【上海】上海を訪れた外国人でも、電気自動車(EV)をレンタルするのは容易だ。必要なのは有効な免許証と
パスポートだけだ。それに料金は驚くほど安い。eHiカー・サービスの場合、1回の充電で90キロメートル走行す
る中国製「栄威(Roewe)」の1日の料金は25ドル(約2500円)相当だ。
しかし、書類に必要事項を書き込み、キーを受け取って乗り込み、上海の無秩序な交通状態の中に入り込むと
、同市で初めてEVに乗った人はほかには誰もEVを運転していないようであることに気付く。個人・法人向けにEV
サービスを提供している同市の会社EVバイの創業者Zhang Dawei氏によると、上海の乗用車の数は約100万台に
上るが、そのうちEVはせいぜい500台にすぎない。
公正を期して言えば、EVは中国ばかりでなく至る所で消費者の抵抗に遭遇している。世界の自動車メーカーは
バッテリー技術の改良に苦労している。しかし、EV普及を目指す国家自動車政策に加え、消費者向けの太っ腹な
助成制度があるにもかかわらず、上海でEVの人気を高められないことは、先の中央委員会第3回全体会議(3中全
会)で承認された経済の改革という野心的計画を展開する上で中国指導部が直面している大きな課題を物語って
いる。これらの政策は、消費主導によるより質の高い、より持続的な成長――EV産業の構築計画の背後にある論
理――につながる技術革新を促進しようとするものだ。
10年以上前、産業政策の立案者らは、産業、環境、それに国家安全保障上のジレンマへの回答としてEVをとら
えていた。立案者らは、中国はEVの開発で、同国が決して挑戦することのできない内燃機関による自動車の世界
の主要なメーカーを追い越せると考えていた。また、これによって、同国を供給面でのショックに弱いものにし
ている輸入石油への依存を減らすことができるとも考えられた。さらには、同国の諸都市における慢性的な大気
汚染も緩和できるはずだった。
西側諸国では、多くの人がこの政策上の要請と同国自慢の輸送インフラや、大手自動車メーカーが国有である
ことが相まって、EV推進政策は成功するとみていた。中国は、新興技術分野で世界をリードし、一方で都市部の
持続的成長モデルを構築すると広く考えられていた。著名な投資家ウォーレン・バフェット氏でさえ、深センに
本拠を置く自動車・電池メーカー、BYDの株を2008年に取得したほどだ。
しかし、中国のEV戦略はうまくいかなかった。なぜなのか。
第1に、国の計画立案者らは消費者需要を誤算していた。富裕なエリート層はEVを買って環境保護への意識を
ひけらかすことにほとんど関心がない。彼らにとっての乗用車は依然として富と社会的地位の重要なシンボルだ
。また、中国の乗用車購入者の大きな部分を占めている裕福でない人たち、特に初めて車を買う人たちは引き続
き運転のスリルと自由を求めているのであって、限られた走行距離は論外だ。
自動車業界コンサルタントで、「Designated Drivers:How China Plans to Dominate the Global
Auto Industry」の著者であるグレッグ・アンダーソン氏は、サプライサイドでは国営の自動車メーカーが途中
で放棄したと述べている。国営企業にとってのインセンティブは技術革新ではなく、可能な限り早く、可能な限
り大きくなり、可能な限り利益を得ることだという。これは新しい技術に投資するよりも外国メーカーとの既存
の合弁事業によってうまく達成されるのだ。
アンダーソン氏によると、国営自動車メーカーは全て、ワーキングモデルを作って、政府のEV戦略にリップサ
ービスをした。しかし、バッテリーやバッテリー管理システムなど中核的な技術で突破口を開くことはできなか
った。このため、今では世界最大の中国市場では多数の内燃機関自動車のモデルが競争しているが、消費者が選
択できるEVはほんの数えるほどしかないのだ。
(続く)
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政府もインフラを提供できなかった。同国の現行5カ年計画――スターリン主義経済時代の遺物――によれば
、2015年までに40万以上の充電基地を設けることになっているが、EVバイのZhang氏によると、人口2400万の現
在の上海ではわずか1000~2000カ所にとどまり、目標を大幅に下回っている。
EV産業の不活発さの原因の1つは官僚主義的な内部抗争だ。マッキンゼー北京事務所のプリンシパル、アクセ
ル・クリーガー氏は、例えば市場をほぼ独占する送電会社、国家電網は自動車保有者のためのバッテリー交換制
度の促進でバッテリー市場を独占しようとしている、と述べた。これによって同社は産業価値連鎖の大きな部分
を手にできるが、独自のバッテリーを使おうとしている自動車メーカーは抵抗している。
加えて、地方政府は現地の自動車メーカーを守る保護主義的措置として、独自の技術基準を進めている。プラ
グが異なれば、EVをある都市から別の都市まで運転していくことは困難だ。クリーガー氏は「全ての地方政府の
指導部が独自基準と技術を守ろうとしている」と語った。
最後に、外国の自動車メーカーは、市場アクセスとの交換にEVに関する知的財産を提供するよう政府が要求し
ていることに反発している。
こうしたこと全てが、中国がEV普及で目標を達成できない背景だ。5カ年計画では、バッテリー・プラグイ
ンのEVを15年までに50万台、20年までに500万台とすることを目指している。しかし、中国自動車工業協会(CAA
M)によると、昨年の販売数はバッテリー式が1万1375台、プラグインが1416台だった。1台当たり最高2万ドル相
当の助成金が付いても、これだけしか売れなかったのだ。
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