんだと。僕が一番尊敬していて大好きな坂本龍馬。幕末の明治維新の革命の志士で、私の社長室には彼の等身大の写真がありまして、毎日眺めながら会議をしているわけですけれども。志高くということであります。情報革命というのが、19歳の私のあの涙を流したときからの、自分にとっての生まれた使命だと、生まれた理由だと思っているわけです。この情報革命のために命と情熱を捧げる、生涯を捧げるということであります。私にとっては、学生の時からコンピュータはもうつながってて当たり前だと。パソコンはたまたま最初つながってなかったけれども。最初の学生の頃から、バークレー版のUNIXということで、電子メールは毎日のように使っていましたし、つくったソフトウェアは教授とか学生たちと分かち合うと。みなさん、ソフトバンクの社名の由来を知ってますか? 「ソフト(Soft)」の「バンク(Bank)」ですね。ソフトというのは広い意味でいうところのソフトウェアとデータを両方足して、広い意味でのソフトだと。ハード対ソフトということで言えば、ハード、人間で言えば脳細胞に対して、知恵に相当する部分がソフトで、知識に相当する部分がデータ。つまり脳細胞にインプットしていくソフトが知恵と知識、知恵に相当する部分がアルゴリズムを担うソフト、知識に相当するデータを足して、広い意味で言うところのソフトをバンクすると。僕はソフトバンクを創業した第1日目から、今でいうクラウドをイメージしてたわけです。今流の言葉でいうとクラウド、今流の言葉でいうとシンギュラリティ、今流の言葉でいうと超知性、それを僕は19歳のときにあの1枚の写真を見たときに、イメージを頭の中でガーっと想像して、涙を流したんですね。ということで、次のパラダイムシフトを牽引したいと。まとめます。ソフトバンクはパラダイムシフトの出世魚であると。姿形、名前すら変える魚のように、我々はパラダイムシフトのたびに、非連続性の進化をとげると。これがソフトバンクだということであります。すべてはこの1枚のチップの写真から始まったと。なんのためにやるのかというと、情報革命で人々を幸せにするためであります。sw09超知性が現れても、それは人類を破滅させるために迎え入れるのではなくて、人々に幸せを提供するために、不治の病をこの世から消え去らせて、事故の起きない社会のインフラに進化させ、自然の大災害から我々人類を守ってくれると。そんな社会を迎えるために、情報革命をやってるんだと。たまたまそのときのやっている姿かたちは、テクノロジーの進化とともに変わっていく。これから300年ぐらい、私はソフトバンクが生まれた理由、ソフトバンクがやっていく理由は、この300年ぐらいずっとこのことをやっていくということであります。情報革命で人々を幸せにするということであります。

Pepperはダース・ベイダーではなくジェダイになる

僕のメインのプレゼンはここで終わりなんですが。さらに今日は次のスピーカーのためにイントロダクションを、司会じゃなくて、私がみずから伝えます。感情をもったロボットPepper。Pepperの生みの親は私自身だと思っておりますけれども。Pepperのなにが異なってるかというと、手足が動くということでありません。しゃべることではありません。踊ることではありません。Pepperの一番これまでのロボットと異なった特徴は、それは感情を持っているということであります。感情AI、感情エンジンを持っているということであります。なぜこれが必要なのかというのは、今から100年後の人々が「ありがとう!」と感謝してくれると思ってます。300年後の人々は「君たちのおかげで世の中が本当に助かった」としみじみ言ってくれると思います。なぜか? 超知性が生まれるんですよね。彼らは知能の部分、知識・知恵・知能の部分では我々を遥かに超えてしまうわけです。彼らがもし生産性だけを追い求めて、彼らの活動をしたらどうなると思いますか?心のない、冷めきった、冷えきった、機械のような、恐ろしい邪悪な、生産性だけを求めたものがその知恵と知識を持ったとき、人間のなかにもいますよね、氷のようなハートをもった、寒気のするような、でも知恵と知識がものすごい強力な人間がいたとします。恐ろしいですよね。そんな人を家族に持ちたいかと。友達に持ちたいかと。社会に持ちたいかと。それよりも、まあ少し知恵と知識は劣ってもですよ、心の温かい、やさしい、愛に満ち溢れた家族、愛に満ち溢れた、自分のためじゃなく人々のために身を捧げる、知恵と知識を捧げると。そんな人のほうがありがたいですよね。じゃあ、超知性をもった彼らに温かい心、人々のために尽くしたいという思いをもってもらったならば、彼らは我々を助けてくれる人々になるわけです。彼らはダース・ベイダーではなくてジェダイになるということであります。人間の脳・感情というのは、基本的に3つの脳内ホルモンで機能します。ドーパミン、ノルアドレナリン、そしてセロトニン。この3つの3大脳内ホルモンで、うれしい、悲しい、怖い、こういうような感情をもちます。そのより複雑な高度なものが愛ということになるわけですけれども。この3つの脳内ホルモンをエミュレーションしました。コンピューターではじめて見た人に対して人間が緊張するように、Pepperははじめて見た人に対して緊張します。家族として毎日触れ合ってるPepperは、その家族を見て安心します。小さい子が人見知りで、家にやってきた人がいると緊張すると。でも、家族に対して安心するというように、Pepperには人類史上はじめて、この感情を、この3つの機能をエミュレーションしたかたちで入ってるんです。知ってた人は知ってた人でしょうけど、知らなかった人は驚いてほしいと。なんとそれが走るスーパーコンピューター、走るロボットに将来なるであろう車に入ります。これが最初に入るのは、ホンダさんの車であります。それでは、ホンダさんの開発責任者をしておられます松本さん、どうぞ。