ringoのつぶやき

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さようなら、イギリス。EUは27カ国に。なぜこうなった?5つの理由(ブレグジット)

2019年12月13日 21時57分18秒 | 政治

これを書いている現在は、イギリスで12月13日の午前0時すぎ、ヨーロッパ中央時間で午前1時過ぎである。

12日に行われたイギリス総選挙は、22時に締め切られ、すぐに出口調査の結果が発表された。

まだ正式な結果は出ていないが、出口調査は以下の通り。大変気になる投票率は、まだ出ていない。

◎保守党:368議席(+51)歴史的大勝利

◎労働党:191議席(-71)歴史的大敗北

◎スコットランド国民(民族)党:55議席(+20)

◎自由党:13議席(+1)

◎プライド・カムリ(ウエールズの独立を目指す党):3議席(-1)

◎緑の党:1議席(変化なし)

◎ブレグジット党:0議席

◎その他:19議席(うち18は北アイルランドの議席)

「やっぱり」と思う結果だった。本当に残念だし、がっかりしている。

ブリュッセルで、パリで、ロンドンで、エジンバラで、ソルボンヌのEU欧州研究学院で出会った親EUのイギリス人たちを思い出して、「あの人達は今どうしているだろう」と思ってしまう。

それでも欧州連合側は、この結果にほっとしているだろう。

EUのサミットでは、アイルランドのバラッカー首相によると、首脳達は「離脱派でも残留派でもいいから、過半数を取ってほしい。不確実な宙ぶらりん状態の議会だけはやめてほしい」と語っていたそうだ。

要するに「EUから出ていきたければ出ていけばいい。いい加減さっさと決めろ」ということだろう。

なぜこうなったのだろうか。以下に考えてみた。

結果が出たばかりなので、まとまりに欠ける点はご容赦願いたい。

1,内容がわかりにくい上に、疲れている

EUのシステムはわかりにくい。関税同盟だの、単一市場だの、おそらくほとんどの人は、何だかよくわかっていないと思う。

その理由が大きいせいだろうか、ブレグジットの中身の詳細な議論はほとんどなかった。

今まで「どのような離脱をするか」をめぐって、2016年6月23日の国民投票依頼、あれほど議論してきた。下院では、あれほど声を荒らげたり、罵ったりさえする混乱が展開されてきた。

実際、二人の首相――メイ首相とジョンソン首相は、欧州連合(EU)とは異なる2つの合意を引き出した。

「離脱」と言っても色々な離脱の仕方があり、大議論してきたはずだ。でも、それが選挙の争点になった気配は全く感じられない。

一体今までの騒ぎは何だったのか。

EU側も疲れているが、イギリス人の「ブレグジット疲れ」も相当なものだったのだろう。離脱の内容を議論するまでもなく「もう終わらせたい」という思いがつのったのだろう。

2,総選挙だから。

「ブレグジット選挙」と呼ばれたが、総選挙で人々が投票の際に最も考えるのは、自分の生活の課題である。つまり、国内問題である。

保険・医療ーー今回は特にこれが問題になったがーー、雇用(失業)、景気、税金、教育、補助、地域活性などである。

だからこそ、労働党は国内の社会政策、特に「国民保険」の問題を前面に押し出した。

今までどの国であっても、EUが大きな問題となったとしても、それは総選挙では争点の一つに過ぎず、一番の争点になることはほとんどなかった。EUというより「国際問題」と言ったほうがいいかもしれない。自国が加盟国なのだから「国際」というのは変かもしれないが、国内問題ではないという意味である。

今回のイギリスの総選挙は異なり、歴史的な例外となるのだろうか――筆者はそこを注目して見ていた。

しかし、労働党がブレグジットに賛成なのか反対なのか、逃げて態度を明確にしなかったこともあり、よくわからない状態が続いていた。

一番よくわからないのは、人々の現状の生活の不満が、どうブレグジットに結びつくのかである。

「赤い壁」と呼ばれた堅固な労働党の基盤の選挙区の人々は、「見放された」という意識が強いという。沈みゆく地域の雇用問題などから、労働党に見切りをつけて、ライバルの保守党に投票した。それはわかるのだが、なぜそれがブレグジットに結びつくのだろう。

大半の人々の心に届いたのは、「EUから離脱して、自分の国のことは自分で決めるようにすれば、現状の不満は解消してうまくいくに違いない」という、イメージだったのではないか。

つまり、結局ジョンソン首相は、「EU」という敵をつくって票をまとめただけではないのか。

国民投票の際、赤い2階建てバスで「毎週3億5000万ポンドをEUに送っている。そのお金を国民保険にまわせ」というVote Leaveの大キャンペーンがあった。ジョンソン氏は、「その額は少なすぎる」とさえ主張していた。

あれは間違いであると、専門家の声を交えて何度もメディアが報じたのに、いまだに約半数のイギリス人が信じているという調査が、昨年あった。 

あの詐欺まがいのキャンペーンの赤いバスは、今でも多くのイギリス人の頭の中に焼き付いてしまっているのだろう。あのバスこそが、現状の不満をブレグジットにリンクさせた、最悪の罪の象徴だったのではないか。

元保守党のニック・ボウルズ下院議員は、今回の総選挙について「うそをつかずにいられないうそつき」(ジョンソン首相)と、「全体主義者」(コービン労働党党首)のどちらかを選ばなくてはならない、「とんでもない二者択一」だと言ったという。

3,中道左派の不在

コービン党首は、「マルクス主義者」と呼ばれることもある。

筆者は、総選挙のキャンペーンが始まってから、ずっとイギリス左派の特殊性について考えてきた。

ここまでEUがやり玉に上がって、イギリスが極右がかっているのは、イギリスに穏健な左派が不在になったからだという強い確信があるからだ。

穏健な左派が、弱ってはいるが健在な欧州大陸にいるから、今のイギリスの極端ないびつさが見えるのだ。日本人にも、イギリスの欠点は見えにくいかもしれない。

中道右派でEU残留派の人は、自民党に投票すればいい。では、中道左派でEU残留派の人はどこに投票すればいいのか。受け皿になる党が、今のイギリスにない。

コービン党首の主張は、中道左派ではなく、極左である。極左は近年では欧州で勢力を伸ばしてきているが、西欧で政権を取るのは無理である。

そして労働党支持者が保守党に投票したのも「極左から極右にふれた」と考えると、わかりやすいのかもしれない。両極とは似るものだ。

参考記事:日本には存在しない欧州の新極左とは。(3) EUの本質や極右等、欧州の今はどうなっているか

歴史的に、EUの建設は、中道右派政党と中道左派政党という、どの加盟国でも中核で多数派をなす政党の両方が共に進めてきたものだ。

しかし移民問題のせいで、中道右派が極右に負けまいと極右により近くなり、中道左派が弱ってきて一部が極左に傾いていった――これは西欧に共通して見られた現象である。

しかしそれでも、最近では、EU加盟国の中道右派政党は、理性を取り戻し始めている。そして、中道左派政党は弱ったものの、イタリアの民主党やドイツの社民党のように健在だったり、オランダやドイツのように環境政党が受け皿になったり、フランスの「共和国前進」(マクロンの党)のように新しい「中道」が生まれたりしている。

それなのに、なぜイギリスは違うのだろうか。なぜイギリスの左派はこうなってしまったのだろうか。

まだ考えがまとまらないが、イギリスが階級社会だったことと無縁ではないだろう。

そもそも、なぜ「社会党」とかいう名前じゃなくて、「労働党」なんていう古臭い名前なのか。

それは昔から80年代まで、イギリスはずーーーっと階級社会だったからである。

80年代にはまだ、パブで「労働者階級用の入り口」と「中流以上の人の入り口」が分かれている所があったそうだ。パブの中には線など引かれていないが、常連の誰もが知っている「超えてはならない、階級を分ける内部スペースの線」が存在したという。

音楽が好きな人になら、このころからイギリス・ロックは変質したというと、わかりやすいかもしれない。階級社会をなくす方向に向かわせる貴族院の大改革をしたのは、ブレア首相(労働党)である。

今、格差社会と嘆いているが、階級社会じゃなくて格差社会になったのは、イギリスの大進歩なのだ。

階級社会は次第に消滅してきたが、労働党は社会党に変化する機会がみつけられなかった。それには、イギリスでは他の西欧の大国と異なり近代市民革命が起きず、王室や貴族階級が残っていることと関係があるだろう。これは日本にも言えることかもしれない。

ということは、イギリスには、欧州大陸には普通にあるタイプの穏健な中道左派政党は、もともとないのかもしれない。

中道左派層の中には、多くの知識人が入るのが常道である。彼らがまとまるベースがない。

結局、最後まで「EU残留派」は一致団結する方法を知らなかった。国民投票では、約48%が残留に投票したのにもかかわらず、である。

これはEUという存在の難しさ、捉えにくさも関係しているが、やはり後ろ盾になる中道左派の政党がないからだと思う。もし存在していたら、自民党と共同キャンペーンを貼ることもできたかもしれないのに。

日本でシールズという若者の新しい活動が生まれたのに、あっさり消えてしまったのが、後ろ盾となる政党や団体がなかったからなのと同じである。

4,羊の群れ

超乱暴に一言で言うのなら、ほとんどの人が「何が正解かわからない」のだろう。

EUでビジネスをして稼いでいると自覚している人は、多数派ではない。EUと関連した仕事をしているからこそ、EUのお役所仕事が心底嫌になった人も、多数派ではない。

一方、EUも含むグローバル化のために失業した人、逆にEU離脱のために工場閉鎖で失業した人、そのような人も多数派ではない。そして、EUの恩恵を受けて留学したり就職したりという人も、若い世代の大学に行く層に限られて、多数派ではない。

つまり、揺るぎない信念があって「離脱に賛成・反対」という人は、全体から見たら少数派なのだと思う。

以前の原稿で書いたように、3月29日の下院議会の投票では、メイ首相が結んだEU合意案に277人の保守党議員が「EUとの合意案に賛成」したのだ。

しかし一転、野党を中心に提出された9月3日の「合意なき離脱を阻止する法案」では、286人の保守党議員が「合意なき離脱もやむなし」としたのだ。

あっちへこっちへと、この議員達は何を考えているのか。

議員はブレグジット問題で当選した訳ではない。日本と同じように「あなたの生活を良くします」と言って当選したのだ。そして、議員が全員、EUだの国際問題だのに詳しいわけではない。これも日本と同じだ。

参考記事:なぜ総選挙案は否決されたか:まとまりゆく保守党と、反対しか能がない労働党。イギリス・ブレグジットで

羊の群れには、強いリーダーが必要だ。人々が疲れているときには、最後まで精力的で声が大きいものが勝つ。

それは、「うそつき」と批判され相当うさんくさいが、天才的にパフォーマンス上手で言葉上手で、大変愛嬌がある「ボリス」だったのだ。

5,島国だから

これを言ってはお終いなのだが、言わずにはいられない。

国民投票で「離脱」となったとき、ほとんどのヨーロッパ人が驚いた。

そしてトマ・ピケティは開口一番に言った。「やはりイギリスは島国だ」と。

まったく同感である。

筆者は「フランスで何を一番学んだか」と聞かれたら、「大陸感覚だ」と答えている。EUはやはり「欧州大陸連合」なのだろう。

*  *  *  *  *

今後問題になるのは、スコットランドだろう。スコットランドは、20近くも議席数を増やした。イギリスが独立住民投票を二度と許可することはないだろうが、「独立してEUに加盟したい」という願いを、EUはどう受け止めるのだろうか。

イギリス人には「日本と同じになりましたね。これからは、たとえ属国のような位置になっても、アメリカには逆らわないほうがいいですよ」と忠告したほうがいいだろうか。それとも、EUとの摩擦が大きくなれば、ロシアにすり寄っていくのだろうか。


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